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日本の人事を科学する ~なぜ人事データの活用が必要なのか~

  • 大湾 秀雄氏(東京大学社会科学研究所 教授)
東京ランチミーティング [LM-1]2018.01.12 掲載
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離職率が高い、採用後にミスマッチが多い、リーダーが育たない……。人事部門は常に多くの課題を抱えているが、その解決の手段として「人事データ」の活用が注目されている。採用、育成、働き方など、さまざまなシーンにおいて、人事担当者はデータをどのように活用すべきなのか。東京大学・大湾教授が、質疑応答やディスカッションを交えながら、「日本の人事を科学する方法」について参加者へ進言した。

プロフィール
大湾 秀雄氏( 東京大学社会科学研究所 教授)
大湾 秀雄 プロフィール写真

(おおわん ひでお)1964年生まれ。東京大学理学部卒業。(株)野村総合研究所勤務を経て、留学。コロンビア大学経済学修士、スタンフォード大学経営大学院博士 (Ph.D.)。ワシントン大学オーリン経営大学院助教授、青山学院大学国際マネジメント研究科教授を経て、2010年から現職。(独)経済産業研究所ファカルティーフェローを兼任。専門は、人事経済学、組織経済学、および労働経済学。実務家向けに、経営課題解決のために自社人事データをどのように活用したらいいのかを指導する、人事情報活用研究会を主宰する。


人事データの活用が企業を救う

人事データと言えば、通常、給与情報、人事考課情報、異動履歴、勤怠情報、属性情報の五つで構成される。人事給与システムの普及によって、多くの企業でこれらは一元管理されるようになった。しかし、人事部が取集する情報はこれらにとどまらず、近年拡大しつつある。例えば採用時の情報や適性試験の結果、研修の受講履歴、ストレスチェック診断結果など。ウェアラブルセンサーやメールの履歴情報を使うなどして、誰と誰がコミュニケーションをとっているのか、企業組織内のネットワーク情報を可視化するサービスも出てきた。

「なぜ今、企業に人事データの活用が求められているのでしょうか。理由の一つ目は、『雇用形態の多様化』です。労働契約法の改正を受けて、いわゆるジョブ型雇用が増える形で、非正規社員の正規化が進んでいます。このような異なる雇用形態やキャリアパスの人たちは、それぞれが違ったニーズを持っています。異なるニーズに対応するには、従業員満足度調査や自己申告制度などにより得られる情報をうまく活用していく必要があります。

二つ目は『人事機能の分権化』です。雇用形態の多様化とグローバル化により、集権化した人事部の弊害が出始めており、今後人事機能の現場への権限委譲が進むでしょう。そうなれば、現場で正しく運用されているかどうかをモニタリングする必要が出てきます。その手段として、データを活用するのです。

三つ目は『統計的差別の根絶』です。人事データを見ると、賃金や昇進における男女格差は女性が結婚・出産してはじめて起きるのではなく、20代の段階ですでに扱いに格差が生じつつあることがわかりました。まず、業務範囲。同じ能力、同じスキルを持った人たちでも、男性の方がよりチャレンジングな業務を配分されているケースが多い。次に、情報コミュニケーション格差。上司から与えられる情報量に差があることがわかりました」

これらの背景には、統計的差別がある。女性は途中で辞めていく確率が高いので、投資するリターンが低い、と企業は見なしているのだ。同じ能力の男女であれば、男性により多くの機会を与える管理職は多い。しかし、統計的格差は自己成就的だ。それでは女性が「この会社にいても成長できない」と感じるようになるので、実際に辞めてしまうことになる。そういう現実を変えるためにも、人事データを活用して統計的差別を失くすことが重要だと大湾氏は言う。

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四つ目は、生産性を上げるための「仕事のしかたの見直し」、五つ目には「遅い昇進制度の見直し」のためのデータ活用の必要性を説く。

「日本企業では、昔なら30代でマネジメントを経験できたのに、今では40代前半で初めて、管理職に就く職場が増えています。海外の企業であれば、優秀な人材は20代のうちにマネジャーになり、30代から海外を飛び回ります。グローバル化が進む中で、海外企業と対峙していくには、能力のある人材に早い段階で機会を与えなければなりません。そのために、データを活用して、納得感のある昇格審査や管理職評価制度を構築すべきです」

「採用」においての人事データの活用:
貢献する人材を採用しないという過ちに気付くべき

大湾氏は人事データを活用した「採用」では、改善のための評価の視点が欠けていることが多いという。採用は、社会や人の変化、環境の変化に合わせて見直していくことが大切だ。また、最適な採用プロセスを設計しているか、戦略的な研修メニューか、長期的な視点で採用育成計画を立てているか、という視点も必要になる。

「『採用力』は、採用マーケティング力と採用差別化の力、そして採用スクリーニング力という三つの要素に分けられます。採用スクリーニング力がない企業は、買い手市場になると、自社との相性を考慮せず、できるだけ良い人を採ろうと、レベルの高い大学出身者や能力のある人を採ろうとする。相性を考慮せず採用すると、学生からすれば不本意な就職になってしまう可能性が高い。すると、早い段階で転職を考えるようになり、優秀な人材の早期離職率が上がるのです」

ここで大湾氏は、問題提起を行った。書類選考などの足切りの際、能力で絞る方法と志望動機で絞る方法、どちらがよいのか、という問いだ。

「横浜国立大学の服部泰宏先生は『採用学』という著書のなかで、入社してから変えられるものは、あえて見ないで決断することが必要だ、と書いています。そうすると、志望動機よりも変えられない能力で測るべきだと考えることができます。しかし、志望動機の弱い母集団を作ってしまうと、途中辞退者が増えてしまうので、選考の効率が悪くなる。まさに一長一短なので、バランスをとりながら進めていく必要があります」

また、成績証明書の活用方法についても改善の余地を示した。大学で幅広く勉強をした人は、専門的に狭い分野の勉強をした人よりも、企業の役員、あるいは起業家になる確率が高い、という研究結果が出ている。これは社会に出てからも同様で、幅広い経験している人ほど、役員や起業家になる確率が高いという。

「成績証明書は、大変重要な情報源です。総合成績だけを見るのではなく、どういう科目を受講していたのか、また、どの科目で良い成績を取っていたのかを見ることで、その人の関心の広さや深度が見えてきます」

さらに大湾氏は「採用における二つの間違い」を提示した。「会社に貢献しない人材を採用する」ことも、「会社に貢献する人材を採用しない」ことも間違いであるが、日本企業は前者のみ避けようとする。しかし、後者は目に見えないために顕在化しにくいが、高技能人材が不足する中で、「会社に貢献する人材を採用しない」という過ちのコストは、着実に上がってきているという。

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「育成」においての人事データの活用:
研修の効果検証にデータを用いた場合

次に、育成のシーンでどのようにデータを活用するかが語られた。まず、昨今は研修の構成が変わってきている。従来のような年次ごとの全体研修や営業研修といった全員参加型の伝統的研修が減ってきている代わりに、「選抜型研修」や「自己研鑽型研修」が増えているのだ。「選抜型研修」は、急速にグローバル化している企業、新規事業の改革に熱心な企業に多い。一方、「自己研鑽型研修」は、急成長を遂げている企業や大企業、離職率が高い産業に多い。

「急いで優秀な人を集めたいというニーズがあるとき、自己研鑽型の研修を増やすと、成長意欲が強い人にとっては職の価値が高くなります。賃金を上げるよりもトレーニングの機会を増やすことが、伸びる人材を集めることにつながるのです」

研修の効果をどのように測ればいいのか、質問を受けることがあるが、「それは非常に難しい」と大湾氏は言う。研修後のアンケートで参加者の満足度を聞いても、お金に換算できないからだ。満足度が高くても、行動が変わらなければ、効果はない。

「ただし、コストの非常に高い研修を実施する場合は、研修効果を一つひとつ測るべきです。でも選抜型研修の場合、選ばれた人と選ばれなかった人のその後の業績を比べても、能力の違いが出てくるだけです。全員参加型研修の場合は、比較さえできません。私たちが提案しているのは、クロスオーバーで実験を行うこと。研修対象者をランダムに二つのグループに分け、一つ目のグループにまず研修を行い、1年後に、二つ目のグループに研修を行うようにする。少なくとも1年間は、研修を受けているグループと、受けていないグループができるわけです。この二つのグループで、どのように行動が違うのか、どんなふうに評価が違うのかを比べることで、研修効果を計ることができます。このときに大事なのは、何を評価軸にするのか、ということ。例えば売上や業績、営業成績、多面評価など。受講者がマネジャーであれば、その人の下で働く部下の従業員満足度調査で測ることもできるかもしれません」

ここで、参加者との質疑応答が行われた。

Q:データを有効に活用ができていないように感じています。効率的なデータの収集を含め、基本姿勢を教えてください。

データ活用をするための三つの条件があります。一つ目はデータの一元管理です。よくあるのが、「データを活用したい。でも人事データはあちこちの部署に分散して管理されている」という状況。そうすると全てのデータを集めるだけでも、煩雑なプロセスが発生します。ですから、一元管理の運用はマストです。二つ目は、経営陣のサポート。データの活用はトレーニングが必要になってくるため、すぐには効果が見えてきません。長期戦になるわけです。経営陣がデータの活用をする、あるいはデータの活用ができる人間を育てることにコミットして、その人たちに十分な時間を与えることが大切です。三つ目は、統計ツールを扱える人材を、一人くらいは人事部に置くこと。人事部内にいなければ、マーケティング部門から一人連れてくるなどの方法もあるかと思います。

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Q:人事データの取得を開始するにあたり、どのように関係者の理解を得ればよいでしょうか。

人事データの活用は、人材育成のためだと共通認識を持ってもらうことです。人材活用を担う管理職の支援だという大義名分があれば、スムーズだと思います。人材配置や報酬制度を決めるために使うというより、「社員のためにやっているんだ」ということを明確にし、経営陣がコミットすることが大切です。

少しずれるかもしれませんが、従業員満足度調査・多面評価を実施する際には、バイアスがないかどうかをチェックしてください。例えば、多面評価においては正直に答えないインセンティブが問題になります。「お前に良い点つけるから、お前も俺に良い点をつけろ」といった談合や、足の引っ張り合いがないように。そのようなバイアスは、データ分析で特定できます。

Q:AIの活用が気になりますが、何から手を付けてよいのか分かりません。

最近は、AIの使い方に関する質問がとても多いですね。AIはまだまだ実用化に至っているとは言えないところもありますが、使うときに気を付けないといけないことが二つあります。一つ目は、「因果関係は人間が判断する」こと。AIは言語処理能力が高いので、いろいろなことの相関を引っ張ってくるのは得意ですが、因果関係は特定できません。一つひとつヒアリングをしながら分析して、最終的に因果を結論付けるのは人間の仕事です。二つ目は、ディープラーニングを使う場合、「必ず正しい教師サンプルを与える」こと。例えば書類選考でAIを使う場合、過去の選考資料をAIに読み込ませて、「過去にこの人たちを選びました。同じような人を選んでください」とAIに指示する。しかしその時の前提は、「過去の意思決定が正しかった」ということです。もし過去の選び方が間違っていれば、将来も同じ間違いを続けることになるので、「AIを導入する前に、過去の書類選考方法に問題がなかったかをきちんと検証しましょう」とお伝えしています。

人事の現場では権限委譲が重要

大湾氏の提言をもとに、参加した人事担当者たちが数名ずつのグループに分かれ、「人材配置と登用:ジョブと人のマッチ効率をいかにあげるか?」と「働き方改革:社員のための働き方改革ができているか?」についてディスカッションを行い、その内容が発表された。いくつかの事例を紹介する。

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<グループ1>
タレントマネジメントシステムを導入している企業が1社ありました。「スキルをどう定義をするのか」「部署によって求められるスキルが違う」「データベースに入れる内容をどう言語化するのか」など、現実的なところでつまずくことが多いようです。データをとっていても、実際は感覚で運用されているなど、まだ活用できているとは言えないそうです。

働き方改革に関しては、このグループにはいろいろなタイプの企業の人がいたので、環境でかなり違うことがわかりました。最初は現場から抵抗があったけれど、数年間やり続けることで「変えて良かった」という意見も出てきたそうなので、続けていくことに意味があるのではないかと思います。

<グループ2>
私たちのグループにも、タレントマネジメントシステムを導入している企業がありました。私は異動で最近、人事になったばかりなのですが、定型化しづらいデータがこれほど多いのかと驚きました。タレントマネジメントシステムを入れて、これまで見えなかった物をデータとして可視化するのは、とても重要だと思います。ただ、国内・国外事業所それぞれに風土があり、運用方法も違うので、とても苦労しています。

働き方改革については、有給の取得を推進されている企業さんがあり、年間で有給の取得計画を立てているそうです。それから、ワーキングマザー対応ですね。適材適所で仕事を割り振っているそうで、上司の方の采配も非常に重要だと思いました。

<グループ3>
既存事業だけでなく、新規事業やイノベーションを起こしていく人材を発掘、育成していく観点から、データをどのように活用して評価していくべきかという課題が挙がりました。

働き方改革では、セキュリティー問題が挙がりました。外で仕事をする際に、どれだけセキュリティーが守られるのか。また、リモートワーク中にいかに緊張感を保ったまま仕事に取り組めるのか。言い方は悪いですが、やる方もやらされている方も、監視されていることが一種のモチベーションになるのかなとも思います。

最後に、大湾氏から参加者にメッセージが送られた。

「働き方改革では、権限移譲がすごく大事だと思います。仕事のタスクを切り分けて、これはアウトソースできる、これは自動化できる、と判断すること。そして、それに十分な予算をつけてもらう。また、施策の評価のためのデータ取得を新たに加えるのは、現場にとって煩雑な面もあるかもしれません。しかし、データの中には生産性を改善する機会がどれほど眠っているかを、人事部が丁寧に伝えていってほしいと思います」

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