【ヨミ】タレントマネジメント タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、企業で働く従業員に、その能力やスキルを発揮してもらうため、戦略的に人材配置や人材育成を行うことを指します。もともと人材流動化が激しいアメリカで提唱された人材戦略ですが、近年は多様化が進む日本においても注目を集めています。
タレントマネジメントとは、企業で働く従業員に、その能力やスキルを発揮してもらうため、戦略的に人材配置や人材育成を行うことを指します。もともと人材流動化が激しいアメリカで提唱された人材戦略ですが、近年は多様化が進む日本においても注目を集めています。
タレントマネジメント(TM:Talent Management)とは、自社のタレント(従業員)に、自身の持っている能力やスキルを最大限に発揮してもらうことで、企業成長につなげていく仕組み・取り組みです。採用、配置、育成、評価などの人事施策を戦略的に行うことを指します。人材の流動化が激しいアメリカで、優秀な人材の定着を目的として1990年代に考案されました。
海外では一般的な考え方で、近年では日本でも導入する企業が増えています。ここでのタレントとは、優秀人材・専門人材だけではなく、新入社員から役員クラスまでの全従業員が対象です。ピープルアナリティクス(People Analytics)に取り組む企業が増えていますが、タレントマネジメントも経営戦略や組織戦略に活用するための手法という点では同様の目的といえます。
SHRM(全米人材マネジメント協会)とATD(米国人材開発機構、旧称:ASTD)という人材マネジメント組織はそれぞれ、タレントマネジメントについて下記のように定義しています。
出典:タレント・マネジメントとは?|株式会社スマートビジョン
タレントマネジメントは、多様な人材が在籍する大手企業を中心に導入が進んでいます。タレントマネジメントを行う理由とは何でしょうか。
近年日本では、少子高齢化による労働人口不足が大きな問題となっています。かつては大量採用が主流で、企業はできるだけ多くのポテンシャル人材を獲得することに注力していました。しかし現在は、労働人口の減少により、企業が求める経験やスキル、素養を兼ね備えた人材を採用することが求められています。タレントマネジメントを活用すれば、「募集ポジションの人材要件」「配属先のタレントの傾向」を確認できるため、採用活動を円滑に行うことができます。また、個人のスキルや思考、価値観を把握することで、誰をどのポジションに配属すれば生産性が向上するのかがわかり、最適な人材配置が可能になります。
2001年にアメリカのマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)が提唱した「War for talent(人材育成競争)」により、企業において優秀な人材を育成することが重要視されるようになりました。タレントマネジメントを活用すると、個々人が描くキャリアビジョンを把握できます。その結果、目指したいビジョンに向けた最適な研修を実施したり、業務をアサインしたりするなど、キャリア支援を実現できるようになりました。
厚生労働省が発表した「平成30年版 労働経済の分析」によると、2012年度のタレントマネジメント導入率は2.0%でしたが2017年度は7.1%と、増加傾向にあります。さらに、「試験導入中・導入準備中」「検討中」の企業を含めると、13.5%から25.1%と大幅に増加しており、企業の関心が年々高まっていることがわかります。
売上高1兆円以上の企業に焦点を当てると、60%の企業が導入済み・導入検討中であり、人材の多様化が進む企業において重要な施策だと考えることができます。
出典:平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」より「我が国企業のタレントマネジメントの導入状況|厚生労働省
かつて日本では、一度入社すれば定年までその企業に在籍する終身雇用制度が一般的で、入社後にじっくりと時間をかけて企業が求める人材へと育成していく余裕がありました。しかし、転職活動の一般化や非正規社員の増加、労働人口の減少などの理由で、一人を長く雇用することが難しくなりました。自社が必要とする人材の確保と育成を時間をかけずに行うには、タレントマネジメントによる自社の人材の把握が必要です。
企業のグローバル化が加速する中、競争に勝つためには国内だけではなく、海外にも目を向ける必要があります。またIT(情報技術)やAIの進化など、社会経済環境の著しい変化にも対応しなくてはなりません。そのため企業には、スピード感を持って事業変革をけん引し、時代や環境の変化を捉えて柔軟に対応できる人材要件を採用・育成することが求められています。
雇用形態や働く環境の多様化も理由の一つです。転職が一般化し、「会社のために働く」「企業に属する」という考え方が薄れ、フリーランスや業務委託、副業などが普及してきました。企業は自社の方向性やビジョンに共感し、企業成長を支えてくれる人材を確保することが必須となっています。そこで人的資本となる既存社員の思考や価値観を把握し、企業が求める人材の発掘や定着に生かすため、タレントマネジメントに注目が集まるようになっているのです。
「計画的な人材育成に活用できる」「適正な評価が可能で、戦略に合わせて人材を配置できる」などのメリットから、タレントマネジメントの導入を検討する企業が増える一方で、「システムを導入してもうまく機能しない」「期待した効果が得られない」と悩む企業も少なくありません。
タレントマネジメントの一番のデメリットは、「導入・運用コスト」がかかることです。コストをかけたのにもかかわらず失敗してしまう理由は、タレントマネジメントシステムを正しく理解できていないことや、導入の意図・目的が曖昧であることなど。その結果、機能を使いこなせず、膨大な運用コストばかりがかかり、失敗へとつながっていのです。
■失敗理由例従業員データを集約するための工数の負荷は相当なものになります。目的が曖昧なまま導入してしまうと、運用設計や活用方法が定まらず、何の成果も出せないことも考えられます。タレントマネジメントシステムは、初期費用・月額費用がかかります。経営陣からは費用対効果も求められるでしょう。そのため、事前にどのような項目・指標を取得し、何に活用するのかを明確にし、数年後の活用イメージを抱いた上で、運用フローを作成する必要があります。
では、タレントマネジメントを導入する際、どのような項目を取得するとよいのでしょうか。評価指標と併せて設定しておくことで、より有効なデータベースになります。システムは既に搭載されている項目だけではなく、自由に追加できる場合も多いようです。
基本情報・基本属性 | 年齢、性別、所属先、役職、入社日、家族構成など、企業内で使われることが多い情報が該当します。所属や役職は変更も多いので、その都度アップデートが必要になります。 |
能力・スキル | 業務において必要となる専門知識や技術、コミュニケーションやマネジメントといったヒューマンスキルも該当します。また、資格や語学力なども併せて登録するとよいでしょう。 |
職務内容・実績 | 評価履歴や成果、受賞・表彰歴なども該当します。社会人経歴なども併せて登録する場合もあります。 |
勤怠(行動データ) | 例えば、業務時間、残業時間や遅刻・早退・欠勤など。成果と照らし合わせて生産性を抽出したり、離職傾向を測ったりする際に使用されます。 |
価値観・マインド・志向性 | 可視化が難しい、従業員のスタンスや性格、考え方を登録することも大切です。キャリアビジョンなどを追加すれば、1on1や評価面談にも活用できます。従業員サーベイの数値、面談内容などを文章で登録するのも有効です。 |
全部を取得するのではなく、自社の課題や目的に応じて必要な項目を選択・カスタマイズすることをお勧めします。項目を検討する際には、「活躍人材の目立つ特徴」「優秀人材のコンピテンシー」から考えるのも有効です。
タレントマネジメントを行う際に注意しなければならないことは何でしょうか。苦労してシステムを検討・導入したのにもかかわらず、失敗してしまうケースもあります。事前に注意点を押さえ、うまく運用できるようにしましょう。
何よりも重要なのは、「タレントマネジメントを自社に取り入れることによって何を解決したいのか」を明確にしておくことです。人材をデータベースで管理するからと情報だけ取得しても、活用しなければ宝の持ち腐れです。組織課題を整理した上で、「情報を取得して何に活用するのか」「データを蓄積し、どのように管理していくのか」を考え、それによって何を成し遂げたいのかを明らかにします。人事組織はもちろんのこと、経営陣ともコンセンサスを取り、実施していくことが大切です。
◼️例1:新規プロジェクトの人材抜擢や人材育成に活用タレントマネジメントを成功させるために大切なのは、適切な情報取得とその正確さです。情報が潤沢にあっても、うまく活用し切れないことがよくあります。また、情報は一度取り入れたら終わりではなく、できる限り最新のものに更新しなければなりません。どのような従業員がいるのかをすぐに把握できる状態にしておくことが、タレントマネジメント活用の第一歩です。
データを常にアップデートし続けるためには、従業員の協力が欠かせません。しかし、その目的を理解できなければ、個人情報を集めることに不信感を持つ人、なかなか情報を入力しない人も出てくることでしょう。そのため、タレントマネジメントの目的をできる限り開示して、従業員に広報する必要があります。また、評価者となる役職者に、目的や実現したいこと、データの入力、活用方法をレクチャーする機会を設けることも重要です。運用マニュアルを準備すること、も忘れてはなりません。
タレントマネジメントを効果的に運用するには、これまでの取り組み内容と結果を振り返り、次の取り組みに生かすことが大切です。過去の実績を踏まえながら改善し続ければ、データが蓄積され、より客観的で公平かつ納得できる人事施策を行うことができるでしょう。
タレントマネジメントを円滑に行うための、導入・運用フローは以下の通りです。
まず、自社における人事課題はどこにあるのかを把握するため、現状を洗い出すことからスタートします。自社の状況を把握できていれば、「タレントマネジメント導入が目的となってしまい、運用ができない」ことにはなりません。事業や組織の課題を発見し、そのために何を行うのか、どういう未来を目指したいのかを整理しましょう。
現状が把握できたら、自社の従業員を把握・理解していきます。自社にはどのような従業員が在籍しているのか、活躍している従業員に傾向はあるのか、昇進のタイミングに傾向はあるのか、離職理由に共通項目はあるのかなどを分析。その結果を踏まえて、重点的に見ていく項目を定めます。
人材データベースを参照しながら、課題解決に向けた計画を練っていきます。人材育成やリテンションマネジメントのプランとスケジュールの検討、役職者向けの研修設定、1on1の運用見直しなど、いつまでに何をするのかを計画します。その際、経営陣や従業員への共有・浸透スケジュールも頭に入れておくことが大切です。
計画に沿って新卒・中途採用や人材配置、研修を実施します。その際、データや数字だけで判断するのではなく、現場の声を取り入れることも重要です。最終的な振り返りだけではなく、随時進捗を確認しながら、滞っていることや想定と違っていることを確認し、軌道修正することがポイントになります。
実施内容に対して、どのような結果だったのかを定量面・定性面から分析します。評価やサーベイ結果の推移はどうなっているのか、アンケート内容に変化はあったのかを確認した上で、次の打ち手を考えます。一点だけを見るのではなく、他部署や全体、過去と現在との比較など、多面的に見ることが重要です。組織開発や人材育成、リテンションマネジメントはすぐに成果が出るものではないので、定期的なチェックが必要です。
では、タレントマネジメントを実践できている企業では、どのようなことに気を付けているのでしょうか。『日本の人事部』が開催しているイベント「HRカンファレンス」で発表された事例を紹介します。
グローバルなレベルで「適所適財」が実現されつつある味の素株式会社では、まず「どのような人が将来有望な人財であるか」を見直しました。人材要件とリーダーシップの二つを掛け合わせて、必要な経営コンピテンシーを10項目設定。過去の実績を踏まえながら、レビューディスカッションを行ったり、実際に活躍している人材に会って話を聞いたりしました。数値データだけに依存することなく、リアルな情報も併せて取得することが、タレントマネジメント成功の秘訣といえます。
自社でタレントマネジメントに取り組む際に、参考になる書籍を紹介します。
・日本企業のタレントマネジメント―適者開発日本型人事管理への変革(著者:石山恒貴/出版社:中央経済社)
・組織開発の探究―理論に学び、実践に活かす(著者:中原淳、中村和彦/出版社:ダイヤモンド社)
『日本の人事部』では、各社のタレントマネジメントシステムを紹介しています。『日本の人事部』の「サービス検索」内、「タレントマネジメント・人材マネジメントシステム」から検索できます。また、タレントマネジメントに関するセミナーも検索可能ですので、併せてご覧ください。
現場の人材マネジメントやコミュニケーションに活用することを期待してタレントマネジメントシステムを導入したが、うまく活用できていない、というケースが多く見られます。その理由の一つは、自社の状況を把握した上で最適なシステムを選んでいないこと。何を期待するのかを整理し、活用シーンをイメージすることが重要です。
ポイントを絞った解説で、タレントマネジメントシステムがわかる
選定のポイントや主要な企業をまとめて一つの記事に凝縮。これ一つでタレントマネジメントシステムの全体像をつかむことができます。
タレントマネジメントシステムの傾向と選び方|日本の人事部
タレントマネジメントシステムをより深く知る
タレントマネジメントシステムについて、業界の動向や詳しい機能を深く知りたい方は、全8記事で構成される「HRソリューション業界講座 タレントマネジメントシステム」をご覧ください。専門家の石山恒貴氏による解説で、タレントマネジメントシステムの導入に本当に必要なことがわかります。
HRソリューション業界講座 タレントマネジメントシステム|『日本の人事部』プロネット
上場企業に義務付けられた人的資本の情報開示について、開示までのステップや、有価証券報告書に記載すべき内容を、具体例を交えて解説します。
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