ソーシャルラーニングのケーススタディ
ネットワークを活かして知のコラボレーション
「何を学ぶか」より「どう学ぶか」を大切に
ソーシャルメディアの出現、普及に伴って、先進企業の多くがこれをマーケティングやコミュニケーションの新しい手法として導入したのはごく自然な成り行きでした。最近はさらに自社の組織開発や人材育成にも役立てようと、急成長を続けるソーシャルメディアを教育・学習のツールとして活用。「ソーシャルラーニング」という個人と組織の“学び合い”のしくみを、競争力の源泉とする企業が増えています。
特に“ソーシャル先進国”のアメリカでは、成功事例に事欠きません。たとえばグーグルでは、社員一人ひとりがイノベーションへの貢献者であることを求め、全社員向けのイントラネット上で、新しい製品・サービスや会社の改善に関するアイデアを投稿できるようにしています。同社の世界中の社員がそのページを閲覧し意見を交わすことで、アイデアはより効率的にブラッシュアップされ、製品化・事業化へと近づくのです。またインテルでは、2007年にあるエンジニアが「社内にWikipediaのようなものがあればいいのでは」と提案。実際にオープンソースのソフトウェアを使ってプラットフォームを作り始めたところ、他の社員にも草の根的に広がり、膨大な情報量の共有と活用を可能にする社内百科事典――「インテルペディア」が作成されました。
職場での学習は、大きく、フォーマルラーニングとインフォーマルラーニングに分けられます。前者は、会社によって提供された研修プログラムやセミナーなどに参加し、専門のトレーナーからきちんと系統立てて作成されたコンテンツを指導してもらうという学び方です。そうしたオフィシャルな学習機会とは別に、何か分からないことがあったら同僚に聞いてみたり、先輩のやり方を観察したり、あるいは休憩中に周囲と仕事のことについてディスカッションをしてみたり、誰もが職場で日常的に行っている何気ない学びの習慣をインフォーマルラーニングと呼びます。前者が“上”から指示されて学ぶことが多いのに対し、後者では自分が学びたいから、知りたいからということが学習の動機となります。
ソーシャルラーニングは、このインフォーマルラーニングの範ちゅうに属する学び方で、とりわけ参加者全員の共有とコラボレーションを学習の前提としています。各自が課題やアイデアをすすんで持ち寄り、お互いに評価したり刺激しあったりするなど、ネットワーク上で“わいわいがやがや”話し合いながら学んでいくわけです。その過程で、個人は自立性や自律性、相手の個性を尊重する柔軟性を養い、コラボレーションに欠かせないソーシャルスキルやコミュニケーションスキルを身につけていくのです。
いいかえるとソーシャルラーニングでは、「何を学ぶか」よりも「どう学ぶか」が大切――従来の教育のようにコンテンツの内容ばかりが問われるのではなく、それを理解するための学びの過程そのものに価値を置いた学び方だといえるでしょう。