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トレンド企業の取り組み2018/10/26

「アナリストではなくマーケター」――サイバーエージェント「人材科学センター」が進める人事のデータ分析・活用とは

株式会社サイバーエージェント 人材科学センター

向坂 真弓さん

実践活用事例戦略立案異動・配置・昇進評価・組織サーベイ・従業員満足度・エンゲージメント向上

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向坂 真弓さん(株式会社サイバーエージェント 人材科学センター)

グループ全体で1万人規模へと成長したサイバーエージェントでは、人材の「適材適所」をより高度なレベルで実現するために、2013年からHRテクノロジーを活用する取り組みをスタートさせています。その中心となっているのが本社人事部内の組織である「人材科学センター」。独自の全社アンケートシステム「GEPPO」のデータを分析・活用するほか、社内のさまざまなデータをすべての人事担当者が手軽に利用できる環境を構築、人事の課題解決を効率的に進める強力なエンジンとなっています。同社人事部の文化さえも変えつつあるという「人材科学センター」とはどんな組織なのか。また、実際にどんな業務や取り組みを行っているのか。HRテクノロジーの活用を進めたいと考える企業にとってはすべてが興味深い貴重なケーススタディーを、早期から同センターに携わってきた向坂真弓さんにうかがいました。

プロフィール
向坂 真弓さん(コウザカ マユミ)
向坂 真弓さん(コウザカ マユミ)
株式会社サイバーエージェント 人材科学センター

一橋大学社会学部卒業後、2003年にサイバーエージェントに新卒で入社。インターネット広告代理事業の営業、マーケティング、SEMコンサルを経験。人事データ分析を目的として設立された人材科学センターに2016年に参画。採用、適材適所、退職予防などを目的としたデータ分析をし、経営への提言を行っている。

原点は「適材適所」実現のための全社アンケート「GEPPO」

まず、向坂さんが「人材科学センター」の担当になったきっかけをお聞かせください。人事経験やデータ分析の経験などはお持ちだったのですか。

私自身の経歴を簡単に説明すると、新卒でサイバーエージェントに入社して約8年間、ネット広告代理店部門で勤務しました。最初は営業で、その後がマーケティング。データ分析のスキルはそのときに身につけたものです。家庭の事情でいったん退職し、中国・上海に住むことになったのですが、そこでも経験を生かしてWEBマーケティングの仕事は続けていました。5年ぶりに帰国して、縁あってサイバーエージェントに再入社することになり、そこではじめて人事に携わることになりました。2016年からなので、人事経験はまだ2年ちょっとですね。

サイバーエージェントに戻ってきたとき、自分ではまたマーケティングの仕事をするつもりでした。ところが、人事統括の曽山から直接、「人事部でもマーケティングに取り組みたい。データドリブンで意思決定できる組織をつくりたい」と言われ、面白そうだなと思ってやってみることにしました。人事部でマーケティングに取り組む組織が「人材科学センター」です。部署自体は2015年にスタートしていたので、私はほぼ1年後に加わったことになります。

人材科学センターとはどのような組織なのでしょうか。

一言でいえば、本社人事部に所属する、データ分析を専門とする部署です。そのため、人事といっても労務、給与計算、採用といった、いわゆる実務は行いません。扱うデータは関連会社も含めたサイバーエージェントグループ全体の従業員約1万人分です。その業務に現在3人で携わっています。

立ち上げ当初の目的は、グループ内の「適材適所」をもっと効果的に行うことでした。どの社員が活躍しているのか、どの部門で人材ニーズが高まっているのか。それらを感覚ではなく、きちんとデータで把握して、より美しい人材配置を実現していこうということですね。そのために重要なのが、部門間をまたいだ人事異動を役員会に提案する「キャリアエージェント」という社内ヘッドハンターチームとの連携です。私も、人材科学センターに所属しながらキャリアエージェントチームも兼任しています。その後、人材科学センターは、異動だけでなく、もっと幅広い人事の意思決定にデータを活用していくための拠点という位置づけに変化してきています。

具体的にはどのようなデータの分析を行っているのでしょうか。

最初から、ボリュームがあり、会社の状況を知るのにも適したデータとして注力したのが「GEPPO」ですね。これはサイバーエージェント独自の全社員アンケートで、その名の通り毎月行っています。「個人」と「チーム」の状況を、「快晴」から「大雨」までの5段階の天気マークを選んで回答してもらうというもので、いわゆる「主観データ」を収集しています。きわめて単純なアンケートなのですが、2013年のスタート時からずっと95%以上、近年では98~99%の回収率を保ち続けることで非常に価値の高いデータとなっています。

人材科学センター立ち上げ時よりも前から行っているアンケートなので、ある程度は活用されていたのですが、私が担当するようになってからは、さまざまな分析方法を試して、現在では主に三つのパターンでの分析を行っています。

一つ目は、同じ個人の中長期的な変化の中からシグナルを読み取る「時系列での比較」、二つ目は、同じ組織内で現状認識にどういう違いが出ているのかを見る「チーム状況の把握」、三つ目は、別の客観データとの組み合わせで全体の傾向と大きく異なるケースを発見する「主観データと客観データのかけあわせ」。従来も、天気マークに急な変化があった社員は要注意と判断する、といった使い方はしていましたが、今はもっと長期的な変化にも着目しながら、より立体的な分析を行っています。

得られた分析結果はどのように活用されているのでしょうか。

▼「GEPPO」の画面

「GEPPO」の画面

「GEPPO」に関しては、アンケート自体も分析結果も、さきほどのキャリアエージェントチームと、取締役しか見ることができません。分析の結果、気になる社員がいた場合はキャリアエージェントチームで対応を相談したり、チーム全体が曇り傾向などの場合は役員会にその旨を書いたレポートを提出したりしますが、現場の人事やマネジャーに直接伝えることはありません。これは社員との約束で、「GEPPO」が人事評価に使われるのではないかと社員が感じたら、もう本音では答えてくれなくなるからです。データをゆがませないためにも、そこは譲れないところですね。基本的には、個別の課題に対応するというよりも、個人やチームの「コンディション」を把握するために使っています。

個人にピンポイントで問題が発見された場合はまず、キャリアエージェントが相談に乗ります。ただ、そこですべて解決してしまうのではなく、「その問題であれば、直属の上司と率直に話しあってみては」とアドバイスすることが多いですね。また、チームの問題に関しては、取締役から現場の人事を通して対応しますが、そのときも「GEPPO」のデータがどうだったから、という言い方は基本的にしていません。

あらゆるデータをきちんと整理し「見える化」する

「GEPPO」はサイバーエージェント独自のユニークなデータ活用事例ですが、それ以外のデータ分析は何か行っていますか。

人材科学センターに来て以来、「GEPPO」に限らずさまざまなデータを集めて分析し、傾向を見てきました。その結果、時間をかけてじっくりと分析し、何らかの答えが見つかったとしても、もう手遅れであるケースが多いことに気づきました。たとえば「GEPPO」の傾向に、評価、異動履歴のデータを掛け合わせると離職確率が何パーセント上がる、といったモデルを作ることも不可能ではないでしょう。しかし、実際には過去のデータを参照している間に社員の状況も周囲の環境もどんどん変化していきます。また、あらかじめ考えられるモデルでは把握しきれない問題も山ほどあります。

そこで、大量のデータをじっくり分析して解を導くというアプローチはいったんやめることにしました。それよりも、あらゆるデータをきちんと整理して、見える化し、利用しやすくする。そうすることで、人事のすべての部署がデータを活用して意思決定し、アクションにつなげていける環境を構築することに重きをおこうという考えに変化してきています。現在は「Tableau」というBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを使って、データベースにあるデータを、しかるべき人が見たい軸で見ることができるシステムの整備を進めているところです。

具体的にはどんなデータをそろえているのですか。

「GEPPO」以外では、全社員の属性情報、異動履歴、勤怠データなどです。基本的には、どの企業にもあるデータですね。あとは、部門ごとに随時行っているアンケート類など。「GEPPO」のシステムを使って、チームの課題発見のためのアンケートをとっているチームもあれば、誰がどんなスキルや経験を持っているのかを集計しているチームもあります。各部門から「データ分析をしたいのだが、どんなデータをとったらいいだろうか」といった相談があり、設問内容などを一緒に考えることもあります。

具体的な実務に直結したデータ分析をされていますね。

私自身はデータ分析の専門家、いわゆる「アナリスト」だとは思っていません。むしろ「マーケター」に近い感覚です。さまざまなデータを集めて可視化し、どこに課題があるかを発見して、アクションにつなげていく。大事なのはPDCAをいかに速く回すか、ということです。私たちは、近年話題になっているピープルアナリティクスのようなハイレベルな分析をしているわけではなく、行っていることはむしろものすごくシンプルだと思っています。そのかわり、精度の高いデータを高速で回すことで、直接的に経営に生かせるデータを提供しています。キャリアエージェントチームだけでなく、採用や労務といった人事の各部門がきちんとデータを基に話し合って、施策につなげることもできつつあります。特にこの一年くらいは、その手ごたえがはっきり表れているように思います。

重要なのは「データの整備」と「目的・課題意識」

人材科学センター以外の人事部の皆さんは、必ずしもデータ分析の専門知識をお持ちではないと思いますが、データ活用に関する勉強会のようなことを行っているのでしょうか。

特別な勉強会を行うことはないのですが、もともとIT企業なので、人事部のメンバーのデータリテラシーは比較的高いほうだと思います。人事統括の曽山が「データドリブンで意思決定できる人事」を目指していることもあって、何か相談に行くと「じゃあファクト(データ)を出して」と言われるので、その思いを受け止めて自分たちで勉強している人も多いですね。

以前はデータが必要になると、「直近3年分のデータを出してほしい」と依頼される状況だったのですが、今は「Tableau」のダッシュボードを開くと、欲しい数字を簡単に取り出せる状態になっています。専門部署に依頼をしなくてもデータを使える環境になってきたことで、データとの距離感がなくなってきていることも大きいかもしれませんね。

これからデータ分析、データ活用を行っていきたいと考える企業が注意すべきことは、どんなことでしょうか。

向坂 真弓さん(株式会社サイバーエージェント 人材科学センター)

サイバーエージェントでは、「GEPPO」以外に決して特殊なデータを集めているわけではありません。どこの会社にもあるようなデータで分析を行っています。その上で注意すべきなのは、「データを常に正しい状態に維持しておくこと」です。いざ分析をしようと思っても、紙ベースの資料しかなかったら、それを入力しなおすだけで多くの手間と時間が発生してしまいます。人手による入力であれば、転記ミスもあるでしょうし、もともとのデータがきちんと回収されてなかった場合には空白も生まれてしまいます。分析以前の問題ですが、これがとても重要なのです。

私も人材科学センターに加わってすぐのころ、採用時評価を分析しようと採用チームにデータをもらいに行ったら、評価シートが紙でしか残されていなかったことがありました。IT企業でも、足元ではそういうことがあるんです。現在ではきちんとシステムや仕組みが作られていますが、正しいデータを維持するためには、そういう運用フローの整備まで含めて考える必要がある、ということです。

「GEPPO」に関しても、常に98%以上の回収率を維持するために努力を続けています。例えば、回答していない社員一人ひとりに回答を促したり、アンケートの設問を毎回振り返って、より回答しやすく工夫したりするなど。また、従来はPC用画面のみだったのですが、社外にいる時間の長い営業職の社員などに配慮して、2年前からスマホ用の画面もシステムに追加しました。そこまでやっているからこそ、精度の高いデータが取れているのだと思います。

もう一点挙げるならば、データを使って何がしたいのか、「目的・課題意識を明確にする」ことでしょうか。当社ではすべて目的がはっきりしているところからデータ活用を行っています。「これを知るためにはこのデータが必要だ」というところから始めないと、分析しても何も見えず、手間だけがかかってしまった、ということになりかねません。

データ分析の担当者には、どういう人材を選任するのがよいと思われますか。

データ分析の担当者に必要なのは、決して高度な分析スキルではないと思います。私もマーケティングはやっていましたが、統計学の専門的な知識があるわけではありません。どちらかといえば、求められる資質はプロジェクトマネジャーのものに近いのではないでしょうか。どういう課題があって、どんなデータを使えば分析できそうか、そのデータは社内のどの部署が持っているのか。そういったイメージ、設計図を描くことができて、その上である程度データの作法を知っている人なら適任でしょうね。あとは社内に顔がきく人。各部門が持っているデータを出してもらえる人なら、さらに強いと思います。

小さな課題からでOK。早く始めれば可能性が広がる

人材科学センターとして、今後どのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか。

究極的には、専門部署がなくても人事がデータドリブンで進んでいくのが理想です。そのため、まずはそこに向かっていけるような環境構築をよりいっそう進めていきたいと考えています。人事は、本社だけではなく各事業部、グループ会社にもいます。そういった部署でも、きちんとデータを見て活用する、そんな文化を根づかせていきたいですね。

もう一つは、私が「採用の科学」と呼んでいる分野を強化することです。どの企業でも、いかに良い人材を採用するのかは課題だと思いますが、サイバーエージェントも設立当初から採用にはかなり注力してきました。カルチャーにマッチする良い人材が採用できれば、入社後は適材適所の配置さえ間違えなければ、しっかり活躍してもらえることがわかっています。適材適所の取り組みは「GEPPO」のデータでうまく回りはじめているので、あとは入口となる採用のところで、いかに精度高く選考できるかが重要です。ただ、これまではいわゆる「目利き力のある面接官」を発見することが完璧にはできていない状況でした。

これから取り組みたいのは、本当に有効な採用手法は何なのかをデータから明らかにし、採用のPDCAを回していくことです。今はインターンを通年で行っているなど、選考ルートも複雑化しています。また、採用担当者は本当に忙しく、じっくりとデータを見て振り返りをする時間が取りづらいです。そこをサポートして、より良い採用につなげたいですね。

最後に、データ活用を考えている読者の皆さんにメッセージをいただけますか。

データはあればあるだけ、できることが増えていきます。そのためにはデータの整備が必要なので、とにかく少しでも早くから取り組んだ方がいい、とお伝えしたいです。テーマは小さいことからでもかまいません。採用だけでも、退職予防だけでもいいと思います。とにかくトライしてみることですね。

私も約3年間やってきましたが、紆余曲折でまだ右往左往しています。当社はIT企業なので、もともとデータを重視する文化はあった方だと思うのですが、それでも困惑することが多々ありました。せっかくのデータが散在していたり、空白だらけだったり。それらを整備していくのには時間がかかります。人・組織の課題を解決するためにデータを活用しようと思ったら、少しでも早くから手を着けていくことが本当に大事です。

人事をデータで語ることに抵抗感のある方もいらっしゃるかもしれません。私自身、データに怖さを感じることもあります。たとえば「退職確率80%」と出てきたら、「もうこの人には大事な仕事を任せるのはやめておこうかな」と、一種のレッテルを貼ってしまう気がするからです。でも、そんなときこそ「人事の感覚」を大事にしなければいけないと思いますし、数字だけにとらわれないフラットな心を常に保つ鍛錬も必要になります。そのために最近は脳科学の本を読むなど、より幅広い勉強もしています。

データを過信せず、でも毛嫌いもせず。「人事の感覚」と「データ」の両輪のバランスをとりながら、それぞれの良いところを組みあわせて意思決定していける文化をつくることが大事だと思います。

向坂 真弓さん(株式会社サイバーエージェント 人材科学センター)

取材は2018年10月3日、東京・渋谷区のサイバーエージェントにて

実践活用事例戦略立案異動・配置・昇進評価・組織サーベイ・従業員満足度・エンゲージメント向上

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