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リモートワークでのコミュニケーション問題を、ロボットの力で解決する(後編)

吉藤 健太朗さん(株式会社オリィ研究所 共同創設者 代表取締役 CEO)

2016/11/30実践リモートワーク・働き方オリィ研究所吉藤健太朗OriHime

人は社会の中での役割を求めている。取締役は、ベッドから起き上がれない、ある一人の患者さん

株式会社オリィ研究所 吉藤 健太朗さん

開発において重視していることは何でしょうか?

私が、分身ロボットを通じて最も実現したいことは、「そこにその人がいる」という感覚を表現することです。同じ会社のメンバーであれば、仮にリモートで働いているとしても、横にいることが当たりまえですし、常にコミュニケーションでき、感情を交換できる状態がベストだと思います。

少しでも距離を感じると、おのずと仕事をお願いしづらくなりますし、いちいち電話をかけて状況を確認して細かく指示を出すのではなく、「あの件、よろしく!」で進むような関係性を、リモートでもつくっていく。

また、そのような関係性は、在宅側の社員にとっても、非常に有益なものになると思います。たとえば、ある仕事が終わった後に、分身ロボットを通じて常時オフィスにいられれば「なにか新しい仕事はありませんか?」と聞きやすいですし、オフィス側の状況を肌で感じられているので、言い方やタイミングなどにおいて余計な気を遣わなくて済むのです。

では、「そこにその人がいる」というリアルな感覚を、どうやって実現してきたのか。これには、本当に苦労してきました。1号機は「両手と両足を備えた人型のロボット」でしたし、ほかにも「顔がモニタに映る試作品」や、「動物を模したキャラクター版」などもつくってみましたが、どれもうまくいきませんでした。試行錯誤を繰り返して、今の形に落ち着いたのです。

人間は「足りない部分」であっても想像力で補うことができるので、現状のシンプルな形状がベストだと思っています。首を振ったり、手を上げ下げしたりすることで、自身の感情を表現できるようにしていることも、その先にいる人の存在感を醸し出す上で効果的です。感情のやりとりをアナログな動き、つまりジェスチャーを通じて行えると、「その人」である感覚が生まれてくるのです。

OriHimeは、私の人生のテーマである、「孤独の解消」を果たせるものだと思っています。人は、「誰かに必要とされたい」と思っている。動物やロボットでもなく「人」に必要とされたいと思っていて、孤独というのは社会とつながって何らかの役割を果たすことで、はじめて解消されます。

以前は、人と人をつなげる、SNSのようなツールを開発することも考えていたのですが、そこに答えは無かった。大切にしている人とのリアルなコミュニケーションが、すべての基盤になることを知りました。まさに、OriHimeの向こうの大切な人が、「そこにいる」感覚で、気持ちも含めたやりとりをしてくれることが、孤独の解消につながるのだと今は思っています。

OriHimeが「孤独の解消」に寄与している事例はありますか?

OriHimeは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんにも多く用いられています。ALSは全身の筋肉が萎縮して、筋力が低下する病気で、言葉を発することができなくなる難病です。弊社で開発した「視線で操作できる」キーボードを用いて伝えたいことをタイピングし、さらにそれを音声に変換し、OriHime経由で病院の外の家族とコミュニケーションをとることが可能です。また、病院内にOriHimeを設置しておけば、ヘルパーさんや看護師さんとの意思疎通もできるようになります。患者さんからの反応を受けることで、介助する側のモチベーションも上がります。

株式会社オリィ研究所 吉藤 健太朗さん

オリィ研究所が開発した「デジタル透明文字盤」。
視線を感知して特定の文字を示すことで会話が可能。

具体的な事例として、元メリルリンチ日本証券 会長の藤沢義之さんというALS患者の方がいらっしゃるのですが、OriHimeを使っていただいて私と会話しているうちに、いろいろと教えを乞うようになって、今では弊社に顧問として入社していただきました。本当に精力的にアドバイスをくださいます。

誰かに必要とされて、社会の中での役割を見つけることで、人はいきいきと輝くことができる。そのような世の中をこれからもつくっていきたいと思っています。

 


2016/11/30実践リモートワーク・働き方オリィ研究所吉藤健太朗OriHime

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