「非言語」のコミュニケーションを
解析して1on1の質を向上
上司と部下の関係性を可視化する「NAONA×Meeting」
株式会社村田製作所 モジュール事業本部
IoT事業推進部 データソリューション企画開発課 シニアマネージャー
笹野晋平さん
村田製作所、社内コミュニケーション、評価・組織サーベイ・従業員満足度・エンゲージメント向上、実践
社会が複雑化し、変化するスピードも加速する中、かつてのトップダウンによる人材育成や教育の手法だけでは、従業員を育成できなくなっています。そのため、上司と部下のコミュニケーションを重視し、人材育成に1on1ミーティングを取り入れる企業が増えてきました。ブラックボックス化しがちな1on1の質や当事者同士の関係性を可視化し、内容を検証、共有、改善できるツールとして期待されるのが株式会社村田製作所の開発する「NAONA×Meeting(ナオナ・ミーティング)」です。モジュール事業本部 IoT事業推進部 データソリューション企画開発課 シニアマネージャーの笹野晋平さんに、本サービスの開発経緯や特長、今後の展開についてお聞きしました。
ブラックボックスになりがちな1on1を可視化する
どのような経緯から「NAONA×Meeting」を開発されたのでしょうか。
昨今、社会的にIoT関連技術への注目度が高まっています。当社もビジネス現場の課題を解決するためにIoTを活用した新たな事業企画の検討を進めていました。その中で生まれた企画の一つが「NAONA」です。「NAONA」の価値を検証していく中でさまざまな業種のお客様と会話をさせていただきましたが、そこで出てきたのが、人材育成や教育に関する課題です。多くの人事が、「若手が育たない」「上司の指導の成果にバラつきがある」といった悩みを抱えていました。社会が複雑化しただけでなく、終身雇用が崩れて従業員の働き方や仕事に対する考え方も多様になっています。従来の画一的な研修だけでは、従業員をうまく育てられなくなりました。
そこで、従業員一人ひとりとのコミュニケーションに目を向け、人材育成のために上司と部下との1on1ミーティングを導入する企業が増えています。しかし、その効果は上司側の技量によってばらつきがあります。雑談で終わったり、上司ばかりが一方的に話して部下が自己開示できていなかったりと、うまく機能していないケースも少なくありません。
また、文字通り二人きりで行われる1on1ミーティングは、中身がブラックボックスになってしまい、有意義だったかどうかは当事者しか知りえません。客観的に検証して、上司を指導し、改善することが難しいのが現状です。第三者が聞き取りを行うことで一定の振り返りはできますが、上司の顔色をうかがってしまい、部下が本音を話せないこともあるでしょう。率直な意見が聞けたとしても、上司と部下で認識に差が出ることは往々にしてあります。
このような1on1ミーティングでありがちな課題を解決することで、企業の人材育成や教育が円滑に進むようになるのではないか。そう考えて開発したのが、コミュニケーションを可視化する「NAONA×Meeting」です。今まで見えなかった、1on1ミーティングにおけるコミュニケーションの質にメスを入れます。
コミュニケーションを可視化するとは、どういう作業なのでしょうか。
「NAONA×Meeting」は、音声の角度情報や各方向からの発言量、発言時間を計測できる360度マイクを搭載した「NAONA」を活用したサービスの一つです。「NAONA」が1on1ミーティングにおける上司と部下それぞれの発言回数や発言時間、会話のテンポといった非言語情報を計測・分析。加えて、発言時の感情も集積しています。例えば、上司と部下ともに1回の発言時間が長いと、二人で議論していることがわかります。このように発言の回数や時間などから1on1ミーティングの質を可視化することで、上司はきちんと部下の話を聞けているのか、部下は上司に自己開示できているのかがわかります。上司のミーティングスタイルがティーチィングかコーチングか、といった体感値的な部分まで数値化できます。
「NAONA」の360度マイクが計測するのは非言語情報だけで、会話の内容は録音しません。音声データもその場で破棄され、非言語情報の特徴量だけをクラウドにアップロードします。そのため、会話の内容が外部に漏れることはなく、プライバシーも保護されるので、上司も部下も安心して1on1で話せます。企業にとっても、機密情報や個人情報などが漏洩する心配がないのは大きなメリットです。「NAONA×Meeting」は、1on1ミーティングの場に「NAONA」を置くだけでいいので、大規模なシステムを入れる必要もありません。企業の業種や規模にかかわらず、利用することが可能です。
検証結果に合わせて上司に研修を提供、1 on 1を改善
直近の展開について教えてください。
人事戦略コンサルティング事業を展開する株式会社スプリングボードが提供する1on1ミーティングの支援サービス「1on1 Support」と連携を開始しました。「NAONA×Meeting」で導き出されたデータの確認や、データを基にした人事教育プログラム動画を利用できます。また、スケジュール設定や議事録作成、満足度アンケート機能なども備え、1on1ミーティングの実施から振り返り、改善までが可能な仕組みとなっています。当社の技術とスプリングボードが持つ人事教育・研修ノウハウを組み合わせることで、人材研修のPDCAサイクルを回し、人材育成と組織力の向上が実現できます。
今後はどのような展望をお持ちですか。
上司と部下の会話内容の重複や、話しているときの微細なスピードの変化といった情報も漏らさず集められるように改良していきます。現在進めているのは、「NAONA×Meeting」に360度カメラを搭載し、人の表情から感情をデータ化すること。人の表情にはさまざまな情報が無意識にあらわれるので、さらに精度の高いアウトプットが可能になるはずです。
また、ハラスメントにかかる可能性のある特定のキーワードを検出する機能がほしいというご相談も受けています。このようなキーワードは本人が無意識で発していることも多く、社内でのトラブルを未然に防ぐためにも「NAONA×Meeting」は役立つと思います。こうした1on1ミーティングに限らない活用事例も、広めていきたいですね。例えば、今まで継承が難しかった、トップ営業マンの会話のスピードや間などの非言語領域のノウハウを可視化し、共有する手段としても有効です。
社会はさらに複雑化していくことが予想されますが、企業を支えるのが人材であることには変わりありません。「NAONA×Meeting」を、ゆくゆくは企業の人材育成や組織力向上の課題解決に欠かすことができない、インフラにしたいと思っています。