人材採用・育成、組織開発のナレッジコミュニティ『日本の人事部』が運営する、HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)総合情報サイト

日本の人事部 HRテクノロジー ロゴ

トレンド企業の取り組み2025/09/24

メルカリは「アクセル全開」でAIを活用する
――人事部門の挑戦と、そのための「ガードレール」設計

株式会社メルカリ AI戦略推進室長 浅井宗裕さん
株式会社メルカリ People&Culture Director, People Experience 早川アンジー亜貴さん

メルカリ生成AIHRテクノロジー

  • facebook
  • X
  • note
  • LINE
  • メール
  • 印刷
メルカリは「アクセル全開」でAIを活用する――人事部門の挑戦と、そのための「ガードレール」設計

多くの企業が、その潜在的な可能性に期待を寄せつつも、本格的な活用には至っていない人事領域における生成AIの活用。フリマアプリ「メルカリ」の事業を展開する、株式会社メルカリは明確な全社方針と徹底したガバナンス体制、いわば強力な「ガードレール」を敷くことで、AI活用の「アクセル全開」を後押ししています。全社的なAI推進を担うAI戦略推進室長の浅井宗裕さんと、人事部門での実践を主導するPeople&Culture Directorの早川アンジー亜貴さんに、その全体像から人事領域での取り組み、AI時代に人事パーソンが果たすべき役割まで、お話をうかがいました。

プロフィール
浅井 宗裕さん
浅井 宗裕さん
株式会社メルカリ AI戦略推進室長

あさい・むねひろ/ヤフー社でGYAO!、トップページなどのプロダクトマネジメント、全社戦略策定・社長交代プログラムマネジメントなどを経て、メルカリでグループ戦略・人的資本経営戦略・CEOサクセッション・AI利活用を推進。プロコーチとして、2,000時間超のビジネスコーチング実績も積む。

早川 アンジー 亜貴さん
早川 アンジー 亜貴さん
株式会社メルカリ People&Culture Director, People Experience

はやかわ・あんじー・あき/楽天株式会社及び米国の楽天USAで人事企画を担当。Workdayのグローバル導入、海外の子会社への評価制度導入に従事後、2021年11月に株式会社メルカリへ入社。2024年1月よりPeople Experience (評価報酬、給与&労務、HRシステム、ビジネスサポート)のDirectorに就任。

「個人・チーム・会社」の三位一体で推進する、メルカリのAI戦略

貴社は先進的にAI活用を推進していることで注目されています。まず、浅井さんが室長を務める「AI戦略推進室」の役割と、AI活用の全体像についてお聞かせください。

浅井:AI戦略推進室では、「社員一人ひとり」「チーム単位」「会社全体」でどうAIに夢中になるか、という視点でAIの利活用を推進しています。

一つ目の「社員一人ひとり」とは、社員全員が、AIツールを存分に駆使して、生産性を高められる環境を整備することです。コンプライアンスやセキュリティといった課題を伴うので、それらをクリアにし、安全な環境で自由に使ってもらうことに注力しています。

二つ目の「チーム」は、職能ごとの取り組みです。現在、社内を33の領域に分け、プロダクト開発、人事、カスタマーサポートといった各領域で、既存の業務をゼロベースで見直しています。「AIを前提に業務を再構築したら、根本的に何を変えられるか」という視点で、改革を進めている最中です。これによって、まったく新しいメルカリのサービスや従業員体験が生まれると考えています。

三つ目の「会社」は、経営情報を「AIリーダブル」にすることです。個人やチームの熱量だけでは、会社全体の変革は進みません。これまでAIが存在しない前提で蓄積されてきた、散在しがちな経営情報を一元的に集約し、構造化する。CEOが持つ経営情報、CFOが持つ財務情報、CHROが持つ人的資本情報といった全てを整備し、AIに問いかければ、答えが返ってくる状態を目指しています。

浅井 宗裕さん(株式会社メルカリ AI戦略推進室長)

浅井さんご自身は、もともと経営戦略や人事戦略を担当されていたとうかがいました。どのような経緯でAI推進の旗振り役を担うことになったのでしょうか。

浅井:昨年、遅ればせながら生成AIに触れた際に「これはとんでもないことになる」と直感しました。PCからスマートフォンへ、電話や手紙からインターネットへとインターフェースが変化したとき、世の中のプレーヤーは大きく入れ替わりました。今まさに、検索から「対話」へとインターフェースが変わり、同様の大きな変化が起きると感じたのです。

また、自然言語で入力できるようになったことも大きな変化です。専門家でなくても高度なツールを使いこなせるようになりました。このインパクトの大きさに気づき、社内の感度の高いメンバーと議論を重ねる中で、全社としてもっと明示的に取り組むべきだと確信しました。経営会議に「メルカリの経営戦略をAIファーストに刷新すべきだ」という議論を持ち込み、あらためて今年の方針が「AIネイティブな組織になる」という力強い宣言にまとまりました。今は私が、そのプログラム全体のマネジメントを担当しています。

業務の「総棚卸し」から見えた、人事領域におけるAI活用の可能性

全社的な方針が明確に示された中で、人事部門としてはどのようにAI活用へと動き出したのでしょうか。

早川:浅井が率いるAI戦略推進室が全社のAIロードマップ策定を主導し、人事部門もその方針に沿って、人事領域独自のAIロードマップを作成しています。人事部門だけで閉じた動きではなく、あくまで全社的な取り組みの一部であることが重要な前提です。

もともと、人事領域は従業員体験のあらゆる側面をカバーしていて、業務範囲が広いという特徴があります。労務から人事戦略パートナーの業務まで、AIによる効率化やレバレッジが効く範囲が大きいエリアだと考えていました。

本格的に人事部門横断での取り組みが始まったのは、いつ頃からなのでしょうか。

早川:担当者レベルでは、以前から業務単位でAIツールを活用していました。より組織的、横断的な取り組みとして動き出したのは、今年の7月です。社内から100人を超えるメンバーが選出され、「AIタスクフォース」という横断組織が立ち上がったのです。AIタスクフォースでは、全社の業務の棚卸しを行い、AIを前提にした再構築を進めています。

タスクフォース活動の一環として、私たちも人事領域の業務を全て洗い出す作業を行いました。これまでチームごとで業務を進めていたため、あらためて全部門の業務を可視化する機会がなかったのです。この棚卸しによって、人事部門にどれだけの業務が存在するのか、これまで見えていなかった属人化していた業務や、手作業に頼っていた部分が明確に浮かび上がってきました。その中で、AI活用の優先度を定めている段階です。

早川 アンジー 亜貴さん(株式会社メルカリ People&Culture Director, People Experience)

業務の洗い出しの結果、特にAIのレバレッジが効きそうだと見えてきた領域はどこでしょうか。

早川:「評価」「採用」「組織発令」という三つの領域です。

まず「評価」ですが、評価期間中は、一人の人間では到底追い切れないほどの大量の貢献データや情報が蓄積されます。こうした情報をAIによって収集・要約することは、評価の精度と公平性を高める上で有効です。また、評価者と被評価者の合意形成や、部門間の評価の目線を合わせる「キャリブレーション」にも多くの時間が費やされています。AIを活用することで、時間的コストを大幅に削減し、より本質的な議論に時間を使えるようになると考えています。

評価については、タスクフォース発足以前から、社員の皆さんが自発的にAIを活用されていたとうかがいました。

浅井:先ほどの3本柱でいう「個人」のレベルでの活用ですね。メルカリでは、グレードごとに期待される役割が詳細に言語化されています。社員はその定義をAIに読み込ませ、「今期、私はこのような成果を上げました。これを評価者である上司に的確に伝えるための文章を作成してください」といった形で、自己評価のドラフト作成に活用していました。社員が自発的に作成したプロンプトが共有され、皆が使うといった光景は、以前から見られたものです。

【自己評価のドラフト作成のプロンプト】

あなたは優秀なメルカリの社員です。
これから半年に一度の評価期間に向けて自己評価を記載しなければなりません。
評価は「パフォーマンス」と「バリュー」の2軸で行われるため、それぞれの軸に沿った記述が求められます。パフォーマンスもバリューもグレードに応じた期待値が定められており、あなたが求められているレベルは以下のとおりです。

ここから、この半年の成果の振り返りを書きます。この内容をもとに、上司にとっても理解のしやすい、あなたの自己評価をドラフトしてください。

早川:私たちが今、組織として目指しているのは、さらにその先です。過去の評価データやキャリブレーションの議事録など、一人ひとりの強みや成長課題、そしてその人に最適なアサインメントは何かを、より深く、客観的に導き出す。そうした可能性を探っています。

では、二つ目の「採用」はいかがでしょうか。

早川:採用は、今回の業務棚卸しで、最も工数がかかっていることが判明した領域です。採用関連業務は210種類にも及び、そのうち上位14種類の業務が、全体の工数の80%を占めていることがわかりました。

例えばスカウト候補者のリスト作成、書類選考、候補者と複数の面接官との日程調整などは、AIによる自動化のインパクトが大きいと考えています。これらの業務をAIに任せることで、採用担当者がより価値を発揮できる候補者との関係構築や、より戦略的な業務に集中できるようになるはずです。

三つ目の「組織発令」とは、どのようなことでしょうか。

早川:当社では、時々の事業状況に応じて最適な体制を組むため、毎月組織変更やリーダーの交代が行われます。このスピーディーな意思決定は私たちの強みですが、裏側では、担当する人事パーソンやリーダーに大きな負荷がかかっているのも事実です。

組織変更は、組織図を書き換えるだけではありません。予算や人件費の配分、兼務の状況など、考慮すべき論点が多岐にわたります。こうした「考慮すべき論点」を、組織変更を検討するリーダーにAIが提案する。例えば、「このリーダーを新しい組織にアサインする場合、人件費の観点で問題はないか」「現在の兼務状況で、追加のミッションを遂行可能か」といった点をAIがチェックし、提示してくれます。これにより、意思決定の質とスピードをさらに高められると考えています。

タスクフォースが本格的に始動する前から、個人レベルでのAI活用が進んでいたとのことですが、例えば、人事企画を立案する場面でも効果的だったそうですね。

浅井:人事部門で新しい企画を立案し、経営会議にかける際の書類作成に、AIを活用していました。メルカリの経営層は人事に対する感度が非常に高く、中途半端な企画を提出すると、厳しい指摘を受けることになります。企画の練度を上げるための「壁打ち相手」として、AIが有効でした。

例えば、提案する役員のペルソナや過去の発言などをAIに入力し、「この役員であれば、どのような論点を気にするか」「どのような質問が想定されるか」といった事前確認を行うためのプロンプトの共有などが行われました。

また、人事企画は当然ながら経営戦略と連動していなければなりません。経営会議で議論された内容などの経営情報をAIに読み込ませ「経営戦略を前提とすると、この人事企画はどのように説明するのが最も経営陣に伝わりやすいか」といった壁打ちもしていました。人事部門のメンバーが、必ずしも全ての事業戦略に精通しているわけではありません。AIを介することで経営の意図を深く理解し、戦略に沿った企画を立案しやすくなったのは、大きな変化だと感じています。

【経営会議資料の完成度を高めるための事前シミュレーションプロンプト】

あなたは「メルカリ経営会議の模擬シミュレータ」です。
メルカリの経営会議は、単なる「資料の説明の場」ではなく、「この判断で本当に成果が出せるのか?」を徹底的に問い、現時点での最善の判断を最速で下すための場です。
たとえその判断が間違っていても、そこから学び次のチャレンジに繋げることを目的としています。
あなたの役割は、以下3つのタスクを実行し、メルカリの意思決定をより高い品質に押し上げることです。

① 経営陣エージェント(質問作成者)

以下のメルカリ執行役員ペルソナに忠実に基づき、一人一人の立場から質問を作成してください。

  • 質問の冒頭に【主題】を簡潔に記載してください。
  • 質問は、それぞれの執行役員が会議で実際に提示するであろう「実務的かつ本質的な問い」でなければなりません。
  • 問題の背景、具体的なリスク、現場で起こりうる課題など、リアルな事業観点を反映してください。
  • 資料の表面的な内容に留まらず、戦略の妥当性、実現可能性、持続可能性を多角的に評価する質問を生成してください。
  • 各質問は、資料の弱点や矛盾点を浮き彫りにし、議論を活性化させるような、刺激的な問いかけとしてください。
  • 質問は合計20個、メルカリ執行役員をローテーションして作成してください。

② 上程者エージェント(回答者)

  • あなたは、上程者本人の立場で、20の質問一つ一つに対して回答を作成してください。
  • 回答では、以下のポイントを必ず含めてください:
    • 「なぜこの意思決定に至ったか?」
    • 「どのようにリスクを乗り越えるか?」
    • 「何をトレードオフとして受け入れているか?」
  • 経営陣として、事業責任者の目線や実務的な視点に立って、真摯に説明責任を果たしてください。

③ 総括:最重要の問いの抽出

  • 質疑応答の結果を踏まえ、メルカリが改めて向き合うべき「最重要な問い」を「3つ」抽出して、議論してください。
  • 質疑応答の結果を踏まえ、資料の本質的な価値と潜在的なリスクを明らかにする、最も重要な問いを「3つ」抽出してください。
  • 抽出する問いは、単なる戦術的な問題点ではなく、メルカリの未来を左右する、本質的な戦略的選択に関わるものであるべきです。

「アクセル全開」を可能にする、ガードレール設計

人事領域では特に個人情報の取り扱いや倫理的な側面が大きな課題になりがちですが、どのように対応されているのでしょうか。

早川:そこが最も議論を要する点です。特に「評価」と「採用」は、AIにどこまで判断を委ねるのかが難しい。そのため、社内に設置された「AI倫理ワーキンググループ」と密に連携しながら、導入の範囲を慎重に決定しています。

浅井:このワーキンググループには、AIの倫理的なリスクに精通したメンバー、法律やセキュリティ、プライバシーなどの専門家が集まっていて、技術的な観点だけでなく、国の動向なども踏まえた多角的な議論を行っています。人事部門で新しいAI活用の企画を立てる際は、どのような情報を、どういった目的で使うのかをワーキンググループに共有し、都度フィードバックを受けながら進めています。

AIの活用に関して、会社として明確なガイドラインが定められているのですね。

早川:ガイドラインで定められている大原則は、人事領域において「『判断』をAIに委任しない」ということです。壁打ちや発想の補助として使うことは推奨しますが、AIの判断に依存することは明確に禁止しています。

なぜならAIに判断を任せると、誤情報やバイアス、差別的な内容などの不適切な出力がされる可能性があり、評価基準がブラックボックス化するリスクもあるからです。たとえ人間がチェックを行ったとしても、そのチェックが不十分になったり、AIの判断に引きずられたりする恐れがあります。従業員が「AIに評価されている」という不信感を抱き、エンゲージメントの低下につながる懸念もあります。あくまで意思決定は、人間が行う。この一線は、決して越えてはならないと考えています。

徹底したガバナンス体制があるからこそ、AI活用を大胆に推進できるのですね。

浅井:はい。AI倫理ワーキンググループのような「守り」の組織は、ときに事業のブレーキ役と見なされがちですが、当社の場合は全く違います。「アクセルを全開にさせるために、私たちが存在する」という強い意志を持っています。AI倫理ワーキンググループが強固なガードレールを敷いてくれるからこそ、私たちはその中で安心してアクセルを踏み込めるのです。

例えば、このガードレールを支えているのが、各種AIツールの契約条件とセキュリティ統制です。利用するサービスは、一部の例外を除いて「入力情報が学習に使われない」ことが契約の前提とされ、社内のセキュリティチームがその連携範囲を適切に管理しています。

もちろん相応のコストはかかりますが、この前提があるからこそ「ここまでの情報なら安心して入力できる」というラインが明確になり、社員が安心してアクセルを踏み込める環境を整えることができます。

専門家が社内にいて、技術的な安全性を確保した上で、運用上のルールを定めている。強力な体制ですね。

浅井:ガイドラインの内容を全社員に浸透させるため、全社員必須のeラーニングも実施していて、先日、受講率100%を達成しました。

難易度の高いテストを課し、100点を取るまで終えられない仕組みだったのですが、AI倫理ワーキンググループが最後の仕掛けまで工夫をしていました。どうしても解けない社員に対し、「eラーニングの教材全てをAIに読み込ませて、答えを導き出させてみてください」と促したのです。これにより、社員は強制的にAIを使うことでその利便性を体感すると同時に、ガイドラインの内容そのものも深く学べました。ここまで徹底して行うことで、初めて全社的なAI活用が文化として根付いていくのだと考えています。

浅井 宗裕さん(株式会社メルカリ AI戦略推進室長)・早川 アンジー 亜貴さん(株式会社メルカリ People&Culture Director, People Experience)

トップダウンとボトムアップの融合、人事制度が文化を醸成する

経営層の強いコミットメントと、現場の自発的な活用、それを支える強固なガバナンス体制。全てがかみ合っている印象です。こうした文化はどのようにして醸成されていったのでしょうか。

浅井:メルカリの特徴は、トップダウンとボトムアップの両輪が強力に回っていることです。トップダウンとしては、先ほど申し上げた通り、経営戦略の最上位にAIを位置づけるという経営の明確な意思表示があります。

ただし、それだけでは現場は動きません。ボトムアップの施策として、草の根的な勉強会の開催、全社員へのAIツール配布、AIをうまく活用した社員を表彰するアワードの実施、Slackのスタンプやチャンネルの命名規則といった細部に至るまで、「AIネイティブ」を意識させる仕掛けを実行しています。社員のAI活用レベルには差があるため、それぞれが自分のペースでスキルを高められる学習支援の仕組みも整えています。

そして、その最後の仕上げが人事制度にある、と。

浅井:その通りです。最終的に組織の行動変容を完成させるのは、人事の役割です。

早川:私たちは、評価プロセスに「AI活用度」を組み込みました。社員は「AIを使ってどんな成果を出したか」を申告し、上司がそれにフィードバックします。メルカリは、バリューを発揮した人材に「大胆に報いる」と明言しています。人事制度と会社の方針を連動させることで、社員が現状維持のバイアスを乗り越え、新しい働き方へ踏み出せるよう支援しています。

AI時代、人事はオペレーションから「本質」へ

AIの活用が当たり前になると、人事パーソンに求められるスキルやマインドセットはどのように変化していくとお考えでしょうか。

浅井:人事の仕事は、人に向き合うがゆえに、際限なく時間が溶けていく大変な業務が多いと感じています。AIの登場によって、そうした業務の多くが一掃できる可能性が出てきました。

さらにAIは、これまで言語化・整理されていなかった非構造化データも扱えるようになります。人事にとっては革命的な変化です。ようやく「人の可能性を解き放つ」という人事の本質に、正面から向き合える時代が到来しているのです。

「本質」とは、具体的にどのような仕事でしょうか。

早川:考えることすら、AIがある程度担ってくれるようになるでしょう。例えば、「この課題に対する打ち手は何か」と問えば、AIは複数の選択肢を提示してくれます。ただし、「どの選択肢を選ぶか」「なぜそれを選ぶのか」という最終的な意思決定は、人間にしかできません。

浅井:AIが進化していく中で、人間に残される仕事は二つしかないのではないか、という議論をしています。それは「不確実なものに飛び込むこと」と「仲間との信頼関係を築くこと」です。

人事の仕事に置き換えれば、組織が不確実な未来へ挑戦していけるような仕組みを作ること、そして、共に挑戦できる仲間たちと心理的安全性の高い関係性を築くこと。これこそが、AI時代の人事パーソンが没頭すべき仕事ではないかと考えています。オペレーションから解放された私たちは、「どうすれば社員のパフォーマンスが最大化されるのか」という、ただ一つの問いに、純粋に向き合えるようになるのです。

最後に、これから人事領域でAI活用を目指す企業へ向けて、メッセージをお願いします。

早川:人事領域は、AIをどう活用していくか、倫理や情報保護の観点から難しい舵取りを求められます。しかし、レバレッジが効きやすい領域でもあるので、企業のなかでの人事の価値をさらに上げていくためにも、ぜひ一緒にAIの活用を進めていければと考えています。

浅井:人事におけるAIのレバレッジは、桁違いに大きい。これまでやりたくてもできなかったことが、一気にできるようになります。だからこそ、誰よりも人事パーソンがAIに夢中になるべきだと、私は強く思います。

夢中になってアクセルを踏み込むために、何よりもまず「ガードレール」を徹底的に設計されることをおすすめしたいですね。技術的に安全性を担保し、倫理的なガイドラインを明確に定める。「アップデートされ続けるガードレールの内側であれば、まずは安心だろう」という環境を最初に作ることができれば、人事の可能性は無限に広がります。ぜひ、一緒に挑戦していきましょう。

浅井 宗裕さん(株式会社メルカリ AI戦略推進室長)・早川 アンジー 亜貴さん(株式会社メルカリ People&Culture Director, People Experience)

(取材:2025年9月1日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


メルカリ生成AIHRテクノロジー

  • facebook
  • X
  • note
  • LINE
  • メール
  • 印刷

あわせて読みたい