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トレンド企業の取り組み2018/08/29

明確な意図・目的があるからこそ、確かな成果を導ける
HRテクノロジーにおけるFacebook社の基本スタンスとは

佐々木 丈士さん(フェイスブックジャパン株式会社 人事統括)
宮原 崇さん(フェイスブックジャパン株式会社 Workplace 日本事業責任者)

実践活用事例リモートワーク・働き方社内コミュニケーション

佐々木 丈士さん(フェイスブックジャパン株式会社 人事統括)、宮原 崇さん(フェイスブックジャパン株式会社 Workplace 日本事業責任者)

2004年の設立以来、急成長を続けるFacebook社。これまで同社が目指してきたのは、誰もが安心して情報を共有でき、オープンでつながりのある世界を実現することです。職場環境づくりにおいても、そのスタンスは変わりません。トップの考えがオープンに発信され、従業員がそれを共有し、反応していける仕組みが構築されています。その動きをサポートするために、2015年から社内のコミュニケーション・プラットフォームとして活用されているのが、同社が開発した企業向けコミュニケーション・プラットフォーム・サービス「Workplace(ワークプレイス)」です。従業員の働き方を主管する人事部門は、どのような理念や方針、問題意識を持っているのでしょうか。どんな背景から、「Workplace」が開発されたのでしょうか。フェイスブックジャパンの人事統括責任者である佐々木丈士さん、「Workplace」事業責任者の宮原崇さんに詳しいお話をうかがいました。

プロフィール
佐々木 丈士さん(ササキ タケシ)
佐々木 丈士さん(ササキ タケシ)
フェイスブックジャパン株式会社 人事統括

フォード・ジャパン・リミテッド、フィリップ モリス ジャパンにおいて人事ビジネスパートナーとして様々な事業部門の組織開発を担当。2015年6月よりフェイスブックに入社、日本、韓国、香港、台湾の人事戦略を担当。

宮原 崇さん(ミヤハラ タカシ)
宮原 崇さん(ミヤハラ タカシ)
フェイスブックジャパン株式会社 Workplace 日本事業責任者

北海道大学経済学部を卒業後、伊藤忠商事(株)、IBMビジネスコンサルティングサービス(株)、グリー(株)、(株)マネーフォワードを経て2018年よりフェイスブック ジャパンに入社。企業向けのコミュニケーション・プラットフォームであるWorkplaceの日本唯一の営業担当として日本市場の開拓に取り組む。

人事部門の使命は、従業員がベストなパフォーマンスを発揮していける環境づくり

まず、日本法人の位置付けや役割について教えてください。

佐々木:日本にも、当社のサービスであるFacebook、Instagram、Messengerなどの利用者や広告主の方が数多くいらっしゃいます。日本法人は、そうした方々に向けてのコミュニケーションやサポートを行っています。

貴社の人事部門では現在、どんなことに注力されているのですか。

佐々木:人事部門としては、個々の従業員のベストなパフォーマンスを引き出すための環境づくりを行うことが大きな役割です。当社は、引き続き成長傾向にあります。現在、全世界に約2万7000人の従業員がいます。当社のような成長傾向にある会社にとって、重要なことが三点あります。

一つ目は、人材の採用です。もちろん、ポジションベースでの採用になるのですが、必要な経験やスキルを持っていることは当然として、当社の企業文化をしっかりと理解してフィットする方かどうかがポイントになってきます。当社には、新たに作らなければならないものがたくさんありますので、それらを一緒になって作っていける仲間を採用することが、とても重要です。

二つ目は、マネジャーの育成です。従業員のパフォーマンスに最も影響を及ぼすのがマネジャーです。そのため、部下を持つマネジャー・管理職の能力やレベルを継続的に上げていくことが課題となっています。

三つ目は、企業文化の醸成です。当社は企業文化がとてもユニーク、かつ強い会社です。企業規模が急拡大するなかでも、独自の文化を薄めることなく維持・発展させていくことが、人事部門としてフォーカスすべき点です。

佐々木さんは入社されて3年経ったそうですが、振り返ってみていかがですか。

佐々木 丈士さん(ササキ タケシ)

佐々木:あっという間でしたね。自分の職責に限らず、ビジネスの動きがとても速い業界・会社なので、毎日、何かしら新しい動きがありました。私は入社以来、HRビジネスパートナーという役職ではあるものの、担当する業務は3年間で2回、ほぼ1年ごとに変わりました。

入社当初は日本と韓国を受け持ち、翌年にはそこに香港と台湾が加わりました。今年の7月からは、香港と台湾を同僚に引き継ぎ、シンガポールを拠点とする部門も統括することになりました。新しいグループに入ると当然、今まで経験したことのないビジネスになるので、面白いですし、やりがいのあるチャレンジをさせてもらっています。

HRビジネスパートナーとして、佐々木さんが担っているミッションを教えてください。

佐々木:日本に在籍する全ての従業員、それから韓国とシンガポールの一部門の従業員に対するコンサルティングやコーチング、人材の管理、能力開発などの戦略を立案し、実行して、従業員のベストなパフォーマンスを引き出すのが私の仕事です。

ミッション&バリューを従業員が体現する手段としてテクノロジーを活用

社内コミュニケーションやエンゲージメントに関しては、どのようにお考えですか。

佐々木:当社は、創業以来企業のミッションとして「Making the world more open and connected(世界をよりオープンにし、つなげる)」を掲げてきました。その結果、今では約22億人もの方々にご利用いただく巨大なSNSへと成長しました。そして昨年、ミッションを新しいものに変えました。新たなミッションは、「Give people the power to build community and bring the world closer together(コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する)」です。

このミッションを達成するために、何が必要かというと、社内で従業員一人ひとりがミッションを体現していくことです。そのための指針として設定されているのが、「Focus on Impact(影響を見据える)」「Move Fast(素早い行動)」「Be Bold(大胆になること)」「Be Open(オープンであること)」「Build Social Value(ソーシャルバリューを確立する)」という五つの価値(バリュー)です。

このミッション&バリューを社内で体現するには、さまざまな切り口があります。当然、従業員やマネジャー、リーダーが言葉にするだけでなく、日々行動・実践していくことが重要です。もう一つは、当社は世界中に拠点があるため、ミッション&バリューをどうやって全世界の従業員と共有していくか。ここで活躍するのが、ツールやテクノロジーなのです。

貴社では、自社サービスの企業向けコミュニケーション・プラットフォーム・サービス「Workplace」を、社内コミュニケーションに活用されているとお聞きしました。その背景や目的について教えてください。

宮原:「Workplace」そのものは、2015年にβ版が開発されました。正式に外部向けにリリースされたのは、2016年です。社内では、β版がリリースされた当初から使っています。

もともと、「Workplace」が生まれたきっかけは、当社の最高経営責任者(CEO)であるマーク・ザッカーバーグが、従業員にメッセージを配信する際に、メールやイントラネットの文字情報では従業員に伝わりにくい、従業員がそのメッセージに対してどう思っているのかがわからない、という課題を感じていたことでした。

この「Workplace」が生まれる前に、一般の利用者向けFacebookのグループ機能が社内で活用され、当社の従業員がコミュニケーションを取り始めた結果が、「Workplace」につながります。「Facebookを仕事用のコミュニケーションに使用している人が多いのでは」と考え、開発を進めていくことになりました。社内で使いながら得た知見は、その後の開発に大いに生かされています。

私自身の経験で言うと、前職では「Workplace」を使っていたわけではなく、メールやほかのチャットツールを使う程度でした。 それが、Facebookに入社したその日から、このサービスを使ってほかのメンバーと地域や言語を越えてコミュニケーションをすることができたのです。「Workplace」の使い方に関する研修などは一切ありませんでしたが、Facebookと同様のUI(ユーザーインターフェース)であるため、非常にスムーズに使いこなすことができるツールだということです。

トップのメッセージに対するリアクションをライブで共有できる場を構築

「Workplace」を活用するメリットは何でしょうか。

佐々木:一つ目は、情報配信の速さです。従業員はオンラインに接続していれば、どこにいてもすぐに情報を閲覧することができます。一対一でもグループでも、デスクトップ、モバイルを問わず、利用可能です。

二つ目は、フィードバックのスピードがとても速いことです。メールと違って「Workplace」には、投稿に対してコメントやリアクションがあるので、従業員が何を感じたかがすぐにわかります。社内では、意思決定にあたって、さまざまなディスカッションが行われています。人事の立場からそれらのコメントを見ていると、ミニ従業員調査ように感じます。どのぐらいの従業員に見られていて、どんな人たちが反応して、コメントした人たちはどのようなことを書いているのかがすべて可視化されるからです。

三つ目は、コミュニケーション方法が多種多彩であることです。テキストだけでなく写真もありますし、動画もあります。ライブ配信もできる上に、録画した動画を配信することも可能です。さまざまな方法があって、それぞれのコミュニケーションの目的や内容・アセットに応じて、適切な発信方法を選ぶことができます。

ほかにも、私自身が「Workplace」のバリューとして感じている点があります。それは、グループ機能です。私のチームは、日本・韓国には私一人しかいません。同僚は皆、ほかの国に散らばっています。同僚たちと情報交換をしたり、質問をしたり、答えを返したりするといったときでも、「Workplace」だとお互いの顔が見えるプラットフォームになっているので親近感が湧きます。

宮原さんは、「Workplace」の優れている点はどこだとお考えですか。

宮原:ほかのメールやチャットツールと違うのは、一人ひとりにパーソナライズされ、本人にとって優先順位の高い情報から表示されることです。そのため、大事な情報を見落としづらい設計になっています。また、自分が投稿したものや、他者が投稿したものに対しすぐにリアクションが起こることで、意思決定にあたり自分の行動を修正したり、方向付けしたりできます。そうした機能は、「Workplace」以外のコミュニケーションツールにはほとんどないのではと思います。

「Workplace」を活用するにあたり、難しかった点や気を付けた点はありましたか。

佐々木:特にはありませんね。「Workplace」は、ツールの仕組み自体がとても直感的に使えるので、マニュアルをひも解き、ロジックを理解しなければならないものではありません。あまり考えなくても使えます。そのため、使用法のガイドラインやマニュアルは用意する必要がなく、社員トレーニングなどの必要もありません。

「Workplace」の画面イメージ

「Workplace」の画面イメージ

「Workplace」の活用によって、どのような成果が出ていますか。

佐々木:「Workplace」が社内で使い始められる前から、いわゆる外向けのFacebookを仕事用に使っていたので、従業員の経験上では「Workplace」でがらりと変わったわけではありません。当社が掲げるミッションとバリューを体現しやすくなった、ということですかね。特に「Be Open」でしょうか。

当社には五つのバリューがあるのですが、フィードバックであれ、コミュニケーションであれ、それぞれの従業員が持っているものをオープンに交換するようにしています。例えば、当社ではマーク・ザッカーバーグが、今でも米国西海岸の時間で毎週金曜日に全従業員と1時間にわたり、質疑応答を行います。日本だと土曜日になるので、ライブで見る従業員もいれば、録画を見る従業員もいます。全世界で2万7000人もの従業員が働いている会社で、CEOが従業員に向けて発信し、しかも従業員からダイレクトに質問を受けて答える取り組みを行っている。これは、当社の文化の大きな象徴だと思います。

「Workplace」が担う役割は、そのサポートです。そうしたプラットフォームがあるからこそ、従業員に向けてさまざま形でメッセージを送信できますし、またメッセージに対する反応もライブで共有できるのは、大きな価値だと思っています。

情報の伝達スピードが高まるだけで、生産性は格段にアップする

貴社人事部門の今後の展望をお聞かせいただけますか。

佐々木:組織の課題や機会を捉えて有益な行動を起こしていくことが基本的なサイクルです。データやインサイトが大事で、どの組織や部門でどのようなチャレンジやチャンスがあるのかを理解するために、もっとデータ、テクノロジーやツールを駆使できる要素があると思っています。

そのあたりは多くの企業も模索していると思いますが、佐々木さんは近年の日本におけるHRテクノロジーに対する注目度の高まりをどのようにご覧になっていますか。

佐々木:業務の効率化や、社内における人事の価値を上げようとする意図があるはずなので、良いことだと思います。ただ、何のツールでもそうですが、意図・目的が大切だと思います。企業の中でツールを開発する、あるいは導入する際は、何のためにやるのかという問いかけが大事です。

ブームに流され、右にならえではいけない、ということですね。宮原さんも、顧客に提案される際には、意図・目的を重視されているのですか。

宮原:もちろんです。何を実現したいのかを明確にすることはとても大切です。最近の日本だと、「働き方改革」という文脈で多くの企業がHRテクノロジーに取り組まれています。働き方改革という言葉がお客さまにとってどのような意味があるのか、まずはここをあぶり出すのが大きなポイントだと思います。残業時間を削減したいと思っている企業もあれば、本当の意味で働き方を変えて高い付加価値を創出していきたい企業、価値を生み出せる環境を人事部門として提供したい企業もあるので、そこを我々のサービスとつなげて実現していくことが重要です。

貴社では、働き方改革にはどのように取り組まれているのでしょうか。

佐々木:日本で盛り上がっているような動きとは少し異なるスタンスです。社内の「改革」を進めるというよりは、日本のほかの企業の働き方改革に貢献していきたいと考えています。例えば、多くの企業が注力しているテレワークも、当社ではほぼ創業期から取り入れています。近年だとモバイルがあれば、どこにいても「Workplace」のビデオ機能で自分の上司や同僚と会議ができます。

このような社内のツールを社外にも提供することで、ほかの企業の働き方にプラスの影響を与えていきたいと考えています。また、当社の根底にあるのは、「従業員を信頼する」ということです。決してコントロールするという考えではありません。「これをやってください。やり方はあなたにお任せします」――そんなスタンスです。自由度はかなり高いですね。

最後に今後、HRテクノロジーを活用したいと考えている読者に、お二人からメッセージをお願いします。

佐々木:繰り返しになりますが、意図・目的を明確にすることが大切だと思います。もしかしたら、テクノロジーやツールが解決策ではない、ということもあるもしれません。逆に、意図・目的がはっきりしていれば、テクノロジーやツールの導入、さらには導入後にそれらを根付かせていく過程もスムーズに行くはずです。経営層や従業員から「なぜこれを導入したのか」「どう使ったら良いのか」と聞かれたときに、人事担当者や導入責任者がストーリーを持って説明できるどうかがとても重要であることを強調したいですね。

宮原:会社の中で働き方改革を実現できる主管部門は、やはり人事部門だと思っています。働き方は人にフォーカスする部分が大きいので、人の働き方を会社としてどう方向付けしていくかはIT部門ではなく、人事や労務などの部門が主導していくべきだからです。その際に、より良い働き方を実現する一つの手段としてテクノロジーやツールがあるのではないかと思います。情報の流通スピードを速くすれば、それだけでも今仕事に要している時間を短縮できますし、より高い付加価値を生み出せるはずです。

日本の労働生産性は低い、とよく言われますが、言い換えれば、日本の生産性を高める余地はまだまだある、ということです。その手段としてHRテクノロジーを活用し、社内の文化を変えていくことを目指してほしいですね。生産性は、従業員個人のスキルですべてが決まるわけではありません。会社が従業員に提供する働き方、働くためのツール、会社のビジョンやバリューをどう徹底させているか、などが他社との違いを生み出すと思います。個の強さ、弱さではない、と言いたいですね。

取材は2018年7月18日、東京・港区のフェイスブックジャパンにて

取材は2018年7月18日、東京・港区のフェイスブックジャパンにて

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


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