【ヨミ】ジンザイポートフォリオ 人材ポートフォリオ
人材ポートフォリオとは、事業活動に必要な人材タイプを明確化した上で、組織内の人的資源がどのように分類・構成されているのか、あるいは必要となるのかを分析したものです。自社の人材を把握することで、適材適所の実現が可能となるため、有効な人事マネジメント手法とされています。経営戦略や事業戦略に基づいた企業目標達成や、採用や育成を含めた中・長期の戦略的人材マネジメントの立案・実行に欠かせないものとして注目を集めています。
人材ポートフォリオとは、事業活動に必要な人材タイプを明確化した上で、組織内の人的資源がどのように分類・構成されているのか、あるいは必要となるのかを分析したものです。自社の人材を把握することで、適材適所の実現が可能となるため、有効な人事マネジメント手法とされています。経営戦略や事業戦略に基づいた企業目標達成や、採用や育成を含めた中・長期の戦略的人材マネジメントの立案・実行に欠かせないものとして注目を集めています。
人材ポートフォリオとは、企業内の適切な人材配置や人材開発を行うために、人材のタイプやキャリア志向などの情報を分類し、どのように構成されているのかを分析・可視化したものです。ポートフォリオ(portfolio)とは、直訳すると「紙ばさみ」「書類かばん」という意味です。有価証券の保管・携帯に使われたことから「有価証券一覧表」を指すようになり、投資家や企業が保有している金融商品、およびその組み合わせのこととして用いられています。
人材ポートフォリオを作成することで、企業内のどこに、どのような人材が、どのぐらいいるのかといった情報を分析することができます。企業内の人材の状況を可視化し、事業戦略や採用、教育といった人事戦略に生かせるため、注目を集めるようになりました。
社内のどこに | 従業員の所属先、役職、ポジション |
---|---|
どんな人材が | 職種、能力やスキル、適性、性格、実績、仕事の姿勢や志向 |
どのくらい | 人数、社歴や配属年数 |
現在、労働人口の減少や働き方の多様化によって、企業の人材確保がより困難を極めています。限られた人材のパフォーマンスを最大限に発揮させるためには、経営戦略・事業戦略に応じた人材開発・人員配置を実現しなければなりません。将来の見通しが立ちにくいVUCAの時代に企業成長を継続していくためには、従業員の能力を最大限に引き出す人材マネジメントが必要です。
人材版伊藤レポートとは、2020年9月に経済産業省が発表した「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の報告書のことです。座長である一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏の名前が由来となっています。その後、2022年5月に内容をアップデートした、人材版伊藤レポート2.0が作成されました。人材版伊藤レポートでは、企業の継続的な成長や価値創造に向けて、「人的資本経営」のあり方を提唱しています。
その中で人的資本経営を成功させるための要素として掲げているのが、「動的人材ポートフォリオ」です。自社が目指す経営戦略を実現させるためには、各組織に必要な人材要件を定義し、その理想となる状態に向け、採用や配置、育成を行うことで重要であると述べています。
人的資本の情報開示とは、従業員の成長に対する企業の取り組みといった人材戦略に関する情報を社内外に向けて公表することです。世界的に人的資本の情報を開示する動きが高まっていることも、人材ポートフォリオに注目が集まる理由の一つといえるでしょう。
2020年8月、米国証券取引委員会は上場企業を対象に人的資本の開示を義務化しました。環境(environment)、社会(social)、ガバナンス(governance)の三つからなるESG投資への関心が大きくなってきたことを受けたものです。今までは企業の財務情報に基づいた投資先決定が主流でしたが、近年は人的資本やブランド価値、ステークホルダーとの関係性といった無形資産を評価する潮流があります。
2018年12月、スイスのジュネーブを拠点とする国際標準化機構(ISO)によって発表された「ISO30414」も、情報開示の流れを加速させました。ISO30414とは、「人的資本に関する情報開示の国際的なガイドライン」のことです。世界的な基準が完成したことで、人的資本の可視化がさらに注目されています。
ひとくちに「企業に必要な人材」といっても、組織が人材に求める役割や行動は一律ではありません。事業ごとに必要となるスキルや経験も異なります。人材ポートフォリオを作成すれば、従業員一人ひとりの能力やスキル、強み、志向性などを可視化でき、事業の方向性に合わせて、最適なスキルを持つ従業員をアサインすることが可能です。
従業員は自身の強みや経験を活かして働くことができるようになるため、モチベーションや生産性の向上が期待できます。また、組織の士気が上がるため、事業目標の達成や離職率の低下などにも効果的です。
適正な人材配置を行うためには、まず現状の組織構成がどのようになっているのかを把握することが必要不可欠です。組織にどの雇用形態の人材がどのぐらい在籍しているのか、どのぐらいの人件費がかかっているのか、それは適正であるのかを分析することで、次に着手すべき行動が明確になります。
現在、従業員一人ひとりの労働に対する価値観は多様化しています。マネジメント力を身につけたい人、専門性を高めたい人、さまざまな経験を積みたい人など、個人によって目指したいキャリアや考え方は十人十色です。そのため、企業は従業員それぞれの志向に合わせたキャリア形成支援を行うことが必要です。そこで従業員の適性や志向などを把握できれば、個人の希望を考慮したキャリアパスを提案することができます。さらに、従業員のキャリアステップが予測できると、数年先の事業戦略の立案にも良い影響を与えるでしょう。
実際に企業が人材ポートフォリオを導入・活用するにあたって、必要なステップは以下の通りです。
まず「なぜ自社で人材ポートフォリオを作成する必要があるのか」を把握します。人材ポートフォリオの目的によって、人事マネジメントの方向性や指標が変わってくるからです。実現したい事業計画やビジョン、方向性を踏まえながら、活用したいシーンを明確にし、経営陣と合意をとって進めていくことが大切です。
次に、自社の人材基準を定めて分類していきます。雇用形態や職種で分ける方法もありますが、そのほかにもさまざまな軸やタイプが提唱されています。
仕事の仕方やスタンス、タイプによる分類方法です。Lepak&Snellによる「人的資源アーキテクチャ(※)」の考え方は、人材価値及び、人材特異性の2軸、4タイプのフレームワークを提唱しています。
人材ポートフォリオを考える際によく活用されている、一般的な分類方法です。リクルートワークス研究所や守島基博氏による、「個人志向と組織志向」および、「創造(クリエイティブ・革新)と運用」の2軸、4分類の枠組みも参考になります。
Autor, Levy and Murnaneによる「ルーティーン(定型)・ノンルーティーン(非定型)」と「分析業務か否か」というタスクモデルの考え方も、人材を分類する上での基準となります。
人材基準の軸やタイプが定まったら、従業員を分類していきます。適性検査やサーベイなどを用いて、客観的データをもとに振り分けます。それぞれの軸やタイプの人材が、どの組織にどれだけ在籍しているのかを数値化することで、組織のバランスや余剰・不足を管理しやすくなります。
現在の組織と事業目標を達成するための理想の組織とのギャップが把握できれば、その差を埋めるために最適な対策に取り掛かることができます。顕在的な課題発見のためにも人材ポートフォリオの活用は有効であり、人材版伊藤レポートでは以下のように活用することを提案しています。
このように、人材の再配置や新卒や中途採用の見直し、教育体制の確立、早期離職やM&Aなど、課題に合わせた解決手段を検討することが可能です。ただし、ギャップがあったからといって安易に施策を進めると、誤った判断をしてしまったり、従業員の不信感を招いたりする可能性もあります。分析結果をもとに経営陣や現場部門の責任者と調整しながら、慎重に対策を検討・実行する必要があります。
人材ポートフォリオは企業側が一方的に従業員を分類するものではありません。いくらデータに基づいた人材配置を行ったとしても、従業員の意向や要望を踏まえていないと、モチベーションが下がり生産性低下や離職につながってしまう可能性があるからです。従業員の能力やスキルを最大限に発揮してもらうためには、多角的な視点からポートフォリオを作成していくことが大切です。定期的な従業員へのヒアリングを実施し、意見や要望を反映することが重要です。
人材ポートフォリオは、従業員に優劣をつけるものではありません。組織にはさまざまなタイプや素養を持った人材が在籍しているので、能力を最大限に活用することが大切です。優劣をつけてしまうと、優れた人材を集めようとした結果、人材タイプが偏ってしまうこともあります。劣っていると判断された従業員から不満が発生することも考えられます。
人材ポートフォリオは非常に重要ですが、一度作って終わりでは意味がありません。景気や市場によって事業戦略は大きく変化していくため、人材ポートフォリオもスピーディーに対応・反映していく必要があります。
全従業員の人材ポートフォリオは、さまざまな人材を巻き込みながら、全社横断のプロジェクトとして多角的に分類する必要があります。そのため、作成には相当の時間と費用がかかることを想定しておく必要があります。また、事業戦略・人事戦略のベースになるため、採用や制度づくりといった企業経営の根幹に大きく影響する可能性があります。短期間で無理やり作ろうとせずに、検証を重ねながら長期的スパンで作成・運用していかなければなりません。
日本の大手総合化学メーカーである旭化成株式会社では、経営戦略と連動した人材ポートフォリオを作成。毎年1回、全社全事業部において必要となる人材要件・人数を洗い出し、それに基づいて採用・教育を実施しています。また、採用や教育では補えない部分については、M&Aを通じた人材確保やコーポレートベンチャーキャピタルといった企業とコネクションを強化しています。人材ポートフォリオの活用によって、戦略的な人材獲得を実現しています。
システムインテグレーターとして、常に最新の技術力を提供していている三井情報株式会社では、企業価値の源泉は「人」とし、2019年に「人材基本方針」および「人材像」を策定しました。従業員の成長を会社として支えていくために、人材ポートフォリオを整理し、「マネジメントコース」「エキスパートコース」「スペシャリストコース」の三つのコースを用意。営業や技術など各事業部に設置した人事企画が人材ポートフォリオをもとに、個々人の教育を進める体制をとっています。
東京海上ホールディングス株式会社では、トップタレントの獲得やグローバル経営人材の育成を目的とした人事制度を導入しています。最適な人材ポートフォリオを実現していくために、経営陣レベルでの人材要件を明確化し、年齢や社歴に関係なく幅広い世代に向けた経営人材プログラムを作成・実施。また、グループ全体をマネジメントする部門の管理職へ能力のある人材を配置することで、スピーディーな人材育成を実現しました。
『企業価値創造を実現する 人的資本経営』(吉田 寿 著、岩本 隆 著/日本経済新聞出版)
『人的資本経営のマネジメント: 人と組織の見える化とその開示』(一守 靖 著/中央経済グループパブリッシング)
『企業価値経営』(伊藤 邦雄 著/日本経済新聞出版)
『多様化する雇用形態の人事管理―人材ポートフォリオの実証分析』(西岡 由美 著/中央経済社)
『企業価値を高める組織・人材マネジメントの思考と実践』(石田 雅彦 著/金融財政事情研究会)
上場企業に義務付けられた人的資本の情報開示について、開示までのステップや、有価証券報告書に記載すべき内容を、具体例を交えて解説します。
人的資本情報開示~有価証券報告書への記載方法を解説~│無料ダウンロード - 『日本の人事部』