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日本の人事部 人的資本経営

【ヨミ】ソシキブンカ 組織文化

「組織文化(Organizational Culture)」とは、企業の目的やビジョンを達成するために、組織やチーム内で共有されている暗黙のルールや規則、価値観のこと。組織は経営理念やビジョン・ミッションに共感・賛同し、集まった従業員(組織構成員)によって成り立っています。企業が成長し続けるためには、組織文化が浸透して従業員が自ら行動する状態をつくり上げることが求められます。

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1.組織文化とは

組織文化の定義

組織文化研究の第一人者であるエドガー・H.シャインは、自身の著書『組織文化とリーダーシップ(1989年)』の中で、組織文化を以下のように定義しています。

組織文化とは、ある特定のグループが外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習した、グループ自身によって、創られ、発見され、または、発展させられた基本的仮定のパターン――それはよく機能して有効と認められ、したがって、新しいメンバーに、そうした問題に関しての知覚、思考、感覚の正しい方法として教え込まれる。
引用:著:エドガー・H.シャイン、訳:清水紀彦、浜田幸雄『組織文化とリーダーシップ』(1989年、ダイヤモンド社)

つまり、何かしらの課題を解決した組織にとって、そのときに取った行動が「正しい方法」として認識され、組織内における仕事の進め方や振るまい、思考法などに影響をおよぼします。同時に、「正しい方法」として自然とそのような状態が染み込んでいき、組織文化として組織“らしさ”を形成していくものといえます。

組織文化を形成するための要素

シャインはまた、組織の文化は三つの段階によって形成する「3段階の文化のレベル」を提唱しています。

レベル1.文物(人工物)
:目に見える組織構造および手順(解読が困難)

企業理念やロゴ、戦略、社内行事、組織体制など、目に見えるハード要素。観察が可能な表面的なもの。

レベル2.標榜されている価値観
:戦略、目標、哲学(標榜される正当な理由)

社内コミュニケーションや組織の雰囲気、人間関係など、議論の余地があるソフト要素。レベル1の背景にあるもの。

レベル3.背後に潜む基本的仮定
:無意識の当たり前の信念、認識、思考および感情(価値観および行動の源泉)

組織の大半が「当たり前だ」と無意識に信じ、疑問がない価値観や行動、判断などに影響を与える要素。議論の必要がないもの。

組織文化は、まずレベル1から形成され、レベル2、レベル3へと発展していきます。その結果、議論をせずとも暗黙の了解でわかりあうことができる状態になります。しかし、慣例として定着した結果、組織変革を阻止したり、従業員同士の摩擦を生じたりと、保守的傾向を高めることも注意しておかなければなりません。

組織文化の種類

組織文化は、ミシガン大学のロバート・クイン、キム・キャメロンらが開発した「競合価値観フレームワーク(Competing Values Framework:CVF)」によって、四つに分類されています。

家族文化(クラン文化)

家族のような親密性や一体感、仲間意識を重要視する組織です。組織を維持するために、周囲への気遣いや気配り、調和が大事とされる傾向にあります。

官僚文化(ヒエラルキー文化)

安定制と統制の必要性を求める組織です。いかに管理・規律を守り、組織を維持するかを重視しています。

イノベーション文化(アドホクラシー文化)

高い柔軟性と革新性が特徴的な組織です。適応力や柔軟性とともに、成長のためにどのような行動をしているかを評価しています。

マーケット文化

結果や成果が重視され、市場での競争に勝つことに重きを置く組織です。利益や収益性のために競合優位性を重んじています。

自社の組織文化を可視化するには、競合価値観フレームワークを用いて、どの要素が含まれているのかを把握する必要があります。「どの分類に属するのが良いか悪いか」ではなく、「企業経営において自社はどの要素の度合いが強いか」を把握することが重要です。

2.組織文化と組織風土、社風との違い

組織文化に似ている概念として「組織風土」や「社風」が挙げられます。いずれも抽象的な概念であり、明確な違いが定義されているわけではありません。それぞれどのような意味で捉えられ、使用されているのかを整理します。

●組織文化
・組織や従業員間で共有されている暗黙の行動規範や規則、価値観
・組織内の経験、市場変化や競合状況によって柔軟に変化するもの
・意図的、計画的にデザインすることが可能

●組織風土
・組織や従業員間で共通の認識とされ定着した、独自のルールや習慣
・組織内部で自然に形成され、根付き、時代を経ても継承されていくもの
・従業員個人のモチベーションやパフォーマンスに大きく影響する

●社風
・組織内や従業員がまとう雰囲気や特徴、印象
・組織文化や組織風土をベースにして形成されていくもの

組織文化を「価値観・考え方」とすると、組織風土は「生まれ持った性格、気質」、社風は「人柄」と捉えることができます。

企業がビジョン・ミッションを目指すにあたって、組織のあり方や職務に対する考え方が違っていたり、経営理念やビジョンが十分に浸透せず形骸化していたりする場合は、現在の組織文化や組織風土を見直す必要があります。その際、「原因は組織文化からきているのか、組織風土からきているのか」を見極めなければなりません。

3.なぜ組織文化が重要なのか

PwCが世界40ヵ国以上の経営陣と従業員約3,200名を対象に実施した、「グローバル組織文化調査2021」によると、経営陣の72%が「自社の組織文化は変革実現のための取り組みを成功に導いている」と回答しています。加えて、66%が「組織文化は、経営陣のアジェンダの中で優先順位が上がっている」ことに同意しており、企業成長や目標達成のために、組織全体が意識を統一することを重視していることがわかります。

経営陣が組織文化を重視しているのはなぜなのでしょうか。株式会社チームボックス 代表取締役の中竹竜二さんは、組織文化について「その組織がなんとなく共有している価値観、雰囲気、考え方の癖」「組織が根底に持っている問い」だと説明しています。組織を構成する要素には、「成果」「サービス&プロダクト」「言動/習慣」「仕組&制度」があり、それらすべての根底にある、最も目に見えにくいものとして「組織文化」があるといいます。つまり、企業にとって一番扱いづらい一方で、要となるのが組織文化です。

かつては、売上のために能力やスキルの向上にばかり目を向けられていました。しかし近年では、モチベーションや従業員満足度、マインドフルネスのように、目に見えないものも売上や生産性の向上につながっていると考えられるようになりました。

そのため、経営者は主体的に「なぜ組織に属して、利益を追求する必要があるのか」「なぜ競合に勝たなければいけないのか」という本質を問い続け、強い組織をつくっていかなければなりません。この問いに対して、経営者が少しでもずれた感覚を持っていると、企業は思わぬ方向に転んでいく可能性があります。組織が常に正しい方向に進んでいるかどうかを捉え、少しでも道がずれたなら、組織文化の変革に取り組む。組織文化は企業経営にとって重要なものだと考えられています。

4.組織文化を形成・変革するためのプロセス

組織文化を知る

はじめに、企業理念やビジョン・ミッションについて、自社の従業員がどの程度理解し、共感しているかを把握する必要があります。その上で、組織メンバー含めて「今、組織はどのような状態なのか」「当然となっている行動規範や価値観は何か」などを問い、足りない部分があれば、企業のビジョンに沿って、どのような行動を起こせばいいのか考える。そうすることで組織の良い部分と悪い部分が可視化され、メンバー自らがどんな行動を取るべきなのかを把握できるようになります。

組織文化を変える

現状の組織文化を理解し、現状に課題を感じたら、変革を起こしていきます。変革といっても難しいことはありません。経営陣が目指すべき方向性や背景を示したら、組織メンバーたちが主体的に動けるような環境づくりを行います。

具体的な施策として、自由に会話する場を設ける、ワークショップを行う、業務報告だけの1on1を見直すなど、深い対話が生まれる環境づくりがあげられます。経営者自らが積極的に発信するなど、常に従業員が組織について考える機会を設けることも有効です。コミュニケーションが活発化されることで、信頼関係が生まれ、自然に共通言語や共通認識が醸成されていきます。

組織文化を進化させる

組織文化は変えれば終わりではありません。今後必要なのは、組織を停滞させないために進化させることです。組織に慣れてしまうと無意識のうちに変化を恐れる状態になりえます。

そこで大切なのは観測・共有です。売上や成果だけではなく、エンゲージメントなど、企業状態を常に観測して、全社に共有する。良い行動や価値観は賞賛し、全体の意識を変えていく。必要に応じて随時アップデートしながら、良い組織状態が浸透するように努めていくことが大切です。

5.組織文化の課題(デメリット)

組織文化の逆機能とは

組織文化の逆機能とは、同調意識が強いゆえに「組織の硬直化」や「思考・行動のパターン化」などの悪影響を与えてしまうこと。例えば、排他性が高くなる、変化に適応できなくなる、多様性が失われる、といった影響が考えられます。

逆機能が進んだ結果、新しい発想やイノベーションが生まれにくくなるなど、組織にとってマイナスな状態を生んでしまう可能性があります。古参メンバーからの反発や忖度(そんたく)など、組織がバラバラになってしまうことも考えられます。組織文化が強固であれば、その傾向が高くなるでしょう。

変化の激しい時代だからこそ、現状維持に留まろうとする状態に危機感を持ち、変革を恐れずに進めていく必要性があります。経営者には、組織を客観的に捉え、覚悟を持って取り組むことが求められているのです。

6.組織文化の変革企業事例

日本電気株式会社(NEC)

NECグループは、2018年度から取り組みを始めた「2020中期経営計画」において、「収益構造の改革」「成長の実現」「実行力の改革」の三つの柱を掲げました。中でも非常に重要視しているのが、「実行力の改革」です。

従業員の能力を最大限に引き出すために、「経営の結果を厳しく問う」「イノベーティブな行動や挑戦を促す」「市場の変化・複雑化にスピーディーに対応する」ことを強い意志で定めています。

同グループでは、組織文化変革「Project RISE」に取り組んでいます。社長自らが1万人もの従業員と対話を重ね、課題を集め、それを解決するための行動指標として「Code of Values」を作成しました。社員の主体性と創造性を引き出すため、根本的な組織変革を進めています。

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社

企業理念「Our Mission and Values」が、約4万人もの従業員(パートナー)に深く浸透しているスターバックス。その背景にあるのは、ミッション実現のために「企業理念に共感したパートナーとのエンゲージメントを通じて提供価値を高め、競争優位性を圧倒的なものにしたい」という考えにあります。企業理念やミッションと、個々人が大事にしている思いを重ねて生じる「共感」こそが、スターバックスで働くパートナーのエンゲージメント向上に寄与しているといいます。

同時に、日々変わり続ける世の中や価値観に対応していくために、店舗内でのコミュニケーションを活発化させると同時に、レーティングのない対話型評価を採用。「自分は仕事を通じてどのようになりたいのか」「どう成長して行きたいのか」を常に問い続け、明確にしていくことで、同社への共感を常に醸成し自発性を生み出しているのです。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車の組織文化を表す代表的なものに「トヨタウェイ」があげられます。2001年に誕生したトヨタウェイは、海外進出を行う際に、日本人が当然とする基本的な考え・行動規範を明文化したものです。その後、変わりゆく時代に対応するために「トヨタウェイ2020」が新たに制定されています。

トヨタ自動車の組織文化の基盤となっているのは、人材を財産とする考え方です。社会貢献のために付加価値を創造していくためには、人づくりこそ企業優位性であり、企業成長および社会発展につながると、現在でも大切にされている基礎となっています。

7.組織文化を学ぶためのおすすめ書籍

組織文化を深く考える際に、参考になる書籍を紹介します。

上場企業に義務付けられた人的資本の情報開示について、開示までのステップや、有価証券報告書に記載すべき内容を、具体例を交えて解説します。

人的資本情報開示~有価証券報告書への記載方法を解説~│無料ダウンロード - 『日本の人事部』

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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