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臨床心理士・関屋裕希の ポジティブに取り組む「職場のメンタルヘルス」

【第11回】セルフケアの枠を超えて――ワーク・エンゲイジメントに着目した「これからの」個人向けストレス対策

東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員

関屋 裕希

臨床心理士・関屋裕希の ポジティブに取り組む「職場のメンタルヘルス」

さまざまなストレスの影響で、多くの人がメンタルヘルス不調や仕事のパフォーマンス低下などの問題を抱えながら仕事をしています。企業における「人」「組織」の活性化を担う人事部門には、社員がイキイキと前向きに働くことのできる職場づくりが求められていますが、具体的に何をすればいいのでしょうか。企業のメンタルヘルス対策を専門とする臨床心理士・関屋裕希氏が、明日からすぐに実践できる「職場のメンタルヘルス」対策を解説します。

ワーク・エンゲイジメント高く、自律的に働くための個人向けストレス対策

今年度のストレスチェックの結果が出始めている頃かと思いますが、皆さんの会社では、COVID-19対策やテレワークなどの働き方の変化によるメンタルヘルスへの影響はいかがでしょうか。得られるサポートが減って、元気がなくなっている社員や孤独感を感じている社員はいませんか。

落ち込むようなことがあっても、チームの中で共有することが難しく、気持ちを切り替えられずに引きずってしまう。テレワークによって、仕事と生活の両立の難しさが増している。そんな話もよく耳にします。

これまでのように全員が同じ場所で働いていたときは、メンタルヘルス対策のキーパーソンは管理監督者でした。しかし、これからは働く一人ひとりが「自律して」メンタルヘルス対策に取り組めるように支援する、個人向けストレス対策がいっそう重要になっていくでしょう。

さらに、ポジティブメンタルヘルス対策の中では、もう一歩先も考えていきます。

連載の第1回で、ポジティブメンタルヘルス対策の特徴の一つとして、「不調にならない」など心身の健康を守るだけでなく、ワーク・エンゲイジメント高く働くポジティブなメンタルヘルスの状態の実現も目指すことを挙げました。

これまでの個人向けのストレス対策では、セルフケアの枠の中で、自分の不調のサインに気づいて産業医面談を受けることや、適切な治療を受けること、ストレス対処スキルを習得することに留まっていましたが、これからは、その枠を広げて考えていく必要があります。

今回は、個人向けストレス対策に、今後どのようなことを取り入れていけばよいのかを考えてみたいと思います。

ワーク・エンゲイジメントとは

ここで、ワーク・エンゲイジメントについて、簡単に紹介しておきたいと思います。

ワーク・エンゲイジメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態で、活力、熱意、没頭に特徴づけられる概念です。

具体的には、仕事に誇りややりがいを感じ(熱意)、熱心に取り組み(没頭)、仕事から活力を得ていきいきしている(活力)状態を指します。

ワーク・エンゲイジメントの高さは、心理的ストレス反応の減少や、離職や休業の減少、生産性の増加と関連があることがわかっています。これらの関連概念と比較すると、よりわかりやすいかもしれません(図1)。

図1.ワーク・エンゲイジメントと関連する概念(島津, 2015をもとに作図)

図1.ワーク・エンゲイジメントと関連する概念(島津, 2015をもとに作図)

図は縦軸が活動水準の高低、横軸が仕事への態度・認知が快か不快かという二つの軸によって、ワーク・ホリズムとバーン・アウトが位置づけられています。

ワーク・エンゲイジメントが、活動水準が高く、仕事への態度・認知が肯定的であるのに対して、バーン・アウトは活動水準が低く、仕事への態度・認知も否定的です。

また、仕事中毒などと訳されるワーク・ホリズムは、活動水準は高いものの、仕事への態度・認知は否定的です。ワーク・エンゲイジメントは仕事が楽しくて働くのに対して、ワーク・ホリズムは仕事から離れたときの罪悪感や不安の解消のために強迫的に仕事をするのです。

どこに着目して、個人向けストレス対策を進めていけばよいか

ここで、ストレス対策の基本モデルである職業性ストレスモデルに立ち戻って考えてみましょう(図2)。

ストレスの原因があると、私たちの心身の健康に影響を与えますが、その影響に関連する要因が3種類あります。一つ目は、年齢、性別、性格といった個人要因。二つ目は、家族・家庭からの欲求など仕事以外の要因。三つ目は、ストレスの影響を和らげる緩和要因とされる、周囲からのサポートです。

図2.NIOSHの職業性ストレスモデルにポジティブメンタルヘルスの要素を追加

図2.NIOSHの職業性ストレスモデルにポジティブメンタルヘルスの要素を追加

個人向けストレス対策を考えるうえで着目すべきなのは、習得することで変容可能なストレス対処スキルです。科学的根拠に基づいた個人向けストレス対策のガイドラインの中では、「個人要因」の中のストレス対処スキルに着目して、認知行動的アプローチを取り入れることが推奨されています。

それに加えて、今後、個人向けストレス対策に、どのようなトピックを取り入れるとよいのか提案していきたいと思います。

提案1.ワークライフバランスを保つための「リカバリー経験」

まずは、「仕事以外の要因」に注目します。テレワークやオンライン化といった働き方の変化により、生活空間で仕事をすることが増えて、オン・オフの切り替えが難しくなっています。オンの状態が続くことで、睡眠に影響が出て、十分な休息がとれなくなると、中長期的な影響が心配されます。

ここでは、精神的ストレスや身体的疲労を低減して、ワーク・エンゲイジメントや労働生産性を向上させる「リカバリー経験」の知見が有用です。

リカバリー経験は、仕事をしている間に消費された心理社会的資源を元の水準に回復するための就業時間外の活動を指しており、四つの種類があります(図3)。

図3.リカバリー経験の4側面

図3.リカバリー経験の4側面

リカバリー経験を就業時間外の活動に取り入れることで、休み明けに「よし!仕事するぞ!」と前向きな気持ちで出勤できる社員が増える可能性があります。

提案2.同僚同士の支援を高める「職場活性化」

次は、「緩和要因」に着目します。ストレスの影響を和らげてくれる重要な要因ですが、労働安全衛生調査によると、上司や同僚に相談できる人の割合は78%(平成30年)から74%(令和2年)と減少傾向にあり、テレワークなどの働き方の変化でサポートし合うことが難しくなっている可能性があります。

その一方で、第7回で紹介したように、職場の同僚の支援が高い労働者は、年齢や性別などの基本属性を調整したあとも心理的ストレス反応が低いという調査結果が得られており、同僚の支援の重要性は高くなっています。

会議がオンラインで行われるようになり、議題をこなすだけで、雑談や偶発的な接触の機会が失われやすい中では、戦略的に同僚同士の支援が高まるきっかけを作ることが必要になります。

個人向けストレス対策の枠を超えて、組織的な対策にもなりますが、定例の会議の後の15~30分ほどの短い時間を使って、お互いのことを知ることができるゲームを取り入れ、職場を活性化していく手法がおすすめです。

ゲームそのものではなく、お互いを知りサポートし合う関係性が醸成されることが目的なので、ゲームは単純なものでかまいません。お互いの共通点を探すゲームや、自己紹介の中に嘘を混ぜてどれが嘘か本当かを当てるゲームなどもよいでしょう。

また、困ったときにサポートを求められる「援助希求力」を研修のテーマに入れることもおすすめです。

提案3.仕事のやりがいを高める「ジョブ・クラフティング」

最後は、「ストレスの原因」と「ワーク・エンゲイジメント」に着目します。

ストレスの原因となっている状況を変容させる可能性があり、ワーク・エンゲイジメントを高める効果があるとされる「ジョブ・クラフティング」の知見が活用できます。

連載の第5回で詳しく解説していますが、与えられた仕事をただこなすのではなく、自ら工夫を加えて、誇りや働きがいを感じるために3種類のアプローチを活用します(図4)。

図4. 誇りや働きがいを感じるための3種類のアプローチ

図4. 誇りや働きがいを感じるための3種類のアプローチ

今回、提案したトピック以外にも、仕事に関連したスキルに着目したトピックを提供することで、仕事への自信が向上したり、スキル不足による仕事のストレスを軽減させたりすることができます。また、キャリアに関連したトピックを提供することで、キャリア不安によるストレスを軽減させることができます。

これらのトピックは、健康管理の部門だけで企画・実施をするよりも、人材開発部門やキャリア開発の部門と連携・協働して企画・実施するほうが、効果は上がりやすくなるでしょう。

【参考】
・平成30年および令和2年労働安全衛生調査(実態調査).厚生労働省.
・令和2年度 厚生労働行政推進調査事業費厚生労働科学特別研究事業「テレワーク等新しい働き方に対応したストレスおよびメンタルヘルス対策への提言と好事例集の作成(20CA2044)」分担研究報告書「テレワーク利用中の労働者の精神健康および仕事のパフォーマンスを予測する職場の心理社会的要因:4時点縦断調査」今村幸太郎、佐々木那津、竹野肇.
・島津明人.(2015) ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化. 日職災医誌,63:205─209.
・WRZESNIEWSKI, A. and J. E. DUTTON. (2001) Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work. Academy of Management Review, 26(2):179–201.
・Sabine Sonnentag. (2003) Recovery, Work Engagement, and Proactive Behavior: A New Look at the Interface Between Nonwork and Work. J Appl Psychol, 88(3):518-28.

関屋 裕希(東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員)
関屋 裕希
東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員

せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com


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