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誰もがイキイキと働ける職場へ
臨床心理士・関屋裕希の ポジティブに取り組む「職場のメンタルヘルス」

【第7回】テレワーク下の心理的ストレス対策の鍵!
同僚によるメンタルヘルス不調支援とは

東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員

関屋 裕希

臨床心理士・関屋裕希の ポジティブに取り組む「職場のメンタルヘルス」

さまざまなストレスの影響で、多くの人がメンタルヘルス不調や仕事のパフォーマンス低下などの問題を抱えながら仕事をしています。企業における「人」「組織」の活性化を担う人事部門には、社員がイキイキと前向きに働くことのできる職場づくりが求められていますが、具体的に何をすればいいのでしょうか。企業のメンタルヘルス対策を専門とする臨床心理士・関屋裕希氏が、明日からすぐに実践できる「職場のメンタルヘルス」対策を解説します。

ラインケア、セルフケアとあわせて大事にしたい「同僚のサポート」

さまざまな企業でメンタルヘルス研修を実施する機会がありますが、研修の後には、必ずアンケート結果に目を通すようにしています。アンケートからは、メンタルヘルスに関する現在の傾向や、今後の対策へのヒントを得ることも多いものです。

アンケートには自由記述欄を設けているのですが、どの企業にも共通して書かれるコメントがあります。いったい、どのようなものだと思いますか? 自分のことに関する相談でも、会社への要望でもなく、次のような内容です。

「最近様子がいつもと違っていて、心配な同僚がいるのですが、どう接すればよいでしょうか?」

厚生労働省の「心の健康の保持増進のための指針」に、ラインによるケア(上司によるケア)とセルフケアは含まれているのですが、同僚同士のケアは少し盲点かもしれません。ですが、職場のメンタルヘルスを考えるうえで、同僚のサポートはとても重要です。

職業性ストレスモデル(図1)によると、仕事でぶつかるさまざまなストレスは、私たちの健康に影響してストレス反応を引き起こします。その影響を和らげる緩衝要因は、「周囲からどれだけのサポートを得られているか」にあるのです。

具体的には、上司からのサポート、同僚からのサポート、家族・友人からのサポートが挙げられます。仕事で大変なときでも、同僚が「何か手伝えることある?」と声をかけてくれたり、「最近眠れている?」と心配してくれたりすれば、ストレス場面も乗り越えやすくなります。

図1.米国労働安全衛生研究所(NIOSH)のストレスモデル(Hurrell&McLaney, 1988)

図1.米国労働安全衛生研究所(NIOSH)のストレスモデル(Hurrell&McLaney, 1988)

アンケートに書かれた質問も、まさに同僚を心配する声のひとつで、「サポートしたい」という想いから書かれたのだと思います。「心配だけど、実際にどうしてあげたらいいのか分からない=具体的なアプローチ法を知りたい」という状況なのでしょう。

そこで以下では、同僚のサポートに注目したメンタルヘルス研修を紹介したいと思います。

テレワーク下で増す多方面からのアプローチの重要性

テレワークという働き方が推進・定着するにつれ、上司からは「部下を適切に管理できているかどうかわからない」という声が聞こえてきます。

テレワークをするメンバーと出社するメンバーのシフトを組んでいる職場では、部下と上司が1~2週間顔を合わせていない、ということもあるでしょう

仕事の管理だけでなく、健康管理においても「部下の不調のサインを見逃してしまうのでは?」と心配する上司の方は多くいらっしゃいます。このような問題に対処するには、上司だけでなく、職場全体で不調のサインをキャッチすることが重要です。このような状況で活きてくるのが、同僚同士ならではの視点です。

在宅勤務者のメンタルヘルス状況ついて、2020年5月、8月、11月、2021年2月と継続的に行われた調査によると、職場の同僚の支援が高い労働者は、年齢や性別などの基本属性を調整したあとも、4時点を通じて心理的ストレス反応が低いという結果が得られています。

テレワークが定着していくであろう今後の働き方を見据えると、同僚のサポートを高める対策は、テレワーク下のメンタルヘルス不調の予防策として重要性を増していくでしょう。

同僚の不調に対応するための3ステップ

ここからは、どのような構成で研修を提供するとよいかに話を移していきましょう。私の場合は、次の3ステップに関する内容を理解・習得してもらうことを研修のゴールに設定しています(図2)。

図2.同僚の不調に対応するための3ステップ

図2.同僚の不調に対応するための3ステップ

最初の「不調のサインに気づく」段階では、目に見えずわかりづらいサインではなく、外からでもわかる観察可能なサインを紹介します。

具体的には、顔色や表情、体重の増減などの「見た目」、仕事に対する自信のなさや配置転換の希望、不平不満などの「本人の訴え(どんなことを言っているか)」、ミスが増える、遅刻や早退が増えるなどの「行動」でみられるサインを挙げていきます。

テレワーク下の場合は、これまで画面オンで会議に出席していた人が、画面オフにするようになった、といった変化もサインのひとつです。このように、「いつもと違う」という点に着目します。

このほかにも、職場での代表的なメンタルヘルス疾患である、うつ病への理解を深めてもらう内容などもよいでしょう。

2段階目では、声のかけ方と、話の聴き方を取り上げます。ここでは、事例を活用しながら、参加者同士にロールプレイをしてもらうと内容を習得してもらいやすいでしょう。

多くの場合は「ちょっと様子がおかしいな」と気づいても、「どんなふうに声をかけたらよいのかわからない」「声をかけたとしても、そのあとどう対応をすればいいかわからない」ということがハードルになっているので、なるべく具体的に紹介します。

声のかけ方では、様子がおかしいと思った理由を挙げたうえで、「あなたのことが心配だから、少し話を聴かせてくれない?」と伝えるなど、実際に使えるセリフを紹介します。

話の聴き方では、相手から求められるまでは問題解決のための助言などはせず、共感的に話を聴けるように「促し」や「共感」といった積極的傾聴の基本的なスキルを練習してもらいます。

オブザーバーも含めた3人でのロールプレイを、役割を変えながら行うことで、お互いに学び合うことができ、実際の場面で「使えそう」という自信が高まります。

3段階目では、専門家へのつなぎ方を紹介します。声をかけたときと同じように、「あなたのことが心配だから」ということを伝え、「健康管理室など社内の窓口に相談してはどうか」という提案の仕方を学びます。

その際、一緒に伝えるとよい情報として、「メンタルヘルス不調は医学的な問題であり、弱さや性格の問題ではないこと」「効果的な治療法があること」「医療の専門職から助けが得られ、相談の秘密が守られること」など、相手が「相談してみよう」と思うための後押しになる情報も伝えます。

また、本人がどうしても相談に行きたがらない場合には、「心配な同僚がいる」ことを窓口に相談すれば、一緒にその後の対応を考えることができることも有用な情報です。「いざとなったら自分が相談に行けばよい」と割りきることで、心配な同僚に声をかけやすくなります。

セルフケアにも有用で、一粒で二度おいしい

この研修には、思わぬ副次的な効果があります。希望制でセルフケア研修を実施しているいくつかの企業で、この研修の実施を提案したところ、セルフケア研修よりもはるかに多くの人が参加してくれたのです。自分のためのセルフケアよりも関心が高いことを不思議に思うかもしれませんが、多くの会社で目にしてきた現象です。

先ほど紹介したように、内容としてはセルフケアにも役立つ内容なので、ある意味、一粒で二度おいしい研修とも言えます。いつも同じ人しか参加しない、対象を広げたいなど、メンタルヘルス研修の参加率や固定化に悩んでいるという企業にも、少し視点を変えた取り組みとしておすすめです。

組織的に見ても、同僚のサポートが増すことは、メンタルヘルス不調の予防に有効です。何より、「同僚を気遣い合う気持ちがあるって素敵だな」と思わせてくれる出来事でもあります。

【参考】
・Hurrell, J. J., Jr., and McLaney, M. A. (1988) Exposure to job stress - A new psychometric instrument.Scandinavian Journal of Work and Environmental Health 14 : 27― 28.

・令和2年度 厚生労働行政推進調査事業費厚生労働科学特別研究事業「テレワーク等新しい働き方に対応したストレスおよびメンタルヘルス対策への提言と好事例集の作成(20CA2044)」分担研究報告書「テレワーク利用中の労働者の精神健康および仕事のパフォーマンスを予測する職場の心理社会的要因:4時点縦断調査」今村幸太郎、佐々木那津、竹野肇.

関屋 裕希(東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員)
関屋 裕希
東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員

せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com


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