『日本企業の経営課題2021』調査結果速報【第3弾】DX(デジタルトランスフォーメーション)の取組状況や課題
DXに取り組む企業が45.3%と昨年より大幅増。大企業では6割超に推進の課題として「DX推進に関わる人材が不足」を挙げる企業が9割
一般社団法人日本能率協会(会長:中村正己、JMA)は、企業が抱える経営課題を明らかにし、これからの経営指針となるテーマや施策の方向性を探ることを目的に、1979年から、企業経営者を対象に、「当面する企業経営課題に関する調査」を実施しています。今年は2021年7~8月に実施し、517社からの回答を得ました。
今回は第3弾として、各社におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取組状況や課題について、ご報告します。なお、KAIKA研究所所長の近田による「調査結果を受けてのコメント」(本調査のまとめ)を最後に掲載しています。
■トピック
- DXに取り組む企業が45.3%と昨年より大幅に増加。大企業では6割超に取り組みの成果が出ている企業は6割。ただし、「ある程度の成果」が4割と多数
- DXで重視することは、「既存の商品・サービス・事業の付加価値向上」が91.4%と最多「抜本的な事業構造の変革」は74.4%とやや低めに
- 推進の課題として、「DX推進に関わる人材が不足」を挙げる企業が9割
「ビジョンや経営戦略、ロードマップが明確に描けていない」「事業への展開が進まない」も多数
■「2021年度(第42回)当面する企業経営課題に関する調査」概要
調査時期 :2021年7月20日~8月20日
調査対象 :JMAの法人会員ならびに評議員会社、およびサンプル抽出した全国主要企業の経営者(計5,000社)
調査方法 :郵送調査法(質問票を郵送配布し、郵送およびインターネットにより回答)
回答数・回収率:回答数517社・回答率10.3%
■調査結果
1.DXに取り組む企業が45.3%と昨年より大幅に増加。大企業では6割超に
取り組みの成果が出ている企業は6割。ただし、「ある程度の成果」が4割と多数
- 各社におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)への取組状況について尋ねたところ、全体では「既に取り組みを始めている」企業が45.3%となり、昨年の28.9%より大幅に増加していることがわかります。これまでのDXへの関心の高まりに加えて、コロナ禍によって、デジタル技術を活用したビジネスモデルへの転換が進んでいることが背景にあると思われます。
- 従業員規模別に見ると、取り組みを始めている企業が、大企業では6割超と高めになっているほか、中堅企業でも45.0%にのぼっています。中小企業では、取り組みを始めている企業は3割弱に留まるものの、「検討を進めている」「これから検討する」の合計が55.4%となり、関心の高さがうかがえます。
- 「既に取り組みを始めている」と回答した企業(N=234)に成果状況を尋ねたところ、「成果が出ている」との回答(おおいに ~ ある程度 の合計)が58.9%と、約6割となりました。ただし、「ある程度の成果」が4割と多数になっており、従業員規模に関わらず、多くの企業がDX推進の途上にあることがわかります。
2.DXで重視することは、「既存の商品・サービス・事業の付加価値向上」が91.4%と最多
「抜本的な事業構造の変革」は74.4%とやや低めに
- DXに「既に取り組みを始めている」と回答した企業(N=234)に対して、DXの取り組みで重視していることを尋ねたところ、「既存の商品・サービス・事業の付加価値向上」を重視しているとの回答(非常に ~ やや の合計)が91.4%と、最も比率が高くなりました。
- そのほか、「営業・マーケティングプロセスの効率化・高度化」が87.6%、「生産プロセスの効率化・高度化」が85.0%となっており、個別の業務領域においてもDXを進めていくことが期待されていることがわかります。
- また、「人材・組織マネジメントの効率化・高度化」も86.7%と高めになっています。このところ、HRテクノロジーやHRアナリティクスなど、人事領域におけるデジタル技術の活用が広がっていますが、そうした動向が背景にあると考えられます。
- 一方で、「抜本的な事業構造の変革」は、74.4%と、やや低めになっています。業務プロセスの効率化・高度化も重要なことですが、さまざまな社会課題や多様化する顧客ニーズに応えるための事業変革が期待されているのではないでしょうか。
3.推進の課題として、「DX推進に関わる人材が不足」を挙げる企業が9割
「ビジョンや経営戦略、ロードマップが明確に描けていない」「事業への展開が進まない」も多数
- DXに「既に取り組みを始めている」と回答した企業(N=234)に対して、DX推進の課題について尋ねたところ、「DX推進に関わる人材が不足している」との回答(おおいに ~ やや の合計)が88.5%と、約9割に達しています。このところ、スキルの再習得を意味する「リスキル」への関心が高まっていますが、各企業において、さらには、社会全体としてのDX人材の育成が大きな課題となっています。
- そのほか、「DXに対するビジョンや経営戦略、ロードマップが明確に描けていない」が66.2%、「具体的な事業への展開が進まない」が67.1%と、課題であると答えた比率が多数を占めています。DXによって、何を実現したいのか、顧客や社会に対してどのような価値を生み出していきたいのかということを前提として、DXに対するビジョンや経営戦略、具体的な事業の構想を行うことが大切であると考えます。
■調査結果を受けてのコメント(一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 所長 近田高志)
- 今回は、日本能率協会が毎年実施している「経営課題調査」の2021年度の調査結果速報の第3弾として、ますます取り組みが広がっているDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する調査結果をご紹介しています。
- まず、取組状況を見ると、「既に取り組みを始めている」企業が昨年から大きく増えているという結果のとおり、確かに、DXの取り組みは着実に広がっていることが確かめられました。
- 一方で、成果状況については、「ある程度の成果」が多数であるというのが実態です。
- そうした状況の要因として、「DX人材の不足」もありますが、それ以上に、「DXに対するビジョンや経営戦略が明確になっていない」という課題に着目する必要があります。
- 経済産業省によると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。
- 何のためにDXに取り組むのか、デジタル技術を活用することによって、顧客のニーズや社会の課題に対して、どのような価値を生み出していきたいのか。企業としての意志、目的を明らかにすることが、本来のDXを進めていくうえでの大前提となります。
- DX推進部門や担当者任せにするのではなく、自社の存在意義(パーパス)が何かを、経営層と現場の社員が一緒になって考え直すことから始めることが、遠回りかもしれませんが、DXの成果に結びつくと言えるのではないでしょうか。
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(一般社団法人日本能率協会 /9月22日発表・同法人プレスリリースより転載)