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VRによって働き方は「多チャンネル」に、人事は「価値の商社」へ進化する(後編)

稲見 昌彦さん(東京大学先端科学技術センター 身体情報分野 教授)

身体と精神が切り離された未来に、求められる人事の役割とは

現在、人事の業務は研修や評価など多岐にわたりますが、それらは今後どのように変わっていくとお考えですか。

稲見 昌彦さん(東京大学先端科学技術センター 身体情報分野 教授)

研修にも、「変身」が活用できます。たとえば、「ロールプレイ」において、「自分が上司や社長の立場に立って考えてみましょう」という課題があるとします。想像でこの課題に取り組むには、どうしても限界があるでしょう。そんな時に、変身してしまえばいいのです。

視聴覚交換マシン」という機械を、メディア・アーティストの八谷和彦さんがつくっています。お互いが見ている世界をVRゴーグルで反転させるもので、言ってみれば、映画『君の名は。』の世界です。直接話さなくても、変身によって、相手がどういう社会的状況にあり、どういう生活をしているかが分かれば、心が通じた気になる。相手の目線で体験することで、相手をより深く理解することができるのです。頭の中で想像することしかできなかったことを、リアルに体験できれば、研修は全く違ったものになるかもしれません。

評価については、社員がどのような行動をとって、どのような価値を生み出したのか、その可視化が進むことで変わっていくでしょう。PC上でのマウスの動きや、ウェアラブルデバイスを通じて、本人の行動を簡単にトラッキングできるようになります。「与えられた仕事によって、どんなことに興味を持つようになり、どういった行動を取るのか」というログを全て取れるようになる。それを見て適性を評価するのが、人事の役割になるでしょうね。

社員の行動ログが取れるようになることで、他にどのような進化が生まれますか。

労務管理も変わるでしょう。私が研究している「JINS MEME」というメガネ型のウェアラブルデバイスは、集中力を目の動きから可視化します。この機器を通じて人事が社員のパフォーマンスを把握できるようになると、働き方の新しいマネジメントが可能になります。休息の時間を増やしたり、昼寝の時間を設けたり、といったことが、結果的に社員のパフォーマンス向上につながることが分かるかもしれません。

さらに、社員の目標設定やその達成に向けてのアドバイスにも、テクノロジーを活用できるようになるでしょう。「いい上司」というのは、部下が悩みを抱えていると、その変化をくみ取り、「何かあったの? ちょっと話を聞かせて」と言ってあげられる人ですよね。しかし、中には仕事は優秀でも、メンバーのフォローは苦手な人がいます。そんなとき、機械がうまくアシストしてあげるといいですね。「そろそろ声を掛けた方がいいですよ」というように。

時代が大きく変わっていく中で、いま、人事に求められることは何でしょうか。

まずは、「価値の商社」としての自分の役割を、再定義することではないでしょうか。その上でコンピューターやAIの力を借りながら、より効率的な流通を目指す。昔は、流通とは「モノの流れ」を意味していましたが、今後は、「モチベーションの流れ」が重要な意味を持ちます。つまり、社員のモチベーションを上げて、ビジネス上のアウトプットや社会貢献につなげること。このときに初めて、社員の持っている価値が世の中に流通したことになります。人事の仕事は、「人間のモチベーションの商社」とも言い換えられるかもしれません。

工業社会の時代には、企業城下町というものがありました。企業が工場をつくり、その周りに家をつくり、学校をつくり、病院をつくった。その場所でのみ生活し、人生を全うする人も多かった。企業が人の身体と精神を拘束する時代でした。しかしVRの時代には、その拘束から外れ、身体と精神が切り離された働き方が主流になります。心をたくさん集められるところに大きな価値が生まれてくるので、企業としては、社員の心をつなぎとめられるかどうかが最も重要になる。その中心にいるのが人事であり、その人自身が持っている「信頼性」があってこそ、商社という機能を発揮できる。人事の皆さんの生き方こそが信頼を生み、多くの価値流通の起点になる時代が、すぐ目の前に来ています。

稲見 昌彦さん(東京大学先端科学技術センター 身体情報分野 教授)

▲スマートフォンで操作可能な、遠隔会議用デバイス

(取材は2017年6月6日、東京・文京区の東京大学本郷キャンパスにて)


2017/07/19稲見昌彦VR人間拡張工学

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