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組織変革を起こすリーダーシップとは
――成熟市場で成長を続けるカルビーの戦略から考える

  • 松本 晃氏(カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO)
  • 野田 稔氏(明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 教授/一般社団法人社会人材学舎 代表理事)
2015.07.03 掲載
講演写真

カルビーは2009年6月、ジョンソン・エンド・ジョンソンから転じた松本晃氏が会長兼CEOに就任。その後6期連続で増収増益を実現し、営業利益率も1%台から11%へと大きく飛躍するなど、儲かる企業へと変身を遂げた。成熟市場の菓子業界で、カルビーはなぜそれほどの変化を実現できたのか――。組織やリーダーシップ論の第一人者である明治大学大学院教授 野田稔氏と松本氏が、組織変革を起こすリーダーシップのあり方について語り合った。

プロフィール
松本 晃氏( カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEO)
松本 晃 プロフィール写真

(まつもと あきら)1947年、京都府生まれ。1972年に京都大学農学部修士課程を修了後、伊藤忠商事株式会社に入社。同社の子会社であるセンチュリーメディカル株式会社の取締役営業本部長を経て、1993年にジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル株式会社(現:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)に入社。代表取締役社長、最高顧問を歴任後、2009年6月にカルビー株式会社の代表取締役会長兼CEOに就任。以来、同社を5期連続の増収増益に導いている。現在は国立大学法人東北大学未来医工学治療開発センター客員教授、米国医療機器・IVD工業会(AMDD)顧問、京都府東京経済人会会長、地方独立行政法人長崎市立病院機構副理事長なども務める。


野田 稔氏( 明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 教授/一般社団法人社会人材学舎 代表理事)
野田 稔 プロフィール写真

(のだ みのる)一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。大学院教授として学生の指導に当る一方、大手企業の経営コンサルティング実務にも注力。2013年に社会人材学舎を設立、ミドルの能力発揮支援に取り組む。専門は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。著書に『組織論再入門』、『中堅崩壊』(ともにダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)など。


カルビー 松本 晃氏によるプレゼンテーション:
リーダーは「部下を鼓舞し、動機付けし、団結をつくる」

松本氏は、会社の中で人事という仕事が、もっとも大事でもっとも難しいと語る。「重要なのに、日本の会社は人事を大事にしません。トップマネジメントが人事を大事にしないから、会社が良くならないのです」

松本氏は、経営とはすべてのステークホルダーを喜ばせることにあり、株主など特定のステークホルダーを喜ばすことは経営とは言わないと語る。「経営の目的は二つあります。一つは世のため人のため。二つ目は儲けること。従って、経営ではしっかり稼ぐことがとても大事です。そして、経営には欠かせない三つの要素があります。一つ目はビジョンです。日本の会社にはビジョンのない会社があまりにも多い。二つ目は具体的なプラン。モノを売ろうがサービスであろうが、具体的なプランが必要です。三つ目はリーダーシップです。これがないとうまくいきません」

松本氏は2009年6月にカルビーの会長に就任し、その二日後にグループビジョンを作ったという。「顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる」というものだ。ここにはステークホルダーとして大事にしたい順番が示されている。このコミュニティとは地域社会、国、世界、地球、資源、環境すべてが含まれる。松本氏は「この通りにやっていれば、会社は必ずよくなる」と語る。

事実、カルビーは松本氏就任後の6年間、売上高の成長率は9%、営業利益の平均成長率は21%を記録。株価はピークで10.7倍ほどになった。しかし、松本氏は株価を意識して経営はしないと語る。松本氏いわく「株価はすべてのステークホルダーからの通信簿」であり、結果でしかない。

講演写真

松本氏はリーダーを「組織を率いて、継続して成果を出し、結果に対して責任を取れる人」と定義する。「経営者とは、経営をできるだけ簡単にして、決めたらこれでいくと考え伝える人。私にとってのリーダーシップとは、部下や同僚たちを鼓舞し、動機付けをし、団結をつくって、結果を出すことです」

では、強いリーダーの条件とは何か。松本氏は以下の三つを挙げた。一つ目は圧倒的な実績。二つ目はなるほどと思わせる理論、理屈。三つ目は付いて行きたいと思える人徳。このうち一つか二つあればよく、三つある人は滅多にいないと言う。では、部下や従業員がリーダーに求めることは何か。「一番目は豊かさです。お金だけでなく、社会的な豊かさや時間、いろんな意味での豊かさ。二番目はワクワクする仕事を与えること。三番目は仕事を通じての成長です」

では、リーダーとして組織をうまく運営するコツは何か。ここにも三条件があると言う。「一番目は、よくやってくれた人に心から『ありがとう』という文化をつくる。口に出して言うことは大変大事です。二番目は成果をきちんと賞賛する。カルビーでも私が入ってカルビーアワードを始めました。社員を集めてイベントを行い賞賛しています。三番目は活躍に見合う給与を払うこと。この三つをバランスよく行えば、組織はうまくいくと思います」

松本氏は最後に、夢を持つことの大切さについて語った。「吉田松陰は『夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし』と言っています。カルビーは昨年度2222億円の売上でしたが、私はこの会社を2020年までに売上1兆円の企業にしたい。カルビーは社員全員が夢を持って仕事をしています」

明治大学大学院 野田稔氏によるプレゼンテーション:
今求められる「個の力」を最大化するリーダーシップ

野田氏は、変革期に求められるリーダーが行うべきことについて、以下のように語った。「最初に必要なのは、将来に関する〈夢のある大きな絵〉をビジョンとして示すこと。変革の方向性を示す上で、最も重要です。二つ目は、環境変化の動向をかぎ分け、変化の意味づけや理由を示すこと。これが正当性を示すことになります」

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そして変革期には人や情報の動きに敏感になり、人脈を持つことが大事になる。「自分についてくる社員のケアリングと育成」「一連のプロセスで起きる社員の感情の問題に敏感であること」「ビジョン実現に必要な情報や資源を入手できる、人的ネットワークを持つこと」も条件だ。「加えて、厳しさも必要です。『ビジョンの実現に資するような具体的な活動に、社員が挑戦することを促す』『ビジョン実現のプロセスでは、厳しさをみせる』ことも大切です」

野田氏は、このようなリーダー、経営者の一連の動きを右腕として助ける存在が人事だと語る。企業における人事の役割はそもそも三つある。「一つ目は、同じ人件費を使いながら最大限のやる気を社員から引き出せるような制度、仕組み、文化、組織をつくり、現場での運営を支援すること。モチベーションを科学し、それを仕組みに落とすのです。ただし、執行するのは現場なので、人事はそれをしっかりサポートする役割であると認識しなくてはなりません」

二つ目は、企業の戦略に合わせ、その戦略を遂行するにふさわしい能力、スキル、マインドセットを持った人を採用し、必要なときに必要な人数を、当該現場に投入すること。野田氏は、「必要なときに」というタイムラグがポイントだと語る。「お金というものには自分の意志がはありません。だから入手した時点ですぐに役に立ちます。しかし、人は雇ったその日から能力が全開であることは滅多にありません。このタイムラグを考慮すると、人事ほど先見性を持たなくてはいけない部署はありません」

三つ目は、上記を実現するために人材資源管理の立場から、経営者に対して企業戦略の立案実行に資するアドバイスをしていくことだ。ここまでできて成果が出せる、と野田氏は語る。

大きく分けると人事には、人を採用して配置する「戦略系のハードアプローチ」と、動機付けや育成などもっぱら個人に関わる「人・組織系のソフトアプローチ」が求められる。変革のリーダーが組織を変えるときに行うべきことであり、これらをバランスよく行える人は少ない。

「今は第3次の組織開発ブームと言われます。70年代の第1次はST(感受性訓練)やQCサークルなどで現場の処理能力を上げようとした。80年代からの第2次はCI活動や意識改革。3次ブームでスポットが当たっているのは、個の力を最大限に発揮させることではないかと思います。キャリア自律やダイバーシティ、外国人の活用、シニア人材の再活用といった動きもその一部。その中で私は『キャリアとは仕事を通じて志を実現する成長のプロセス』と定義しています。そこに個の成長と、企業の発展と社会の反映、この三つをどのように調和させるか。それが今、人事に求められていると思います」

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ディスカッション:
「正しいこと」をすれば社員は必ず付いてくる

野田 松本さんは、カルビーで最初に何を行われたのでしょうか。

松本 就任してすぐに、50名ほど幹部社員を集めて、カルビー60年の棚卸しをしました。1チーム7~8名に分けて、やるべきことと止めることを仕分けたんです。カルビーが創業してから60年目の棚卸しです。まずは「60年間で良かったこと」を聞きました。すると、ヒット商品のことや北海道で契約農家を作ったことなど、たくさん出てくるわけです。もちろん、これらは続けていきます。次に「良いことだけど、できていないことは何か」と聞いたところ、これもたくさん出てきます。そして三つ目に「こんなことは早く止めたほうがいいと思うことはないか」と聞きました。すると、これもたくさんあるんですね。

二日間かけて仕分けを行ったんですが、最後に私は「止めようという話が出た中で、いくつかのことを今日から止めます」と言いました。ビジネスは何でも「こんなことをやろう」と話すことから始まりますが、私は止めることから決めなさいと言ったんです。止めることから始めれば、時間も節約できます。そこから新しいことを始めればいい。この仕分けは毎年1回、今でも行っています。良い文化は残す、悪い文化や使えなくなった文化は止めるか変える……。こんな簡単なことは、本来なら誰でもやれることですね。

野田 最近、アプリシエイティブ・インクワイアリーという組織開発手法が注目されていますが、これも個人の価値や強み、組織全体の真価を認めるポジティブ・アプローチから始めます。良いことを認めた上で、しっかり振り返りを行うということですね。その上で止めることにも目を向ける。では、具体的にどんなことを止められたのですか。

松本 最初に止めたのは、意味のないデータ管理です。間違ってはいないんですが、今はいくらでもデータが取れてしまう。しかし、あれだけのデータは私が見てもわかりません。それで、飛行機のコックピットではなく、車のダッシュボードのデータで十分ということに変えたんです。経営というのは、毎月そんなにデータを見られるものではないんです。限られたデータからどんな仮説を立てられるか、そこからどんなアクションを起こすかのほうが重要ですから。

社員にも言うのですが、オフィスにずっといても何も見えません。しかし現場に行けば、いろいろなことがわかる。いま当社では、ドライフルーツ入りのシリアル「フルグラ」が爆発的に売れていますが、もともと1991年に開発された商品です。これまでなぜ売れなかったのか。それは現場に行けばわかります。スーパーではお米の横に置かれていて、売れるところに置かれていなかった。それで、牛乳やパンの近くに置いてもらうようにしたら、売れたんです。こういうことは、オフィスにいてもわかりません。オフィスは世界中でもっとも快適な場所ですが、最も危険な場所でもあります。そこにいてはいけないんです。人事の方だってそうですよ。

野田 「改革していこう」とおっしゃったときの社員の反応はどうでしたか。

松本 これは実に簡単なことですが、正しいことには社員も必ずついてくるものです。会社のルールやしきたりには、正しいものもそうでないものもあります。ここでは正しいかどうかが問題なんですね。ただし、その中でも受け入れられるまでに時間がかかることはあります。その一つはダイバーシティです。これは正しいに決まっていますが、突然言いだしてもどんなものかわからない。言葉の意味を社員に理解させることから始まります。そこから徐々に賛同者が増えてくれば、実行に移れるわけです。そのようなステップが必要ですね。

野田 私も理解、納得、共感の3ステップがあると思います。これを進めることがリーダーの役割ですね。最後に、私から人事の方に一つお願いがあります。社員に効率的で価値が出る働かせ方をしてほしい、ということです。そのために人事の皆さんには、モチベーションを高めるような仕組みをぜひ考えてほしいと思っています。今日はありがとうございました。

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