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イノベーションを生み出す組織と人のつくり方

  • 北城 恪太郎氏(日本アイ・ビー・エム株式会社 相談役 国際基督教大学理事長)
  • 米倉 誠一郎氏(一橋大学 イノベーション研究センター 教授)
2015.06.23 掲載
日本経済新聞社講演写真

ビジネスにおいて「イノベーション」という言葉はよく聞かれるが、実際のビジネスの現場ではどのように捉えられ、組織はそれにどう対応しているのだろうか。日本アイ・ビー・エムの元トップであり、近年は教育分野でも活躍されている北城恪太郎氏と、イノベーション研究の第一人者である、一橋大学の米倉誠一郎教授が、イノベーションを生み出す組織と人の作り方についてディスカッションを行った。
(協賛/日本経済新聞社)

プロフィール
北城 恪太郎氏( 日本アイ・ビー・エム株式会社 相談役 国際基督教大学理事長)
北城 恪太郎 プロフィール写真

(きたしろ かくたろう)1967年、日本アイ・ビー・エムに入社。同社社長、会長、IBMアジア・パシフィック代表者などを歴任し現職。2003年から4年間、経済同友会代表幹事。社会が求める人材像について、経営者自身が若者へ積極的に伝えていくべきだと説く。自ら多くの学校に赴くなど講演活動を続ける。


米倉 誠一郎氏( 一橋大学 イノベーション研究センター 教授)
米倉 誠一郎 プロフィール写真

(よねくら せいいちろう)1981年、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了後、ハーバード大学にてPh.D.(歴史学)を取得。1997 年より一橋大学イノベーション研究センター教授。1999年~2001年、2008年~2012年3月同センター長。2012年3月よりプレトリア大学ビジネススクール (GIBS) 日本研究センター所長を兼務。イノベーションを中心とした経営戦略と組織の史的研究を主たる研究領域としている。


北城氏によるプレゼンテーション:
イノベーション人材を探すには「成果主義と多様性」が必要

北城氏は、イノベーションを生む組織に必要な要素をいくつか上げた。まずはトップの意識だ。「イノベーションを起こすことが大切、という価値観を持っていないトップがいる組織にイノベーションは起きません。人事や製品開発の方がいくら考えても、トップが『新しいことに挑戦し、それを会社の中心に据えるんだ』というメッセージを会社の中で出し続けなければいけない。そういうことをトップに言わせるのも、人事の仕事だと思います」

人材の採用・育成・評価・登用においては、「イノベーションを起こす人材」を採用することが重要だと北城氏は語る。例えば、大学でいい成績を取った人は、問題を解く能力が高いが、それだけではなく、自ら課題を考え挑戦し、失敗してもやり遂げる能力を持った人を採用しなければならない。

また、多様性のある組織、人材の配置、議論を重視すべきだと言う。「イノベーションを起こすには多様な人が必要です。自分たちの価値観だけで考えてもいいアイデアは出ません。自分たちとは異なる経験を持つ人、外国人や女性、若い人やシニアなど、価値観や経験が異なる人たちが議論する中で、革新のタネが出てきます。議論できる環境をつくっておくことが重要です」

次の要素は、迅速な意思決定と経営管理システムだ。いくら新しいアイデアが出ても、やってみないことには成功しない。まず決めて行動し、ダメならまた違うことに挑戦する。意思決定が早くできない組織ではイノベーションは生まれない。

要素はまだある。権限の委譲とインテグリティ(真摯さ)だ。「責任をチームなどに持たせてやらせてみないと、うまくいきません。小さい組織で、自分たちで責任を持って仕事をさせると創意工夫をします。一方で、権限委譲で不正が起きてもいけません。業績を上げるためにおかしなことをされると、会社の信用に関わるので、委譲はしつつ管理する必要があります。権限委譲と放任とは違うのです」

中でも北城氏は、人材の登用について、若い人にチャンスを与えることが大事だと語る。上ばかりが挑戦しているようでは、誰も挑戦しなくなってしまうからだ。「イノベーションに挑戦して成果を出した人は、高く評価し、登用するべきです。イノベーションに挑戦し、失敗した人には次の機会を与える。イノベーションに挑戦しなかったが成果を出した人は、給与・賞与に反映するが、登用はしない。また、運も実力のうちです。上に行く人には運があると思います」

講演写真

北城氏はイノベーション人材を探すには、成果主義と多様性が重要だと語る。いろいろな人が活躍できる場をつくることがイノベーションにつながる。そして人事の役目は、人材を見つけるのではなく、人材が見つかる仕組みをつくること。若いうちから挑戦させ、うまくいったかどうかを見ながら次のチャンスを与える。そのような仕組みづくりが求められるという。

最後に北城氏は、成果を上げる組織が持つ要素について語った。「ともかく“明るい組織”をつくり、“楽しく”“前向きに”仕事をすること。イノベーションが起こる組織も同じだと思います。この頭文字は「あ・た・ま」になるのですが、私はこれだけを言い続けていたら、昇進は遅かったのに社長になれました。今でも、人々が生き生きと働く職場こそが成果を上げるのだと確信しています」

米倉氏によるプレゼンテーション:
米国が成功した理由は「投資を数打つゲームに育てたから」

米倉氏は「イノベーションを生み出すには、まずはイノベーションとは何かを理解しなければならない」と語る。ここでアバナシー=クラークによるイノベーション分類が紹介された。縦軸を既存市場、横軸を既存技術にとって、そこで「破壊的であるか、保守的であるか」の度合いで4領域に分類している。技術面が破壊的で、市場も破壊的な領域は「構築的革新(アーキテクチャ)」。技術面が破壊的で、市場は保守的な領域は「革命的革新」。技術面は保守的で、市場は破壊的な領域は「ニッチ創造」。技術面は保守的で、市場も保守的な領域は「通常的革新」だ。「僕が好きなのは〈通常的革新〉です。これまでイノベーションとはイレギュラーなものと教わってきましたので、この考えには驚きました。80年代には、技術と市場を深耕するこの領域が、日本企業が強い部分であると言われていました」

イノベーションが類型化できるのなら、イノベーションを行った人も類型化できる。米倉氏はいくつかその例を上げた。「構築的革新を行った一人はヘンリー・フォードです。馬車の延長だったクルマを、自転車を2台横に並べたような、単純な互換性の部品でつくり上げた。それまで一般大衆が乗るなんて考えもしなかったものを一般に広めた。だからフォードは自動車の時代をつくった人なのです。もう一つの例はアップルのジョブズとウォズニアックです。彼らが『すべての家にコンピュータを』と言ったとき、我々は信じられませんでした。しかし、今では一人ひとりが持つ時代になりました。革命的革新の例にはジェットエンジン、CDがあります。ニッチ創造の代表はウォークマンですね。すでにあった技術から、歩きながら聞くという市場を作った。通常的革新では、すべてのものがより小さくより安く、と追求されていきました」

米倉氏は、イノベーションを生み出す前に、自社に必要なものは技術なのか市場なのか、何が必要かを考えるべきだと語る。ソニーもホンダも、技術者と実業家がチームとなっていた。イノベーションも一人でやる必要はなく、チームで、という考え方もある。個別に人を採っていくことも可能だ。

講演写真

ここで米倉氏は、イノベーションにおいて信じていないことを二つ挙げる。「イノベーションにとって社内ベンチャーは有用」「イノベーションには目利きの存在が必要」ということだ。「ともにあり得ないと思っています。社内ベンチャーはぬるくて甘い。だから成功例はあまり聞きません。いくら目利きといっても、幼稚園児の将来を予測することは不可能ですが、ある方向に育てていくことはできますよね。ベンチャーキャピタリストも同様に、ベンチャーを外から育てるのではなく、本来は内側の助手席に一緒に座る。今すごく大きくなったビジネスも、目利きがいたから伸びたのではなく、一緒に育てる人がいたからこそ大きくなれたのです」

そして米倉氏が信じることは「大企業からは構築的革新や破壊的イノベーションは生まれない」ということ。大企業にはそれより、高い利益率を追求してほしいと語る。その流れで大企業が「やらないこと」を決めていくと、良い人材が外に出てイノベーションにも好影響をもたらすことになる。

次に米国のシリコンバレー・モデルが紹介された。ここでイノベーションが起きた理由は何か。米倉氏は、投資において「数を打つゲーム」に育てたことが大きいと語る。「イノベーションで成功する方法は何か。それはとにかくやってみることです。たとえば、人はなぜ宝くじを買うのか。これはエントリーリスクを低くして、ハイ・リターンを設定している。「誰でも買えて、賞金が高額」、すなわちロー・エントリーリスクでハイ・リターン。

米国では、この仕組みを大規模に整え、投資が進む支援が行われた。その一つは、1980年に実行された年金改革。これによって。年金基金の5%がリスク資金としてベンチャーキャピタルに回された。ベンチャーキャピタルは銀行融資と違って投資ですから、アントレプレナーにとってはロー・リスク・マネーです。二つ目はハイ・リターンの実現。ナスダックを整備し透明性が高く上場しやすいマーケットを創り、ハイ・リターンを現実のものとした。これによって、「ローリスクでハイ・リターン」という「数を打つゲーム」が完成したのです。そして、重要なのが三つ目の「失敗した人を笑わない」ことです。数を打つゲームですから当然失敗の方が多くなる。それをいちいち笑っていたら、優秀な参加者がいなくなる。このように、ベンチャーの投資と新しい起業を当たり前としたことが多くの優良企業を生む結果になったのです。

ディスカッション:
イノベーションを目指さないと、大きな収益は得られない

米倉 先ほどのお話にもありましたが、なぜイノベーションにトップが関わるべきなのでしょうか。

北城 イノベーションが起こらなければ、大きな収益にはなりません。だからトップは、新しいことに挑戦しなければならない。大企業からすれば、ベンチャー企業で面白いところを買収したり提携したりして、事業を伸ばすことが大事になると思います。

米倉 台湾でベンチャーを応援するのは3Fと言われます。「ファミリー」「フレンド」「フーリッシュ」。とにかく周りからお金を集めるという根性が必要なんですね。日本の学生を見ていると、このような気持ちが足りない気がしますね。

北城 日本でベンチャー企業はなかなか成功していませんね。そこで私は、経営者や大学教授のOBを社外取締役に置くことを勧めています。彼らの信用で販路が開けたり、情報が手に入ったりするからです。また、上場だけでなく大企業に買収され、その一部となって世界に打って出ることも良い方法です。大企業が企業買収を常時考えるようになれば、ベンチャーと大企業が両輪となって、イノベーションが生まれていくのではないかと思います。

米倉 企業が人材の多様性をつぶしてしまうケースもありますが、原因は何だと思われますか。

北城 それは人事ではなくて社長が原因ですね。多様な人材が必要とトップが理解しなければ多様性は生まれません。そのようにトップを説得するのも、人事の役目だと思います。

講演写真

米倉 イノベーションを生むには、成果主義が大事だというお考えですね。

北城 大事ですが、どのように導入するかをよく考えたほうがいい。部門目標でも低い目標ではダメで、高い目標を立てないと会社は成長しません。たとえば、思いがけない創意工夫で達成したときは「A」評価でもいいですが、それ以外は「B」というくらいの厳しさが必要だと思います。また、人に関しては単に数値で目標を決めるのではなく、その人をよく見るべきです。そもそも客観性や透明性のある人事というものはあり得ません。それよりも、本人の納得性が大事です。人事は制度をつくりますが、評価するのは上司。上司がよく本人を見て、本人が納得できるように評価すべきです。人の好き嫌いが影響すると言う人もいますが、長い期間行われれば人はきちんと査定されます。私は36歳で管理職になるまでずっと下積みでしたが、そこから昇進が速くて、社長になったときは取締役で一番年下の48歳でした。評価には過去を引きづらないダイナミズムさえあれば、いいと思います。

米倉 最後に、イノベーションを誘発するために、人事がつくるべき仕組みとは何か、お聞かせください。

北城 新しいことに挑戦して成果を上げた人を評価する仕組みを、作ることです。人事はあくまでも評価の仕組みを作る立場に徹する。そして、組織としては社員に問題意識を持たせるようにする。常に考えて議論する文化をつくることが、人事の役目だと思います。

本講演企業

日経TESTは、経済情報を仕事に活かす能力を測るテストです。日経が取材、報道する最新ニュースなどグローバルに動く「生きた経済」を題材にしています。ビジネスに必要な「知識」を問うだけでなく、社員の「考える力」を伸ばすための物差しにもなります。2014年受験法人数はのべ500社と、昇進・昇格試験や社員研修に広く採用されています。

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