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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2015-春-」講演レポート・動画 >  特別講演 [OSB-1] グローバル企業の「赴任前研修」最前線

グローバル企業の「赴任前研修」最前線

  • 日高 達生氏(株式会社リンクグローバルソリューション 執行役)
2015.06.29 掲載
株式会社リンクグローバルソリューション講演写真

最近は日系のグローバル企業において、赴任前研修を見直す動きが加速している。その背景にあるのは、赴任者に求められるスペックの高まりだ。リンクグローバルソリューションはこれまで30年近くのグローバル人材育成のキャリアがあり、毎年200社近くの赴任前研修を担当した実績を誇る。これらの経験から得られた、現状におけるベストな赴任前研修のあり方とは何か。昨今の赴任前教育の背景やトレンドについて、執行役の日高氏が語った。

プロフィール
日高 達生氏( 株式会社リンクグローバルソリューション 執行役)
日高 達生 プロフィール写真

(ひだか たつお)2003年 筑波大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションに入社
2005年 スポーツ事業立上げ
2006年より、大手企業に対する育成・組織風土変革プロジェクトを担当
2012年より、リンクグローバルソリューション出向


日本人駐在員には「四つの環境変化」が起きている

リンクグローバルソリューションは、国際ビジネスに必要な異文化コミュニケーション研修を提供し、これまで30年近く、毎年200社近くの赴任前研修を担当してきた実績を持つ。加えて、多様なバックグラウンドの専門家がM&Aにより結集しており、日本企業のグローバル化に向けたソリューションを異文化コミュニケーションをベースとした「人材開発(異文化適応能力・語学力・ビジネススキルの向上)」「組織開発(理念浸透や風土変革、外国人採用・受入れ)」の両面でサポートするコンサルティング集団として活動している。

日高氏は、現在の日本人駐在員の環境に変化が起きていると語る。その背景には、四つの要因があると言う。一つ目は海外拠点における役割拡大だ。「海外拠点の位置づけは、これまで〈製造〉が多かったのですが、最近では『営業・マーケティング・開発』も増えてきています。製造では伝達・指導(Teaching)というコミュニケーションでよかったのですが、営業・マーケティング・開発では対話や共創(Co-Creating)といった難易度の高いコミュニケーションが求められるようになっています」

ただ情報を伝えるのではなく、相手の意図を汲んで情報を引き出したり、交渉して得たいものを得たりするなど、業務の複雑性が増し、コミュニケーションの難易度が上がっている。
二つ目は「海外M&Aの増加」である。現地法人における日本人駐在員は、日本本社と現地スタッフの間に立つ「結節人材」としての役割を担うことになる。具体的には、日本本社の戦略・理念を伝えたり、現地法人(子会社)の状況を把握して日本本社に提案したり、最適な統合を図りながらシナジーを創出することが求められる。近年はグループガバナンスの観点からも、結節点を強化する必要性は高まってきていると言える。

三つ目の背景としては、「現地スタッフの台頭」が上げられる。現地法人におけるスタッフの現地化が促進されたことで、現地シニアスタッフは大いに成長してきている。そこで、その上に立つ日本人上司には、自分たち以上に優秀であることへの期待が寄せられる状況になっている。一方、日本人駐在員は若年層化している。実際に現地のスタッフに話を聞くと、「日本人上司が積極的に話しかけて来ない」「現地の商習慣や文化、風俗習慣を学んでくれない」「何をしに赴任しに来たのかよく分からない」といった不満が聞かれている。

最後は海外におけるトラブル増加である。日高氏は、ここ2、3年で現地法人でのトラブルが急増している点についても語った。「たとえば、品質不良によるクレームといったトラブルが増えています。原因を探ると、組織内のコミュニケーションやマネジメントの問題が多い。この場合、言語や文化の壁がネックとなり、日本人駐在員が現地の状況を把握しきれていないということが多い。日本人駐在員の知識。経験不足がダイレクトに事業の足枷になってしまっている。このような反響変化を受けて、これまで駐在員への期待は『現地に行ってから学べ』ということでしたが、それでは成果が出しづらくなっている。今では『最大限の準備をしてから、即戦力として赴任せよ』に変わりつつあります」

また、上記に伴う問題として育成制度の耐用年数切れだがある。数十年前からの育成施策がルーチンで運用されており、必要な量と質の海外要員が輩出されなくなっている。育成施策への投資対効果が検証されておらず、制度疲労を起こしている企業も多い。

講演写真

「これが当社のやり方」と納得するコミュニケーションが必要

帰国したビジネスパーソンへのアンケート調査によれば、海外拠点で活躍するには三つの要素が必要という結果が出ている。それは「マインドセット」「マネジメント」「地域に依存するエリア情報」だ。「マインドセット」とは、そもそも何のために海外にいくのかを自覚することだが、実際は上司からの内示も不十分で、人事からも説明されていないケースは多い。それで、海外の現地の優秀なスタッフに「何しに来た」と言われることになる。

「マネジメントとは理念なども踏まえた異文化コミュニケーションのことで、現地で『うちの会社はこうするんだ』ときちんと伝えないと、〈日本VS現地国〉といった対立概念を乗り越えられないと、現地スタッフをうまく巻き込めません。言い方も『日本ではこうだ』ではダメで、『これが当社のやり方だ』というと聞いてくれる。このように現地スタッフに、企業理念や組織としてのマネジメントの仕方を十分にインプットする必要があります。他では、英文で財務諸表が読めないと苦労するとも言われています。数字がすぐに読み取れないと即座にフィードバックできないために、対応が後手に回ってしまうのです」

「エリア情報」は、最初に赴任するエリアでは現地のルールや作法を学ぶ必要があるということだ。それを知らないと信頼を失ったり恥ずかしい思いをすることになる。
実はこの3点をマスターすることは非常に難易度が高い。そもそも駐在員は国内で実績のある人が海外に赴任するわけであり、国内でいえば「転勤と昇格」が同時に起きているようなもの。これだけ難易度の高い異動を求めるのだから、人事にはそれらを十分にサポートできる施策を準備することが求められる。

育成は「早期化・長期化」へ。意識改革が一つのカギ

それでは、最近の海外要員育成のトレンドとはどのようなものなのか。日高氏は三つのトレンドを示した。その一つ目は「人材育成の早期化・長期化」だ。海外赴任者への期待の高度化に伴い、赴任前研修だけでは準備が間に合わない状況になっている。そこで赴任直前に人材を育成するのではなく、もっと早めに始めて、時間をかけて行うということだ。

「人材育成の期間は〈点〉から〈線〉へと、早期化・長期化する傾向にあり、国内の階層別研修に赴任前研修で学ぶ要素のうち、いくつかを前倒しして組み込むような動きも見えています。最近では、ただ語学を学ぶ学習ではなく、インターンシップといった形で仕事の成果を出す活動の中で語学外国語を使う、学ぶという研修も増えてきました」

二つ目のトレンドは「赴任前研修の再整理」だ。これまでは語学学校など外部に発注されていた研修が、ここ2年ほどで急激に体系やコンテンツ内容の見直しが進んでいる。赴任前研修の歴史は、昔は語学に傾倒していたが、そこから異文化コミュニケーションへと一度シフトし、ここ5年ほどはまた語学が注目されている。

「中には異文化コミュニケーションは、赴任直前でなく新人研修の時代に学ばせるといった会社も増えています。各社ではダイバーシティというテーマで、性別・世代・部門・国籍など、自分と違う価値観の人たちといかにうまく仕事を行うかといったことを学ばせる動きがあります。いろんな具体的なシーンを設定して、その中で学んでいくのです」

語学研修に関しても「週1回程度の学びでマスターできるのか」といった声が出ている。中には新入社員研修の中で2、3日英語漬けにするという企業もあるが、英語への苦手意識が残ったままではなかなか成果は出ない。そのため、英語に対するマインドセットが議論されるようになった。

「最近は、エクセルを使うように英語を使おう、と啓蒙し始める流れが出てきています。エクセルで関数を完璧にマスターしていなくても目的に合わせて都合よく使うように、英語を一つのツールと捉えて、フランクに使いこなす姿勢を学ぶのです。若いうちに、英語への意識のスイッチを切換えておくことが重要です」

講演写真

海外のリアルな情報を得て、そこから逆算し研修を設計

三つ目のトレンドは「実効性を高めるアレンジ」だ。人事部門からは、「より現場に即したアレンジを加えたいが、そのための情報がない」と相談されることが増えている。そこに、外国人を相手どったリアルなロールプレイングを持ち込むといったリクエストも増えている。また、「自社の現地法人で実際に起きたことを題材に勉強したい」という声も増えてきている。
「私たちの会社でも、スカイプや電話ミーティングで現地法人にインタビューを行い、『現地で日本人とどんなトラブルがあるのか』をヒアリングするケースが増えています。それをケーススタディとして、研修の最後の演習問題として使っています。ただ知識を付けるだけでなく、『きちんと使えるようになるための訓練』を行うことに研修の目的が移ってきています」
語学面の相談では、単純にレッスンしているだけでは成果が上がらないという悩みが多い。言葉を学ぶ目的での参加だと、インプットベースの姿勢になってしまい、使い方まで覚えられ体得できない。それをいかに乗り越えるのか。

「たとえば、『新商品を日本で広めるにはどうしたらいいか』といったお題を出して、それについて普通に海外の方とディスカッションしながら英語をツールとして自分のものにするという研修(というより訓練)を提供させていただいたことがあります。ビジネスパフォーマンスを目的に会話するようにしたら、非常に学習効果が高まりました」

このように、赴任前研修は赴任者の役割の拡大、多様化にともなって、新たな人材開発テーマが浮上している。そのトレンドとしては、着任後に早期の成果創出を目指したコンテンツにシフトしつつある。その中では、実際のシチュエーションと問題を想定したコミュニケーショントレーニングと、外国人によるダイレクトフィードバックが活用されている。

「日本本社の人事部門は、海外のリアルな情報を得づらいため、それが赴任前研修を設計する難しさにつながっているように思います。私たちが人事の方と、研修設計を行う上では、できる限り現場のリアリティーある情報を得た上で、そこから逆算して設計を行っています」

できるだけ実利的な研修設計を行うには、人事部門や人事担当者自身が海外の現場を知り、本社のグローバル化の当事者となることが必要であると、日高氏は講演を締め括った。

本講演企業

20年以上にわたり、日本大手企業の海外進出をサポートしてきた、グローバル人材育成の専門機関です。バイリンガル講師による「異文化コミュニケーション研修」と 赴任経験者や各領域の専門家による「海外駐在員 赴任前研修」を得意としています。

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20年以上にわたり、日本大手企業の海外進出をサポートしてきた、グローバル人材育成の専門機関です。バイリンガル講師による「異文化コミュニケーション研修」と 赴任経験者や各領域の専門家による「海外駐在員 赴任前研修」を得意としています。

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