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タレントマネジメントシステムは必要?失敗事例に学ぶ人事に必要なシステム構築の鍵

  • 大島 由起子氏(インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長)
2015.06.23 掲載
インフォテクノスコンサルティング 株式会社講演写真

タレントマネジメントシステムの導入を検討する企業が増えるなか、今年に入って「導入したがうまく活用できていない」という声を聞くようになった。これから導入を検討している企業は、失敗をしないために、どういった点に注意すればいいのか。2003年にRosic人材マネジメントシステムをリリースして以来、日本企業の人材マネジメントを、システムという面から支援してきたインフォテクノスコンサルティングの大島氏が、12年を超える導入支援経験を元に、システム導入に失敗しないための知識や、成功するためのポイント、そして他社での成功事例を語った。

プロフィール
大島 由起子氏( インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長)
大島 由起子 プロフィール写真

(おおしま ゆきこ)早稲田大学大学院・モナッシュ大学大学院修了。リクルートにて採用担当、経営企画室を経て、編集者として独立。その後Hewlett-Packard Australiaでアジア地域の契約業務に携わる。2004年よりITCに参加。人材マネジメントシステムの企画・販売に携わり、人事におけるIT活用を推進する。


パッケージが提供するベストプラクティスが、
どこまで戦略を支援できるのか

「タレントマネジメントシステム」が日本で本格的に導入されるようになったのは、2011年頃からである。それから4年が経って、「実際に導入に失敗した企業が出てきている」と、大島氏は指摘する。なぜ、そのような失敗が起こってしまうのか。

「『現行の人事情報システムを十分に活用できていますか?』と聞かれて、諸手を上げて、『手作業などほとんどなく、活用できています』と言い切れる企業は少ないのではないでしょうか。日々人事の方々にお会いしていますが、『データは入っているけれど、思うように出力できない。そのためExcelでの作業を大量に行っている』『そもそも必要なデータをすべて登録することができないので、共有フォルダにExcelファイルを置いて管理している』といった声を、本当によくお聞ききします。では、なぜ、このような状況が起きてしまっているのか。この構造をきちっと理解していなければ、タレントマネジメントシステムの導入に失敗してしまうと思います」

その構造とは、パッケージシステムと「戦略」の関係だという。「多くの企業が導入している人事情報システムは『パッケージ製品』でしょう。『パッケージ製品』の本質は、『ベストプラクティス』の集合体です。多くの企業に当てはまる最大公約数と言えるでしょう。一方、経営層や現場に情報を提供する、制度設計のためにデータを扱うといったことは、企業の戦略に関わることです。「戦略」というのは、必ず各企業の『独自性』を伴いますし、市場の変化に合わせて『変化』していくものです。つまり、ベストプラクティスの集合体である『パッケージ製品』と、独自性と変化が前提の『戦略』は、本質的には相性が悪いということを理解しておくことが重要です。多くの企業で、人事情報システムが使いきれないと感じているのは、この『戦略』に関わることに使おうとしていた時なのです。では、これからシステムで支援しようとしている『タレントマネジメント』は、どうでしょうか?各社の人材を各社のミッションとビジネスモデルの中で活用していくのですから、明らかに戦略の分野の話です。しかも、自社のタレントマネジメントの運用が100%確定しているという状況の日本企業は、まだまだ少ない。そんなエリアを、ベストプラクティスの集合体であるパッケージソリューションでサポートしようとしているのだ、ということを自覚してください。『タレントマネジメントシステム』を導入すれば、今まで人事情報システムでは上手できなかったことが、何の問題もなく夢のように実現すると考えているとしたら、痛い目にあってしまいます」

もちろん、「タレントマネジメントシステム」というパッケージ製品が、まったく使えないといっているわけではない。ユーザーとして、こうした本質的な構造を理解したうえで、製品の特徴をつかみ、賢くパッケージ製品を選定、導入、運用することが重要だということだ。

システムの名称に囚われて、本質を見失わないこと

そもそも、少なくない投資をしてまで「タレントマネジメントシステム」を導入する最大の理由は、人事がビジネスに貢献するためのはずである。人事のビジネス貢献とは、ビジネスに必要な人材を提供することであり、実際のタレントマネジメントに関わる経営や現場に、適切な情報を迅速に提供することだろう。そのために、どんなシステムが必要なのか、ということに常に立ち戻ることが重要だと大島氏は語る。

講演写真

「タレントマネジメントシステム導入となると、機能要件書を作成して、複数ベンダーに提案依頼をし、コンペをして製品を絞り込んでいく、というプロセスを経ることになると思います。この過程で、『何のためにシステムを導入するのか』から、『どのタレントマネジメントシステムが自社に合っているか』と、問いの中身が変わっていってしまうことがあります」

では、そうならないためにはどうしたらいいのか。
「極端ないい方をすれば、人事が本当にビジネスに貢献できるシステムなら、タレントマネジメントシステムという名前である必要はないくらいのスタンスで、選考・導入を考えた方がいいと思います。システムの名前に囚われてしまって、本質を見失ってしまうケースがあるからです」

大島氏は、よくある例として「目標管理システム」を上げた。
「『人事のシステム化は、皆が使える目標管理システムから導入するのがいいのではないか』というご相談を受けることが大変多いのですが、ここには落とし穴があります。そもそも、ビジネスに貢献する目標管理とはどういうものでしょうか。一つ目は、目標の連鎖があることだと思います。会社の目標が、事業部、部、課、本人と有機的につながっているということです。二つ目は、個人個人の成長を促すような、適切なストレッチを持たせた目標を立てること。さらにはその達成を支援できる状況があることだと思います。私が現場のマネジャーだとしたら、部下たちが今までどんな目標を立ててきたのか、その成果はどうだったのか、以前の上司はどんなコメントを残しているのか。また、本人はどんな自己申告をしているのか、強み弱みは何なのか。そんなことを、確認しながら目標のマネジメントをしたいと思います。しかし、一般的に『目標管理システム』というと、Webで目標管理画面を提供し、ワークフローで回して、進捗管理をするという機能を指すことが多いのです。これは工数削減にはなりますが、この機能を単独で導入したとしても、先ほど説明したような、現場のマネジメントの質を上げてビジネスに貢献するシステムにはならないはずです。しかし、残念ながら、そういう議論が抜け落ちてしまうことが多いのです」

特に、現在市場に出ている多くのタレントマネジメントシステムには、目標管理をはじめとして、「後継者管理」「学習支援」「配置支援」「採用支援」「コンピテンシー管理」といった様々な機能が備わっている。

「確かにそれらは人事の仕事としてどれも重要なことですが、システムが提供する仕組みやプロセスが、本当に自社の人材・タレントマネジメントに合致するものなのかどうかを冷静に判断する必要があります。冒頭でお話したように、これらは多かれ少なかれ各社の独自性を伴いますし、状況に合わせて変化することが求められます。更には、まだまだプロセスが確定しておらず、走りながら考える、というステータスである企業がほとんどでしょう。ここに、ガチガチのベストプラクティスを当てはめることができるのか、しっかりと見極めないと、機能は沢山あるけれど、結局は単にシンプルな個人情報を閲覧するだけのシステムになってしまいます」

華やかな機能があったとしても、
新鮮で精度の高いデータがなければ意味がない

では、今の多くの日本企業の人事には、どのような「機能」が必要なのか。大島氏は、「新しいことを考えたり、既存の仕組みを改善したりするときの思考のプロセスに寄りそえる機能」だという。具体的には、「必要なデータを的確に抽出し、それらを理解するために、比較したり分析したりすることができ、将来を予測して課題を発見していくために使える。そして、その過程でわかってきた課題に対して、仮説検証やシミュレーションを通じて、解決の道筋を考えるときの支援になる。それらができる『機能』が求められています」

そして、その大前提として、人材データが活用できる形で一元化されていることが重要だという。

「本来、現状がどうなっているのかが見えないなかで、適切な策を練ったり、実行に移したりはできないはずです。ですから、各社のマネジメントに必要な人材データが、柔軟に活用できる形で一元化されていることは、本当に重要なポイントです。どんなに華やかな機能があったとしても、新鮮で精度の高いデータを揃え続ける仕組みを構築しなければ、絵に描いた餅になってしまいます。しかし、現実には、いろいろな機能に目を奪われて、どうしても忘れてしまわれがちなことでもあります。その点は、気をつけてください」

そして、人材データの扱いは案外ハードルが高いという点も指摘した。
「人材データは、様々なかたちでの履歴の管理が必要です。それらの履歴の更新は、個人レベルで非同期に起きるという複雑さです。更には、それらを基準日という任意の日付時点で見ることが求められる。このことができていないために、CSVで全データを出し、Excelに変換してデータ加工をしているというケースが非常に多いのです」

加えて、人材・タレントマネジメントという観点から、従来の「人事情報」の枠を超えたデータを扱うことを求められていることも、ハードルを上げている理由の一つだという。

講演写真

「最近では、現場の情報を活用したいという要望が増えています。発令上の組織の異動情報だけを見ても、その人がどんな仕事をしてきたのかがわからないからです。実際に、営業管理システムから、担当地域や担当顧客の情報をシステムに取り込んで、考課や自己申告、教育情報など、通常の人事情報と合わせて、総合的に個人を把握できるようにしている企業も出てきています。こうした要請に柔軟に応えられることも大切なポイントです。システム選びの際には、本当に自社の人材データを一元化し続けられるシステムなのかを、厳しく確かめてください」

最後に、Rosic人材マネジメントシステムを活用している企業の成功事例が紹介された。一人ひとりのビジネスキャリアを一覧にした「キャリアシート」を作成し、適正配置や育成計画・後継者選抜に活用している例や、スキル・知識測定を定期的に実施し、時系列でデータを整理していくことで、期待値達成を支援している例、異動配置を個人の詳細情報を参照しながら行う例など、それぞれの会社の具体的な課題解決の例が挙げられた。

「タレントマネジメントシステムを導入するには、それなりの投資をすることになります。費用対効果を十分に出していくために、今日のポイントを押さえて選定・導入をしていってほしい」と、大島氏は締めくくった。

本講演企業

人事の分野でもシステムを活用して欲しいという思いから、Rosic人材マネジメントシステムシリーズの開発・導入支援を行っています。 日本企業の「人材・タレントマネジメント」をITで支援するためにはどのようなシステムが必要なのか。お客様の声を聞きながら、人材マネジメントに関わる人が経営戦略の実現に貢献することを目指し、システムを成長させています。

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