株式会社クレディセゾン:
がんとともに生きていく時代
社員が治療と仕事を両立するために人事ができることとは(後編)[前編を読む]
株式会社クレディセゾン 取締役 営業推進事業部長 兼 戦略人事部 キャリア開発室長 武田 雅子さん
変わりつづけるからこそ、一人ひとりにある当事者意識
普段から「お互いさま」の精神で、助け合えるような雰囲気があることは、チームビルディングを考える上でも非常に重要だと思います。どうすれば、そういった企業風土が醸成されていくのでしょうか。
長年にわたり培われてきたものによるのかもしれませんが、2013年につくった『ヒューマニズムの風土創り』という行動規範にも掲げたように、「楽しくなければ 仕事じゃない」という意識がみんなに共有されていることが大きいですね。みんなが楽しく働けるのがベストだけれど、働いている以上はさまざまな障害が起こり得ます。社員それぞれは多かれ少なかれ、介護や育児など、何かパフォーマンスが下がるような要因を持っています。しかし、それを認めながら、同じ目標に向かってみんなでがんばっていこう、という雰囲気があります。
ヒューマニズムの風土創り
社員は何か行動を起こす際に、『ヒューマニズムの風土創り』が頭の片隅にあるようです。会議でも「ここに『言論の自由を保障します』と書いてあるので申し上げますが……」というシーンがあったりします。また、今年9月には大きく人事制度を変える予定なので、さらに進化したバリューと自身の行動を照らし合わせることになるだろうと思います。
人事制度はどのように変わるのですか。
大きくは「同一労働同一賃金」です。パート社員や契約社員、正社員などさまざまな雇用形態を撤廃、全社員を正社員化して、その役割や仕事内容に見合った処遇にしようと、現在の等級制度を新たなグレードに適用し直します。賞与も全社員を対象に、グレードに応じて支給します。そのため、昨年の春からその準備段階として、各拠点の支社会議を回り、人事部による説明会を行っています。やはり、マインドセットが重要なんです。
当社にはさまざまな個性を持った人がいて、「この業務は〇〇さんがやる」といったように属人的な部分が多かったんです。しかし、これからは「上司として、部下一人ひとりにどんな役割を期待するのか」を明確にしなければ、新しいグレードに当てはめることはできません。社員も役割が明確になることで今後のキャリアが描きやすく、自身が今後どうなりたいか考えるきっかけを得ることになります。
武田さんから現場には、どのようなメッセージを発信しているのでしょうか。
たとえば、これまではとことん「How」と数字を突き詰めてきましたが、これからは「Why」と「What」を伝えるマネジメントをしよう、と話しています。会議は「安全な場」であることを宣言し、ここでは何を言っても、どんなアイデアを提案してもかまいません。そういうことを何度も、布教活動のように話し続けてきたら、少しずつ意識が変わってきました。「カード契約○件獲得!」ではなく、「クライアントのために何ができるのか」を考えるように、さらには地域への貢献という視点から「自分たちの街をキャッシュレス社会に変えよう」などといったように、仕事の視座が高くなりました。時には、結果がどうなるのかわからないけれどまずは話しあう場を持とう、というような取り組みも増えました。
たとえば神奈川支社では、駅前のゴミ拾い運動を始めたり、面白法人カヤックさんと月一でブレストをしたりしていて、私から見ると実績のいい支社ほど、「みんな、いつ本業をやってるんだろう?」と思うくらい、プラスアルファの新しい活動ができているのです。そういう支社は「何を実現するための仕事なのか」というコンセプトが明確で、ストーリーもあるから社員のモチベーションやエンゲージメントにもつながっている。何より、実に楽しそうなんです。好調な支社に追随し、他の支社もさまざまな取り組みを始めていて、頼もしい限りです。
これまでの数字重視の世界から考えると、パラダイムシフトとも言えるような変化ですね。社員に戸惑いはなかったのですか。
当社の社員は変化に強いというか、「とりあえず乗ってみるか」という順応性も感度も高いので、むしろ楽しんでくれていると思います。それは、会社の成り立ちによるところもあるのかもしれません。もともと緑屋という小売業からスタートし、カード会社に鞍替えして、お客さまやマーケット、クライアントの変化にずっとついてきました。「今のままがずっと続くなんてありえない」「変わらないことは退化」「新しいものを取り入れなければ、よどんでしまう」というマインドが染みついているんです。
そのため、新しいルールを決めても、不満や要望があれば社員からどんどん意見が挙がります。今回の人事制度も、「落ち着くまで何年かはかかるだろう」と支社長たちも理解してくれています。ダメなら変えればいいし、代案を考えればいい。常に「あなたはどうするの? どうしたいの?」と、社員一人ひとりに問われているんです。当事者意識が芽生えてくるのも、当然かもしれません。