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ワコールに学ぶ女性の健康支援。
内勤・外勤を問わず、すべての社員が健康に働くために

深沢 信介さん(株式会社ワコール 人事総務本部 人事部長)
須山 有輝子さん(株式会社ワコール ワコール健康保険組合 健康開発チーム 課長)

ワコールに学ぶ女性の健康支援。 内勤・外勤を問わず、すべての社員が健康に働くために

近年、PMSや更年期障害、女性特有の病気など、女性の健康を支援することの関心が高まっています。女性社員に、より長く、より生産性高く活躍してもらうために、性差を捉えた支援が必要だという認識が浸透しつつあります。社員の9割以上が女性という株式会社ワコールでは、以前からがん検診を中心とした女性の健康支援を進めており、昨年の乳がん検診受診率は93%。約6割の社員が店舗勤務という特徴がありながら、高い受診率を誇ります。内勤・外勤という働き方の違いがある中で、すべての社員にきめ細やかな対応を行い、健康意識を高めるために、どのような取り組みを行っているのでしょうか。同社人事部の深沢信介さんと、ワコール健康保険組合の須山有輝子さんにお話をうかがいました。

深沢信介さん
株式会社ワコール 人事総務本部 人事部長

ふかざわ・しんすけ/1996年、株式会社ワコールに入社。1999年に人事部に着任し、採用や研修の企画運営、人事システムのリニューアルに従事。2005年から3年間、香港の現地法人へ出向し、2008年より再び人事部へ。各種制度企画を担当し、ワコールGENKI計画の具体的施策の立案、実行にも関わる。2022年4月より現職。

須山有輝子さん
株式会社ワコール ワコール健康保険組合 健康開発チーム 課長

すやま・ゆきこ/1995年、株式会社ワコールに入社。ワコール健康保険組合にて保健師として、社員の健康管理やサポート、健保組合の各種保健事業の企画運営に従事。2015年からスタートしたワコールGENKI計画の推進にも注力。

店舗と事業所、それぞれのがん検診受診率を上げるために

貴社が女性社員の健康支援に取り組むことになった経緯をお聞かせいただけますか。

深沢:社員の健康への取り組みは、1973年にワコール健康保険組合が設立されたときから始まっています。今でこそコラボヘルスという言葉を耳にするようになってきましたが、私たちは約50年前から健康保険組合と一体となって社員の健康管理に力を入れてきました。レセプトや検診データを踏まえてアドバイスができる健康保険組合と会社が共同で取り組むほうが、社員にとってメリットが大きいと考えたのです。

直近の動きとしては、2015年から本格的な健康経営を開始しています。「ワコールGENKI計画2020」では、生活習慣病対策、がん対策、メンタルヘルス対策の三つのカテゴリで目標数値と行動計画を定め、達成に向けてさまざまな施策に取り組みました。

須山:当社はお客さまのほとんどが女性ですし、社員も9割が女性です。女性下着を商材として扱う企業の責任として、女性特有の健康課題を知っていなければならない、取り組まなければならないという意識があります。社員が健康であることや女性の健康課題を知ることは、事業にとってもプラスになるので、会社の成長戦略として取り組んでいます。

具体的にはどのような取り組みをされていますか。

深沢:まずは、乳がんや子宮がんの検診受診率の向上です。女性社員が多く活躍している当社では、乳がんや子宮がんの罹患者を出さないこと、罹患しても早期発見で治療につなげることを重視しています。実際に、検診を受けたことで早期発見ができたケースもあります。

須山:当社の社員の約6割は店舗勤務です。外勤者はシフト勤務のため、事業所に勤めている内勤者とは生活サイクルが違います。そんな中で全社員のがん検診受診率を上げるためには、工夫が必要です。当社では、AIOという乳がん検診ができるバスを所有しており、AIOを事業所に横付けすることによって、内勤者が就業時間内に受診できるようにしている一方、外勤者向けには、定期健康診断の際に乳がん・子宮がんの検診を同時に受診できるようにしています。健保組合の補助金によってほとんど自己負担がなく受けることができ、 かかりつけの病院で受けたい人は、申請をすれば補助金を受けとることもできます。

ただ、受けっぱなしでは意味がありません。二次検査が必要となった人に確実に必要な検査を受けてもらえるよう、二次検査の受診率100%を目標に、会社と健康保険組合が共同でフォローするようにしています。健康保険組合からは会社や自宅に案内を送付し、未受診の人には詳細は伏せたうえで「がん検診が未受診」であることを会社にも伝え、本人へリマインドをしてもらっています。

がん検診の他にはどのようなことをされていますか。

須山:がんは予防の観点も大切なので、リテラシー向上にも注力しています。実施しているのは、婦人科を専門にしている産業医などによる啓発教育です。社員の年齢層はかなり幅広いため、PMSや更年期障害など、年代ごとに変わる身体についても知識を持ってもらえるように設計しています。

メンタル不調の予防・対応も重要視しています。当社の場合、女性社員のほうがストレスを感じる傾向があることがストレスチェックの結果からわかりました。内勤と店舗勤務で異なる職場環境や、ストレスに対する認知の男女差など、要因はいくつかあるかと思うのですが、「ワコールGENKI計画2020」の中でも大きな柱の一つとして、メンタルヘルス対策に取り組んできました。メンタル不調の予防と、メンタル不調になった場合のサポート、休職者の復職へのサポートも丁寧に行うようにしています。

HPVワクチン接種の費用補助も開始しました。HPVは子宮頸がんの原因とされているウイルスで、一時期はワクチン接種を見送る動きがあったのですが、2022年4月から積極的な接種の呼びかけが再開。自治体からの助成がある地域もありますが、それを補強する形で、当組合も45歳までの女性社員に対して5万円まで費用補助をしています。

店舗で働く社員にも、健康情報を浸透させる工夫

女性社員には、実際にどのような課題があるとお考えですか。

須山:2018年から、健康課題が業務にどれくらい支障が出ているかを調査しています。結果からは、しばしば症状がありながらも受診に至っていない人が約8割に上ることがわかりました。健康について知るだけでなく、自分の症状を改善するための行動が取れるリテラシーレベル向上の大切さを感じています。そのために、先ほど申し上げた産業医によるセミナーの他に、新入社員研修や昇格時研修では、女性のホルモンと体調にかかわる話などもしています。

店舗勤務の社員が約6割とのことでしたが、内勤と外勤で健康課題に違いはあるのでしょうか。

須山:健康保険組合は会社から社員の健康管理業務を受託しており、健診データやストレスチェックの結果などを見られる環境にあります。内勤と外勤を比べると、外勤者のほうが喫煙率は高く、メンタル不調になる社員も外勤のほうが多い。一方、生活習慣においては、業務上動き回ることの多い外勤者よりも内勤者のほうが運動不足になりやすいという結果が出ています。

店舗勤務の社員に対して、どのように健康経営の取り組みを浸透させているのですか。

須山:事業所と店舗では距離が離れていることもあり、どうしてもつながりが持ちにくい環境にあります。社内イントラに情報を上げても、全員に見てもらえるわけではありません。それぞれへの異なったアプローチが必要です。ご自宅宛てに啓発情報や受診勧奨案内を発送したり、健康診断の案内と一緒に啓発チラシを送ったりと、アナログな発信もするようにしています。

健康管理サポートアプリも導入しました。現在の登録率は約8割です。確実に見てもらうために、自宅に案内を郵送することもあります。職種や職場環境が違ってもきちんと情報が届くように、あらゆるチャネルを使って情報発信に努めています。

深沢:健康経営だけが目的ではないのですが、ツールに関していうと、最近は外勤者へのタブレットの支給が進んでいます。コロナ禍の初期、店舗が閉まってしまって出勤できない状況が続いたので、コミュニケーションの手段が個人のLINEやメールしかなく、非常に困りました。さらに、これまで集合型で行っていた新製品の勉強会などもリアルでは実施できなくなったので、デジタル化への対応を余儀なくされました。今後は、タブレット端末の導入範囲を拡充することで、健康経営の施策にもつなげていきたいと考えています。

タブレットやアプリを活用して行った施策はありますか。

深沢:情報がアプリに上がっていても、個々人が健康に興味関心を持たなければ情報が届くことはありません。興味を持ってもらえるきっかけ作りの一つとして、ウォーキングイベントを春と秋の年2回、開催しています。基本的にはチームでの参加ですが、単独参加のニーズもあるので、一人でエントリーできるチームを作成するなどの工夫をしています。全社員の約3割が参加していますが、もう少し参加率を上げたいですね。

健康施策によって、がん検診受診率も健康リテラシーも向上

取り組みを通じて、社員の意識や健康状態はどのように変化していきましたか。

須山:「ワコールGENKI計画2020」を始めてから、喫煙率は徐々に下がっており、がん検診の受診率は右肩上がりに増えています。2015年度時点での受診率は、乳がんが78.3%、子宮がんが64.2%でしたが、2021年度には乳がんが93.2%、子宮がんが77.4%という結果になりました。

深沢:健康診断と同じタイミングで受けられるのは利便性が高いようで、特に外勤者の受診率が上がっています。

須山:アンケート結果を見ると、ヘルスリテラシーも徐々に上がってきています。リテラシーの向上はプレゼンティーイズムとも関係していて、リテラシーが高い人ほどプレゼンティーイズムによる損失が低かったり、症状を放置する人が少なかったりと、健康への取り組みが生産性につながっていることを実感しています。

健康に目を向けてもらうために工夫していることはありますか。

深沢:難しいのは、どのようにして無関心層に興味を持ってもらうか、ということです。そのため高い目標ではなく「これくらいだったらできそうかな」と感じられる発信を心がけています。禁煙に関していえば、「美肌にいい」といった美容的な視点、「1ヵ月でいくら節約になる」といった経済的な視点など、さまざまな角度からメリットを訴求するようにしています。

社員の方からは、健康への取り組みに関してどのような声が上がっていますか。

須山:禁煙した人からは「ご飯をおいしく感じるようになった」「肌がきれいになってうれしい」といった声を聞きますね。お酒を控えるようにしたら体重が減ったとか、歩数計をつけて毎日測る癖をつけたことで如実に身体が変化したという社員もいました。

深沢:5年ほど前から、リテラシー向上の一環として「日本健康マスター検定」という検定資格の受検費用補助を行っています。当初は20人ほどの受検だったのですが、今年は50人ほどの申し込みがあり、大半が店舗勤務の社員でした。健康への関心が高まっている証しだと受け取っています。

男性社員は、女性の健康課題にどのような意識を持っているのでしょうか。男性社員向けの啓発などは実施されているのですか。

深沢:約5,000人の社員のうち、650人ほどが男性なのですが、男性向けの特別な施策はありません。ワコールのビジネスはもともと女性向けの商材ということもあって、女性特有の健康課題やライフスタイルにアンテナを立てやすい環境にあります。男女問わず、いかに興味を持って自分から情報を取りに行くかが課題ですが、女性の健康を考えることが事業成長にもつながるので、男性を対象にした研修なども検討の余地はあると考えています。

最後に、現在の課題や今後の展望についてお聞かせください。

須山:リテラシーの向上を一番のベースとして考えています。内勤・外勤という働き方の違いによる情報格差や健康課題の違いもあるので、それぞれに適した支援が必要です。情報発信の内容や方法を工夫することで、個々人が自律的に健康管理をできるようにサポートしていきたい。さらに、社員一人ひとりがかかりつけ医を持つことや、きちんとしたケアを受けられるところまで目指したいですね。そのためには、マネジメント層や男性社員の意識の向上も必要ですし、社員の声を反映した人事制度も整えていきたいと考えています。

深沢:昨年12月にリリースした「ワコールGENKI計画2025」を進めていくうえで、メンタル不調による休職者数や休職日数をどう改善していくかは今後の課題だと思っています。メンタル不調の要因を考えることは、広い意味でエンゲージメントの向上にもつながります。即効性の高い解決策がないからこそ、マネジメントのあり方や組織風土など、全方位から考えなければいけません。

また、健康経営と業績の結びつきは忘れないようにしたいですね。社員が全員健康でも、会社の業績が上向かなければ生活が豊かになりませんので、健康への取り組みがどう生産性に結びつくのかを見極めながら、取り組んでいきます。

(取材:2022年9月8日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


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