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データに基づく保健事業が、従業員の健康を後押しする
~厚生労働省が取り組むデータヘルス計画の進化~ :厚生労働省保健局 保険課長 安藤公一さん

厚生労働省保健局 保険課長 安藤公一さん

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厚生労働省保健局 保険課長 安藤公一さん

企業が健康経営を進めていくうえで欠かせないのが、コラボヘルスの実践です。コラボヘルスとは、企業と健康保険組合などの保険者が協力し合い、従業員やその家族の健康増進を効率よく効果的に行う取り組みのこと。その際注目したいのが、保険者のもつ健診結果やレセプトなどデータの存在です。厚生労働省では、すべての保険者を対象に健康に関するデータを活用し、PDCAサイクルを回しながら保険事業を進めていく「データヘルス計画」に取り組んでいます。データヘルス計画は、コラボヘルスとどのような関係を持つのでしょうか。データヘルス計画、およびコラボヘルス推進に携わる、厚生労働省保険局保険課長の安藤公一さんに、お話をうかがいました。

プロフィール
安藤公一(あんどうこういち)さん

平成8年に旧厚生省に入省。厚生労働省保険局総務課医療費適正化対策推進室長、日本年金機構本部経営企画部調査室長等を経て、平成29年9月から現職。

健康習慣を身につけるには、1日の大半を過ごす「会社」が鍵

ビジネスパーソンの健康づくりを行う意義について、厚生労働省ではどのように考えていますか。

健康づくりは、国民一人ひとりの健康に対する意識と行動の変容が重要になります。健康の基本要素は、食事・運動・睡眠です。近年はこれに加えて、禁煙などの要素も重視されていますね。これらの要素は、日常生活そのものです。つまり健康づくりとは、個々人が日々の暮らしを主体的にコントロールすることなんです。

近年の健康ブームの影響もあり、テレビや雑誌、インターネット上には健康に関する情報が溢れています。「知識」レベルでは健康に対する意識の高まりが感じられますが、「実践」となるとどうでしょう。例えば、運動を始めようと思っても「なかなか時間がとれない」「一緒に頑張れる仲間がいない」と、挫折してしまう人も多いのではないでしょうか。何をすればよいのか、頭ではわかっていても、実践できない。こうした方が多いのが、現在の健康づくりの課題だといえます。

そのため、無理せず気楽に続けられて、日常生活に自然と取り入れられるような取り組みが求められますが、ポイントとなるのが「会社」です。多くのビジネスパーソンは、標準的には毎日8時間、残業があるときにはそれ以上、オフィスにいます。一日のうち、最も長く過ごす場所が会社だといえるでしょう。このため、ビジネスパーソンにとって、「無理せず気楽に続けられる」を実践するためには、会社の中で通常勤務される動線の中に健康づくりの要素を採り入れていくことが重要になると考えています。さらに、同じ環境で働く人たちは、共に健康づくりを進める仲間にもなります。会社という空間を利用し、健康的な生活を促すしかけを入れていくこと、このことがビジネスパーソンにとっての健康づくりの第一歩になると考えています。

実際、従業員の日常的な健康づくりに取り組んでいる企業もあります。自動販売機から糖分の高い飲料を外したり、階段の利用を促したり。従業員が健康になれば、生産性が向上し、企業の業績向上にもつながるでしょう。また、医療費が削減でき、保険者(健康保険組合や全国健康保険協会)にとっても大きなメリットがあります。だからこそ、「従業員の健康増進」というゴールに向けて、企業と保険者が連携して従業員の健康増進を図る「コラボヘルス」の重要性が問われているのです。

「データヘルス」によって効果的・効率的に健康づくりを

健康保険組合や全国健康保険協会では、これまでどのような取り組みが行ってきたのでしょうか。

保険者には、加入者から保険料を徴収する、保険給付を行う、といった役割がありますが、最も大切なのは加入者の健康を守ることです。そのため保険者は、さまざまな健診を実施したり、健康にまつわる情報を発信したり、保養所など心身のリフレッシュを図る場を提供したりするなど、多様な施策に取り組んできました。これらの取り組みを、保健事業といいます。

この保健事業をより効果的・効率的に実施する手法が、「データヘルス」です。近年、レセプト(診療報酬明細書)や健診結果の電子化が進み、加入者の健康状態に関するデータが整理されました。こうしたデータに基づいて保険事業を設計し、PDCAサイクルを回していこうというのが、データヘルスの狙いです。2015年からは、データヘルス実践に向けた事業計画である、「データヘルス計画」の作成・実施・評価などにも取り組んでいます。

それぞれの保険者が抱える健康課題は、加入者の数や年齢層、男女比の違い、地域差などによって、実にさまざまですが、以前は保険者ごとに特色のある保健事業を展開できていませんでした。「データヘルス計画」をきっかけに、各保険者はデータという根拠に基づいて課題を洗い出し、無駄なく効果の高い事業を展開していくための対策を考えるようになりました。

2015~2017年度に実施した「第1期データヘルス計画」を経て、見えてきたことは何でしょう。

初めての取り組みですから、「自分たち(各企業や保険者)や加入者(社員)の立ち位置を知ろう」ということからスタートしました。まず保険者の方々に求めたのが、先ほど申し上げた健診結果等のデータを活用して、加入者の方々の健康課題を知り、それぞれの健康課題の分析をもとに、どのような取り組みを実施するのかというアウトプット目標と、それによって将来どうなりたいのかというアウトカム目標を設定することでした。これをもとに、各保険者が取り組みを進めてきました。

第1期の3年間を経て、浮かび上がってきた課題もあります。一つ目の課題が、定量的なアウトプット・アウトカム指標設定の難しさです。PDCAを回すうえで、具体的な目標設定や効果測定は必須です。ところが、どうしても目標や評価指標が抽象的になってしまう保険者が多く見られました。特にアウトカム目標に関しては、どのような取り組みを行えばどれだけの成果が出るのかがまだわからない中で、具体的に目標指標を設定できない保険者が多かったようです。

二つ目の課題は、抱える健康課題と実際の保健事業を、うまくひもづけられていない保険者が多いことです。データ分析によってその組織の課題が分かりますが、これまで行ってきた施策と比べてみると、課題と施策がほとんどリンクしていなかったところもありました。例えば加入者にミドル層が多く、生活習慣病対策が課題なのに、そのために有効な施策をほとんど打ち出せておらず、別の事業に力を入れていたりする。データヘルスの理想は、課題と対策がしっかりとひもづいていることです。それができれば期待する効果が明らかになり、一つ目の課題にあった「アウトカム目標」も設定しやすくなるのではないでしょうか。

近い業態同士で保険事業を「共同実施」

データの活用以外では、どのような課題がありましたか。

ひとつは、コラボヘルスの強化です。健康保険組合連合会が実施したアンケートによると、「会議体の設置」や「健康課題の共有」などによって、企業と保険者の連携をはかっている保険者は7割程度にのぼり、比較的進んでいるといえます。一方、保健事業の目標管理や質の管理などに関して、企業と保険者が連携で来ているところは3割程度にとどまり、まだまだ改善の余地があります。

厚生労働省保健局 保険課長 安藤公一さん

さらに今後は、保険者同士が連携し、保健事業を共同で実施するケースも増えていくでしょう。データヘルスでは、保険者が自ら取り組みを進めることに加え、民間事業者(ヘルスケア事業者)の積極的な活用ということも打ち出しました。その際に課題になるのが、保険者の規模の大小から生まれる差です。保険者の規模は本当にさまざまで、加入者が20万人以上のところもあれば、1000人に満たないところもあります。当然、組織体力に差が出てくるわけで、マンパワーが圧倒的に不足している、あるいは外注できるだけの財政的な余裕がない保険者も多く存在します。またヘルスケア企業にとっては、発注規模が大きいほうがビジネスとして成立しやすい。そのため小規模の保険者は、十分な保健事業が行えないリスクを抱えています。

複数の保険者が共同で保険事業を実施することで、こうした課題はある程度解決できます。その際にポイントとなるのは、近隣でかつ業態が近い保険者同士が連携すること。デスクワークの多い会社は肩こりや睡眠不足に悩まされる、輸送業は不規則な生活により生活習慣病のリスクが高いなど、業種・業態ごとの健康課題には相関があるからです。現在は厚労省が主体となってモデル事業を展開しており、共同実施が加速する動きにつなげたいと考えています。

企業の健康状態を見える化する「健康スコアリングレポート」

こうした課題を踏まえ、2018年度より「第2期データヘルス計画」がスタートします。

第1期と大きく異なる点は、実施期間を平成30年度~35年度(2018年度~2024年度)までの6年間としたことです。これにより、長期的視点を見据えた保健事業を企画することができます。実際の運用では3年後に中間評価を実施し、途中で事業の見直しを図る機会を設けました。

第2期では、データに基づく運用をサポートするツールの運用も始めています。それが「データヘルス・ポータルサイト」です。データヘルス・ポータルサイトでは、各保険者が持つ加入者の健康状態を集計したデータや、実施を予定している保健事業の内容や目標といったデータヘルス計画の内容を登録いただき、一定期間後には、実施した事業の評価も登録いただいた上で、その結果を分析し、最終的には、個々の保険者の健康課題に応じた効果的な保健事業を提案することができる機能を実装することを目指しています。将来的には、各保険者がそれぞれの加入者の健康課題を登録すれば、その健康課題に見合う効果的な保健事業のメニューが提案され、各保険者は、提案されたメニューの中から、それぞれの財政状況や対策の優先順位等を踏まえてデータヘルス計画を策定していく、といったより効果的・効率的な計画策定を支援することができればと考えています。

そして第2期データヘルス計画で重視したいのが、コラボヘルスの推進です。企業と保険者が連携し、従業員の健康づくりを進めていくことの重要性は、先ほども少しお話ししました。健康経営の機運も高まり、従業員が元気でいきいきと働くことが、生産性を上げるだけでなく、企業価値の向上につながるという認識も広まりつつあります。しかし病気の予防や健康づくりが企業の経営戦略として位置づけられているかといえば、まだ十分とはいえません。

そうした背景もあって生まれのが、「健康スコアリングレポート」ですね。

はい。コラボヘルスを進めるには、まず経営者が自社の従業員の健康状態を適切に把握することが重要です。しかし、それにはいくつかのハードルがあります。一つは、健診結果など従業員の健康データを保険者が所有していること。こうしたデータはプライバシーに関わるものでもあり、原則として、企業が個別の情報を知ることはできません。もう一つは、そのデータから課題を把握することが難しいこと。仮に保険者から健診の集計結果を提示されたとしても、そこから自社の健康上の課題がどこにあるのか、またその課題はどの程度のものなのかを客観的に把握することは、簡単ではありません。

そこで厚生労働省は日本健康会議(※)と連携して、2018年度より「健康スコアリングレポート」の作成を予定しています。「健康スコアリングレポート」とは、国が保有するレセプトや特定健診データなどを活用して、加入者の健康状況や生活習慣、医療費の状況について、健康保険組合ごとに集計し、経営者向けの簡単なレポートとしてまとめたものです。全国平均や同じ業種・業態平均との比較もお示しして、自社の置かれている状況を客観的に捉えることができるようにしたいと思っています。このレポートも一つの材料として活用いただき、自社の抱える健康課題について企業経営者とも共有いただくことで、企業と保険者とのより具体的で実践的なコラボヘルスが行われていくことを期待しています。

※日本健康会議…保険者などによる先進的な予防・健康づくりの取り組みを全国に広げるための民間主導の団体で、2015年に発足。経済界、医療関係団体、自治体、保険者団体のリーダー、および有識者によるメンバーで構成。「健康なまち・職場づくり宣言2020」を設定し、精力的に活動を行う。

企業・健保の連携と経営者の意識がコラボヘルス成功のカギ

コラボヘルス推進に向けて、厚生労働省では他にどのようなことに取り組まれていますか。

2017年7月に、健康保険組合(健保)と事業主双方に向けて『コラボヘルスガイドライン』を公表しました。ガイドでは、健保が行う「データヘルス」と企業が行う「健康経営」を車の両輪と位置づけ、その推進力としてのコラボヘルスの重要性を解説しています。また、コラボヘルスを進めるうえでの体制づくりや役割分担、実行上の留意点なども具体的に紹介しています。

『コラボヘルスガイドライン』では、花王やフジクラ、SCSKなど、健康経営銘柄や健康経営優良法人などでも取り上げられる、健康経営に関する先進企業の取り組みを紹介しています。例えば花王では、健康診断を起点とする健康づくりサイクルを提唱し、「健康マイレージ」を導入することで従業員の健康づくりを後押ししています。さらに健康づくりの取り組みや健診・問診・医療費の状況および分析を毎年「健康白書」にまとめ、次の施策立案につなげるというサイクルが確立しているのが特徴です。「健康白書」はガイドラインでも作成を推奨しているので、花王の取り組みは参考になるでしょう。

『コラボヘルスガイドライン』に掲載されている事例を見るだけでも、コラボヘルスはそれぞれの企業の状況に応じたやり方があることが分かります。それ以外にも、いろいろな企業のコラボヘルスのやり方を見てきましたが、うまく実践できているところは共通して二つの条件を満たしていると感じます。一つは、企業の人事や総務などの担当部署と健康保険、また時には労働組合が一丸となり、それぞれの問題意識をきちんと認識できていること。例えば毎月定例会を開き、健康課題の目線を揃えたり役割分担を整理したりする機会を確実に設けています。そこでしっかりと議論を重ね、それぞれの立場でできることや連携策を考えているのです。

もう一つは、経営者の意識が高いこと。従業員の健康状態が高まれば、企業もいい方向に変わることを信じて、しっかりとリーダーシップをとっています。トップ自ら健康経営を経営戦略に組み込んだ企業もあれば、人事と健康保険組合がタッグを組み、経営者を動かした企業もあります。「従業員の健康に対して、経営者の関心が薄いために、健康経営に取り組めてない」という企業もありますが、人事総務の皆さんには継続的に健康づくりの重要性をアピールし、経営層の意識変革を促してほしいですね。ぜひ先に紹介した「健康スコアリングレポート」を、メッセージツールとして活用してください。

最後に、今後の企業における健康づくりをどのように考えているのか教えてください。

データヘルス計画やコラボヘルスは、まだ始まったばかり。完成形に至るにはまだまだたくさんの課題があり、少しずつレベルを上げている段階です。しかしこれらの取り組みの重要性は、徐々にではありますが、認識されつつあります。めざす姿は、それぞれの組織が主体性を持って健康づくりに取り組み、日本人一人ひとりが自分の健康をコントロールできるようになることです。私たちは、それを後押しする立場といえます。

また、高齢者の健康づくりも課題のひとつです。人生100年時代といわれる現在、会社を定年退職した後に、第二の人生が待っています。しかし、定年後に社会との接点がなくなり、家から出なくなってしまって、結果として健康状態に影響を及ぼす人もいます。「老い」を避けることはできません。ただ、日々の暮らし方次第で「老い方」を変えることはできるのではないでしょうか。

会社を退職してから新たなコミュニティを探すのは、ハードルが高いことだと思います。ですから在職中に定年退職後も見越して、次のキャリアを考えることがとても重要です。働き続けても、ボランティアをしても、趣味を見つけてでもいいと思うんです。大切なのは、定年後に向けて、会社以外の社会的な接点をつくっておくこと。本人はもとよりですが、そうしたキャリア支援を行っていくことも、今後は企業にとっての重要な役割ではないでしょうか。

厚生労働省保健局 保険課長 安藤公一さん

(取材は2018年2月23日東京都・千代田区の厚生労働省にて )

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