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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2017-春-」講演レポート・動画 >  ランチミーティング [LM-2] 企業は、人材が覚醒する雇用制度・働き方改革をどのように実現すれば…

企業は、人材が覚醒する雇用制度・働き方改革をどのように実現すればいいのか

  • 鶴 光太郎氏(慶應義塾大学大学院 商学研究科 教授)
2017.07.13 掲載
講演写真

慶應義塾大学大学院・鶴光太郎氏は、組織と制度の経済学、労働市場制度などを専門とし、2013年より規制改革会議委員として、政府の雇用制度改革をリードしてきた。日本が復活するためには、企業が雇用制度を改革し、多様な働き方を実現することで人材を「覚醒」させることが必要だと主張している。本セッションでは、鶴氏が「労働時間」「ジョブ型正社員」「同一労働同一賃金」「解雇の金銭解決」などをトピックに、雇用制度・働き方改革について解説した。

プロフィール
鶴 光太郎氏( 慶應義塾大学大学院 商学研究科 教授)
鶴 光太郎 プロフィール写真

(つる こうたろう)1960年東京生まれ。84 年東京大学理学部数学科卒業。オックスフォード大学 D.Phil. (経済学博士)。経済企画庁調査局内国調査第一課課長補佐、OECD経済局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、2012 年より現職。経済産業研究所プログラムディレクターを兼務。内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013~16 年)などを歴任。主な著書に、『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社、2016)『非正規雇用改革─日本の働き方をいかに変えるか』(樋口美雄氏、水町勇一郎氏との共編著、日本評論社、2011)。


鶴氏が「本日お話ししたいこと」として挙げたのは、「(1)働き方改革実行計画のポイントと評価」「(2)働き方改革の全体像はどうあるべきか?」「(3)生産性を向上させる働き方改革とは?」「(4)解雇無効時における金銭救済制度はどうなるのか?」の4点。「働き方改革」を企業はどのように受け止め、どのように進めていけばいのか。鶴氏が詳しく解説していった。

(1)働き方改革実行計画のポイントと評価

「同一労働同一賃金」にコミットしたことで、働き方改革の推進にドライブがかかった

「昨年より、政府の労働・雇用政策が成長戦略から労働者保護へと大きく転換しました。同一労働同一賃金の推進が謳われたのです。これまで歴代政権や野党が正面から扱うことをためらってきた課題にコミットしたことに、政府の並々ならぬ決意が感じられました」

昨年、「同一労働同一賃金」の方針が示されたことにより、働き方改革の推進に一気にドライブがかかることになったという。2016年の第1回「働き方改革実現会議」で安倍首相から発信されたテーマが紹介された。

  1. 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  2. 賃金引上げと労働生産性の向上
  3. 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
  4. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援。人材育成、各差異を固定化させない教育の問題
  5. テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
  6. 働き方に中立な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
  7. 高齢者の就業促進
  8. 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
  9. 外国人の受け入れの問題

「この中で、長時間労働の是正と同一労働同一賃金が大きな目玉となっています。このテーマについては、企業側は重要性を認識していても、実現が難しいと考えており、これまで及び腰でした。そこに総理からのトップダウンで指示があり、一気に推進していく気運が高まったのです」

「罰則付き時間外労働の上限規制」の導入

働き方改革実行計画として、長時間労働を是正するために「罰則付き時間外労働の上限規制」の導入が盛り込まれた。日本は欧米諸国と比べて労働時間が長く、罰則付きの時間外労働の限度を、具体的に定める法改正が不可欠だったからだ。問題は、労働者側が長時間労働を全廃したいという気持ちが強かったわけではないこと。残業代を恒常的に生計費に組み入れている現実があるのだ。また、長時間労働が常態化することで、企業は不況期でも残業時間を減らす余地が生まれ、解雇を回避することができる。自己犠牲を伴う長時間労働は企業への忠誠やコミットメントと認識され、高い人事評価へとつながっていた面もある。このような実態があったからこそ、日本の雇用システムの中に長時間労働が根付いているのだ。

「今回提案された改革は、長時間労働是正に向けての大きな一歩として評価できます。労働時間の長さで評価され補償を受ける人事管理制度・考え方を、抜本的に変える必要があることを我々に突き付けています。具体的に言えば、人事評価において時間当たりの生産性を重視したり、勤務間インターバル制度を導入したり、時間外労働の補償を休日代替とするなど、健康確保を目的とした労働時間の規制を実施したことです。高度プロフェッショナル制度の扱いに関しては所得要件などを外し、規制改革会議がかつて提案した内容より包括的な制度の導入を目指すべきでしょう」

「同一労働同一賃金」について、具体的なガイドラインが示された

そもそも「同一労働同一賃金」は、仕事ぶりや能力が適正に評価され、意欲を持って働けるよう同一企業・団体における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の改善を目指すもの。ただ日本では、正規雇用労働者の給与は、欧米のように賃金が職務で決まる「職務給」ではなく、職務が同じでも職務遂行能力が高まれば賃金も高まる「職能給」の性格が強い。一方、非正規雇用労働者は「職務給」の性格が強く、年齢が高まれば両者の格差はさらに拡大する傾向があり、同一労働同一賃金を適用するのは難しいという労使の共通認識が長い間存在した。

「今回のガイドライン案は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で待遇差が存在する場合に、どのような待遇差が不合理であり、どのような待遇差が不合理でないものかを示したものです。示す対象は、基本給、昇給、ボーナス、各種手当といった賃金にとどまらず、教育訓練や福利厚生をカバーしている点が大きな特徴です。職務、職業能力、勤続年数などの要因で因数分解できることを前提に、それぞれに対応する部分で実態が同じであれば、同一の基本給を支給するというものです。ただし、同一労働同一賃金には課題も多くあります。『非正規雇用労働者の処遇改善の原資を企業はどう手当てするのか』『正規雇用労働者の処遇はむしろ低下せざるを得ない』といった点をはじめ、単に非正規処遇の改善にとどまらず、正規雇用労働者の賃金システム、さらには日本の雇用システムの革命的な転換を意味することになるのです。同時に、働き方改革によって生産性を上げていかなくてはならないわけですが、果たして労使にそこまでの覚悟があるのでしょうか」

(2)働き方改革の全体像はどうあるべきか?

「人材覚醒経済」に向けた取り組みが不可欠

このような問題意識の下、「今後、日本経済が復活していくためには、『人材覚醒経済』に向けた取り組みが必要」と鶴氏は提言する。「人材覚醒経済」とは何か。以下のような三つの視点が提示された。

  1. 人材の重要性について「覚醒」するという視点
    資源のない日本は人材こそ最も重要な資源であり、一番の強み。取り組みの遅れを再認識し、反省した上で、前向きな取り組みを行うきっかけとする
  2. 個々の人材が「覚醒」するという視点
    それぞれの働き手が本来持つ能力や持ち味を十分発揮して、生き生きと働ける人材活性化の環境整備を行うことが、人材の覚醒につながる
  3. 人材活性化により日本経済を「覚醒」させるという視点
    ミクロの視点では、個々の働き手が仕事・生活両面で満足度・豊かさを高める。マクロの視点では、日本経済が再活性化され、創造的な発展、新たな成長へとつながる

個々の人材の覚醒を促す改革が、「多様な働き方改革」。多様な働き方改革を実現するためには、ライフサイクル・スタイルに合わせて多様な働き方を選択できることが前提になる。

「忘れてはならないのは、自分が選んだ働き方に満足し、生きがいを感じることができなければ、その選択は意味がないということです。そのためには、多様な働き方の実現をサポートする環境が整っていなければなりません。具体的には、職場における健康・安全の確保、公平・公正な処遇(能力開発機会も含む)の実現、雇用の入口(就職)・出口(退職)の整備による円滑な労働移動・再配分などです」

人材・雇用・労働の面から経済成長を進めるには、以下の三つのルートがあるという。そして、三つを同時に進めなければならない、と鶴氏は強調した。

  1. 雇用の量的拡大
    人口減少社会の突入、長期的な労働力人口の低下という環境変化にあって、少子化対策とともに女性・高齢者・外国人などの労働参加の促進が大きなカギを握る
  2. 雇用の質的改善
    教育・人材力強化による、一人ひとりの就労者の生産性向上が必須。また、非正規雇用増大による労働市場の二極化への対応の点からも重要である
  3. 労働移動・再配分
    生産性の低い部門から高い部門への労働移動の促進、働き手と企業のマッチングを高めるような労働の再配分の促進を行い、経済全体の生産性を上昇させる

「長期雇用」「後払い賃金」「遅い昇進」という日本的雇用システムの光と影

ここで、日本的雇用システムの本質について、鶴氏は「長期雇用」「後払い賃金」「遅い昇進」の三つを挙げる。

「この三つの定型化された慣習は互いに補完的な関係にあり、雇用システムとしての柔軟性を確保し、人事部が権限を握る中央集権型の人事システムを構築することになりました。そして、これを担保しているのが日本の正社員の『無限定性』です。日本は欧米諸国と比べて、勤務地、職務、労働時間が限定されていない『無限定性』が非常に顕著。欧米諸国では、ジョブディスクリプション(履行すべき職務の内容・範囲)が明確であり、人事の仕組みも『職務内容を明記した採用』『社内公募が主となる採用後の異動』『従業員の同意が前提の異動・転勤』『職務にリンクした賃金制度』といったように、日本とはかなり異なります」

このような欧米との違いがある中、鶴氏は、日本の雇用・労働に関して解決すべき問題点を「非正規社員の増大による雇用の不安定と、待遇格差に象徴される労働市場の二極化」「正社員の長時間労働」「女性の活躍、就業・家庭の両立が不十分」「人材資源が産業や企業横断的に適切に配分されていない」の四つに集約する。

「これらの問題は、全て正社員の無限定性と密接に結び付いています」

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「ジョブ型正社員」が日本の雇用の形を変えるきっかけに

この問題を解決するため、導入が期待されているのが「ジョブ型正社員」。ジョブ型正社員とは、職務、勤務地、労働時間のいずれかが限定された正社員のことだ。労働時間については、フルタイムよりも労働時間が短い短時間正社員とフルタイムだが残業がない正社員の二つのタイプが存在する。では、「ジョブ型正社員」を導入した場合のメリットは何なのか。

「ジョブ型正社員なら、例えば職務限定の場合、働く人が自分のキャリアや強みを意識し、価値を明確化できます。さらに、専門性に特化したプロフェッショナルな働き方ができるといったメリットもあります。勤務地・労働時間限定の場合は、男女ともに子育て・介護と仕事を両立させる働き方、ライフスタイルに合わせた勤務が可能になるなど、ワークライフバランスの実現に効果的です。事実、満足度について調査すると、労働時間短縮、残業なしの正社員は仕事に対する満足度が相対的に高くなっています」

ただ、このようなジョブ型正社員を普及していくには、日本的な「後払い賃金システム」の見直しが必要だという。なぜなら後払い賃金システムは、40代以降の生活保障システムであり、日本的雇用システムの労働者にとっての“恩恵”の最も大きな部分だからだ。その結果、転職の大きな阻害要因にもなっている。

「これからはキャリアの途中から、一定の割合の正社員はジョブ型に転換していくことが必要ではないでしょうか。30代前半から半ばあたりで、幹部を目指す無限定正社員とそれ以外のジョブ型正社員に分かれる。40代以降、賃金プロファイルの形状はなだらかなものとなり、転職も可能です。そのためには、夫婦が共働きをして、二人合わせてそれなりの年収を得ることが必要で、長時間労働是正、ワークライフバランス、そして家庭によるサポートが重要になります」

つまり、ジョブ型正社員のデフォルト化は、共働きのデフォルト化を進めることになるのだ。ただジョブ型正社員の場合、限定的な職務をずっと担当することになるので、さまざまな仕事を経験し、スキルを習得する機会が失われることになる。企業としても、ゼネラリスト、幹部社員の育成ができないことが問題点として残る。

(3)生産性を向上させる働き方改革とは?

「ICT(情報通信技術)の徹底活用」で、時間当たりの生産性を向上させる

生産性を向上させるポイントとして、鶴氏は「ICT(情報通信技術)の徹底活用」と「新たな機械化・人工知能の衝撃に立ち向かう」の2点を挙げる。

「今、我々が一番意識しなくてはならないのは時間当たりの生産性を意識した働き方であり、そのためにはICTの徹底活用が不可欠です。企業間の競争が激化する中で、限られた時間で効率よく働くことが問われています。ICTを活用すれば、従業員の仕事ぶり(努力・プロセス)のモニタリングや成果の計測が容易になり、その結果、生産性が向上します。また、在宅ワークでもモニタリングが容易になり、成果が観察しやすくなれば、在宅でできる業務の幅は拡大していくでしょう。そして、長時間労働が難しい女性・高齢者などの労働参加が進むと推測されます。

その結果、場所を選ばない柔軟な働き方である『テレワーク』がより進むことでしょう。テレワークによって、オフィスや通勤に要するコストが削減され、働き手にとってもライフスタイル・ステージに合わせた勤務が可能になります。さらに電子メールやイントラネット、クラウドなどで情報の共有化が進むことによって、生産性の向上が期待されます。ただ一方で、長時間労働になりやすい、という問題点も挙げられています。テレワークによる従業員のパフォーマンス向上は、長時間労働によって引き起こされている可能性があるのです。この点が、今後克服すべき課題です」

技術的失業がまん延しないために何が必要か

ではこれから、新たな機械化・人工知能の進化にどう立ち向かうのか。新たな技術が職を奪うという出来事は、歴史上何度も起こってきたが、技術の進歩で代替される仕事、代替されない仕事とは何なのか。例えば、職務(ジョブ)を「ルール・手順を明確化できる定型的職務(現金出納、単純製造など)」と「仕事の仕方を暗黙的に理解している非定型的職務」に分けると、前者は中スキル・中賃金職務を形成してきたが、新たな機械化の影響を受けやすいこともあって、欧米、日本ではその割合が低下している。さらに、非定型職務を知識労働と肉体労働に分けると、非定型知識労働は高スキル・高賃金職務を形成する一方、非定型的肉体労働は低スキル・低賃金職務を形成し、両者の割合が概ね増加するという職務の二極化が先進国で起きている。

「長期的には技術革新、人口知能の発達などによって、人間の労働者が不要になる可能性があると警告する学者もいます。最近の技術革新のスピードはかなり速く、人間しかできないとされてきた領域まで浸食してきたからです。また、暗黙知が活用されるパターン認識(例えば写真を見て、それが何なのか判別できる力)も、豊富なデータを機械に読み込ませることによって暗黙ルールを推測し、ベストな予測をさせることも可能になってきています。今後は何が起きるか予想がつかなくなっていると言えるでしょう」

それでは将来、技術的失業がまん延しないために、どのようなことを準備しておくべきなのか。。

「機械で代替されるのではなく、補完的になるようなスキルを生み出す人的資本投資が必要です。機械にはないスキルで、新たな機械の登場により価値が高まるスキルを養成すること。例えば、柔軟な発想によりこれまでにない新しいアイデアやコンセプトを思い付くスキルなどです。機械は答えを出すことはできても、問いを発する能力はいまだに備わっていません。どこまでも人間にしかできないことは残るはずで、人間にしかできないことを判断するのも人間であることを忘れてはいけません。また、人間と人工知能との協働が重要になります。それこそが、人間が人工知能を上回り、人工知能に支配されない唯一の道であると考えます」

(4)解雇無効時における金銭救済制度はどうなるのか?

紛争解決システム向上に向けた「紛争の未然防止」「紛争の早期解決」「紛争解決の多様化」を

最後は、解雇無効時における金銭救済制度導入についての解説がなされた。

「雇用終了に関する紛争解決の現状としては、都道府県労働局や労働委員会の『あっせん』、裁判所の『労働審判手続き(調整)』などの制度が整備されています。また、裁判所の『訴訟』とともに、目的や事情に応じた解決手段の選択、金銭的な解決も可能といったように、メニューが増え、ある程度機能していることがわかります。ただ、問題点も挙げられています。まず、解決までに要する時間的・金銭的コスト(弁護士費用など)をどこまで負担できるかで、手段が限定されています。労働局のあっせんは利用しやすいのですが、解決率が低く、不当な解雇でも解決金すら得られない場合もあります。訴訟において『解雇無効』の判決が出た場合、雇用契約の継続を確認することになるわけですが、同じ職場に戻れるとは限りません。結局、労使の利益に沿わない場合も多いのです。

私は規制改革会議の中で、重要なのは、労働者の選択肢を増やすことであり、金銭解決は労働者側から持ちかけることが重要であるという提言を行いました。その後、2015年から厚生労働省で『透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会』が開催されることになりました。ただ、労使双方からの例示がある中、それぞれに問題点や賛否があり、なかなか合意点を見いだせる状況にはありません」

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鶴氏は、解雇・雇用終了にまつわる紛争について、重要な点を三つ挙げた。

「第一に、紛争そのものをなるべく起こさないようにする『紛争の未然防止』が重要です。第二に、もし紛争が起こったとしても、多様な解決手段が有効に活用され、利用者の視点からより使いやすく、かつ労使双方が納得するような『紛争の早期解決』が実現することが必要です。第三に、紛争の決着が図られた際にも、その解決の仕方を労使双方の利益にかなう方向で『紛争解決の多様化』をすることが重要です。具体的には、訴訟における救済の選択肢を多様化し、労働契約関係の継続以外の方法で、労使双方の利益にかなった紛争解決を可能にする制度が不可欠です」

「解決金制度」では、労働者側に交渉権を持たせる

その中で、「紛争解決の多様化」が喫緊の課題であり、制度としては裁判所の訴訟における「解決金制度」の検討が重要だという。

「解決金制度は、不当解雇の場合、法律で定められた一定額の解決金を使用者から労働者に支払う仕組み。留意すべきは、金銭で解雇を正当化する制度ではないということです。ちなみに、欧米では解決金制度の利用は一般的になっています。解決金の額については、法律などで勤続年数に応じて、不当解雇の際に支払われるべき目安額が示されているのです」

そして、鶴氏は解決金制度の今後の展望についてこう語った。

「日本の場合、解決金制度の有用性は低いのではないかと思われていますが、解雇が無効とされた場合の解決金の水準に目安ができれば、裁判の和解、労働審判、労働局のあっせんにおける適切な目安の形成に波及する効果が期待できます。そうなれば、それぞれ異なる解決手段においても、迅速な審理や解決金の予測ができるようになることでしょう」

ただ、解決金制度を導入するためには、いくつかの問題点を克服する必要があるという。複雑な利害対立のほか、特に解決金による解決の申し立ての権利を労働者側に与えるか、使用者側に与えるかという問題が重要。この点については、訴訟における救済の多様化、選択肢の拡大という趣旨を尊重すれば、労働者に交渉権があることが求められる。

「まずは労働者側からの申し立てのみ認めるところから、制度設計を開始すべきでしょう。解決金の目安ができれば、紛争解決の効率化、スピードアップが図られ、労使双方にとってメリットになるはずです。また波及効果として、解雇が容易になるのではなく、良い意味での労働移動が推進されていくことにつながります。大事なのは、多様な働き方が実現されること。さまざまな人が労働市場に参加できる社会を構築することなのです」

大きな環境、技術の変化に対して、人材、経済を覚醒する雇用制度改革、人材育成を大胆に進めることこそが、新たな機械化・人工知能の衝撃を乗り越えるために必要であることを、改めて鶴氏は強調した。「人事担当者が主導権を握り、働き方改革を進めていくことが必要です」と人事担当者にメッセージを送り、鶴氏の講演は終了した。

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