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従業員の幸福度を高めるワークショップ~人事が知るべき「幸せの四つの因子」とは?~

  • 前野 隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科教授)
2017.07.11 掲載
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これまでの幸せに関する研究を体系化し、「幸福学」という独自の学問領域を打ち立てた、慶應義塾大学大学院の前野教授。哲学や心理学における幸福研究とは異なり、工学者としての知見を生かし、直接人々の幸福度向上に役立つ研究を推進している。前野氏には、その研究結果を企業経営や仕事に生かせるものにしたい、という思いも強い。従業員が幸せな会社はイノベーションが起こりやすく、業績も向上しやすいからだ。本セッションでは、幸せに影響する四つの因子を含め、幸せに関する研究の基礎、幸福度を高める研究活動の内容を紹介した上で、参加者全員で企業向けのワークショップの一部を体験した。

プロフィール
前野 隆司氏( 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科教授)
前野 隆司 プロフィール写真

(まえの たかし)1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。専門は、幸福学、感動学、イノベーション教育、システムデザイン、ロボティクスなど。『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『幸せの日本論』(角川新書)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩文庫)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP)、『思考脳力のつくり方』(角川oneテーマ21)など著書多数。


Well-Being(健康・幸福)研究の基礎を理解する

前野氏はまず、幸福学の研究を行うようになった経緯から話し始めた。

「私は若いころ、メーカーのエンジニアとしてカメラの開発に携わりました。その後、慶應義塾大学の機械工学科で、ロボットや脳科学に関する研究を行っていたのですが、人間の心をまだ解明できていなかったし、ロボットの幸福よりも人間の幸福のメカニズムを解明し、人間が笑顔になる社会を作ることのほうが大切ではないかと考え、幸福の研究に軸足を移すようになりました。きっかけは、2008年に『システムデザイン・マネジメント研究科』という、文理を越えて大きな視点からシステムをデザインしようとする研究科が慶應義塾大学大学院に設立されたこと。この研究科で研究しているのは、『イノベーション』です。私は、システム×デザイン思考で世界を変え、ゼロから新しい何かを生み出していきたいと考え、この研究科に移りました。実はイノベーションの条件と幸せの条件とは、非常に似ています。そこで私は、幸せの工学的研究を行おうと決意したのです」

現在、「健康経営」と称して従業員を健康にしようという取り組みが進められているが、本当はもっと広い意味での健康、心の健康を含めた心の幸せが大切であるという。

「幸せな従業員は、創造性があって仕事のパフォーマンスが高く、組織を活性化します。人のために働く、言い換えれば利他性とも相関関係があります。さらに、うつになりにくく、離職率も低い。つまり幸せな従業員は、仕事ができてイノベーションも起こせるのです。幸福度が高ければ健康で仕事もできるのですから、幸福度を高めない理由がありません。実際、従業員満足度よりも従業員幸福度のほうがパフォーマンスに影響する、という結果も報告されています。それだけ優れた指標なんですね。幸せを経営に生かす幸福経営学や、それを使えば使うほど人々が幸せになれる幸福貢献型の製品やサービス作りにも、私は力を入れています」

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ここで、前野氏が「Well-Being(健康・幸福)経営」というキーワードを提示した。

「最近は、人事の分野でも働き方改革、イノベーション、リーダーシップ、ワークエンゲージメントなどの必要性が叫ばれています。これらは、健康や幸せと関連性があります。例えば、人事担当者や健康保険組合の担当者は社員に健康になってもらいたいと考え、経営者はもっと業績を向上したいと考えていますが、私は全部一貫して取り組むべきだと思っています。それが、『Well-Being経営』です。Well-Beingとは、『良いあり方』、あるいは『良好な状態』という意味。体が良い状態にあることを『健康』と言い、心が良い状態にあることを『心の健康』『幸せ』と言います。

日本では『メンタル』というと、心が病んだ状態ばかりを対象にしていることが多く、心が良い状態はほとんど意識されていない。多くの人は体の健康のために、食事に気を配ったたり、運動したりしますよね。しかし、メンタルは病気にでもならない限り、放ったらかしのまま。これが問題なのです。本当は幸せも健康と同じように日ごろからきちんとセルフチェックして、幸福度が少し下がり気味であれば原因を解明しなければならない。克服すればスコアが上がり、心の状態を幸せにすることができます。現在はそういうことが可能な時代なのです」

では、幸せはどのようにすれば測れるのだろうか。幸せを計測するさまざまな研究が進められているが、それぞれの主観的な幸福度を統計的・客観的に見る「主観的幸福」と収入、安全、健康、脳波、笑顔など、幸福に関係しそうなものを計測して幸せの指標とする「客観的幸福」に大別されるという。

「現時点では、アンケート調査による主観的幸福の研究のほうが信ぴょう性が高いと言われています。主観的幸福の研究には、『幸福学の父』と呼ばれるエド・ディーナー博士が考えた『人生満足度調査』や、フレデリクソン教授らによる『感情的幸福』という尺度もあります。前者は五つの質問を7段階で聞いて、回答の合計から人生満足度を測ろうとするもので、長いスパンの幸せ、何十年レベルの幸せを測る尺度です。一方、後者は現在が幸せな気分かどうかを聞き、幸福度を測ろうとするものです。非常に短期的な幸せを測る尺度です。前者の人生満足度調査で調べると、実は日本は米国よりも幸福度は上なんです」

カネやモノに関する幸せの研究も多々行われている、と前野氏は説明する。

「収入と幸せの関係を研究したのは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士です。縦軸に幸せ、横軸に年収を取ると、年収7万5000ドルまでは収入と感情的幸福が比例しますが、7万5000ドルを超えると比例関係が見られなくなると発表しています。また、長続きする幸せと長続きしない幸せがあることを研究したのは、英国の心理学者ダニエル・ネトル教授です。結論からいうと、カネ・モノ・地位など、他人と比較可能な『地位財』による幸せは長続きせず、それに対して安全、健康、心など他人との比較に関係なく得られる『非地位財』による幸せは長続きする。だから、『非地位財』を高めましょう、と呼びかけています。皆さんのなかには、『そうは言っても企業はもうけなければいけない。カネ・モノ・地位を目指すべきでは』という方もいらっしゃるかもしれません。しかし私は、地位財と非地位財をバランスよく求めたら良いと思っています」

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人が幸せになるための四つの因子がある

そこで、前野氏が行ったのが心による幸せ(psychological well-being)の分析だった。幸せの心的要因に関連するアンケートを1500人の日本人を対象に行い、その結果を因子分析して、「幸せの四つの因子」を導き出したのだ。

「心に関連する、幸せの要因は100個近くあります。とても覚えきれません。そこで、因子分析を行ったのです。その結果求められたのは、『やってみよう!因子』『ありがとう!因子』『なんとかなる!因子』『ありのままに!因子』という四つの因子です。このうち、『ありがとう!因子』だけが他人との関係性の質に関わるもので、残りの三つは個人のあり方に関わっています。もう少し詳しく説明すると、『やってみよう!因子』は、自己実現と成長の因子とも言い換えられます。自己実現と成長ですから、夢や目標を実現した人は幸せで、夢や目標を持っている人は持っていない人よりも幸せだ、ということになります。『なんとかなる!因子』は、前向きと楽観の因子です。前向きで楽観的で自己受容ができて、何とかなると思っている人は幸せだ、ということです。『ありのままに!因子』は、独立とマイペースの因子です。ある程度はマイペースだけれど、やるべきことは自分らしくやる、という因子です。『ありがとう!因子』はつながりと感謝の因子です。さまざまな人に感謝し、許容・承認・尊敬・信頼するとともに、自己有用感がある状態を指しています」

ワークショップや研修などを通じて、前野氏はどんな職場作りを目指していきたいと考えているのだろうか。

「四つの因子を高める経営は、従業員を幸せにします。私がワークショップなどを通じて目指しているのは、『従業員一人ひとりが本当にやりたいことをやっている』『何とかなると思うだけでなく、私が相談に応じるから何とかしよう、と言ってくれる人が周囲にいる』『やりたいことがあるなら、人の目を気にせずぶれずに行動する』『あらゆる物事への感謝と貢献をする』といった職場を作ることです。

同じ仕事をしていても、やらされ感で働いている人と、社会に役立つことをしていると感じて働いている人とでは、その内容が全く異なります。今の仕事が、実は自分がやりたかったことなんだと気付くだけでも、大きく変われるのです。また、信頼関係、良好な人間関係があると、人は頑張れます。

イノベーションを起こそうとしても、最初は周囲から反対だらけ。その反対を押し切って皆に信頼してもらい、上司やメンバーを説得して多くのネガティブなことを乗り越えていかなければなりません。それには、『何とかなる!』という気持ちとぶれない強さ、助け合う仲間がすべて揃わないとダメなんです」

では、幸せな会社、経営者、従業員とはどのようなものなのだろうか。

「本当に人生をかけ、やりたいことをやっている人は幸せです。究極の幸せと言ってもいいでしょう。日本にも、全従業員が自分の人生を賭けてやりたいことをやっている会社はあります。そこには、前向きでリスクを取る風土がありますし、多様かつ個性的な従業員が自分らしく、自立的に働いています。さらには、信頼・尊敬できる仲間と感謝を大切にしている。そういった会社は幸せだといえます」

ここで、前野氏は「幸福学」の基礎として冒頭から語ってきた幸せのメカニズムをもう一度整理した。

「幸せには、長続きする幸せと長続きしない幸せがあります。長続きしないのは、カネ、モノ、地位。長続きする幸せは、環境と健康と心。その心には四つの因子があって、それらを高めていこうとする経営は実現可能です。これを実現すると、従業員は幸せになります。具体的には、やりがい、つながり、リスクを取ること、自分らしさを高める組織づくりや研修などを行っていくと、幸福度が上がっていきます」

では、どのようにして幸福度の向上を研究しているのか。ポイントは、四つの因子の計測であるという。

「私たちがよく行う活動としては、まず従業員の幸福度を測ります。アンケートで四つの因子に関わるいくつかの質問を出し、その傾向を把握するのです。例えば、『やってみよう!因子』については、『私は有能である』『私は社会・組織の要請に応えている』など。『ありがとう!因子』だと、『人の喜ぶ顔が見たい』『私を大切に思ってくれる人たちがいる』など。

『なんとかなる!因子』では、『私はものごとが思い通りに行くと思う』『私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない』など。そして、『ありのままに!因子』では、『私は自分と他者がすることをあまり比較しない』『私に何ができないかは外部の制約のせいではない』などです。それぞれの質問に対して、七つの段階を提示し、自分はどの状態にあるかを回答してもらいます。その次は、幸福度を向上するワークショップを体感してもらったり、幸福度を改善する提案をしてもらったりします。時には、幸福度を高めるための提案を部署ごとに競うことも。少し介入して人々の人間関係を変えるだけで幸福度が急激に高まった、というコンサルティング事例も報告されています」

図:「幸せの四つの因子」を測る質問項目
「幸せの四つの因子」を測る質問項目

幸福度を高めるウェルビーイングプログラムを体験

ここからは、前野氏が企業向けに行っているハッピーワークショップを、参加者が体験した。三人一組のチームで行う形式だ。三人で行うと、話す時間が1に対して、聞く時間が2となる。「ありがとう!因子」の関係を作りながら、何とかやってみようとすると、幸福度が一段と高まるという。まず、自分自身の転機としてどのようなことがあったのか、そしてその転機から得た自分の強みは何かを、チーム内で共有した。

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「転機は必ず、自分の強みにつながっています。それを振り返って、チームの仲間と話す。どんどん掘り下げた質問に答えていくと、自分はここで成長したんだ、ということがよくわかります。感動的なストーリーになることも多い。それに、過去を共有するとお互い仲良くなれるんです。だから、職場でこれをやると、すぐに幼なじみのような関係になります。

ここで、対話のルールを挙げます。とにかく相手の話を聞くこと。相手を尊重すること。批判・助言はしないこと。そして、まとまっていなくても良いので、とにかく声に出してみること。子供の頃からの友達になったような感じで、オープンに聞くことが幸せの第一ステップです」

その後、チームごとにワークショップが行われた。過去に自分が成し遂げたことを掘り下げるワークも有効なのだそうだが、今回は自分の夢や目標といった、未来の話を相手の目を見ながら話すことになった。終了後、どんな夢が語られたかを、二人が発表した。

Aさん:私は言葉のトレーニングをすることで、自分も周りもハッピーになるという「ハッピートーク」という活動を推進しています。私の壮大な夢は、そのハッピートークの輪が日本中の小学校に広がることです。

Bさん:良い意味で昭和らしい雰囲気がある金融機関で、人事・人材育成を担当しています。会社として人材育成に意欲的なのですが、多くのノウハウが形式知化されていません。そこを何とか改善し、有益な仕組みを作り上げていきたいと思います。

続いて、感謝のワークが行われた。時間は10分程度。参加者が「誰・何に感謝しているのか」をチーム内で共有することで感謝の因子の強化につなげた。

「感謝について深掘りすると、良い時間を過ごせます。夢について語った時はドーパミンが出るんですが、感謝について話すとセロトニンやオキシトシンが分泌されます。こうしたことを繰り返し行えば習慣になりますし、幸せな気分になってきます。関係が良くなったところで、自分の強みを用いることによって、職場の人間関係上の課題や仕事上の課題を解決できないかを考えると、うまくいきます。劇を行うこともあります。三人で最も印象的だった話を演じるのです。劇は、四つの因子をすべて満たしています。本当にお勧めですよ」

最後に行われたのが、承認・感謝・尊重のワーク。チームのメンバーに良かった点を書いて渡す、というものだ。批評は一切しない。あくまでもポジティブに捉え、声にしながら相手に聞かせてあげるように、という指示が出された。

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四つのワークショップが繰り広げられた後、一つの質問が寄せられた。

Cさん:以前、当社では、感謝の声を投げ入れる「感謝ボックス」を設けていました。でも結局、長続きはしませんでした。どうすれば良かったのでしょうか。

「幸福度はワークショップの後はグーンと上がるのですが、その後は下がってしまうこともあります。私が研修を提供している企業でも同様でした。徐々に誰も『感謝ボックス』を使わなくなってしまった。それに伴って、感謝という大切なことも忘れられがちになっていました。では、どうやってその問題をどう解決したかというと、『感謝ボックス』を『夢ボックス』という名前に変えてみたり、部署間で競争したりしたんですね。特に競争の効果は絶大でした。俄然盛り上がるようになりましたから。いろいろと工夫をしてみるというところに、改善につながる意外なヒントがあるのかもしれません。皆さん、いろいろと試みながら、ぜひ幸せな会社、幸せな社会を作っていってください」

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