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人事が知るべき「聴き方」「話し方」~心のコミュニケーションが組織を活性化する~

  • 島田 由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
  • 下福 直子氏(株式会社三越伊勢丹ホールディングス グループ人財本部 人事部人財育成担当)
  • 宮城 まり子氏(法政大学 キャリアデザイン学部教授 臨床心理士)
2017.06.21 掲載
株式会社三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ講演写真

社員は会社に対して何を不満に思い、どんな要望を持っているのか。人事は社員の本音を聴き出すために、心のコミュニケーションを取り、信頼関係を構築しておく必要がある。そのために人事は、社員から何を「聴き」、何を「話す」べきなのか――。ユニリーバ・ジャパンの島田氏、三越伊勢丹の下福氏、法政大学の宮城氏によるセッションで、解き明かしていった。

プロフィール
島田 由香氏( ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
島田 由香 プロフィール写真

(しまだ ゆか)1996年慶應義塾大学卒業後、日系人材ベンチャーに入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得、米系大手複合企業入社。 2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。中学一年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLPⓇトレーナー。


下福 直子氏( 株式会社三越伊勢丹ホールディングス グループ人財本部 人事部人財育成担当)
下福 直子 プロフィール写真

(しもふく なおこ)1992年 株式会社伊勢丹入社、婦人服の販売に4年間関わったのち、米国ニューヨーク駐在事務所勤務。2000年に帰国し、BPQC営業部にて婦人服の企画から生産までを担当。2003年 婦人特選営業部インポートプラザバイヤーを経た後、2006年 株式会社キャリアデザイン(現三越伊勢丹ヒューマンソリューション)に出向し総合職の新卒採用を担当したのち、株式会社伊勢丹人事部、新宿本店営業運営担当など要員に関わる業務に携わる。2012年より三越伊勢丹ホールディングス人事部にて、総合職を中心に採用・キャリアパスを担当。


宮城 まり子氏( 法政大学 キャリアデザイン学部教授 臨床心理士)
宮城 まり子 プロフィール写真

(みやぎ まりこ)慶應義塾大学文学部心理学科卒業、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。臨床心理士として病院臨床(精神科、小児科)等を経て、産能大学経営情報学部助教授となる。1997年よりカリフォルニア州立大学大学院キャリアカウンセリングコースに研究留学。立正大学心理学部教授を経て、2008 年4 月から現職。専門は臨床心理学(産業臨床、メンタルヘルス)、生涯発達心理学、キャリア開発・キャリアカウンセリング。他方、講演活動や企業のキャリア研修などの講師、キャリアカウンセリングのスーパーバイザーとしても精力的に活躍している。著書には、『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)、『産業心理学』(培風館)、『7つの心理学』(生産性出版)、『聴く技術』(永岡書店)などがある。


宮城氏によるプレゼンテーション:「聴く」から始まる相互理解

まず宮城氏が、人事に必要なコミュニケーションについて解説した。コミュニケーションとは、対話を通して互いに交換しあい、共有性を築いて相互理解をすることだ。

「では、そこで何を共有するのかというと、情報、意思、感情です。特に感情や気持ちといった感性の部分は、いま非常に衰えています。心の欲求は何か、相手のニーズは何かと考えながら、相互の理解と共感を図ります」

人事には、会社と社員個人のニーズを統合する役目がある。その統合を図るには、オープン・コミュニケーションが必要だ。

「ありたい自分、なりたい自分、やりたいこと、大切にしたいことなど、ありのままを自由・率直にオープンに話せる風土をつくる。また、マイナス情報や疑問、不平、不満もありのままに話せる職場・組織をつくることが重要です」

宮城氏は、人事は社員一人ひとりの生の声に謙虚に耳を傾け、その声を活かさなければならないと語る。制度だけが整っていても、血の通った運用ができなければ意味がない。そのうえで、個人の成長を組織の成長へ結びつけていくことが重要だ。「育てる」から「自ら育つ」組織に変革するために、人事は個と向き合い、心のコミュニケーションを徹底しなければならない。

では、会社と社員の間に信頼関係を築くにはどうすればいいのか。宮城氏はここで心理学にある、信頼関係の形成につながる「期待の法則」を紹介した。

「期待されていることを知り、相手のニーズを正しく理解し、確実に期待に応える。それを繰り返すことで、互いに信頼が生まれます」

しかし、個人により捉え方や考え方は異なる。そのため、相手の言うことを本気で「聴く」ことから始まる相互理解が必要になる。宮城氏は「人材育成は真摯な傾聴から始まる」と語る。ここで重要になるのは、社員への質の高い面談だ。

「面談は1対1のコミュ二ケーションの場であり、日頃からの信頼関係に規定されます。上司の熱意、部下への期待をきちんと伝え、効果的なフィードバックを行い、部下自身に考えさせることが重要。面談は英語でinterviewですが、質問をして話を引き出すことが求められます」

また、宮城氏は個人がキャリア充実感を持つためには六つの因子があると言う。「1.自分は認められ、評価されている」「2.自分の成長を感じることができる」「3.自分が組織・他者に貢献できている」「4.自分が活かされている」「5.自分が必要とされている」「6.自分は信頼されている」の六つだ。

「皆さんは、これらを重視できているでしょうか。このようなコミュニケーションには会社と個人との間の『互聴』が大事です。両方が聴きあう関係から深い信頼関係をつくり、組織風土をつくることが重要です」

講演写真

島田氏によるプレゼンテーション:本当のコミュニケーションとは何か

次に島田氏が登壇。人事として大事にしている、本当のコミュニケーションのためのキーポイントをあげた。

「一つ目は、安心・安全な場を作ることです。人事が社員に、リーダーが部下に、そんな場を作れているでしょうか。二つ目は、『言った』からといって、必ずしも『伝わった』ことにはならない、ということ。皆さんも経験があるかと思います。三つ目は、人間は解釈の世界で生きているということを理解すること。これはコミュニケーションする上で大事なことです。個々で認知は違います。

四つ目は、『聞く』と『聴く』の違い。『聴く』は耳だけでなく、目や心も使って聞くことを意味します。五つ目は、『見る』と『観る』の違い。『観る』は、目的を持って見るという意味です。六つ目は、信じること。相手のことを信じているか、自分を信じているか。そして、見えないものの力を理解しているか。心や気持ちは見えないので、そこに対して思いを持つことでコミュニケーションは変わってくると思います」

ユニリーバは世界190ヵ国でビジネスを展開しており、一つひとつの国の消費者のことを理解することが求められる。その際に重要なのがコミュニケーションであり、「聴く」という作業だ。

また、人の気持ちには意識と無意識があり、見えていないところに大事な要素がある、と島田氏は語る。大事なのは相手のニーズを察することだ。

「行動の裏には感情がある、と社員には伝えています。そして、そのまた奥にニーズがある。そこに気づけるかどうか。もう一つ大事なことは、自分自身のニーズに気付いているかどうか。それを理解することも大事だと思います」

ユニリーバでは、二つのコミュニケーションのトレーニングを行っている。一つ目はUJUL(ユニリーバ・ジャパン・Uリーダーシッププログラム)だ。

「これはU理論を使ったトレーニングで、自分自身への信頼を強化していきます。自分の行動や感情を観察し、それがどこから生まれたのかを考えていく。自分のニーズに気が付き、次にこういう行動をしてみようと変わっていきます」

もう一つは、Synergy(シナジー)というワークショップ。人と人のシナジーを増やし、チームとしての機能を最大化する、というものだ。これにより、すべては信頼がベースであること、また、信頼関係をつくるには自分から弱みを出すことが必要であることを知ることができる。

最後に島田氏は、これからの経営・人事にとって大切になる要素について語った。

「これからは理論とともに、感情を扱えることが求められます。マネジメントではなく、ファシリテーションで相手から言葉を引き出していく。そして、相手をしんぱい(心配)するのでなく、しんらい(信頼)していく。「ぱ」を「ら」に変えるだけですが、大きな違いがあります」

講演写真

下福氏によるプレゼンテーション:一人ひとりと「向き合う」

続いて下福氏が登壇。三越伊勢丹ホールディングスでは、人事が「1000人キャリア面談」を行っている。実施した理由は、生産性の向上だった。

「生産性には、量の生産性と質の生産性があります。量は、人数、チームの要員、年齢、役職、職務など。質とは、一人ひとりが持つ能力を最大化して、生産性をあげることです。従業員一人ひとりが『自分は会社から大切にされている』と思えることが大事ではないかと考え、面談を実施しました」

1万2000名超の従業員一人ひとりと徹底的に向き合うことを目的に、人事は年間1000人とのキャリア面談を行っている。5年間で、約6000名と面談した。

「対象は、部長職から時給制契約社員(希望者)まで。一人45分~1時間程度で、現在の課題や悩み、キャリアイメージをヒアリングし、アドバイスしています。キャリア意識の醸成はもちろん、人財情報の把握にもつなげています。面談の結果をもとに、新たな制度が生まれることもあります」

面談によって、従業員に関する誤解もいくつか判明した。その一つは、契約社員が「正社員への転換を希望しない」理由だ。

「上司たちに聞くと、『皆キャリア志向ではないんだよ』と言います。しかし、本人たちに聞くと、『私でいいんですか』『私にできるんでしょうか』など、応募すること自体に不安を抱えていることがわかりました。人事が大丈夫だと伝えることで、チャレンジしようとする人が増えました」

マネジャー試験でも、同様なことが起きていた。総合職で入社していないメンバーは、自分はマネジャーになるなどしてキャリアアップしていく対象ではない、と思い込んでいる人が多かったのだ。

「昇進を積極的に勧めていない部署もありました。そこで私たちが『たとえ入り口が違っても、入社後は誰もが同じです』と声をかけ、受ける人が増えました」

面談によりもっとも大きなズレが判明したのは、育児中の社員たちの思いだった。フルタイムで働いていた人が育児のために短時間勤務に変わったとき、当時は本人の負担軽減を考えて役職を離れることになっていたのだが、それを「自分のキャリアが後退した」と疎外感を感じてしまうケースが多かったのだ。

「また、育児と仕事を両立する際、すべての人が勤務を短くしたり減らしたりしたいのではなく、従来通り働きたい人もたくさんいることがわかりました。仕事との両立のあり方は、人それぞれ。そこで、1ヵ月に10日だけフルタイムで働ける申告制度をつくり、希望者には役職に就いてもらう制度を整備しました」

面談というコミュニケーションを続けた結果、いろいろな好影響も表れている。

「パートタイムから始めて管理職になった方が、2012年以降、7名誕生しました。一般的に新入社員の退職率は3年3割と言われる中、当社では、入社3年以内の退職率が5%を切っています」

講演写真

ディスカッション:組織を変えていくコミュニケーションとは

宮城:ユニリーバでは2016年7月に新人事制度「WAA」(Work from Anywhere and Anytime)を導入されていますね。

島田:「WAA」は働く場所・時間を社員が自由に選べる制度で、平日6時~21時で自由に勤務時間や休憩時間を決められます。社員にアンケートをとったところ、「制度が始まって生活はどうなりましたか」という質問に対して、68%が「よくなった」と回答しています。データ集計によれば、生産性も30%アップした、という結果が出ています。

宮城:マネジメント面では難しいところもあると思いますが、現場の状況はいかがですか。

島田:メンバーを信じ、仕事を任せてうまくいっている部署もあれば、逆に管理を強めて、別のルールをつくっているマネジャーもいます。マネジャーの力量の違いがよくわかりますね。

宮城:この制度は「評価」という土台がしっかりしていないと、成り立たないように思います。他社でこの制度を導入するとしたら、必要になる条件はありますか。

島田:条件の一つは、仕事の結果をきちんと見ることです。アウトプットに対しては、的確な評価やアドバイスが必要です。もう一つは、メンバーに何を期待しているかを伝える力。こういった対話ができるかどうかがとても大切ですね。

宮城:下福さんにお聞きします。面談の話がありましたが、人事だと相手が身構えて正直に話してくれない、ということはありませんか。

下福:面談を始めて最初に会った方は、席に座るなり「僕はリストラされるのですか」とたずねてきました。そこで現在は面談の目的を紙に記し、「今日の面談の目的は、自己申告では見えてこない、上長のヒアリングでも聞こえてこない、社員の思いを本人の口から聴くこと、そして、自分のキャリアの棚卸をすることで将来を考えるきっかけにしてほしい、ということです」と伝えるようにしています。中には退職に関わる話もあるので、気を付けて聞くようにしています。人事がヒアリングしたことで退職を防止できたという例もあり、それを聞いた部門長から、「様子が心配な部下の話を聞いてやってほしい」と、面談をお願いされることもあります。本人と所属の上司、人事の三者による偏りのない関係が、前提としてあることが大事なのだと思います。

宮城:あらためて、人事が今後心がけなければならない、コミュケーションは何だと思われますか。

島田:人事には、高い意識と聴く力が求められます。では、どうすればそれが身に付くかというと、私はすべて「パッション」だと思っています。相手が持つ可能性を信じ、本気で花開かせたいと思っていれば、それが聴く力になるはずです。

下福:社員からヒアリングする際にいつも悩ましいのは、本人に近過ぎるとただ話を聴くだけになり、会社の立場に立ち過ぎると話を聴く意味がなくなってしまう、ということです。常に中立を心がけながら、「面談を通して人事として何ができるのか」という意識を持つことで、コミュニケーションの質を高めたいと考えています。

宮城:人事が社員から話を聴くことで、社員本人に気付きが生まれ、自ら変わろうとするようになる。すると組織全体も、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。本日は、ありがとうございました。

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三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズは、三越と伊勢丹の各人事部がベースとなって設立された会社です。日本の伝統を誇る百貨店グループで培ったナレッジを元に、お客さまの<顧客接点>に係る課題について<人>の側面から教育研修、人材派遣、紹介・採用代行をご提供しています。

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