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真の「戦略人事」を実現する

  • 金井 壽宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
  • 八木 洋介氏(株式会社people first 代表取締役/株式会社ICMG 取締役/元 株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事総務担当)
2017.06.21 掲載
ワークデイ株式会社講演写真

戦略人事が重要だと言われるようになって久しいが、その本当の意味を理解し、実践できている日本企業は少ないのが実状だ。長年にわたり人事部門を歩んできた八木氏は、その状況に警鐘を鳴らす。多くの人事が思考停止に陥っていて本来の目的を理解できていない、と。それでは、真の「戦略人事」を実現するにはどうすればいいのだろうか。八木氏と神戸大学大学院教授・金井氏がディスカッションを行った。

プロフィール
金井 壽宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
金井 壽宏 プロフィール写真

(かない としひろ)1954年神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程を修了。89年MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメント、働くひとのキャリア発達、次期経営幹部の育成、これからの人事部の役割、研究とつながる教育・研修のあり方(リサーチ・ベースト・エデュケーション)を主たるテーマとしている。これらにかかわる論文や著作が多数。『変革型ミドルの探求』(白桃書房、1991年)、『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005年)、『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版、2006年)、『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を変える』(小学館、2010年)、『組織エスノグラフィー』(有斐閣、共著、2010年)など、著書は50冊以上。


八木 洋介氏( 株式会社people first 代表取締役/株式会社ICMG 取締役/元 株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事総務担当)
八木 洋介 プロフィール写真

(やぎ ようすけ)1955年京都府生まれ。1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。主に人事などを担当した後、National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、Healthcare Asia、Money Asia、GE Japanにおいて人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長 兼 株式会社LIXIL 取締役副社長 執行役員に就任。CHRO(最高人事責任者)を務め、同社の変革を実践。グローバル化、リーダーの育成、ダイバーシティの促進など、戦略的人事を推進した。2017年に独立し、現職。著書に『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社新書、共著)がある。


八木氏によるプレゼンテーション:「勝ち」が定義されない戦略人事は失敗する

八木氏は、企業において戦略人事が実践できていない本質的な理由は、「勝ち」が定義できていないことだと言う。目的のない戦略はあり得ない。勝ちの定義がない、もしくは曖昧に定義されている状況で戦略を考えても、企業戦略と乖離し、方向性はぶれてしまう。

「何がゴールなのかがわからないと、統合性を失った戦略になり、結果的に日常業務に埋没してしまうことになる。挙句、独自性のない日本的人事に行き着いてしまうのです。私は人事の役割は、他社と差別化することにあると思っていますが、差別化が目的なのに日本的人事に行き着いてしまっては、ジョーク以外の何物でもありません」

では、人事は戦略人事を実行する前に、何を考えなければならないのか。

「まずは『人事屋』ではなく『経営者』になれ、ということです。ただの人事のトップだと、経営会議に席があっても、人に関する話題だけにタッチしようとする。そうではなく、経営の真のパートナーとなり、経営に関わることすべてに興味を持たなければなりません」

また八木氏は「人事は人を面白いと思えなければならない」と語る。人は言葉のかけ方一つで、活力を引きすことができる。その生産性は5倍にも10倍にもなる、というのだ。

「何年か前にGEで、サーベイをとったことがあります。生産性は競合企業と比較すると、一人当たりの売り上げが2倍もにもなりました。人間が本気になれば、その結果は大きく変わります。人事は社員の活力を生み出すプロでなければなりません」

八木氏は、人事は物事を見る切り口を複数持つことが大事だ、と言う。そうでなければ、戦略的に物事を考えられない。中でも重要となる切り口が「強い」と「良い」だ。

「私は企業において『強い』と『良い』、両方を実現しようと思っています。世の中には『強い』だけの会社、『良い』だけの会社がありますが、私は、良い会社は強くなければならない、と考えています。そういうモノの見方をすることで、自分の会社が今どういう状況にあるのか、何をしなければならないのかが見えてきます」

もう一つの切り口は「主観」と「客観」。八木氏は、人事評価は主観だと語る。

「主観だと思うことにより、評価にどういうプロセスをつくり、何をすればフェアネスが確保できるかを考えられるようになります」

講演写真

八木氏は、人事が経営に関わることで、チェンジリーダーの役目を果たさなければならない、と語る。そのためには、人事が「HR Experts 人事管理」「People Champions 人と組織の活性化」「Business Partners 企業、事業戦略の実践」という三つの側面を持たなければならない。

「三つの切り口を持つことで、自分たちが行っている仕事が果たして戦略的なのかどうか、自らジャッジできるようになります。人事という仕事は、自分たちの仕事や戦略性をどう見るかという視点を、自分なりに作り上げることが重要です」

これらの前提のうえに成り立つのが戦略人事だ。八木氏の考えるその基本とは、「人と組織を使って、最高のパフォーマンスを出す」ということ。

「これを勝ちの定義にするだけで、戦略が簡単に出てきます。最高のパフォーマンスを引き出すためには、人を発掘、育て、活かし、モチベートし、最適組織を作り、勝つ文化を作って、人のやる気を引き出せばいい。一つひとつの答えを求めていくと、全体として統合された人事戦略ができていきます」

八木氏は、企業の変革はボトムアップで社員に期待しても無理、と語る。変革はリーダーが企業の方向性・ゴールを定め、ストーリーを語って、自ら先頭に立って、大胆かつスピーディーに進めるしか成功への道はない。

「社員に意見を聞くのではなく、社員を巻き込み、共感を得て、啓蒙し、そして大きな変革を成し遂げるのです」

ディスカッション:「普通の人」である社員を動かす人事の思い

金井:人事として社員に活力を与えるために、これまでどんなことを行ってこられましたか。

八木:私がLIXILに入って驚いたのは、多くの社員が売上、利益率、海外比率、企業戦略や方向性を知らないことでした。そこで、社員に会社のことをよく理解してもらおうと、3ヵ月に1度のIRの発表と同時に、その内容を全マネジャーを通じて全社員に伝えてもらうプロセスを作りました。若い人事担当者がそれに「LIXIL(リクシル)よく知る」と名前を付けて展開してくれました。

また最初に、LIXILはトップと現場の間に距離がある、と思ったんですね。それでは、イノベーションが起こりません。現場に良いアイデアがあっても、いくつもある階層の中で誰かが「ノー」と言えば、そのアイデアは簡単に消えてしまう。そこで、社長と対話できるイベントを開催することにしました。各地で行っていたLIXILの展示会の終了後、各会場に社員を数百人呼んで、社長とのディスカッションを開催したのです。すると、お互いに直接やり取りするので、親近感がわき、社員にとってはそれが活力になりました。

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金井:人事が何を求められているかを語るときには、「Doable(ドゥアブル)=自分がやっていること」と「Deliverable(デリバラブル)=自分がやっていることで、誰かに何らかの価値を提供するもの」の二つがよく使われます。具体的に言えば、よい人材を育成したことによって顧客が喜んでくれた、という状況ならDeliverableですね。八木さんは人事のリーダーとして、どのような価値をもたらしてきたとお考えでしょうか。

八木:私はPDCAという言葉が好きではありません。日本の会社は「P=プラン」ばかりやっているからです。プランなんか、いくらやっても会社は変わらない。プランの代わりに「I=アイデア作り」にした方がいい。アイデアをどんどんつくって、それを試してみるのです。まずは、やってみることが大事だと思います。また、人事の人はよく「過去との整合性がない」などと言いますが、パラダイムシフトが起こっている時に過去との整合性を求めてもしかたがありません。とにかく、先を見越して何が求められているかを試してみることが大切ですね。

金井:さきほどのお話で「強い、良い会社」という言葉がありました。このことを社内で説明される場面もあったのではないかと思いますが、どのように説明されましたか。

八木:私は日本の会社が大好きです。なぜ好きかというと、目指しているビジョンが素晴らしく、良い会社が多いからです。しかし、その会社が強くないために、どんどん負けてしまう。悔しいと思いませんか。良いだけではダメで、強くなければいけないんです。少しかっこよく言い換えれば「正義は勝たなきゃいけない」ということです。こういうことを言うと、社員たちは燃えるんですよ。

社員は「普通の人たち」ですから、ロジックだけでは動きません。「いいな」と思わせることが大事です。単純な言葉で人の心を動かす。言葉を通して人を動かすことは、人事だからできること。LIXILは社員が6万人いましたが、すべての人に時間をかけて寄り添うことはできません。だから「一瞬の一言」で人を元気づけなければならない。人の心をぐっと盛り上げる言葉を語る。これも人事の大きな役割と思います。

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ディスカッション:ぶれない軸を持つことで人は付いてくる

金井:人事としていい仕事をして、それがビジネスの根幹や経営に直結することが一つの理想だと思います。ただ、人事のプロになるプロセスで自然とそれができる人とできない人がいる。業務のプロフェッショナルを目指す道と、より経営的なポジションへとのぼる道があると思いますが、どのように選ぶべきだと思われますか。

八木:私がよく言っていたのは、「私の後任になろうと思うな」ということです。そうではなく、社長の後任になろうと思いなさい。社長になるために人事というプロの道を選んだ、という感覚で働いてほしい、と。プロフェッショナルであることは大事ですが、これからは、より経営に踏み込んでほしいと思いますね。

金井:八木さんは、強くて良いリーダーというのは、どんな人だと思われますか。

八木:私は子どものころ、大人の言うことをよく聞く子どもでした。でもそれだけではダメだから、もっと強くなろうと努力しました。自分の考えを持たなければいけない、自分の中に軸を持たなければいけない、と。それで、皆と仲良くするのは得意でしたが封印したのです。厳しい場面でも、自分の意見をはっきり言ってきました。日本には和の精神がありますが、本来、和は目的を達成するためにあるものです。自分の中に、生き方として、何か信念となるものを持っていたほうが強くなれます。ただみんなと仲良くするのではなく、しっかりとした信念を持った上で、力を合わせて目的を達成するべきです。

金井:私は研究のために、これまでいろいろな人にインタビューしてきました。印象に残っているのは「自分が一皮むけた経験を教えてほしい」とお願いすると、大変厳しい経験をお話しになる方が多いことです。会社にない事業を立ち上げた人はその苦労を話されましたし、大変悲惨な経験をしている人もいました。

八木さんがすごいと思うのは、自分で後にリーダーシップを発揮するために、ぶれない軸を持とうと思われてきたことです。皆さんも、フラフラするような人には付いて行きたくないですよね。これは自分の軸だ、としっかり思っている人がいると頼りたくなります。素晴らしい経営者の方は誰でも、何らかのリーダーシップの原理原則というものを持っています。人事の皆さんも、自分なりの軸を持ってください。そして、それを磨いていってほしいと思います。本日はありがとうございました。

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