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特別セミナー[B]

「経験から学ぶ力」
──成長し続ける人材はどこが違うのか?──
(協賛:株式会社ダイヤモンド社)

松尾 睦氏 photo
神戸大学大学院・経営学研究科教授
松尾 睦氏(まつお・まこと)
プロフィール:1988年、小樽商科大学商学部卒業、北海道大学大学院文学研究科行動科学専攻修士課程修了。英国ランカスター大学経営大学院博士課程修了。塩野義製薬株式会社、小樽商科大学商学部商学科助教授を経て現職。主な著書に『経験からの学習:プロフェッショナルへの成長プロセス』(同文舘出版)ほか。最新刊は『職場が生きる、人が育つ「経験学習」』(ダイヤモンド社)。

成長し続けることの難しさ。多くの人は「中堅」になれない

松尾 睦氏/講演 photo皆さんは今、成長していますか。私はいま47歳ですが、40代になってからは成長が止まりがちになったように思います。成長したいのですが、ふと気が緩むと止まってしまう。そんな状況を乗り越えるための、「経験から学ぶ力」とは何かを今日は考えていきたいと思います。

「7対2対1」。この比は何を表していると思われますか。これは、人の成長を決める要素の比率です。7割は「仕事経験から学ぶ」、2割は「他人から学ぶ」、そして残り1割は「研修や書籍から学ぶ」ということで、優れたマネジャーの経験を長年研究してきた米国の研究所の調査結果です。人の成長の7割は、仕事経験が左右しているのです。

では、仕事で熟達できている人はどれくらいいるでしょう。ドレイファスという学者は熟達には五つのステップがあると言っています。「初心者→見習い→一人前(とりあえず一人で仕事ができる)→中堅(職場の中核メンバーで的確なアドバイスができる)→熟達者(外部にも名が知れる組織内のエース)」といったステップです。このようなモデルで「あなたの会社で熟達者、中堅になるには何年かかりますか。何割くらいいますか」と聞いてみました。その結果は、中堅は7.3年目で全体の30.5%、熟達者は12.4年目で10.8%でした。ちなみに、一人前の平均年数は3.8年目です。中堅以上は4割程度しかなく、残り6割もの人は未熟なまま。実は一人前と中堅の間には、大きな壁が立ちはだかっています。

次は成長実感についてです。ワークス研究所で、成長実感を年代別に聞いたデータがあります。すると、成長を強く実感している人(5段階で5をつけた人)の割合は、20代では20%近くあったのが、30代に入ると、途端に10%ちょっとになってしまいます。30代に入ると成長実感がなくなってしまう。その理由としては、個人にノウハウができてしまって、それを変えられなくなったり、できることしかしなくなってしまったり。営業には以前売れていた「昔のヒーロー」がいたりしますが、その人は売り方が古くなっていたりするのです。

中には、マネジャーという立場になって、部下を育成する新たな仕事になったことで壁を感じている例もあります。プレーヤーとしての成長と、ミドルマネジャー、そしてその上のシニアマネジャーとしての成長では、求められるスキルが異なり、それが壁となっています。要するに問題は、人は30代40代に入るといろいろな要因で成長が鈍りがちになり、かなりの人が中堅や熟達者になれていないという事実です。

人を成長させるのは「ストレッチ&フィードバック」

松尾 睦氏/講演 photoそれでは、経験から学び続けるためにはどのような力が必要なのでしょう。ここに、日米の成功しているマネジャーに対して、インタビュー形式で成長に寄与した経験内容を聞いたデータがあります。それによると、もっとも多かった答えは「人事異動の経験17.5%」で、以下「初期の仕事経験12.3%」、「海外勤務経験12.3%」、「管理職になる経験11.6%」、「プロジェクト型の経験9.9.%」、「修羅場の経験(事業の立て直しなど)6.1%」と続きます。そのあとに「上司から学ぶ経験2.6%」と間接的な経験が入りますが、そこまではすべて個人としての直接経験ばかりです。

しかし、同じ経験をしても、成長する人としない人がいますね。その違いは何でしょうか。答えは経験の質の違いです。質のいい経験(よく考えられた実践)には以下のような三つの特徴があります。

(1)適度に難しく、明確な課題がある
懸命に手を伸ばせば届くくらいの課題。アンケートによると、そのイメージは自分の能力の2割増し、120%程度といった難易度のようです。
(2)結果に対するフィードバックがある
良かった点、悪かった点が、すぐわかること。
(3)誤りを修正する機会(繰り返し)がある
次に修正して、リトライできる環境があるかどうか。

以上の条件がそろっていれば、「ストレッチ&フィードバック」が可能ですから、よい成長が期待できます。

「鍛えて→振り返って→楽しむ」サイクルで人は伸び続ける

次に、経験学習の理想的なサイクルを考えてみましょう。経験から学ぶには主として三つの力が必要になります。

松尾 睦氏/講演 photo
  • (1)ストレッチ……問題意識を持って、新規な課題に取り組む。
  • (2)リフレクション……行為を振り返り、知識・スキルを身につけ修正する。
  • (3)エンジョイメント……仕事のやりがいや意義を見つけて、仕事を楽しむ。

これら三つの力を伸ばすにはどうすればいいのでしょうか。そこで私たちは、インタビュー調査を行いました。話を聞いたのは、さまざまな領域で優れた業績を上げているマネジャー、および人材育成において実績のあるマネジャー(34名)、人材育成に関する研究者(3名)です。結果から見えてきた方略をまとめると以下のようになります。


●ストレッチ力を伸ばす
方略1 挑戦するための土台をつくる(仕事を任せてもらえる基礎力をつける)
方略2 周囲の信頼を得てストレッチ経験を呼び込む
方略3 できることをテコに挑戦する
→ストレッチによって、自分の足場を形成する。

●リフレクション力を伸ばす
方略1 行為の中で内省する(仕事中でも振り返ってみる)
方略2 他者からフィードバックを求める(どうだったかを聞いてみる)
方略3 批判にオープンになり未来につなげる(いやな言葉も受け入れる)
→進行形の内省で振り返りを行う。
●エンジョイメント力を伸ばす
方略1 集中し、面白さの兆候を見逃さない
方略2 仕事の背景を考え意味を見出す
方略3 達観し、後から来る喜びを待つ(開き直って、こんなものだと思うと見えてくる)
→「あっ、そうか」という意味の発見がある。

中堅や熟達者になれる人や、30代40代に入っても成長し続ける人は、このような「経験から学ぶ力」を持っています。ぜひ、社内研修やアドバイスなどの場面で、このような力を活用していただければと思います。

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協賛:株式会社ダイヤモンド社

【新刊書のご紹介】
『職場が生きる、人が育つ「経験学習」』(ダイヤモンド社) 2011.11.25発売
http://www.diamond.co.jp/book/9784478017296.html

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