本日は、新しい研修手法について、お話したいと思います。マンガを教材として使っていますが、知識を教えるマンガ教材ではないので、初級者向けのものではありません。マンガ教材に埋め込まれた多様な情報を読み取り、問いに対して答えを見つけ、チームで議論する活動を通じて、多様な視点で物事を解釈し、現実的な解を導き出す力の育成を目指すものです。
この教材はMBAの授業で使われるものと同じようなシナリオです。大きな違いは、マンガで描かれている点にあります。必要に応じてマンガ教材の他に付帯資料を付ける場合もあります。問いと付帯資料の中身によって、マンガ教材は一つでも企業のさまざまな階層の人に対応することができます。ビジネスシーンが描かれているだけのマンガに、読み解き、気付かせるための問いがあり、それによってただのHow toではない、自分で考え、答えを出せる教材となります。
この研修のねらいは三つあります。一つ目はケースを没入しながら疑似体験できる点です。マンガの中に入り込んで、状況の分析を行い、その行動を取ったらどうなるのかを考える。その中で、問題解決能力の育成を行い、自分で考えられる人を育成します。二つ目はストーリーなので、エピソードとしてとにかく後々まで覚えていることです。どのような状況の時に、何に注目して、どのように解決したかを覚えているので、現場に戻ったときに使えるのです。そして三つめが、整合性的な答えを出すようになることです。人はともすれば、一面だけ見て、その場だけ成り立つ解釈をしがちです。そのような「短絡的な解、矛盾した解」からの脱皮が図れます。より深い思考の探求が行えるのです。
ビジネスでは、断片的な情報を統合して有意味な情報を形成することで仕事をしていきますが、学校では問題を手に負える形に分解し、それを体系的に整理し、考えることで問題を解決していく方法を主に教えます。Analytic(分析的)とHolistic(包括的)という対局なのです。この研修では、断片的に持っている知識をHolisticにつなぐことをしているのです。
それでは、「マンガを使うこと」と「言葉で語ること」の違いについて、ご説明しましょう。皆さんは、次の記述でどんなシーンを想像しますか。
読んでみて、どういうシーンか想像できたでしょうか。自分のシーンの想像も絵に描いてそして他の人と比較してみてください。案外他の人と違うことがわかります。言葉だけではまだ曖昧なことが多いのです。
それに、「言葉に表せたもの」を読むということは、その言葉を書いた人が「気づいたこと」つまり、解釈を知らされています。「眺めて考えているような感じ」は、これは本当にそうなのでしょうか。マンガは、状況を描くので、このような解釈も自らが行わなければなりません。ビジネスシーンにおいて日頃行っているのと同じことなのです。読みながら状況の分析をし、内容の解釈まで行います。文章とマンガでは、伝わる内容も解釈の方法も、その効果がまったく違うのです。
このマンガ教材を使う研修では、知識をメインに教えようとはしていません。会社に入るくらいの方々ですから、実はたくさんの知識を持っています。ただ、それが使えないだけなのです。
今までは知識を教えることを前面に出してきました。新しい何かを、お土産のように持たせないといけないという呪縛があったのです。だから、マンガを使う教材も、導入にしか使えない、簡単なものとか、やる気のない社員や文字を読まなくなった社員に使う程度というネガティブな印象が残っています。しかし、社員が持っている知識を引き出し、どのように使うのか、その使い方を訓練するものとしてマンガが使えるのです。ここではナラティブ・アプローチという手法を使い、実現しています。これは一般的には、本人自らが人生観を物語ることで、その人らしさを見出す手法です。しかし、ここでは受講者を物語(マンガ)の中に引き込んで、その物語の登場人物としてさまざまな課題を解決させる手法として使っています。受講者に物語の中に没入してもらい、人間関係やビジネス環境などを疑似体験する。そして、問題の発見方法や知識を適用するタイミング、そして価値を学び実践するのです。
このマンガによるナラティブ・アプローチの長所は大きく三つあります。一つ目は「離見の見」です。これは能役者・世阿弥の言葉で、舞台からではなく観客からの視線で自身を見ることの大切さを説いたものです。ビジネスの現場をマンガとして読むと、外側の視点に立って批判的に考えることができます。
二つ目は、特徴を捉えやすいということです。「マンガよりも、実写ビデオのほうがいいのでは」と言われることがありますが、ビデオは情報がありすぎて、人が特徴を捉えづらいのです。マンガは見せるものと隠すものを適度に調整できるので、ビジネスの特徴をある意味強調し、ある意味実世界にあわせて隠れているように見せることができます。それで、特徴を捉える学びの効果がでるのです。
三つ目はグローバルに使えることです。実際に海外でも実施してきましたが、今まで文化差といっていたものがマンガによって明白になり、それなら解決は我が国で行っている方法とは違いますねということが多々ありました。グローバル時代にこそ、言葉だけでは伝わらない、会議で語り合う前提が違うなどを思う必要があると思います。そして、これは国内外というだけでなく、他社と連携するときや、時には他部署や支社との連携のときにも起きてくる課題です。
実際の研修は以下のような手順で進めていくことになります。
最後にお伝えしたいのは、これまでの研修の多くは、知識のない人に知識を与えるものでした。しかし、この新たな研修手法は、人の持っている知識を活用できるようにするものです。見えなかったものを見えるようにすることが、今までの研修では重視されてきたのです。ダイバーシティが叫ばれている今、先入観によって解けなくなってしまっている課題を、先入観を解いて、眠っている知識を使えるようにすることで解けるようにしていくが大切だと思いませんか。本日はどうもありがとうございました。