インタンジブルズ(無形資産)のケーススタディ
従業員は「資産」? それとも「資本」?
インタンジブルズへの関心が高まる背景
建物、設備、現金……。企業の資産というと、このような物理的な形のある「タンジブルズ」が浮かびます。しかし、昨今は形のない「インタンジブルズ」が注目を集めています。経営者の価値観や従業員のエンゲージメント、企業に蓄積されたノウハウ、購買意欲を高めるブランド力、取引先との強い信頼関係、サステナビリティへの姿勢などが該当。どれも物理的な形はありませんが、ビジネスで成功を収めたり、支援を受けたりするのに重要な要素と言えるでしょう。
代表的なインタンジブルズとして、人にかかわる要素は「人的資本(人的資産)」、組織が持つ力や特徴は「組織資本(組織資産)」、そのほか「情報資本(情報資産)」や「社会関係資本」などがあります。「資本」と「資産」の違いは、バランスシート(企業の負債や純資産、資産の状態を表した書類)の左右どちらに属するかで変わってきます。人や情報などを「投資対象の元手」や「借り物」と捉えるなら「資本」となり、バランスシートの右側に属します。会社が保有する財産、つまり「会社の持ち物」と捉えるなら「資産」となり、バランスシートの左側に属します。
インタンジブルズはよく「無形資産」と訳されますが、実際には会計上の「資産」よりも広い文脈で用いられます。昨今「人的資本経営」が注目されているように、特に人事業界では、従業員を「資本」として投資する風潮が高まっています。
インタンジブルズの重要性が高まっている背景には、産業構造の変化があります。ビジネスにおけるサービス業の増加や、社会のデジタル化に伴い、人的資本やその他のインタンジブルズが企業間の優位性を左右する要素となっているのです。またESG投資やSDGsの浸透からも分かるように、投資家や株主の関心が有形資産から無形資産へと移っていることもこの傾向を後押ししています。日本国内では、2023年3月期決算から、「有価証券報告書」を発行する上場企業などを対象に、人的資本の情報開示が義務化されました。
インタンジブルズは今や企業の個性を形成するもので、価値創造の源泉となっています。インタンジブルズを適切に評価・管理することで、企業の成長力や信頼性の向上が期待できるのです。