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臨床心理士・関屋裕希の ポジティブに取り組む「職場のメンタルヘルス」

【第10回】コロナ禍でもメンタルヘルス研修を止めないために! オンライン形式での実施のポイント

東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員

関屋 裕希

臨床心理士・関屋裕希の ポジティブに取り組む「職場のメンタルヘルス」

さまざまなストレスの影響で、多くの人がメンタルヘルス不調や仕事のパフォーマンス低下などの問題を抱えながら仕事をしています。企業における「人」「組織」の活性化を担う人事部門には、社員がイキイキと前向きに働くことのできる職場づくりが求められていますが、具体的に何をすればいいのでしょうか。企業のメンタルヘルス対策を専門とする臨床心理士・関屋裕希氏が、明日からすぐに実践できる「職場のメンタルヘルス」対策を解説します。

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コロナ禍で増すセルフケア研修提供の重要性

新型コロナウイルスへの対応が求められるようになってから1年半が過ぎました。皆さんの会社では、どのようにメンタルヘルス研修を実施していますか。

今年7月に、厚生労働省より平成30年および令和2年の労働安全衛生調査(実態調査)が公表されました。調査結果を見ると、主要なメンタルヘルス対策のうち、労働者へのメンタルヘルス教育研修や情報提供の機会が減少していることが示されていました。

表.メンタルヘルス対策の実施割合

表.メンタルヘルス対策の実施割合

教育研修や情報提供の機会を増やしていくことが必要ですが、感染防止対策のためにソーシャルディスタンスをとることや、テレワークで出勤しない労働者にどうやって情報を提供するのか工夫が求められるなど、これまでのように参加者を集めて集合教育研修を行うことが難しくなっています。

しかし、この状況をそのままにしておくわけにはいきません。この実態調査の中で、メンタルヘルス不調が増加している傾向が示されているからです。過去1年間にメンタルヘルス不調によって連続1ヵ月以上休業した労働者のいる事業所の割合が、平成30年から令和2年にかけて、500~999人規模(7%増加)、100~299人規模(6%増加)、50~99人規模(10%増加)の事業所では増加傾向にあるのです。

テレワークが導入されて、自宅など、それぞれが別の場所で勤務するようになり、労働者一人ひとりが自分のストレスに対処し、心身の健康を守る「セルフケア」の重要性も増しています。

今回は、コロナ禍でも効果の高いメンタルヘルス研修を実施するために、オンライン研修実施のポイントを紹介していきたいと思います。

オンライン研修の強みに着目

この1年半、オンラインでの研修やセミナーが数多く実施されました。これを読んでいる皆さんも、おそらく一つか二つは参加したことがあるのではないでしょうか。そのときの経験を思い出して、オンライン研修の良いところ、注意が必要だと感じたところを思い浮かべてみてください。

以下に受講者としての経験と、講師・運営側の視点の両面から、オンライン研修の良いところと注意が必要なところをまとめてみました。

表.オンライン研修の特徴

表.オンライン研修の特徴

実施できるワークなどが限られる面はありますが、オンラインならではの機能を活用することで、オフラインでの研修よりも、受講者が参加したり、双方向に交流したりする研修を企画することは可能です。

注意が必要なところは工夫で解消しながら、オンライン研修の強みを活かして、効果的なセルフケア研修を実施しましょう。

「参加」してもらう仕掛けを活用し、受講者の参加動機を高める

オンラインのツールには、チャット機能やアンケート機能が備わっていることがあります。対面での研修の場合は、研修の中で発言できる人数が限られ、一部の人からの意見しか聞くことができませんが、オンラインではこれらの機能を活用することで、多くの受講者の意見を聴くことができます。

研修の冒頭で機能を活用し、受講者の研修への参加動機を高める工夫をするとよいでしょう。たとえばアンケート機能を活用して、研修テーマに関する興味関心や認知度を尋ね、その場で集計して結果を表示すれば、受講者は研修テーマを自分ごととしてとらえやすくなります。

また、研修テーマに関する問いを投げかけて、チャットで全員から回答をもらう働きかけもよいでしょう。

「今回の研修テーマで一番関心があるのはどんなことですか?」
「本日の研修テーマに関連して、今困っていることはありますか?」

こういった問いを投げかけることで、受講者の関心や参加動機、困りごとを知ることができます。講師側も、どこを重点的に説明するかといった目安をもつことができるでしょう。

冒頭で一度「参加する」機会をもつことで、受講者はそのあともチャットに質問などを書き込みやすくなります。また、講師が研修中も質問や意見を受け付け、それらに反応しながら研修を進めることで、双方向の交流をもつことができます。

講師がすぐに反応することが難しい場合は、司会など別の役割の人が対応する、最後の質疑応答の時間に回答する、などといった方法もよいでしょう。

研修中の学習意欲や集中力キープのための「積み上げ型」

東京大学薬学部の池谷裕二教授が行った実験で、休憩をはさまずに60分学習したグループと、15分×3回(合計45分)学習したグループを比べたところ、長時間学習よりも休憩をはさんで短時間集中して行う積み上げ型学習の方が、学習の定着や集中力の向上に効果があることがわかりました。

この実験は、中学1年生を対象にした実験ですが、オンライン研修で目の前に講師や他の参加者がいなかったり、自室などで研修資料以外のものが目に入ったりする環境で、集中力を保つことが難しくなる場合の対策として、示唆に富んでいます。

15分に1回は参加者に向けて問いかけをする、簡単なワークを入れる、といった工夫ができるでしょう。

オンラインでも参加型! グループワーク実践例

オンラインでは、みんなで手を動かすグループワークなどを行うことが難しく、できるワークは限られますが、工夫次第で、参加型のグループワークを実施することができます。

ここでは、筆者がオンライン研修で実施しているグループワークの一例を紹介します。グループで、達成感の感じられる行動のアイデアをリストアップしてもらうという、行動活性化をテーマにしたセルフケア研修でのワークです。

Googleスライドに図のような付箋の写真を貼り付け、番号のところにカーソルを持ってくると、すぐに書き込みができるシートをグループごとに作成し、参加者に共有します。この方法を活用すれば、模造紙にアイデアを書き出したり、付箋を貼って意見を出し合ったりするグループワークを、オンライン上でも実施することができます。

注意しなければならないのは、対面のときのようにすべてのグループを見渡すことができないので、グループ内でワークをスムーズに進められるよう、いつも以上に丁寧な説明が求められることです。また、グループの人数は3~5人程度の少人数で行い、対面よりも時間にゆとりをもって計画することも大事です。

図.オンラインでのセルフケア研修のグループワーク例

図.オンラインでのセルフケア研修のグループワーク例

これらの工夫を組み合わせれば、オンラインでも、参加型や双方向型のセルフケア研修を提供することができます。

テレワークが導入されて管理職の目が行き届きづらくなり、一人ひとりが自分の健康を守るセルフケアの重要性が高まっています。

オンライン研修ならではの強みを活かして、効果の高いメンタルヘルス研修を企画し、従業員のセルフケアを支援しましょう!

【参考】
・平成30年および令和2年労働安全衛生調査(実態調査).厚生労働省.
・Watanabe, Y., Ikegaya, Y. Effect of intermittent learning on task performance: a pilot study. Journal of Neuronet., 38:1-5, 2017.

関屋 裕希(東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員)
関屋 裕希
東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員

せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com

企画・編集:『日本の人事部』編集部


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