人材の価値を最大限に引き出し、企業の持続的な成長を実現する

日本の人事部 人的資本経営

基礎講座2022/11/30

人的資本経営とは
――意味や意義、注目されている背景などを解説

人的資本経営とは――意味や意義、注目されている背景などを解説

「人的資本経営」とは、従業員を「資本」と捉えて積極的に投資し、企業価値を高めていく経営手法です。ビジネス環境の急激な変化や働き方の多様化など、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした中、経営戦略と連動した人材戦略を構築することで、企業の持続的な成長につなげていくことを狙いとしています。

世界的に人的資本に関するルールの制定や情報開示の要請が進んでおり、日本も例外ではありません。人的資本への投資は、モノへの投資と異なり成果がわかりづらく、短期的には利益を押し下げかねない側面もあります。ただし、人への投資と企業の生産性を取り上げたいずれの研究でも、おおむね「人への投資は生産性向上に資する」との研究結果が表れています。今後人口減少が進む日本において、経済を維持するためには、一人ひとりの付加価値を高めていくことが不可欠です。

人的資本経営はいまや、自社だけでなく株主や顧客などすべてのステークホルダーに望まれているものです。人的資本経営を進める上では、人事部門がこれまでよりも大きな役割を担うことになります。経営陣と密接な意思疎通を行い、コストセンターからプロフィットセンターへの転換が求められます。

1.人的資本経営とは

経済産業省は、人的資本経営を「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義しています。これまで企業は人材を「資源」と捉え、OFF-JTや自己啓発支援といった人材に対する金銭の支出は「コスト」として後回しにする傾向がありました。一方、人材を「価値を生み出す源泉」として捉える人的資本経営では、人材に対する支出も「価値を生み出す投資」として積極的に実施されます。

人的資本経営の特徴的な点は、経営戦略と人材戦略が深く結び付いていることです。たとえばテクノロジーの進化に対応しなければならない場合、DX人材の採用・育成は欠かせません。海外展開を目指す企業では、多様な背景を持つ人材の確保やジョブ型雇用の導入といった人事制度を展開する必要もあるでしょう。

戦略的な人材への投資は、従業員一人ひとりの生産性やエンゲージメントの向上をもたらします。それは結果として財務指標の改善や資本効率の向上につながり、投資家からの投資も期待できるようになります。そうして生み出した利益によって、また人材へと投資できる好循環を実現できます。

人材への投資を進めるには、これまで人事担当者の勘や経験によって行われていた施策を数値に落とし込まなければなりません。客観的な指標を用いて現状を正しく理解するとともに、投資の効果を測定する必要があります。自社に必要な投資の内容は企業ごとに異なるため、他社の成功事例をそのまま採用するのではなく、自社に合わせた施策を実行し、評価・分析を繰り返すデータドリブンな人事が求められています。

2.なぜ人的資本経営が注目されているのか

これまで企業は、業績向上のために従業員のスキルや知識を引き出し、伸ばすことに注力してきました。しかし近年、ハイパフォーマンスを実現するには会社の姿勢や周囲の環境など、本人の能力以外の要素も大きく影響していることが明らかになってきました。「企業」と「人材」のつながりをより大きな枠組みでとらえ直す必要が生じてきたことで、人的資本経営に注目が集まっています。

海外からの要請
  • 株式市場での重要度向上
  • ISO30414をはじめとした情報開示ルールの制定
  • ESG投資の広がり
人材版伊藤レポートの公表
  • 2020年に初版、2022年に2.0が公表される
  • 3P・5Fモデル
日本での人的資本開示
  • 2021年にコーポレートガバナンス・コード改訂
  • 2022年に開示指針が公表される
  • 早ければ2023年に有価証券報告書に反映
人的資本経営コンソーシアムの発足
  • 第二次岸田内閣からのサポート
  • 開示委員会での検討
  • 経営者と投資家の対話の場

海外からの要請

世界的に人的資本の重要性が高まっています。アメリカのアドバイザリー会社が発表した米国株式市場の重要な株価指数であるS&P500の市場価値の構成要素を見ると、1975年には人材を中核とする無形資産の割合が17%だったのに対し、1995年には68%、2020年には90%と急激な伸びを見せています。

2018年には、国際標準化機構(ISO)がそれまで企業ごとにバラバラだった人的資本の情報開示のルールを「ISO30414」として制定。国際的なガイドラインであるISO30414では、「コンプライアンスと倫理」や「コスト」、「ダイバーシティ」といった11領域58項目を開示すべき項目として設定しています。このガイドラインに沿って情報を公開することで、現在の自社の人的資本の状況を可視化することが可能になりました。

2019年にはサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が人的資本の重要項目の開示を要求。2020年には米証券取引監視委員会(SEC)がRegulation S-Kを改訂し、米国の上場企業に対して人的資本の情報開示を義務付けました。また欧州連合(EU)でも2014年、非財務情報開示司令(NFRD)従業員500人超の企業に開示を義務付けるなど、人的資本情報の開示をめぐる動きが活発化しています。

海外でESG投資が広がっていることも、人的資本経営に注目が集まる一つの要因です。ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものであり、ESG投資は環境への配慮や社会との関係といった非財務指標を加味して企業の成長性を判断する投資の手法です。人的資本への投資は「社会(S)」にあたります。

人材版伊藤レポートの公表

日本では2020年9月、経産省が「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(通称:人材伊藤版レポート)」を公表しました。この報告書では、これからのあるべき人材戦略には「三つの視点(3P:Perspectives)」と「五つの共通要素(5F:Common Factors)」(3P・5Fモデル)が必要だとし、それぞれについて整理しています。

「三つの視点」では「経営戦略と人材戦略の連動」「As is - To beギャップの定量把握」「企業文化への定着」を、「五つの共通要素」では「動的な人材ポートフォリオ」「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「リスキル・学び直し」「従業員エンゲージメント」「時間と場所にとらわれない働き方」を挙げています。

2022年5月には「人材版伊藤レポート2.0」を公表し、「三つの視点・五つの要素」を実践するための具体例を掲載しました。ここでは、二つのレポートから「三つの視点・五つの要素」の概要と実現に向け必要なアクションを紹介します。

▽三つの視点

経営戦略と人材戦略の連動

ビジネス環境が急速に変化する中で持続的に企業価値を向上させるためには、経営戦略・ビジネスモデルの実現を支える人材戦略が不可欠です。人材戦略の策定にあたっては、経営陣が主導して具体的なアクションやKPIを検討することが求められます。

アクション例
  • CHROの設置
  • 全社的経営課題の抽出
  • KPIの設定、背景・理由の説明
  • 人事と事業の両部門の役割分担の検証
  • サクセッションプランの具体的プログラム化
As is - To beギャップの定量把握

As is - To beギャップの把握とは、人材の課題を特定した上で課題ごとにKPIを設定し、「As is=現状」と「To be=理想」との「ギャップ=隔たり」を具体的に数字で表すことを指します。 As is - To be ギャップを基に必要な人材の採用計画を作成し、実行段階でもギャップを定量的に把握してPDCAサイクルを回していくことが重要です。

アクション例
  • 人事情報基盤の整備
  • 目標や達成までの期間の設定
  • 定量把握する項目の一覧化
企業文化への定着

企業文化は自動的に醸成されるのではなく、日々の事業活動や取り組みによって根付いていくものです。人材戦略策定時に併せて検討し、定着させるためのアクションを不断に実行・検証していく必要があります。新たな人材戦略が企業文化に定着し、実際に従業員の行動や姿勢として現れるまでには時間がかかるため、早期に取り組むことが大切です。

アクション例
  • 企業理念、企業の存在意義、企業文化の定着
  • 従業員の具体的な行動や姿勢へのひも付け
  • CEO・CHROと従業員の対話の場の設定

▽五つの要素

動的な人材ポートフォリオ

「動的な」とは、変化する状況に合わせて柔軟に対応することを意味します。また「人材ポートフォリオ」とは、事業活動に必要な人材を分類し可視化したものです。必要な人材ポートフォリオを定義し、持続的に企業の価値を向上させるために最適な人材ポートフォリオを保ち続ける必要があります。

アクション例
  • 将来の事業構想を踏まえた人材ポートフォリオのギャップ分析
  • 平時からの人材の再配置、外部からの獲得
  • 学生の採用・選考戦略の開示
  • 博士人材など専門人材の積極的な採用
知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

イノベーションを生み出すために、多様な経験や感性、価値観を積極的に取り込んでいくことを指します。女性や外国人、キャリア採用の従業員の登用を新しく進めることも重要ですが、すでにいる従業員の能力も発揮されるように職場環境の整備を行うことも大切です。

アクション例
  • キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング
  • 課長やマネージャーによるマネジメント方針の共有
リスキル・学び直し

DXやGX(グリーントランスフォーメーション)といった事業環境の急速な変化や価値観の多様化に対応するには、従業員のリスキルや学び直しが重要です。従業員個人の自助努力によるリスキルには限界があるため、組織として自社が培ってきた強みを支え、さらに発展させられるスキルの向上や新しいスキルを身に付けられるよう支援する必要があります。

アクション例
  • 組織として不足しているスキル・専門性の特定
  • 社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播
  • リスキルと処遇や報酬の連動
  • 社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学等)
  • 社内起業・出航企業等の支援
従業員エンゲージメント

従業員がやりがいや働きがいを感じながら、主体的に仕事に取り組める環境を整備することは重要です。個人の成長ベクトルと、企業の目指す成長や組織目標をシンクロさせることで、より持続的に企業価値を向上させることが可能になります。トップから企業理念や存在意義、経営戦略や目指すビジネスモデルなどを従業員に積極的に発信し、共感を得るよう心がける必要があります。

アクション例
  • 従業員のエンゲージメントレベルの把握
  • エンゲージメントレベルに応じたストレッチアサインメント
  • 社内のできるだけ広いポジションの公募制化
  • 副業・兼業などの多様な働き方の推進
時間と場所にとらわれない働き方

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、時間と場所にとらわれない新しい働き方が急速に進んでいます。企業は事業継続やレジリエンス(環境変化に伴う組織の対応力)の観点からも、平時から安全・安心に働くことができる環境を整えることが求められます。

アクション例
  • 業務のデジタル化の推進
  • リアルワークの意義の再定義と、リモートワークとの組み合わせ

日本での人的資本の情報開示

日本でも、人的資本の情報開示の流れは着実に加速しています。2021年6月には、東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改定。「人的資本や知的財産への投資などについても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである 」といった記載が盛り込まれました。

2022年8月末には内閣官房・非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」を公表。人的資本に関する情報開示の方向性を示した手引書となるこの指針では、企業のビジネスモデルや経営戦略に即して人材版伊藤レポートと併せて活用することで相乗効果が生まれるとしています。

この指針でも、単に情報開示を要請されたから応えるといったスタンスではなく、自社の経営戦略と人材戦略を連動させた上で情報を開示していくことを求めています。その上で可視化に向けた具体的な方法として、「人的資本への投資と競争力のつながりの明確化」「四つの要素に沿った開示」「具体的な開示内容の検討」が必要だと明示し、可視化に向けたステップの例を挙げています。

人的資本への投資と競争力のつながりの明確化

投資家が適切な投資判断を行うためには、その企業の経営戦略や人材戦略がどのように競争力を高めていくのかを理解する必要があります。そのため、中長期的に業績を伸ばしていけるかの判断指標となる情報開示を強く求めています。

企業はこのことを強く意識し、経営戦略と人材戦略の関係性をロジカルに関連付けることを意識すべきでしょう。ストーリーを描く際には、経済産業省が公表している企業と投資家の手引きである「価値協創ガイダンス」に沿って進めることも有効です。

四つの要素に沿った開示

サステナビリティ関連の情報開示分野では、気候関連財務情報の開示フレームワークであるTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)提言において、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の開示が推奨されています。人的投資においても、この四つの要素に沿って開示することが効率的です。

具体的な開示内容の検討

具体的な開示事項については、(1)自社固有の戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取り組み・指標・目標の開示、(2)比較可能性の観点から開示が期待される事項の二つの類型に整理することができます。自社の人材戦略を表現できる(1)の開示事項と、投資家が企業を比較分析する際に必要となる(2)の開示事項を適切に組み合わせ、バランスを確保する必要があります。

(2)の比較可能性を意識した開示項目においては、制度から求められている情報の開示を行った上で、他社と比較可能な形で戦略的に自社の優位性を表現できる事項を選択し、開示することが求められます。この際、(1)の自社固有の戦略やビジネスモデル、リスクマネジメントと一体的に説明することで、より国内外の投資家の期待に応えられるでしょう。

可視化に向けたステップ

指針では「人的資本の可視化を最初から高い完成度で進めていくことは難しい」とし、段階的に開示することを求めています。イメージとしては、下記の6段階にわけることができます。

●人的資本可視化の6ステップ
  1. 自社の人的資本、人材戦略を整理する
  2. できるところから開示する
  3. 開示へのフィードバックを受け止める
  4. フィードバックを踏まえ、人材戦略を見直す
  5. 見直した人材戦略を踏まえ、人的資本への投資を実践
  6. 目標・指標(As is-To beギャップ)の定量把握・分析に取り組み、人的資本への投資と可視化をサイクルとして実施していく

これに沿って開示を進めていくには、(1)基盤・体制確立と(2)可視化戦略構築が必要です。(1)はトップのコミットメントや従業員との対話、情報基盤の構築を指し、(2)は人材戦略のストーリーの検討や企業価値向上とのつながりの分析などを指します。この二つの取り組みを連動させながら実施するとともに、それらの取り組みを投資家との対話によって随時磨き上げていくことが求められています。

指針では、早ければ2023年3月期にも盛り込まれると予測されている有価証券報告書(有報)における対応にも触れています。今後、有報にはサステナビリティ情報の記載欄の新設や人的資本における人材育成方針や社内環境整備方針の開示、男女間賃金格差や女性管理職比率、男性育児休業取得率の数値の開示が義務付けられることが決まっています。

この対応に関しても、経営戦略と人材戦略を連動させたストーリーを描いた上で自社の戦略や測定可能な指標・目標、その進捗状況を積極的に開示していくことが求められます。自社のウェブサイトや中期経営計画など、有報以外の情報開示と併せて発信し、さまざまなステークホルダーとの対話の機会として戦略的に活用していくことが重要です。

人的資本経営コンソーシアムの設立

2022年8月、人的資本経営を官民一体で推進する「人的資本経営コンソーシアム」が設立されました。このコンソーシアムは「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の座長でもある一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏ら7人を発起人として立ち上げられたもので、人的資本経営を実践している企業の取り組み事例の共有や、より効果的な情報開示を検討する場として設けられました。

コンソーシアムでは、総会の下に重要事項を協議する「企画委員会」、企業間協力に向けて議論する「実践分科会」、効果的な情報開示のあり方を議論する「開示委員会」を設置。そのほか、経営者と投資家が人的資本について対話する場も設けています。「新しい資本主義」を推進し、3年間で4000億円の人的投資を表明している第二次岸田内閣も、コンソーシアムを全面的にサポートしています。

発足段階で、320に上る企業が会員に名を連ねています。コンソーシアムへの入会条件は、国内に事業所を有し、すでに人的資本に関する取り組みを行っていて有価証券報告書などで人的資本情報の開示を行っていること。伊藤氏は設立総会で「人的資本経営を進化させるとともに、人への投資に積極的な企業が国内さらには世界から評価されるよう、活動を推進していきたい」と述べています。

3.人的資本経営を実践するには

「人材版伊藤レポート2.0」の事例などを引きながら、どういった取り組みが人的資本経営にあたるのかを紹介します。

旭化成株式会社

「すべての人材は多様性と変革力による新たな価値を創造する源」を掲げる旭化成では、経営戦略の実現に必要な人材ポートフォリオの構築のために採用すべき人材を、事業軸と機能軸から定義しています。このポートフォリオに基づき新卒採用や中途採用、人材育成を計画的に行っているほか、採用や育成で確保できない人材についてはM&Aやコーポレートベンチャーキャピタル、少額投資を実施する中でつながりを得た社外リソースを積極的に活用しています。

エンゲージメントの観点では、2020年度から新しい従業員意識調査である「KSA(活力と成長アセスメント)」を導入。職場環境や従業員の活力、成長につながる行動を定量的に測定しており、得られた結果を基に対話を進めることでよりよい職場づくりに努めています。

アステラス製薬株式会社

役員を含む従業員の多国籍化が進むアステラス製薬は2021年、社外から「Global head of HR」を招聘し、人事部門の役割を進化させました。人事部門が事業部門のよりよいビジネスパートナーとなるため、データドリブンの人事に着手。人材データをダッシュボードにまとめて経営層の意思決定に活用したり、ピープルアナリティクスのスキルを保有する従業員を増やしたりといった施策を進めています。

同年に発表した「経営計画2021」では、イノベーションを実現するための「組織健全性目標」を設定。望ましいマインドセットと行動が促進され、従業員が効果的に協働する環境の構築を進めています。具体的なアクションとしては社長と社員が直接対話を行う「Dialogue with CEO」やリーダーが社員の質問に答える「Ask Me Anything」を行っています。

花王株式会社

花王では2021年度から100%の達成を前提とするKPIに基づいた目標管理・評価制度を廃止し、OKRを導入しました。このOKRを「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」と定義し、従業員一人ひとりに自身の中長期的な理想の姿を描き、その姿から逆算して目標を設定するよう求めています。

OKRはグループ全体で共有し、同じ夢や目標を持つ従業員同士が部署を超えて集まる仕組みも構築。従業員に対して自分の目標がどのように組織全体の成長につながっていくのかを確認させながら、目標のさらなるブラッシュアップの機会を提供しています。

ダイバーシティ&インクルージョンの視点からの人材開発にあたっては、人事部門とD&I推進部が連携して「Diversity推進計画」を策定しました。女性、LGBTQ、外国籍、障がいといった多様な人材の活躍推進を推進し、ダイバーシティ&インクルージョンを推進している他企業や行政、NPO法人などとも連携を深めていく方針を示しています。

KDDI株式会社

KDDIでは、人事部門トップである人事本部長に20年間の営業経験のある人材を据えています。これにより、人事部門が事業部門の観点を持って経営戦略と連動する人事戦略を策定することが可能になりました。たとえばデジタル化の推進では、今後の事業戦略の観点から目標と現状の人材ギャップを把握し、DX化を担える人材を2023年度中に4000人規模に拡大するといった施策を進めています。

ほかにも人材データの活用に向け、ピープルアナリティクス部門を新たに設置。エンゲージメント向上の観点からは2020年度の新卒採用から所属配属領域を確約する「WILLコース」や通年採用を導入しており、入社時期についても柔軟な対応を行っています。

SOMPOホールディングス株式会社

SOMPOホールディングスは2021年度から、パーパス経営を推進しています。「SOMPOのパーパス」を掲げると同時に、従業員一人ひとりに自身のありたい姿や使命を示す「MYパーパス」の策定を促し、この二つのパーパスの融合を最重要経営戦略と位置付けています。

同社は企業パーパスの実現のため、「価値創造サイクル」の駆動に取り組んでいます。これはMYパーパスに突き動かされる従業員による「原動力ルート」、その原動力を基に既存事業のレベルアップを図る「既存ビジネスルート」、既存事業のシナジーや共創を活用する「新たな価値創造ルート」で構成されており、このサイクルを循環させることで「あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」ことを目指します。

MYパーパスを策定するため、直属の上司と「MYパーパス1on1」を実施。ここではいきなり部下のやりたいことを聞くのではなく、まずは管理職自身がMYパーパスを策定し、部下に開示することから始めています。MYパーパスの追求からSOMPOホールディングス全体のパーパス実現につなげるまでの流れを「人的資本のインパクトパス」として定め、データを活用・分析して可視化しています。

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企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「HRペディア「人事辞典」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。