ケイパビリティーのケーススタディ
資源を活かし戦略を実現する組織能力
競争優位を保つにはたえず刷新が必要
「ケイパビリティー」は、企業が有する独自資源を組織として活用する能力、運用する能力と言い替えることもできます。他社にない優れた技術や高度な生産設備も、それをもっているだけでは企業の強みにはなりえません。重要なのは、それを活かして何ができるか。技術や設備を使ってよりスピーディーに、より効率よく、より高品質な顧客価値を実現するためには、独自資源を取り巻く人材・資金・知識・情報などを最適に組み合わせる必要があります。組織として自社の戦略を高いレベルで遂行する業務プロセスや人事体制、企業風土を構築することができれば、技術や設備それ単独よりもはるかに大きな優位性の源泉となるのです。
従来“戦略”といえば、市場構造を分析しながら特定の市場セグメントを占有するなど、事業や商品のポジショニングによって競争優位を築くのが定石で、そこでは企業の外的な側面に焦点が当てられてきました。これに対し、人や組織といった内的環境を重視して、組織としての強さで自社の優位性を創り出すのがケイパビリティーを活用した戦略です。
しかしケイパビリティーを継続的に強化し、長期にわたる成長や高収益を実現することは容易ではありません。ケイパビリティーもまた、外的環境の変化とまったく無縁でいられるわけではないからです。比較的短期であれば、活用できる技術の種類や顧客ニーズも劇的には変わりませんが、時間とともに変化の程度がある限界点を超えると、それまで自社の強みであったケイパビリティーが市場で意味を成さなくなり、むしろ弱みに変わってしまうことさえあるのです。例えばある企業が優れたブラウン管の製造技術を有し、以前はその技術を活かした組織能力でテレビ市場をリードしていたとします。しかし液晶技術の台頭という外的環境の決定的な変化が起きたいま、ブラウン管技術を核とした組織やシステムをそのまま維持してもほとんど意味がありません。それらはもはや、成功をもたらすケイパビリティーとして機能しないからです。
米国のGE社は100年を超える長い歴史の中で、技術の陳腐化など大きな事業環境の変化に何度も遭遇しています。そしてその度に、既存の技術を別の市場に応用したり、同じ市場に対して異なる技術や製品を導入したりして、自社のケイパビリティーの形や範囲を変容させ、事業領域の多様化とともに強化・発展させてきました。ケイパビリティー戦略においては組織の内的側面が重視されるだけに、市場など外的環境の変化への対応が遅れやすく、また十分に注意しているつもりでも、それまでの事業の経験や成功事例からいつの間にか目の前の企業活動に視野が狭まってしまいがち。今後は、部門の壁を超えた全社的な交流や外部とのコラボレーションも含め、内外の経営資源を幅広く、柔軟にコーディネートしていくことで自社のケイパビリティーを刷新し続ける能力――ダイナミック・ケイパビリティーがますます重要になると考えられます。