健康経営 powered by「日本の人事部」 人生100年時代の働き方を考える

必要なのは周囲のフォローと信頼構築
環境ギャップを克服する新入社員の「五月病」対策

立教大学 現代心理学部 心理学科 准教授

松永 美希さん

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周囲の目が気になり失敗を恐れるデジタルネイティブ世代

カウンセリングや大学での研究を通じて、松永先生は最近の若者をどのようにご覧になっていますか。

まじめですよね。1限目の講義もきちんと出席しますし……。私が学生のころと比べたら、大違いです(笑)。私の研究対象にあたる新任教諭のみなさんも、根がまじめな方ばかりです。あれだけ大変だと分かっているのに、あえて教諭という仕事を選んだわけですから。強い使命感を持って教育の現場に踏み込むだけに、リアリティ・ショックも強烈なのかもしれません。

松永 美希さん(立教大学 現代心理学部 心理学科 准教授)

学生を見ていると、このまま社会に出て大丈夫だろうか、と余計な心配をしてしまうこともあります。「失敗したくない」という気持ちが強い印象を受けますね。ちょっとしたミスでも自分を許せなかったり、周りにどう見られるかを気にしたりする人が多い。人にもよるのですが、特にこれまで優秀で、物事をそつなくこなしてきた人ほど、大きな失敗をしたり分からないことがあったりする現実を受け入れるのがつらいと感じるようです。

学生からは「講義の内容についていけなくて心配だ」「きちんと発表できる自信がなくて、出席したくない」と相談を受けることがあります。また新任教諭には、「こんなことも分からないのか」と思われるのが嫌で、先輩に相談できないという悩みを抱える人が多くいます。

“失敗を恐れる”背景には、インターネット社会の影響もあるのでしょうか。

社会心理学の専門ではないので断言はできませんが、可能性はあると思います。例えば最近の学生は、プレゼンテーションがとても上手です。見た目のきれいなスライドをつくるし、構成も分かりやすい。台本をただ読みあげるのではなく、きちんと話すこともできます。そのあたりのハウツーやお手本はネットで少し調べればいくらでも出てくるので、参考にしているのでしょう。その点が十数年前とは大きく違うと思います。

私が学生のころは手ごろな見本がなくて、分からないことは人に聞くしかありませんでした。それに大抵の学生は発表に慣れていなくて失敗していましたから、ある程度「仕方がない」と割り切れた部分がありました。しかし、今のデジタルネイティブ世代は自分で調べることができるので、求められるレベルが高くなっていますよね。「検索すれば分かるでしょう」と、先輩や上司にあしらわれてしまうこともあるのではないでしょうか。そうなると、分からないことがあっても次からは聞きづらくなってしまいます。

また、ネット上で「炎上」という言葉があるように、ちょっとした発言が批判の対象となり得ます。仕事でSNSを使うことはなくても、以前と比べて、周りを気にせざるを得ない環境にあるのだと思います。

ところで新任教諭の方々は、リアリティ・ショックをどのように克服しているのでしょうか。

リアリティ・ショックの克服

ほとんどの人は、着任から2、3年で仕事のやり方を覚えて環境に適応しますが、うまくいくかどうかは周りの環境が大きく影響しています。研究でも、同僚や管理職のサポートを感じられるほうがリアリティ・ショックを受けてもストレス反応が低い、という結果が出ています。

サポートというのは、声をかけてくれたり、たわいない話をしてくれたりといった、日常のコミュニケーションです。仕事のフォローも大事ですが、いつでも気軽に話せる雰囲気が安心感につながるようですね。「仕事のあとに、先輩教諭と学校の外で一緒に食事するのが楽しい」と、話す人もいました。

また、いいところを見つけて褒めるなどの承認も大切です。以前ヒアリングした校長は、新任教諭の授業を積極的に見学して、反省点だけでなく必ずポジティブな点を盛り込んでフィードバックしていました。仕事となると「できて当たり前」と、考えてしまいがちです。そこをグっとこらえて、可能性を感じるところを探し、伝えてあげることが大事ですね。

「よくやっているね」のような声かけも、効果があるのでしょうか。

どの言葉がいいというより、状況や新人のキャラクターを踏まえた言葉選びが大事なのだと思います。「よく頑張っているね」という言葉を、パソコンの前に貼りついて作業に集中しているときに言われると、プレッシャーに感じてしまう人もいるでしょう。そういう場合は、「何か困っていることはない?」「もっと気楽にやっても大丈夫だよ」といった言葉のほうが救われるかもしれません。

逆に初めて挑戦する業務で、周りに質問したり汗をかいたりしながら何とかやり遂げようとしているときの「よく頑張っているね」は、励みになります。相手の受け止め方を推測し、シチュエーションに適した言葉を選ぶといいでしょう。


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