人生100年時代の働き方を考える

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必要なのは周囲のフォローと信頼構築
環境ギャップを克服する新入社員の「五月病」対策

立教大学 現代心理学部 心理学科 准教授

松永 美希さん

仕事以外の環境をなるべく変えないことも大切

仕事以外では、どのような点に気をつければいいのでしょうか。

五月病は環境の変化に適応しきれずに生じるものなので、仕事以外の要素をできるだけ変化させないことがポイントです。

例えばある自治体では、離職防止のために、新任教諭を実家から通える範囲の学校に配属しています。仕事とプライベートの両方の環境が同時に変わると、適応のハードルがかなり上がるからです。特に初めて一人暮らしをする人は、全ての家事をこなさなければいけないことや、愚痴をこぼせる家族がいないことに、大きな負荷を感じるでしょう。

住環境が変わらない人も、日々の過ごし方をなるべく変えないようにすることが大事です。昔からの趣味を続ける、休みの日は気の置けない友達と会うなど、仕事以外の環境は、できるだけ学生時代と同じにするほうがいいですね。寝る時間や起きる時間を一定にすることも大事です。朝活などの勉強も、学生時代から取り組んでいたなら別ですが、そうでなければ会社に慣れてから始めたほうが続けやすいと思います。

このあたりは、人事がフォローできそうな領域ですね。

新人研修のプログラムに、五月病の予防を盛り込むのもいいと思います。私たちの研究でも、新任教諭にリアリティ・ショックをテーマにしたメンタルヘルス研修を行った結果、「失敗したときも落ち込むのでなく、客観的に状況を見ようと努力するようになった」「悩みに対して距離を取ることができた」など、研修前に比べてネガティブな感情に飲み込まれる度合いが改善されたことが分かっています。

五月病は適応障害の一時的な現象ともいえますが、そもそも心の健康を崩させないことが大事ですね。

リアリティ・ショックの研究では、仕事の満足度は上司への信頼に左右されると言われています。つまり上司や同僚との人間関係が良好で、信頼関係を構築できていれば、リアリティ・ショックを感じても頑張ろうと思えるのです。組織風土や職場の雰囲気、メンバー同士のコミュニケーションなど、日々のやり取りで培われる要素が、モチベーションを変化させるのです。

また、新人のうちは自身が戦力として機能していないことを、嫌というほど思い知らされます。そのとき、いかに所属感を得ることができるか。これも大きなポイントでしょう。会議の場で意見を求められるなど、メンバーの一員として必要とされていることを実感できると、励みになると思います。

社会人生活は長いですから、スタートでつまずかないようにしたいものです。

五月病の時期が過ぎても、同期との競争や自分が希望する配属とのズレなど、新入社員がストレスにさらされる場面はたくさんあります。活躍する時期や場所は人それぞれですが、同期の活躍を耳にすると気になるのは当たり前です。

実際に新任教諭のカウンセリングでは、キャリアの不透明性を不安視する声が聞かれます。例えば先輩や上司から、今の課題や直すべき点が把握できるように「○○ができたら××を任せる」といった目標を持たせる。また、なぜ今の部署にいるのかが分かるように「○年先のキャリアプラン」「1年間のスケジュール」といった見通しを示せば、自分の置かれた状況を受け入れやすくなるでしょう。

社会人生活のスタートダッシュは、周りのサポートが成否のカギを握っています。そのことを、人事の方々に改めて認識してほしいですね。

松永 美希さん(立教大学 現代心理学部 心理学科 准教授)

取材は2019年4月10日、立教大学の新座キャンパスにて