『健康経営会議2017』開催レポート
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講演3:HOW TO MAKE A HEALTHY COMPANY ロート製薬の健康経営ロート製薬株式会社 取締役副社長 CHO ジュネジャ・レカ・ラジュ氏
ジュネジャ氏はまず、健康経営で実現すべきものとは何なのかを述べた。
「私が考える健康経営とは、夢とバラ色の現場をつくることです。仕事が仕事ではなくなり、夢があって楽しいものになる。そうすると、自ずと健康になれます。経営は本気で健康経営に取り組まなければなりません」
ロート製薬は2016年に新たな企業スローガン(CI)を制定した。「NEVER SAY NEVER」。ノーと言わずに何にでもチャレンジするという意味だ。
「世の中を健康にするために自分の進むべき道を見据え、困難にめげず常識の枠を超えてチャレンジしていきたい。その思いからできたスローガンです。そして、同時に決めた目標に『薬に頼らない製薬会社を目指す』があります。そのためにヘルスケアに力を入れ、まずは社員の健康づくりからスタートしようと考えました」
同社は新たなシナジー創出を目指し、事業領域を拡大している。「再生医療」と「食」を中心としながら、その周辺の農業や遺伝子研究、ライフログ、運動、サプリメントなど、事業をアメーバのように自在につなぎ、新しいシナジーを創造。健康経営はその中において重要な軸となる。
ここでジュネジャ氏は、同社が基盤とする心身の健康づくりに向けた、四つの枠組みを紹介した。一つ目は「自己理解」。健康に対する「気付き」の場面を増やし、自分のことは自分でわかろうとすることだ。具体的には気付きの創出として、定期健康診断の進化、毎年の体力測定の実施、社内健康測定会の実施、イベント開催を行う。二つ目は「知識習得」。正しい健康知識が得られる「健康教育」を強化する。そのために健康教育の拡充策として、健康セミナーの開催、自社雑誌での情報発信、毎朝の健康ドリルの実施、健康検定の受験の推奨を行う。
三つ目は「実践・行動」だ。日常生活とイベントを活用した「きっかけ創り」を行う。 具体的には健康増進オフィス化、全社員運動会の開催、朝活&朝食摂取を推奨、社員への活動量計を提供、とこチャレ(1日8000歩、20分以上の早歩き)を行う。
「とこチャレの実践率は、2016年9月時点では28%でしたが、2017年3月には58%と2倍に伸びました。このように場をつくり、健康に投資することが大事だと思います」
そして四つ目は「成果把握」だ。同社では分析・改善のために、拠点別や生年代別傾向の分析、健康目標値への進捗確認を行っている。そのため、今後に向けてヘルスケアデータとIT活用もポイントになる。
「人的負担が軽減され、持続性へとつながっていきます。働く人の健康増進の成功体験づくりとなり、成果の視える化・副次的効果の分析も可能になります。例えば活動量ライフログ、血液データ、腸内細菌叢、体力データを取ることで、労働生産性やワークエンゲージメントの向上との相関もわかり、健康長寿の新たな知見となるかもしれません」
同社ではロート流の社員の自主性を育てる仕組みとして、ARK(アーク)プロジェクトを立ち上げた。ARKとは「明日(A)のロート(R)を考える(K)」の意。社員が自ら手を挙げ、自ら考えて動くプロジェクトだ。
「人事が会社の制度すべてを考えるのではありません。社員自身、特に若手社員が中心となって、自分たちで制度を考えて提案し、会社の未来を創っていく。働き方の改善の一助となりますし、結果的に若手社員の育成にも寄与するのではないかと期待しています」
最後にジュネジャ氏は、企業目標である「HOW TO MAKE A HEALTHY COMPANY」について紹介した。
「もし社員が一人でも健康になれば、その家族も健康になり、周囲に奨めるでしょう。最初は誰かがやらなければなりません。私たちはその最初の一人になろうと思っています。健康は一度得ると離したくなくなるものです。そうなるきっかけをいかにつくり、いかに健康までもっていくかを考えていきたいと思います」
講演4:Well-Beingな人・街・会社三菱地所株式会社 新事業創造部兼街ブランド推進部 担当部長 井上 成氏
現在、三菱地所は「イノベーション」と「街」を掛け合わせ、イノベーションが次々に起こる街をつくる活動に取り組んでいる。
「私たちは4000事業所・就労者28万人を数える大丸有(大手町・丸の内・有楽町)地区をフィールドにして、新しいイノベーションにつながるよう、働き方改革や健康経営に取り組んでいます。このエリアは大企業が多いので、変化は難しくてチャレンジングなことではありますが、皆さんにアクションを起こしてもらうために活動を行っています」
井上氏はイノベーションが次々に起こる街をひもとくと、そこには「器・場・人」の三要素があると語る。「器」(ハード)は、建物・施設・街路・広場・緑地など。「場」(ソフト)は、仕組み・制度・活動・コミュニティー(交流)・金/情報など。「人」(リソース)は、興す人・助ける人・動かす人・乗っかる人などだ。
「これら三つの要素が掛け合わさって、イノベーションが起こると思います。この中の『人』に関わる要素が『Well-Being』です。これは身体的、精神的、社会的に良好な状態にあり、一般的に幸福と呼ばれる状態にあることを意味する概念です。人がイキイキしている、そして健康的、創造的、情熱的であり、高い人間力を持った人たちをいかに生み出すかが活動の鍵になります」
今回の活動の基盤となっているのは、丸の内の21社の経営者層による健康経営の勉強会「丸の内健康経営倶楽部」だ。2017年4月には次のような「丸の内WELL-BEING宣言」を行っている。
- 個社の取り組み(1)=「健康な会社」づくり
従業員の高いやりがい、働きがいを生む企業の理念、ビジョン、ミッションを、実業を通じて社会に提示できているかを常に確認し、「社会から高い評価と信頼を得て、従業員が誇りに思える 企業(=健康な会社)」づくりを進める。 - 個社の取り組み(2)=自律支援
昨今の働き方改革を好機と捉え、企業の掲げる目標を共有することで働きがいを醸成しながら、従業員が自己選択的にキャリア形成と心身の健康を両立できる人材になるよう、従業員の自律を支援する。 - 企業同士の取り組み=知見の共有、連携および発信
参加企業による「連絡会」を設置し、各社の取り組み、知見、経験を共有するとともに、トップランナー方式により、先進的な取り組みを倶楽部参加企業間で合同で実施するなど、 倶楽部だからこそ可能となる協同活動を展開する。 また、これらの活動で得られた知見を広く社会に発信し、産業界全体の活性化、日本全体の成長に 繋げる。
ここから生まれた具体的な試みが、働き方改革と健康経営を両立するソリューションサービス「クルソグ」だ。
「クルソグとは、QOOL(Quality Of Office-worker’s Life)So Good!=クール ソー グッド!からきています。クルソグは『働き方改革×健康経営×ダイバーシティ経営』を実現するWell-beingマネジメントソリューションサービスです」
クルソグには三つの特徴がある。一つ目は企業単位の参加。企業から参加申し込みがあれば、参加企業およびその健康保険組合から就業者の労務・健診データなどの提供を受けて、それをもとに活動を行うことができる。二つ目の特徴は、エリアとの連携。リアルとバーチャルの融合によるサービスが受けられる。
「アプリでの管理と同時に、エリアにはすぐに参加できるプログラムがあり、リアルに健康づくりに取り組めます。これまでに『都心で100人ヨガ』『土いじりと健康促進』『一流の男の腹を凹ます食事セミナー』『ビジネスパーソンのためのマインドフルネスセミナー』『歩いてウェルビーイングくまもと』を開催しました。健康の分野で、第一線で活躍している講師によるプログラムに無償で参加できます」
三つ目の特徴は、アプリによる個人志向の健康管理(プログラムリコメンド)だ。クルソグでは、野村総合研究所が開発した Web アプリ「Well plus+(ウェルプラス)」を活用し、従業員 一 人ひとりの健康状態や就労状況を見える化している。
「蓄積されたデータを基に、運動や食などを切り口とした、丸の内エリアのプログラムを参加企業の従業員に案内していきます。インセンティブプログラムでポイントがもらえるというサービスもあります」
クルソグは6月末から4ヵ月のトライアル実施を行っている。参加企業は23社、参加者は9月中旬には3万人を超える予定だ。実施プログラムは8月末で70にものぼる。
「現在、23社の全従業員の平均登録率は10%程度ですが、この数値を上げることを今の目標としています。活動を通じ、街づくりは人づくりだと実感しているところです」
講演5:健康経営の実現に向けて経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課長 西川和見氏
西川氏は、公的医療費・介護費の支出が上がり続ける中、今後日本が目指すべき姿として予防・健康管理への重点化をあげる。
「公的保険外の予防・健康管理サービスの活用(セルフメディケーションの推進)を通じて、生活習慣の改善や受診勧奨などを促していきます。それにより『国民の健康寿命の延伸』と『新産業の創出』を同時に達成し、『あるべき医療費・介護費の実現』につなげることが重要です」
具体的には、生活習慣病などに関して「重症化した後の治療」から「予防や早期診断・早期治療」に重点化すること。そして、地域包括ケアシステムと連携した事業(介護予防・生活支援等)にしっかり取り組むことが求められる。
また、新産業であるヘルスケア産業政策には、生涯現役社会の構築が求められている。ここでポイントとなるのは65歳からの第二の社会活動だ。
「現役としての就労を終えた先にある第二の社会活動では、ゆるやかな就労(短時間労働等)や社会貢献活動(ボランティア)、農業・園芸活動といった身体機能の維持(リハビリ)などが考えられています。この部分をいかに活性化していくかも重要なポイントです」
ヘルスケア産業の支援としては、次世代ヘルスケア産業協議会が設けられている。「日本再興戦略」に基づき、平成25年12月に「健康・医療戦略推進本部」の下に設置し、関係省庁連携の下で、ヘルスケア産業の育成等に関する課題と解決策を検討する組織だ。
「具体的には需要と供給の好循環を生み出す視点に基づき、二本柱で進めることになっています。需要面では企業・健保などによる健康投資の促進。供給面では公的保険外のヘルスケア産業といった新事業の創出を推進します。この原動力となるのが健康投資であり、健康経営です」
では、人が働き続ける生涯現役社会を構築するには、何がもっとも重要なのか。西川氏は、病気にならないこと、つまり予防が重要だという。
「予防には三つの段階があります。一次予防は健康づくりです。ここでベースとなる健康な体づくりを行います。二次予防は重症化予防。そのため病気の気付きとなるような機会の提供が求められます。そして三次予防は再発予防などの活動です。健常者が予防の状態から最初にどのような病気になり、その後、病状がどう移り変わっていくかを示した『病状遷移のフロー図』を見ると、生活習慣病が病状を悪化させる役目を果たしており、この点にも注意が必要です」
そして、病気で優先的に取り組むべき三つの分野として生活習慣病(糖尿病など)、がん、認知症がある。この3分野で医科診療費の3分の1 、要介護者の4分の3をカバーできるといわれている。
次に西川氏は、健康経営の普及促進について触れた。健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取組が将来的に収益性などを高める投資であると考え、健康管理を経営的視点で見ながら戦略的に実践することだと西川氏はいう。この取り組みによって国民のQOL(生活の質)の向上、ヘルスケア産業の創出、あるべき国民医療費の実現といった効果が期待される。
「健康経営の企業価値への寄与については、心身の不調は生産性を低下させることが明らかになっています。また、健康経営に対する投資1ドルに対するリターンがその3倍の3ドルになるとの調査結果もあります。健康経営は従業員の生産性向上やコスト削減、企業のイメージアップなどにつながっています」
経済産業省では健康経営に係る顕彰制度を実施。健康経営に係る各種顕彰制度を推進することで、優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」している。従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価が受けられる環境を整備。現在、健康経営銘柄では24社、健康経営優良法人の大規模法人部門では235法人、中小規模法人部門では318法人が認定を受けている。
「顕彰制度にはたくさんの応募をいただいています。健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定を受けるには、健康経営調査への回答が必要になりますので、ぜひ申請してください。また健康に関して研究事業への協力企業・健保を募集していますので、ご協力をお願いします」