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『健康経営会議2016』開催レポート

2016年9月5日(月)経団連会館において、健康経営会議実行委員会の主催による「健康経営会議2016」が開催された。健康経営とは、従業員の健康を経営課題の一つとしてとらえ、経営者による戦略的な健康づくり事業を通して、生産性の向上と従業員の健康の両立を目指す経営手法のこと。今回は「健康は成長力。日本の未来をつくる健康経営の今を知る!」と題して、第一線で活躍されている講師による講演とパネルディスカッションが開催された。

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健康経営会議2016の様子
<当日のスケジュール>
●開会の辞
健康経営会議実行委員会 委員長
公益社団法人 スポーツ健康産業団体連合会 会長
厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト推進委員会 委員長 斉藤敏一氏
●来賓挨拶
厚生労働省 健康局健康課課長 正林督章氏
●講演1 健康経営実現のための健康投資
NPO法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫 氏
●講演2 凸版印刷の健康経営
凸版印刷株式会社専務取締役 人事労政本部長 大久保伸一 氏
●講演3 三菱ケミカルホールディングスはなぜ健康経営に取り組むか
株式会社三菱ケミカルホールディングス代表執行役社長 越智 仁 氏
●講演4 健康経営の実現に向けて -超高齢社会への対応-
経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長 江崎禎英 氏
●パネルディスカッション
司会進行 株式会社ルネサンス 取締役専務執行役員
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団 理事 高﨑尚樹氏
●閉会の辞

講演1:健康経営実現のための健康投資NPO法人健康経営研究会 理事長 岡田邦夫 氏

岡田氏はまず、大学病院勤務と産業医の違いについて語った。 「私は大学病院から産業医として企業に入りましたが、そこでは事業主が大きな力を持っていると痛感しました。大学病院では治療を中心に行いましたが、企業では健康という言葉が一番のキーワードになります。まさしく健康は経営によってつくられるものではないかと思います。日本再興戦略2016では世界最先端の健康立国へ、という言葉が掲げられています。高齢社会の中で多くの人が元気に働ける社会をつくる必要を考えると、企業の果たす役割は非常に大きい。世の中では社員の健康を損なうことで、企業が訴えられるという例もあります」

NPO法人健康経営研究会 理事長 岡田邦夫氏による講演の様子

健康経営には投資が必要だが、中小企業には最初から金銭的投資が難しい。そこで経営者の時間投資から始めて、空間投資を行い、最後に利益投資をするという方法があると岡田氏は語る。また、最近では従業員の健康づくりを行うと、金融機関が低金利融資をするといった動きもある。従業員のローン金利も下がるなど、健康づくりを評価し、優遇しようという動きも見られる。

ワークライフバランスの実現に向けて、経営者が主導権を持ってマネジメントしていかなければならない時代が来ていると岡田氏は言う。

「今年から行われる企業のストレスチェックは、企業が個人情報をきちんと守れるかという試金石だと思います。このような基盤整備ができる企業は、健康経営もきちんとできる企業と言えるのではないでしょうか」

企業は健康づくりに対してお金を投資する。その目的は生産性と従業員の健康を両立させることだ。利益を確保するには従業員の高いパフォーマンスが必要だが、これからの高齢化社会を考えると、従業員の健康資本をいかに高めるかを考えなければいけないと岡田氏は語る。

「企業には社員から損害賠償を求められたり、労災を起こされたりするリスクもあります。それを担保するには従業員の健康を考え、着実に健康経営を進めなければなりません。そのためにすぐ利益投資を行うのではなく、できるところからやっていきましょう、ということです。地道なノウハウを蓄積することが健康経営につながるのです」

健康経営における投資には三つの種類がある。一つ目は時間投資。経営者が自ら健康づくりを行ったり、職場訪問をしたり、従業員向けに勤務時間内で健康のための教育研修を行ったりするなど、健康管理に向けた投資を行うこと。二つ目は空間投資。企業内で社員食堂やスポーツ施設など、健康につながる空間に投資すること。 三つ目は利益投資。企業経営で回収した経営利益を投資することだ。

岡田氏は、新規株式公募を行った企業の5年間存続率を調べたデータにより、人材重視の企業のほうが、存続率が高いことを示した。また、中小企業で健康づくりの経済的評価をした例があるが、ここからわかったのは投資効果が出るまで3年かかるという事実だ。

「経営者には1年ごとに何か返るものがないと、施策を続けられないと言われます。そこで先に時間投資、空間投資を行うという考えが生まれました。最初から利益投資に踏み切らなくてもよいのです」

最後に岡田氏は、健康投資の効果について、日常生活で意識的に体を動かすことで、かかる医療費が大きく変わるというデータを示した。

「1週間に1日、たった1時間汗をかくだけで、その後の医療費は変わってきます。運動することが疾病予防につながり、それが労働生産性の向上につながる。私たちは中小企業(小規模事業場)に向けても健康経営指標を出しています。まず経営者が健康経営宣言を行い、じっくりと社員の体と心の健康づくりを行ってほしいと思います」

経営者が本気になって、社員の健康づくりを始めると宣言することの大切さに触れて、岡田氏の講演は終了した。

NPO法人健康経営研究会 理事長 岡田邦夫氏による講演の様子

講演2:凸版印刷の健康経営凸版印刷株式会社専務取締役 人事労政本部長 大久保 伸一 氏

大久保氏は、凸版印刷が2015年10月に制定した「健康経営宣言」について語った。この宣言では、「従業員や家族のさらなる健康づくりを推進する」「健康関連事業を通じ、世の中すべての人々の健康づくりを支援し、社会に貢献する」の二つの軸を打ち出している。健康経営推進組織の明確化も行い、社長が「健康経営責任者」、人事担当役員が「健康経営推進責任者」となり、さらなる健康経営をけん引。また、健保組合と従業員の健康の保持増進を協議、推進する「健康経営推進協議会」を本社に設置した。

大久保氏はその具体的な取り組みを紹介していった。一つ目は全社横断型スポーツイベントの開催。グループ全体で定期的に労使共催のスポーツイベントを行っている。

「毎回、企画から運営まですべて社員による手作りです。経営層から一般層まで家族を含め約4000人が参加。2015年は幕張メッセで行いました」

二つ目は臨床美術を用いたワークショッププログラム「アートサロン」の開催。アートサロンとは自由に美術表現をしながら、自分の本当の感情と向き合い、メンタル面の活性化を図るプログラムだ。

「現代人は行動の90%で左脳を使っていますが、ここでは普段使わない右脳を活発に使い、感性やひらめきに働きかけて、こころの活性化を図ります」

次に大久保氏は2010年に策定した「安全衛生基本方針」を紹介した。これは働くすべての人々の安全と健康の確保を企業の社会的責任と考えるもので、優先される重要課題として社員の健康を挙げている。

凸版印刷 専務取締役人事労政本部長 大久保伸一氏による講演の様子

続いて大久保氏は、具体的な取り組みを紹介した。一つ目は安全道場だ。2010年8月、川口研修センターに体感型教育施設「安全道場」を開設。グループ全社員を対象に安全教育を継続的に実施している。

「例えばローラー巻き込まれ体感として、印刷機のローラーに付着した異物をふき取ろうとして、機械を止めずに不意に手を出すと手がローラーに巻き込まれ抜けない状況になる、といったことを体感します」

全国の事業所へ出向くキャラバンも実施し、体感教育の累計参加者は約4万2000人。社外からの評価も高く、社外からの教育依頼も増えているという。

二つ目は健保組合とのコラボヘルスだ。トッパングループGENKIプログラム促進策としてインセンティブプログラムを導入。ウォーキングなどの運動記録や体重や行動記録などの健康情報の提供で抽選券がもらえ、賞品が当たりる。現在、7000名が参加登録している。

「健保組合の診療所を全国57ヵ所に設置し、社員の元気をサポートしています。また、健康づくり体制として、グループ全体で約160名をヘルスケア推進委員に任命。今年7月に研修会を実施し、栄養・運動・がん啓発などの他事業所での取組事例を共有しました」

次に大久保氏は生活習慣病予防策について紹介した。凸版印刷が注力する事業は二つ。一つ目は家族の特定健診受診の促進だ。

「事業所ごとの申込率の一覧表を全社に配信しています。また、未申込者社員への個別アプローチを社長名、工場長名で行っています。最終月には各社経営者あてに申込促進の依頼も行います」

受診向上のための環境整備として、かかりつけ医などでの受診を可能にし、受診場所を増やし、女性専用フロアでの広報強化も行っている。結果、家族の特定健診率は2015年71.1%、2016年75%となった。

二つ目は糖尿病・高血圧重症化予防だ。糖尿病などを中心とした重症化予防に取組み、腎症などの合併症や人工透析になることを防ぐ活動を行っている。

最後に大久保氏は、凸版印刷が取り組むヘルスケアビジネスについて紹介した。

「ヘルスケアに関して、印刷技術を核に企画立案から制作、運用まであらゆる業務を受託しています。実績では神奈川県横浜市の“よこはまウォーキングポイント事業”などがあります。その他では重症化を予防する行動変容プログラムやヘルスツーリズム、健康経営支援ソリューションなどのお手伝いも行っています」


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