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企業が健康経営に取り組むことがあたりまえになる
~専門家が語る健康経営の「これから」とは~ :株式会社日本政策投資銀行 中澤伸一さん・橋本彩代さん

株式会社日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 中澤伸一さん
株式会社日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 橋本明彩代さん

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株式会社日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 中澤伸一さんと橋本明彩代さん

従業員の健康増進を行うことが、本当に企業の成長につながるのか? そんな疑問を抱く人も、多いのではないでしょうか。その問いに一つの解を示すのが、日本政策投資銀行が世界で初めて実施した、融資の評価基準に「健康経営」を用いる融資システム「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付」です。“「健康経営」などに取り組む企業は、短期的な収益には効果が現れにくいが、中長期的な観点から今後の成長が期待できる”という考えに基づき、健康経営に取り組む企業には融資の利率を優遇する健康経営格付。その担当として、さまざまな企業の健康経営の取り組みを見てきた専門家・同行サステナビリティ企画部の中澤伸一さんと橋本明彩代さんに、健康経営成功の鍵をうかがいました。

プロフィール
中澤伸一(なかざわ・のぶかず)さん

2005年日本政策投資銀行入行。中国支店、企業金融第1部を通じて7年間超にわたり自動車業界の法人担当業務に従事。2015年に環境・CSR部(現:サステナビリティ企画部)へ異動後、環境、BCMをはじめとする非財務情報の評価業務を担当し、健康経営格付主幹に就任。経済産業省の健康経営度調査基準検討委員会、横浜市の健康経営認証委員会等の委員を歴任。

橋本明彩代(はしもと・あさよ)さん

株式会社日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 副調査役
2012年日本政策投資銀行入行。企業金融第2部、北陸支店を通じて製造業を中心とする法人担当業務に従事。2016年に環境・CSR部(現:サステナビリティ企画部)へ異動後、非財務情報の評価業務を担当。

「健康経営」への取り組みを融資審査の指標に

なぜ、「健康経営」への取り組みを評価基準とした金融システムを、世界で初めて実施されたのですか。

中澤:(株)日本政策投資銀行(以下DBJ)は、戦後の復興や公害問題といった社会課題に対峙してきた日本開発銀行を前身としています。民営化した現在でもそのDNAを受け継いでおり、世の中の社会課題に対し、金融を通じてアプローチすることが、私たちのアイデンティティとも言えます。

一般的に、金融機関の融資判断は企業の「財務パフォーマンス」によって決められます。一方、DBJの評価認証型融資では「非財務パフォーマンス」と呼ばれる、数値では測りづらいものの企業価値に大きな影響を及ぼす項目を評価対象としています。企業が中長期的に成長していくためには、財務パフォーマンスを下支えする非財務パフォーマンスが重要なドライバーになる。こうした考えから、環境への取り組みも融資評価基準とする「環境格付」、次に防災および事業継続に対する取り組みを評価基準とする「BCM※格付」、そして「健康経営格付」を開始しました。

※Business Continuity Management(事業継続マネジメント)の略称

「健康経営」を非財務パフォーマンスの一つに挙げられていますが、そもそも企業が健康経営に取り組むメリットは何なのでしょうか。

中澤:企業が健康経営に取り組むメリットは、大きく三つあると考えています。まず一つ目は「CSRの強化」。従業員の心身の健康を守ることが社会的責任であると考えると、健康経営もその一環だと言えます。対外的な印象も良くなり、優秀な人材の確保にもつながります。

二つ目は「リスクマネジメント」。近年は高年齢者雇用安定法の改正などを背景に、シニア従業員の雇用を増やす企業が増えており、加齢に伴う従業員の健康リスクが増加しています。さらに足元増加している従業員の心身の不調に起因する休業や労働災害に備えることは、企業の人材リスクのみならず経営者への訴訟リスクを回避するためにも不可欠な取り組みです。

さらに、三つ目は「企業の生産性向上」です。健康経営を実践する企業からは、個人の健康増進だけでなく、職場の一体感の醸成や従業員の働きがい向上にもつながった、という声も聞かれます。健康経営を通じて健全な組織をつくることは福利厚生(コスト)ではなく、将来の収益拡大に向けた投資なのです。

貴社が2012年に「健康経営格付」を開始されてから6年。「健康経営」の認知度は高まってきたのではないでしょうか。

中澤:そうですね。2012年の開始当初、「健康経営」という言葉はまだ一般的ではなく、「企業の財務状況が健康ということですか」と質問されることもありました。流れが変わったのは2014年。政府が発令した「日本再興戦略(JAPAN is BACK)」の項目の一つとして、「健康寿命の延伸」がうたわれたのです。これが企業の健康投資、あるいは健康経営の普及への追い風になりました。「従業員の健康増進に取り組まなければ」という気運が高まり、健康経営格付の件数も伸びました。その後、2015年に経済産業省の「健康経営銘柄」が始まり、一気に健康経営が広がったように感じます。

足元で注目を浴びているESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)投資に関連する取り組みはかつてコストと見なされ、あまり重視されていませんでした。ところが、現在では潮目が変わり、多くの企業が企業価値を高めるため、ESGに関する取り組みを行っています。特に、事業を行う上で「環境」への配慮を行うことは、当たり前になっていますよね。今後は「健康経営」も、企業が当然取り組むものになっていくのではないでしょうか。

我々のような金融機関のみならず、投資家もこれまでは数値的な成果や短期的な戦略にばかり着目をしていたのが、中長期的な企業価値向上につながる戦略や取り組みを評価する時代に突入しているのではないかと思います。

小売業は、特に健康経営への関心が高い

貴社では、どのように企業の取り組みを評価しているのでしょうか。

中澤:企業の健康経営を評価する機関はいくつかあります。その中でDBJの特徴は、2~3時間かけて対話型のヒアリングを行っていること。そして、実際の取り組みの報告書や社内資料といったエビデンスを確認しながら審査を行うことです。多くの場合、認証や格付けはアンケート調査などの自己申告情報をもとに行われます。そのため、こうしたプロセスは企業側にも多少の負担はありますが、評価やフィードバックの質を担保するには重要だと考えています。審査を経て、企業をA~C、融資対象外の四つで評価します。評価に応じて、金利の優遇が受けられるシステムです。

どのような評価項目でランク分けが行われるのですか。

中澤:評価項目は、主に二つに分けられます。一つは「健康管理」。これはある意味“守りの健康経営”と考えており、労働安全衛生や健康診断、ストレスチェックといった法令順守の要素が強いものです。企業が最低限やらなければならない部分ですね。

もう一つは「健康経営」で、健康経営のマネジメント体制や状況把握、目標・計画の設定などの「運営面」、そして生活習慣病対策、メンタルヘルス対策などの分野で、具体的にどのような対策を行っているのかを見る「実施面」からチェックしていきます。実施面では、単に健康増進の取り組みだけでなく、働きやすく、働きがいのある職場づくりに取り組めているかといった項目も評価基準になっています。

格付けを受ける業種や地域に特徴はみられますか。

中澤:今年度末には、融資を受ける企業が全体で150社ほどになる見込みです。業種別では、スーパー、ドラッグストア、ホームセンターといった小売業が多いですね。今の有効求人倍率をみるとバブル期に迫るほどになってきましたが、小売業では特に足元の労働市場が逼迫している状況で、人手不足と採用難に悩まされています。

ミレニアル世代にとって職場環境はとても重要な要素なので、健康経営に取り組んでいる企業であることがアピールできると、応募数にかなりの差がつくようです。地方の企業でも、健康経営の取り組みをうまくアピールしたことで、学生からの応募が急増したケースもあります。

地域別に見ると、やはり圧倒的に首都圏の企業の方が、健康経営への関心が高いですね。ただ地方でも、協会けんぽの取り組みが進んでいる地域は、企業の意識も高い傾向があります。例えば、広島県では協会けんぽが「ヘルスケア通信簿」として、他社と比較した健康診断受診率や生活習慣病のリスクを持つ人の割合などを各企業に届けていたり、「ひろしま企業健康宣言」を募って、先進的な取り組みを行う企業を表彰したりしています。協会けんぽがインフラとして、健康経営を後押ししているのです。

地域全体で健康経営に取り組むのは面白いですね。格付けを申し込む企業は、やはり健康経営の取り組みがかなり進んでいるのでしょうか。

中澤:大きく二つのパターンに分かれます。すでに取り組みが進んでいて、「健康経営銘柄」などを取得している企業。それから、これからまさに健康経営を始めようとしている企業です。健康経営を本格的に開始するにあたって、今後の方針を決めるために、まず第三者機関からの評価を得て、現状の取り組みレベルを正しく把握しようとする企業も少なくありません。DBJでは、格付けの結果をもとに年度平均との比較や他社の好事例の情報提供など各社の健康経営の取り組み状況に応じたフィードバックを行っているので、それに沿ってさらに自社の健康経営を推進している企業もあります。

健康経営がうまく機能している企業「フレスタ」「カゴメ」「丸井」の事例

貴行が支援し、うまく健康経営を実現していった企業の事例があればご紹介いただけますか。

株式会社日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 中澤伸一さん

中澤:フレスタという、広島でシェアナンバーワンのスーパーマーケットが興味深い取り組みをされています。同社では、「ヘルシストスーパー」という概念を提唱し、店舗でお客さまに向けて「この商品は○○という栄養が豊富です」といった情報提供を行っているのですが、最上級の健康スーパーを目指すためにはまず「従業員が健康であること」が第一だという考えから、健康経営を推進しているのです。同社の素晴らしい点は、店舗で働くパートの方一人ひとりにも、健康経営を浸透させようとしているところです。名札には、「毎日一万歩」といった、それぞれの従業員の目標が掲げられています。

健康経営格付融資させていただいた初年度は最高ランクではなかったのですが、フィードバックも参考にされながら更なる改善を行い、最高ランクを獲得。小売業界は現場に健康経営を浸透させるのが簡単ではない業界の一つですが、うまく成果を上げています。

なぜ、小売業界では健康経営の浸透が難しいのでしょうか。

中澤:オフィスワークが中心の企業であれば、従業員にメールを送るだけで情報共有ができます。しかし、店舗でたくさんのパートやアルバイトが働いている小売業は、そうはいきません。重要な戦力である彼らに、どのように目指すべき姿や新しい仕組みを共有していくか。難易度の高い取り組みだと思います。

フレスタでは、各店舗の先進事例を全社で共有できるマネジメント体制をつくることで、情報共有や意識の浸透を行っています。同社では、ヘルシストスーパーを提唱し、健康経営を開始してから、着実に売り上げを伸ばし続けています。健康経営の裾野を、従業員から社会に広げていくという戦略がうまくいった事例です。

短期的には見えづらい非財務パフォーマンスを、財務パフォーマンスの成果へとつなげているんですね。他の企業では、どのような取り組みが行われていますか。

橋本:私からは、カゴメの事例をご紹介します。「健康」とかかわりの深い事業を行っていることもあって、他社に先駆けて健康経営の取り組みが進んでいた同社は、健康経営格付開始の2012年に最高ランクを獲得されていました。現在、当社は、「食を通じて社会問題の解決に取り組み、持続的に成長できる「強い企業」」を10年後のあるべき姿とし、事業戦略と一体となった健康経営を推進しており、その取り組みをさらに進化させ、昨年はついに最高ランクの中から選ばれる特別表彰も受賞されています。

健康経営に取り組むにあたり、同社では社長自らが社内に向けて、強いメッセージを発信しています。健康経営を進める上で、トップからのメッセージはとても大切です。従業員の方たちにもしっかりと浸透しているようで、主体的に健康増進を楽しんでいるように思います。

具体的には、どのような施策を行われているのでしょうか。

橋本:ここ数年で大きく進んだのは、従業員の健康リテラシーを上げる施策です。その中の一つが、「カゴメ健康7ヵ条」。「バランスよく栄養摂取、毎日野菜350g」「適度な運動、一日8千歩」「お酒はほどほど、煙は避けて」といった親しみやすい標語を中核として、それに沿ったさまざまな施策を行っています。

独自の「カゴメ健康レポート」という社内向け広報誌も作っていて、健康データや部署ごとの健康への取り組みを紹介しています。健康経営に取り組む中で、実際に従業員同士のコミュニケーションが増えたという声もあがっているようです。さらに、従業員の健康リテラシーが上がれば、事業への愛着も高まり、働きがいにもつながります。

また、同じようにボトムアップ型の取り組みが進んでいるのが、丸井グループです。全国の拠点から健康経営を推進するメンバーを募集し、手を挙げたメンバーから現場発信で健康経営を実践しています。担当者は月一回集まり、健康経営に関する意見交換や、情報共有を実施。担当するメンバーは、指名されて任されるわけではないため、一人ひとりが自発的に健康経営に取り組み、風通しの良い職場環境の構築にも繋がっています。

大切なのは、「自社の健康経営の意味」を追求すること

健康経営の取り組みを始めても、従業員一人ひとりにまで浸透させられている企業は少ないのではないかと思います。現在の状況をどのようにご覧になっていますか。

橋本:今、ようやく健康経営の重要性が広まりつつあるように感じています。しかし、中には「話題になっているから、とりあえずやってみよう」と考える経営者の方も少なくありません。その経営者の指示を受けた担当者が、「やれ」と言われたからとりあえず事例を探し、健康経営を進めているケースもあります。

しかし、企業ごとに抱える課題は異なるため、他社の事例をそのまま自社で実践しても、うまくはいきません。また、健康経営の推進は、従業員の行動変容を必要とするため、企業として目指すべき方針が決まっていないと従業員が疲弊してしまう場合があります。その結果、「始めてみたけれど、結果が出ない」と悩む企業が増えてきた。これが、健康経営が進んだことによって生まれた次の課題です。

他社のまねをするだけではダメだということですね。

橋本:大切なのは「何のために健康経営を推進するのか」を考えること。自社の従業員の健康を増進することが、どのような意味を持つのか。そして、健康経営の実践によって何を目指したいのか。これらが明確になり、周知されていることが鍵になると思います。

中澤:橋本の言うように、何のために健康経営をやるのかが、きちんと明確化されていることが最も大きな推進力になります。健康経営に取り組む企業が増え、一種のブームになっています。そのブームに乗って、「みんな取り組んでいるから、うちも」と焦る企業も多い。私たちが、「そもそも、何のために健康経営を行うんですか」と質問をすると、悩まれる方もいます。まずその原点に立ち返ることで、具体的な施策の優先順位が見えてきます。そこから、一歩ずつ健康経営を進めていけばいいのではないでしょうか。

今後、企業の健康経営はどのように変化していくと思われますか。

中澤:今後、健康経営は自社の経営戦略として、企業が果たすべき責任として、当たり前に取り組まれる時代が来ると思います。さらに、健康経営を行う企業が増えれば、都道府県単位や政令市レベルの自治体での取り組みも増えていくのではないでしょうか。国の施策として、全国で画一化された取り組みだけを進めていくと、壁にぶつかりやすくなると思います。。北海道と沖縄では、食習慣も環境も違いますよね。当然、健康の課題も地域によって異なります。現在も、一部では地方自治体や協会けんぽによる取り組みが行われていますが、地域ごとにフィット感のある施策はさらに増えるのではないでしょうか。それぞれの地域、それぞれの企業が、自分たちに合ったかたちで健康経営を実践できる日も、遠くないように思います。

株式会社日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 中澤伸一さんと橋本明彩代さん

(取材は2018年2月6日東京都・千代田区の日本政策投資銀行本店にて)

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