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IT人材のスキル管理による組織力最適化
~2025年の崖と次世代型組織編成~

  • 田島 悠貴氏(日本サード・パーティ株式会社 執行役員/人財育成コンサルティング事業部長)
TECH DAY特別講演 [TA-2]2019.12.24 掲載
日本サード・パーティ株式会社講演写真

経済産業省は2018年の「DXレポート」で企業に迫る近々のリスクとして「2025年の崖」の存在を指摘した。これは、世の中へのICTの浸透を阻害する要因が2025年に集中することを意味する。企業がこの崖を乗り越えるにはIT人材の新たな組織化が必要。実現には、ITスキルの見える化が不可欠だ。ITスキルアセスメントツール「GAIT」を運営する日本サード・パーティの田島氏が、スキル管理と次世代型組織編成の手法について語った。

プロフィール
田島 悠貴氏( 日本サード・パーティ株式会社 執行役員/人財育成コンサルティング事業部長)
田島 悠貴 プロフィール写真

(たじま ゆうき)2007年に入社。IT人材の育成のための事業戦略やコンサルティング事業に携わる。2016年より現職。同社が30年以上海外ITベンダー向けテクニカルアウトソーシング事業で培ってきたIT技術や研修ノウハウを結集したITアセスメントおよび関連サービスの企画、開発から実施までの指揮を取る。


経済産業省が警鐘を鳴らす、企業が備えるべき「2025年の崖」とは

日本サード・パーティは、日本に進出する海外のテクノロジー企業向けに、テクニカルサービス、ヘルプデスク、トレーニングなどの技術サービスのアウトソーシングを行っている。社名はメーカーでもユーザーでもない、第三者(=サード・パーティ)という立場から、高い専門性と技術を兼ね備えたサービス提供をすることを目指し付けられたものだ。近年は海外の企業だけでなく、日本のエンドユーザーに対しても独自のサービスを展開している。

本講演は、不足するIT人材の採用~活用に、技術責任者だけでなく人事担当者が積極的に関与していくべきではないか、という問題提起の意味も含めて構成されていた。

田島氏はまず会場の参加者に対して、「2025年の崖への備えはできていますか」と問いかけた。「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート」で伝えられた警鐘だ。DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、ウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念で、ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる、というものだ。DXを阻害する要因が2025年に集中することから「2025年の崖」と呼ばれている。田島氏の問いかけへの回答は、その場で参加者がスマートフォンから答えて集計された。結果は「まだこれから」が半数以上だ。

「DXにはICTの浸透だけではなく、既存の価値観やビジネスモデルを覆すようなイノベーションを生み出すというニュアンスも込められています。米国や中国で進展するキャッシュレス化のように、DXが浸透することで、あらゆるものがデジタルにつながる世界が創造されています」

DXの推進には基幹系システムの刷新が不可欠となる。では、そうなるためにどのような環境をつくるべきなのか。経済産業省の「DXレポート」は四つのポイントからのシナリオを示している。

「一つ目は、IT産業の年平均成長率です。2017年は1%ですが、これを2025~2030年に6%にします。二つ目は、企業のIT予算比率(新規IT投資:保守運用費)。2017年の2:8 から新規IT投資にシフトして、2025~2030年には4:6にします。三つ目は、国内のIT人材比率(ユーザー企業:ITベンダー)。2017年の3:7から、ユーザー企業側を増やして2025~2030年には5:5にします。ちなみに、欧米諸国は真逆で7:3。欧米ではITはビジネスを強くする武器という考えからITを重視していますが、日本ではITを軽視してITベンダーに丸投げしてきた過去があります。しかし、最近は日本でもユーザー企業でIT子会社を本社に統合したり、IT業務の内製化を進めたりする動きが見られ、風向きが変わってきました。四つ目は、IT人材の平均年収が2017年の約600万円から2025~2030年は1200万円になることです。今後IT人材は獲得が難しくなり、市場価値が上がると予想されています」

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多様なITスキルを持つ人材の組織化に「スキルの見える化」は不可欠

田島氏は「日本におけるDXの推進には大きなパワーが必要」という。では「2025年の崖」が最悪のシナリオのまま進行すると、どんな状況を招くのか。

「例えば、基幹システムを21年以上稼働させている企業の割合は現在20%ほどですが、2025年には60%まで増えると予想されています。古いシステムは機能を追加しようとしても、システムがつぎはぎだらけとなり、保守メンテに費用がかかる。そのため、IT予算に占める保守運用費の割合は9割以上になることが予想されます。これでは、新規投資に費用を回せません。人材面では、古いシステムを知る技術者は徐々に高齢化、人数も減少しています。現在不足するIT人材は17万人ですが、2025年には43万人不足すると言われています。最終的に2025年にシステム老朽化に起因するトラブルで生じる年間経済損失は、最大12兆円と予測されています」

この最悪のシナリオを回避するために、二つの側面からIT人材の確保が急がれている。一つ目は、従来システムの刷新だ。メインフレームからオープン化、そしてクラウド化とステージ対応させる必要がある。二つ目は、将来のビジネスモデル創出に向けた変革。既存のビジネスモデルからの脱却が求められている。では、IT人材不足が慢性化する中で、企業はどのような次世代型組織を編成していくべきなのか。

「過去、企業は何でもできる強力なハイパフォーマ―、いわゆるスーパーマンを求めてきました。しかし、こうした人材は将来、確保が難しくなります。これからはそれぞれが得意分野を持つ人材の集まりによる、強力なチームが必要です。そのためにも、組織が抱えているIT人材のスキルをデータ化、可視化しておくことが重要になります。可視化によって最適な編成が可能となり、外部からの人材調達も容易になるのです」

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スキルアセスメントツールが「採用」「育成」「配置」「評価」を変える

ここで田島氏は、参加者に二つ目の問いかけを行った。「皆さんは、現状で使えるIT人材のスキルデータを持っているでしょうか」。回答は「持っていない」が圧倒的に多かった。

「弊社は自社で運営するITスキルアセスメントツール『GAIT』(Global Assessment of Information Technology)を使ってスキルを可視化しています。これはITに携わる人のためのグローバルなアセスメントテストであり、今必要とされるITスキルレベルを数値化、評価することができるものです」

GAITは出題数176問の選択形式のアセスメント。ITエンジニアに必要とされる領域「OS、データベース、ネットワーク、セキュリティ、アプリケーション、ストレージ、仮想化」の7分野についてスキルを数値化できる。一般的なITの資格試験には数時間かかるものもあるが、GAITの試験時間は65分と短い。試験内容は毎年更新され新たな技術に対応。また、グローバル対応に向け英語版もある。

「現場の技術責任者の勘所をデータとして活用できるものと、イメージしていただければよいかと思います。GAITの累計受験者数は13万人で、年齢別にみると2018年で41歳以上が36%、31~40歳が32%。今後のニーズとしては41歳以上の人材向けにスキルの棚卸しの利用が増えると予測しています。業種では2012年~2018年でSIerがもっとも多くなっています」

最近、受験者で大きな変化が見えるのは、ユーザー系企業の受験者数の増加だ。2019年4~9月現在で、2018年の1年間と比べて2倍となっており、まだ増加傾向にある。

「ユーザー企業の人事の方からは『危機感を持っている』という声が聞かれています。現時点でのユーザー系とSIer系で技術分野別得点率分布を見ると、ユーザー系のほうが得点率は高くなっています。理由としては、両者は受験数では大きな差があるものの、現状で感度の高いユーザー系のIT技術者が多く受験されているために起きたのではないかと見ています」

ではGAITは人材活用において、具体的にどのような場面で活用されているのか。田島氏は「採用」「育成」「配置」「評価」におけるメリットを上げる。採用では、特に中途採用において採用プロセスの短期化が可能になる。一般に1時間の面談だけで技術力を測ることは困難だが、自社エンジニアの現状をGAITで測っておくことにより、ターゲット人材の目標値を類推できるようになる。

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「次は育成ですが、成長の定点観測に活用できます。当社では年2回の社内受験を実施し、特に新人や若手の成長度合いを把握しています。スキルの変遷が見えることで、誰が成長しているのかがわかる。また、試験内容は毎年最新の動向を問う内容に更新されるため、その中で上位に入り続ける人材は、日々チャレンジ精神を持って学んでいると判断できます。こうした人材は将来の技術リーダーの候補になります。また、研修の効果測定に利用する企業も出ています」

次に配属での活用例として、DX組織の編成を挙げた。例えば、「自社の新規ビジネスとしてAIサービスを開始したい場合、どんな人材が必要か」「データを扱い、クラウド上での開発ができる人材はどんな人材か」といったニーズに対して、GAITのデータから、自ら進んで最先端技術を学び続けている人材を選ぶことができる。

「最後に、評価では、インセンティブ評価で活用されています。個人の努力を評価したい、社員同士が自発的に学び続けてほしい、といった企業ニーズに対し、GAITスコアでインセンティブを出すという方法です。スコアが技術研鑽のモチベーションアップとなり、『社内のエースが誰か見えやすくなった』という声も聞かれます。GAIT導入で社内が活性化し、組織を超えた勉強会が行われるようになった例もあります。GAITがより納得感のあるインセンティブを実現している、というのが私たちの実感です」

最後に田島氏は、今後は、個人のITスキルの見える化がより重視されると語り、講演を締め括った。

「今、企業ではIT人材の組織を再編成していく流れが強まっています。組織力を最適化するには、まず個人のITスキルを客観的な数値データとして保持する必要がある。現場のエンジニアの感覚値を目に見える数値データとして扱えることは、これから人事にとって最大の武器となるのではないでしょうか」

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