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リーダーシップOSを組み換える~経営リーダーの土台をつくる6つの“C”~

  • 高橋 克徳氏(株式会社ジェイフィール 代表取締役 コンサルタント/武蔵野大学経営学部 特任教授)
東京特別講演 [E-5]2019.12.24 掲載
株式会社ジェイフィール講演写真

組織をとりまく環境が急速に変化しつつある現在、これまで「当たり前」と思われていたリーダーシップのあり方を問い直す動きが見られる。しかし、従来型の「管理」「統制」に重きをおくマネジメントやリーダーシップから抜け出せず、新たな組織づくり、人づくりをどう進めたらよいのかわからないという経営層、管理職層も多いのではないだろうか。そんなリーダーたちに向け、肩の力を抜いて、鎧(よろい)を脱ぎ捨て、メンバーとともに次のステージをつくる真のリーダーへと進化しようという「リーダーシップOSの組み替え」を提唱しているのが、株式会社ジェイフィール代表取締役の高橋克徳氏。講演では、同社の「リアル・リーダーズ」という研修プログラムをベースに、みんながリーダーシップを発揮できる組織づくりにつながる数多くのヒントが提示された。

プロフィール
高橋 克徳氏( 株式会社ジェイフィール 代表取締役 コンサルタント/武蔵野大学経営学部 特任教授)
高橋 克徳 プロフィール写真

(たかはし かつのり)野村総合研究所、ワトソンワイアットを経て、ジェイフィール設立に参画。2013年より東京理科大学大学院イノベーション研究科教授、2018年より武蔵野大学経営学部特任教授を兼務。29万部のベストセラー「不機嫌な職場」を始め、「ワクワクする職場をつくる。」、「みんなでつなぐリーダーシップ」など著書多数。


「リーダー」のイメージが変わりつつある時代

高橋氏が代表取締役を務める株式会社ジェイフィールは、さまざまな企業で人材開発・組織開発に携わってきたメンバーが集まって2007年に設立された、組織・人材マネジメントのスペシャリスト集団だ。仕事や職場をもっと楽しくしよう、職場で困っている人たちに寄り添っていこうという思いとともに、数多くの研修事業や出版、コンサルティングを手がけている。そんな同社が現在もっとも力を入れているのが、この日のテーマである「リーダーシップのあり方をいかに今の時代にふさわしいものにアップデートしていくか」という取り組みだ。

講演の序盤で高橋氏は、「現在はリーダーシップに求められるイメージが大きく変化しつつある」と語った。これまでのリーダーシップは、「強い意思で未来を示し決断する」「その実現に向けて人を動かす」「先頭を走ってみんなを引っ張っていく」といったイメージで捉えられることが多かった。しかし今、そういったイメージのリーダーであろうとすることに難しさを感じる管理職が増えている。

「変化の激しい時代に、過去の経験・知識で現場に踏み込むと、空回りして煙たがられてしまいます。かといって現場まかせにすると、リーダーとしての存在価値が見えなくなってしまう。そんな管理職を見て、中堅・若手はどう思っているのでしょうか。どんな調査を見ても、今は管理職になりたくない人が増えています」

では、今の中堅・若手がイメージするリーダーシップとはどのようなものか。

「研修などで20代、30代にリーダーシップについて聞くと、『バラバラな人たちに声をかけてくれる』『一緒に考え、一緒に前に踏み出す』『みんなの力を持ち寄り、重ね、つながりをつくる』といったイメージが出てきます。先頭を走るのではなく、みんなを手招きしながら一緒に進んでいく。息切れしたらリーダーが交替することもあります」

中堅・若手の価値観では、「俺についてこい」と言われても、それが正しい方向かどうかわからない。それよりも、みんなで対話しながら、一致した方向に向かうリーダーシップの方がしっくりくる。

「つまり、メンバーと一緒に考え、悩み、ともに未来を切り拓くリーダーが望ましいという世界観に変わってきているのです。当然、従来型のリーダーになる気はない人が増えていて、現在はその転換点といえます」

では、なぜ価値観が変わってきたのか。ここで高橋氏は、マズローの欲求段階説と戦後日本の経済・社会環境の変化から、その必然性を説明した。戦後すぐの安全・生理欲求から高度成長期の所属欲求、バブル期の自己実現欲求と、人々の意識は移り変わってきた。そして現在の成熟社会で、若者は「自分一人では幸せになれない、自分が幸せになるためには周囲も幸せになる共ことが必要だ」と考えるようになった。マズローが晩年提示した「自己超越欲求」が主流になってきているのではないかという。

講演写真

「これからは変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を前提とするVUCA時代と言われます。さらに多様性も広がる。リーダーシップについても、今までと同じでいいのかが問われています。複雑で先を見通せない時代には、みんなが共感し納得できる決定でなければ、組織は動きません。一人のリーダーがすべてを理解し、すべてを決めることはもはや不可能です。むしろ、みんなで動かすのだと割り切った方がいい」

しかし、これまでの経験から「リーダーとはかくあるべき」という思い込みが強すぎると、そんな時代の流れにうまくついていけなくなる。

「管理職がリーダーという鎧を着込んで、自分でこうあるべきと思う姿を演じてしまっていることが多い。それが行動を窮屈にしたり、素直に意見を聞けなかったり、周囲と向き合えなかったりする原因かもしれません。そんなときには、リーダーであることを一度捨てる必要があります。本当のありのままの自分を出すことが重要です」

「オーセンティック・リーダーシップ」という考え方

こうした時代の流れを、リーダーシップ論ではどう扱っているのか。高橋氏は、従来型の「引っ張っていくリーダー」という考え方に対して、近年主流になりつつあるのが「オーセンティック・リーダーシップ」だという。

「これまでのリーダーシップでは、メンバーにどう働きかけかけるかが重視されてきました。いわばリーダーシップの外的な『スタイル』が問題だったわけです。しかし、オーセンティック・リーダーシップでは、管理職自身がリーダーとして自分はどうあるべきかを、内に向かって捉えなおすことが重視されます。スタイルではなく『OS』なのです」

「オーセンティック・リーダーシップ」は、アメリカのビル・ジョージが同題著書で提唱した。当時、アメリカではエンロン事件やリーマンショックなどが相次ぎ、大企業のリーダーが必ずしも組織を正しい方向に導くとは限らないということが明らかになってきていた。また、権力が一人のリーダーに集中してしまうと、その間違った決定に対して、周囲が何も言えない状態になってしまうことも問題視されていた。つまり、「リーダーは自分のあり方を厳しく問う必要がある」ということが意識され、それが「オーセンティック・リーダーシップ」という考え方を生んだのだ。

「オーセンティックとはもともと『自分自身に忠実であれ』という意味です。リーダーという鎧を脱いで、自然なありのままの姿でいても、みんなに良い影響を与える、それが本物のリーダーだということ。そのため高い自己認識、高い道徳観、不都合な情報も直視できる高い情報処理能力、公平な人間関係の構築や維持、言行一致といった能力、モラルが求められます」

講演写真

こうした新しい時代のリーダーシップを深く研究し、組織の中に根づかせていく活動にいち早く取り組んだのが、シンガポールに本社を置くPACE社だ。同社は、こうした新しいリーダーシップを備えた人材を「リアル・リーダーズ」と呼び、育成のためのプログラムを開発。そうした思いを共有できる日本のパートナーをPACE社が探していたところ、ジェイフィールの考え方や思いを知り、一緒にやろうと声をかけてきた。ジェイフィールもほぼ同時期に新しいリーダーシップのあり方を模索していた。

「オーセンティック・リーダーシップの考え方では、表面的にリーダーらしくふるまっていても、それはすぐに周囲に見抜かれてしまい、信頼につながりません。真のリーダーは、自分をごまかすことなくさらけ出し、自然体でふるまうことで信頼を得るのです。リアル・リーダーズ育成プログラムは、そうした真のリーダーの土台となる要素を『6つの"C"』にまとめています」

6つの要素は「行動面(What-Ness)」と「人格面(Who-Ness)」のそれぞれ3つの"C"に分けられる。

行動面(What-Ness)
(1)Competence(能力)
(2)Create an Inclusive Environment(多様性を受け入れる環境づくり)
(3)Compassion(思いやり)

人格面(Who-Ness)
(4)Character(人格)
(5)Conviction with courage(勇気をともなう信念)
(6)Credibility(信頼)

「この土台がしっかりできた上で、リーダーには2 つの役割があると考えます。第一は『Drive Performance=人の力を引き出す』。第二は『Shape Culture=持続させる、文化をつくる』。効果的なリーダーシップによって組織が動いて成果が生まれるとともに、そのリーダーシップが組織全体に広がり文化となっていく。変革を進めるためにはこうした発想が必要です」

真のリーダーとなるために必要な「6つの"C"」

講演の後半は、リアル・リーダーズ育成研修でも深く触れられるという、リーダーシップのエッセンス「6つの"C"」の概略が説明された。

「実際の研修では、最初にそれぞれの項目について360度フィードバックを受けます。そこで大事なのは点数ではなく、どの項目が高く出ているか。それは自分の認識と同じかどうか。自分で考える良さと周囲が考える良さが、実は違っているかもしれない。そこに注目しながら各項目を見ていきます」

講演写真

(1)Competence(能力)
「ここでいう能力とは、その人らしい振る舞い、行動の中に見える能力であり、意識しなくてもできるレベルでの能力ということ。意外とみんなたくさん持っています。細かいことまで気配りできる、トラブルにも落ち着いて対処できる。しかし、無意識にやっているので、他人に指摘されないとなかなか気づけません。『こうあるべき』ではなく、自分や他人の能力を正しく知ることはリーダーにとってとても大切なことです」

(2)Create an Inclusive Environment(多様性を受け入れる環境づくり)
「在宅勤務したい、副業を認めてほしい、残業はしない。デジタルネイティブ世代が増え、これからの職場はさらに多様な価値観が混在するようになります。そんなときに説教ばかりしていては、良いコミュニケーションは生まれません。大事なのは、そういった発言や行動の裏にある意図を考えること。議論ではなく対話をすることで新しい意味を発見すること。多様性を引き出し、活かすためには、安心して発言できる環境づくりが不可欠です」

(3)Compassion(思いやり)
「部下が大きなミスをした。幸い大事には至らなかったとして、その後あなたはどう対処すべきでしょうか。叱りますか? それとも原因究明や再発防止策について話し合いますか? 若手の研修でこの質問をすると、もっとも多いのは『まず上司が謝る』です。驚くかもしれませんが、コミュニケーションでは、まず『あなたのことを心配しているよ』と痛みを共有してあげることが大切です。叱ったり、原因究明を始めたりすると、おそらく部下は言い訳を考え始める。リーダーには共感力、本当の意味で寄り添う力が不可欠です」

(4)Character(人格)
「キャラクターには、もともとは『彫り出す』という意味があります。人間は本来その内側にそれぞれの人格を持っています。でも、社会性を身につけてリーダーとはこうあるべきといった鎧を着込んでしまうと、本来のそれが隠されてしまいます。研修ではそんな本来の自分をもう一度彫り出し、磨きなおしていく作業をします」

(5)Conviction with courage(勇気を伴う信念)
「私は二浪が決まった二十歳のときに、病気で二カ月入院しました。そのとき同じ部屋にいた人に『人間はいつ死ぬかわからない。最後に頑張ったと思える人生を送れ』と言われました。その言葉で心が解放されました。結果ではなく、生き方が大切なんだと。それ以来、不器用だけど頑張っている人を応援したい、いわれなき弱者を無くしたいという思いで、仕事をしてきました。信念とはこうした過去の経験から積み上げられてきた、苦しいときでも曲げずに貫きたい考え方、強い思いです。信念を貫くことは現実には難しいかもしれませんが、リーダーにはそれが必要なときがあります。苦しい決断をしなければならないときほど、信念が試されます」

(6)Credibility(信頼)
「ただし、信念を貫こうと思っても、誰もそれに共感し、受け入れてくれなければ、変化を起こせません。大切なのは、その信念にかけてみようと思ってもらえる信頼関係を構築できているかです。周囲の人たちが『この人が言うのなら』と受け入れてくれなければ、組織は動きません。あわせて"Vulnerability(ヴァルナラビリティー)"という言葉をキーワードとしてあげておきます」

Vulnerability=脆弱性。転じて「鎧をはずして生身でいること」という意味になる。高橋氏は何度も「リーダーという鎧をはずせ」「ありのままの自分でいるからこそ信頼される」と強調してきたが、まさに新しいリーダーシップを考えるときのカギとなる言葉といえる。

日本企業に適したフラットに知恵を出しあっていく関係性

最後にこの日のテーマである「リーダーシップOS」について高橋氏がまとめた。

「リーダーシップが変わるとは、人との向き合い方が変わる、ということ。変化の激しい時代の中では、一人が決めるのではなく対話によって方向性を一緒につくっていくのです。リーダーがそうした姿勢を打ち出し、自然体で振る舞うことで組織文化も変わっていきます。組織に人をあわせていくのではなく、人のための組織へ。リアル・リーダーズのプログラムはそのためのものです。世界価値観調査によると、『権威への尊敬が強まるのはよいことか』という問いにもっとも否定的だったのが日本でした。日本人は、権力が一部に集中してすべてを決めていくことを、あまり良いこととは考えないようです。だとすると、今日お話しした新しいリーダーシップの考え方は、皆さんにも何ら違和感ないものではないでしょうか。みんなでフラットに知恵を出しあっていく組織、社会。そんな時代をつくっていくためのリーダーとメンバーの関係がこれから大きな意味を持ってくると思います」

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