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クライアント事例から学ぶ
事業戦略から落とし込む教育体系構築の具体策

  • 山田 博之氏(株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 執行役員)
  • 森 俊成氏(兼松株式会社 人事総務部 人材開発課 課長)
東京特別講演 [D-5]2019.12.24 掲載
株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース講演写真

事業戦略に合った人材育成を考えるとき、的確な教育プログラムをゼロから考えることには困難が伴う。フィールドマネージメント・ヒューマンリソースは、「戦略を推進する人材像の設定→現状の教育課題の抽出→教育体系の設計→教育実施計画の策定」の4ステップで策定を支援。ゼロベースから4ヵ月で企業内大学を創設した兼松の事例をもとに、教育体系構築のノウハウを探った。

プロフィール
山田 博之氏( 株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 執行役員)
山田 博之 プロフィール写真

(やまだ ひろゆき)国内の戦略系コンサルティングファームにて、HR領域を主とした経営支援コンサルティングに従事。主担当として、25社の経営・人事改革や次世代幹部育成などの大型プロジェクトを実行。その後、事業会社の人事企画担当などを経て現職。戦略策定などをテーマにした次世代幹部の育成に強みを持つ。


森 俊成氏( 兼松株式会社 人事総務部 人材開発課 課長)
森 俊成 プロフィール写真

(もり としなり)1991年に兼松株式会社に入社。北米、アジア、欧州向けの電子部品の輸出営業を担当し、台北、ロンドンに駐在した後、2006年から自動車部品の輸出販売に携わる。2016年に企画部 経営企画室で人事の担当となったことがきっかけで2018年から人事総務部に異動し、採用・研修・評価の担当をしている。


事業戦略と教育体系を連動させるときの落とし穴とは何か

2009年に創業したフィールドマネージメントグループ。戦略コンサルタントを行うフィールドマネジメントでは、自己資本投資やスタートアップ、サーチファンド、ベンチャーキャピタルを行う。組織人事コンサルタントを行うフィールドマネージメント・ヒューマンリソースでは、戦略を実行できる組織づくりの支援として、人材を育てる教育研修アプローチ、仕組みを創るコンサルティングアプローチを行っている。

まず山田氏が「事業戦略と教育体系のつなぎ方」について解説した。最近はいかに次世代リーダーを戦略的に育成するかが企業にとっての課題となっている。企業が意識的に人材をつくる仕組みには教育があるが、教育体系を見直すときに陥りがちな落とし穴が三つある、と山田氏はいう。

「一つ目は、求める人材像が不明瞭なまま体系化を進めてしまうこと。部分最適な人材像になっていることがあります。二つ目は、プログラムありきで体系化してしまうこと。運用を始めたときに、いったいどんな人材を育成したかったのかわからなくなります。三つ目は、教育内容が実践や評価につながっていないこと。教育は教えて終わりではなく、実践されないと意味がありません」

そもそも、なぜ企業が人材教育を行うのか。よくあるのは、教育することがゴールになってしまっているケースだ。何のためかが抜け落ちている。

「会社は学校ではありません。教育は戦略の推進、ミッションやビジョンの実現が目的です。教育体系が適切かどうかを見るときは、戦略推進のうえで必要な要素が揃っていることを確認する必要があります」

講演写真

では経営戦略を実現するために求められる人材像を、どのように捉えればいいのか。そこには三つのポイントがある。

「一つ目は、戦略の方向性を捉えること。現状の経営戦略において、自社の事業はどのような方向に展開していこうとしているのかを把握します。二つ目は、内部環境の強化ポイントを捉えること。戦略を実現するため、バリューチェーン(VC)上で強化を必要とする部分はどこかを考えます。三つ目は、求められる人材像の明確化。戦略とVCの強化を図るために必要となるのはどのような人材かを明確にします」

山田氏は、具体的にどのようなステップで、教育におけるコンサルティングを進めているのかを紹介した。

「ステップ1は、戦略を推進する人材像の設定です。経営戦略の方向性を把握した上で、それを実現するためには人材において何を強化すべきなのかを検討します。どんなスキルの人材が必要なのか。さらにその人材像を、階層別・職種別にその内容を分解します。ステップ2は、現状の教育課題の抽出です。人材強化課題を踏まえた上で、現状の教育体系において足りない点、テーマの見直しが必要な点、実施方法の見直しが必要な点を検討します。変えることと変えないことを見極めるのです。ステップ3は、教育体系の設計。人材の強化課題について、教育制度において強化・改善できるものとして階層別・職種別にどのような教育を実施すればよいかを考え、その教育方法を検討します。ステップ4は、教育実施計画の策定。検討した教育プログラムの実行計画を中期3ヵ年程度に落とし込み、教育メニューをどのような順にどの時期に行うのかを決定します」

ゼロベースから4ヵ月で企業内大学を創設

続いて、フィールドマネージメント・ヒューマンリソースが企業内大学の創設をコンサルティングした、兼松株式会社の森俊成氏が登壇し、山田氏とのディスカッション形式で、同社の事例を紹介した。

兼松は創業130周年の総合商社で、電子・デバイス、食品、食糧、鉄鋼・素材・プラント、車両・航空などの多様な商品・サービスを手掛けている。2019年7月から、新たなビジネスを創造する経営者の育成を目的として「兼松ユニバーシティ」を開講した。

山田:大学制度を構築した理由とは何だったのでしょうか。

森:中期経営計画「フューチャー135」に関係しています。それまで事業はトレーディングがメインで、教育体系もこれに根ざしたOJTが中心でした。中期計画は意欲的に利益を倍増させる目標があり、トレーディングに加えてM&Aなども行う予定で、投資企業の経営を行う人材が必要になったのです。そこで、教育体系を見直すことになりました。人事では既存の研修体系の見直しを考えていましたが、トップは「従来の教育の洗い直しでは人の考え方は変わらない」との考えで、新たに大学制度をつくるよう指示がありました。

山田:なぜ協力会社に当社を選ばれたのですか。

森:フィールドマネージメント・ヒューマンリソースさんにお願いしたいと考えたきっかけは、以前、実践で伝える論理思考の研修をご紹介いただき、その内容が非常によくできていたからでした。3社ほど検討したのですが、大学づくりの相談にも乗っていただけるということで、貴社にお願いすることを決めました。

講演写真

山田:論理思考の研修はこちらがゼロベースから考えて、ご提案したものです。型ありきではなかった点を評価していただいたのでしょうか。

森:他の2社からは内容をブレイクダウンしたうえで、パッケージ商品を勧められました。貴社だけが「一から考えましょう」というご提案だったので、私は直感で「ここしかない」と決めたのです。すぐに社長に伝えて、ゴーサインが出ました。

山田:兼松ユニバーシティの構築は約4ヵ月のプロジェクトとなりました。具体的な実施内容についてご説明しましょう。ステップは四つ。ステップ1は、現状認識です。事前に共有していただいた資料やキーマンへのヒアリングを基に、経営戦略の方向性や具体的な戦略、それを実行するための人物像や資質定義を理解し、育成ゴールや必要スキルなどの仮説を設定しました。ステップ2は、育成ゴールの設定です。ステップ1の仮説を基に、等級別にその内容を分解し、育成ゴールを設定しました。等級別の育成ゴールから求める重点資質、スキルを設定しました。

ステップ3は、育成課題の設定です。育成ゴール、求める重点資質、スキルを踏まえて、等級、職種別の育成課題を明確にします。また、育成課題を踏まえ、現状の教育体系に対して、足りない点、テーマの見直しが必要な点、実施方法の見直しが必要な点を検討しました。ステップ4は、企業内大学という教育体系の設計です。等級別・職種別にどのような教育を実施すればいいのかを検討し、教育方法を検討しました。こうして検討した教育カリキュラムを企業内大学に落とし込んだのです。

事業戦略に従って、学ぶべき72スキルを決定

山田:では、ステップごとに振り返っていきます。最初は現状認識から求める人材像を決めるのですが、開始当初はゴールが明確ではなかったですね。

森:当初はとにかく、研修制度を見直したいという思いしかありませんでした。そこでまず、4ステップに基づいた明確なスケジュール表をいただき、その流れで一緒に育成ゴール表を設定しました。今考えても、到底私たちだけでは決められなかった内容だと思います。

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山田:貴社のトップからは、M&A企業の経営を任せられるような人材をつくりたい、という要望をいただきました。しかし、いきなりでは難しいので段階を踏んで取り組むことを提案し、そのロードマップを考えました。次に世の中にあるスキルを整理し、優先順位をつけていきました。学ぶべきスキルを「教養」「知識&スキル」「対人(対自己、対相手)」「対業務(基礎、専門)」の分類から、全72スキルをピックアップしました。

そして、貴社で行われたサーベイ調査や社長からのご要望を通じ、どれが重要スキルか、必須スキルかの優先順位をつけていきました。スキルを「ナレッジ」「テクニカルスキル」「ベーシックスキル」「スタンス」に分類。スキルを絞り込んだ後に、それをどんな形でプログラム化するかを設計していきました。また、他に設定が必要である「目的・コンセプト」「名称」「対象者」「カリキュラム(コース、期間、内容、講師、場所)」「運用(管轄主体、運用システム、認証方法、効果検証)」などの項目を決めていきました。初期の対象者を誰にするかも話し合いましたね。

森:どの段階の人に、どのように受けてもらうかを考えました。10年目以下の社員が対象でしたが、11年目以上の人に向けたカリキュラムをどうすればいいのかも悩んでおり、アドバイスをいただいたこともあります。

山田:開設までで大変だったのは、社内への根回しでしたね。

森:4月の公表を前に部署ごとに説明したのですが、いろいろな意見が出てしまい、非常事態の様相となりました。そこで人事部長に頼んで、社内の全部長に対して個別に説明してもらったのです。なんとか全員にご理解いただき、公表にこぎ着けました。

山田:そして無事、7月開校となりました。もう効果は見えてきていますか。

森:スタートしてからも、社長から社員に何度もやる意義を話してもらい、徐々に社員も腹落ちしていったように思います。会社が本気で経営者を育てようとしているということが社員に伝わり、社内の雰囲気も変わってきました。今後はグループ社員にも対象を広げたいと考えています。

山田:最後に、私たちはこうしたキャリアパスや教育体系を、企業と一緒につくっています。現状分析からどんな人材をつくるのかという目標設定、教育体系、プログラムまで、およそ4~6ヵ月をかけて担当させていただいています。ぜひご相談いただければと思います。本日はありがとうございました。

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