アサーション(Assertion)とは、相手を尊重しつつ自分の意見を伝えるコミュニケーション方法の一つです。
アサーションを実践するためには、まず自分がどのようなコミュニケーションスタイルなのかを知ることが重要です。「アグレッシブ」「ノン・アサーティブ」「アサーティブ」のどれなのかを把握し、「アサーティブ」なスタイルを目指します。
実践の上では、適切なマインドを持ち、理論やフレームワークを学ぶことも大切です。「基本的アサーション権」や「四つの構成要素」を念頭に置くことで、自他尊重の心構えを身に付けることができます。また、自分の意見を適切に認識する「ABCDE理論」や、アサーティブな言動を組み立てるための「DESC法」を用いることで、具体的にどのような言動をすべきかを理解することができます。他にもさまざまな書籍から知識を得ながら、日々の業務で実践することで、アサーションをより効率的に実践できます。
1. アサーションにおける自己主張のタイプ三つ
アサーションに関しては学界でさまざまな研究がなされており、自己主張のタイプを三つに分けることが一般的です。
1.アグレッシブ
アグレッシブとは、英語で「攻撃的な」という意味を持つ言葉です。アグレッシブタイプは自己中心的で、自己の利益を優先し、他者の気持ちや状況をくみ取らない傾向があります。
物事ははっきり伝えられますが、その半面、他者の考えに無頓着な傾向があり、自分の考えを相手に無理やり押しつけてしまうタイプです。人間関係においても、衝突をしやすい傾向があります。
アグレッシブタイプの例
シーン:部下が自分の得意先に対して、間違った見積書を送付してしまった場合
- 真っ先に「なんてことをしてくれたんだ」と頭ごなしに怒る
- 「なんでそんなこともわからないんだ」と相手のスキルや能力を否定する
- 「どうしてくれるんだ」と責任を問う
部下がミスを起こしたことには何かしらの理由があるのに着目しない、また、どうすべきかを冷静に考えもしない、というパターンです。見積書の確認は、一般的には上司の責務でもあり、業務における自分の責務を果たせていない点について自省せず、棚に上げているとも考えられます。
2.ノン・アサーティブ
ノン・アサーティブタイプは自分よりも相手を尊重し、自己否定的になり、思ったことを言えないという特徴があります。消極的かつ何かあったときに黙りがちで、言いたいことを言えず、ストレスが溜まりすぎると爆発するリスクも抱えています。
ノン・アサーティブタイプの例
シーン:取引先が、自分が納品した制作物に対して、大幅な修正を依頼してきた場合
- 「承知しました」と、とりあえず引き受けてしまう
- 「相手は取引先だから要望を聞くしかない」と思い込んでしまう
- 心の中では「もう合意して納品した物なのに」と不満に感じている
相手の都合を優先してしまうあまり、契約や取引条件における取り決めがどうなっているのか、事前にきちんと合意形成をしていたのかに意識が向きません。自分を犠牲にするあまり対等な関係を築けず、心理的なストレスを抱えてしまうパターンです。
3.アサーティブ
アサーティブタイプは自分がするべき主張を行いながらも、相手の気持ちや状況に配慮したコミュニケーションができます。状況に応じて、自分の要求をしっかりと伝えつつ、相手に誠実さや思いやりをもって向き合えるタイプです。
アサーティブタイプの例
シーン:業務が多忙な中、上司から急な仕事の対応を依頼された場合
- 「今はAとBの案件があり、すぐには対応できない」と現状を具体的かつ正確に伝える
- その上で「Bの案件の優先順位を落としてよければ、その分の時間をまわせる」と代替案を提案する
「忙しいから対応は難しい」などと頭ごなしに相手の要求を否定せず、かといって「わかりました」と無理に受けたりもしない、バランスの取れた自己主張になっています。自分が置かれている状況や前提を伝えることで、相手も納得しやすくなります。
2.アサーションを実践するポイント
1)基本的アサーション権
アサーションを理解する上で重要な考え方として、平木典子氏は「基本的アサーション権」を挙げています。「誰もが自己主張する権利を持つ」という考え方で、下記の五つがあります。
基本的アサーション権
- 私たちには、誰からも尊重される権利がある
- 私たちは、他人の期待に応えるかどうか決める権利がある
- 私たちは誰でも過ちをし、それに責任を持つ権利がある
- 私たちは、支払いに見合ったものを得る権利がある
- 私たちには、自己主張をしない権利もある
アサーションは自分の気持ちを大切にしつつ、相手にも配慮したコミュニケーションを行う手法です。スキルを身に付ける前に、まずはこの前提を理解する必要があります。
2)アサーティブな言動を構成する四つの要素
「アサーティブジャパン」は、アサーティブな言動をする際に意識すべき四つの要素を挙げています。
基本的アサーション権
-
誠実
まずは自分にも、相手にも誠実になること。相手や自分の気持ちに対して真摯に向き合うことが重要です。 -
率直
要求や現状は率直に伝えましょう。回りくどい言い方では相手に伝わらないこともあります。相手に正しく伝えることが重要です。 -
対等
相手と常に対等であることを意識しましょう。押しつけるのでもなく、おもねる必要もありません。 -
自己責任
自分の言動に責任を持ち、言ったことだけでなく言わなかったことに対する責任も持ちましょう。
これらの要素を頭の片隅に入れておくと、アサーティブなコミュニケーションを実践しやすくなります。
3)ABCDE理論
アサーションにおいては自己の意見を適切に認識することが大切です。その助けとなるのがABCDE理論です。
論理療法の創始者であるアルバート・エリスが作ったカウンセリングに関する理論の一つで、ABC理論とも呼ばれます。同氏によると、物事に対する受け取り方は下記の要素、流れで構成されています。
A:Activating event(出来事や現象)
B:Belief(受け取り方や感じ方、あるいは思い込み)
C:Consequence(結果としての感情や行動、症状)
D:Dispute(非合理的なBに対する反論)
E:Effect(Dによる効果)
アサーションを実践するにあたり、ABCDE理論の考え方は参考になります。
人間の物事の受け取り方は、AからいきなりCに行くのではなく、必ず「B」を経由します。
Bには合理的な受け取り方と、非合理的な思い込みがあります。
論理療法では「非合理的なB」を反論(D)により打ち消すことで、より冷静で客観的かつ論理的な行動を促します(E)。
例えば、非合理的になりがちな思い込みの例として、下記などが挙げられます。
非合理的になりがちな思い込みの例
- 誰にも嫌われてはならない
- 自分は誰かのために常に尽くさなければならない
- 自分には欠点が多い
- 自分は同僚に嫌われている
- 自分はこの仕事に向いていない
- 自分は同僚より秀でている
- 自分は同僚より劣っている
当てはまるものはありますか。
B(受け取り方や感じ方、あるいは思い込み)を日ごろから意識すれば、自分が状況をどう感じているかより深く理解することができるようになり、アサーティブな対応もスムーズになるでしょう。
4)DESC法
DESC法は相手に物事を上手に伝えるためのコミュニケーション方法の一つで、アサーション・トレーニングの場でも有効です。DESC法では、伝えるための手順を下記の四つに分けています。
DESC法:伝えるための4つの手順
-
D(describe):
自分の状況や相手の行動を客観的かつ具体的に描写します。なるべく事実を正しく伝えます。 -
E(express、explain、empathize):
自分の主観的な気持ちを表現したり、説明したりします。または相手の気持ちに共感します。一方通行にならないよう、相手にも配慮します。 -
S(specify):
自分の要求だけでなく代替案、解決策を具体的かつ現実的な内容で提案します。 -
C(choose):
相手の選択や反応に応じて、自分の行動を選び伝えます。
アサーションを具体的に実践するときに、どのような表現をしたらいいのかわからないとき、DESC法を用いれば、アサーティブに回答できます。
- 【参考】
- DESC法|日本の人事部
3.アサーション・トレーニングを行う方法
アサーティブなふるまいを身に付けるには、どのような方法があるのでしょうか。
1)書籍などで勉強する
アサーションに関する書籍やテキストは多数出版されています。上述の平木氏の著書などは、研修やセミナーでも使われています。
よくわかるアサーション 自分の気持ちの伝え方
出版社:主婦の友社
著者:平木 典子
マンガでやさしくわかるアサーション
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
著者:平木 典子
ビジネスパーソンのためのアサーション入門
出版社:金剛出版
著者:平木 典子、金井 壽宏
改訂版アサーション・トレーニング さわやかな〈自己表現〉のために
出版社:日本・精神技術研究所
著者:平木 典子
2)日々の業務の中で意識する
アサーションをテキストやセミナーなどで学んだ後は、日々の業務でアサーティブなコミュニケーションを取り入れていくことが重要です。
まずは自分の思考に、「非合理な思い込み」をはじめとする偏りや一定のパターンがあることに意識を向け、いつもとは違う考え方や行動を試すことから始めましょう。今までの人生で染みついた思考プロセスを変えるのは難しく、すぐにはうまくいかないかもしれませんが、繰り返し訓練することで慣れていくはずです。
アサーション・トレーニングを実戦する際、自分一人で行っていると途中で挫折してしまうこともあります。しかし、上司との1on1の中でアサーションに取り組むことを伝えるなど、周りの協力を得ながら行うようにすれば、継続的なトレーニングを実現することができます。
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