三菱ケミカルが推進する「KAITEKI健康経営」
健康支援と働き方改革の実現に向けた30の宣言とは
金丸 光一郎さん(三菱ケミカル株式会社 執行役員 人事部長)
真鍋 憲幸さん(三菱ケミカル株式会社 人事部 全社統括産業医)
健康経営を推進するにあたって、従業員の理解浸透は重要なプロセスのひとつ。健康状態やパフォーマンスの改善には、働く一人ひとりの行動変容が欠かせないからです。総合化学メーカーの三菱ケミカルでは、2016年から独自の経営戦略に基づく「KAITEKI健康経営」を推進。2019年には「三菱ケミカルは決めました」という宣言を発表し、健康支援と働き方改革の指針を30のメッセージに集約しました。同社の健康経営の考え方と施策について、執行役員 人事部長の金丸光一郎さん、人事部で全社統括産業医を務める真鍋憲幸さんに、お話をうかがいました。
- 金丸 光一郎さん
- 三菱ケミカル株式会社 執行役員 人事部長
1987年入社、以来ほぼ一貫して人事業務に従事。本社、研究所、工場・事業所などの人事を歴任し、人材配置、採用、制度検討、制度運用、労組対応、労務問題対応などを中心に、二度の大型会社合併ならびに数度の事業構造改革を経験。2011年4月より人事部グループマネジャー、2017年4月に人事部長に就任。
- 真鍋 憲幸さん
- 三菱ケミカル株式会社 人事部 全社統括産業医
産業医科大学卒、泌尿器科医の臨床を経て2005年入社。三菱レイヨン統括産業医を経て2017年より現職。産業衛生学会産業医部会幹事、広島県医師会産業医部会副部会長、厚生労働省における検討会の構成員などを務める。産業医科大学非常勤講師。日本赤十字広島看護大学特別講師。日本産業衛生学会専門医。社会医学系指導医。労働衛生コンサルタント。
働き方改革とセットで取り組む健康経営
「KAITEKI健康経営」とは、どのようなものなのでしょうか。
金丸:前提には、三菱ケミカルグループとして掲げる「KAITEKI経営」があります。人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくことを「KAITEKI」と定義し、世界中に広まるようにあえて英字表記にしています。
KAITEKI経営は、営業利益や総資本利益率など財務指標に基づく経営(MOE:Management of Economics)と、技術を活かしてイノベーション創出につなげる経営(MOT:Management of Technology)、そして社会と環境の持続可能性につながる経営(MOS:Management of Sustainability)の三つの軸で捉えていることが特徴です。そこに時代の風を加え、企業価値の最大化を図っています。
KAITEKI経営をドライブするのは従業員であることは、言うまでもありません。一人ひとりが自分らしく、いきいきと活力高く働ける状態、つまりKAITEKIでなければ人や社会や地球の心地よさを実現することはできないでしょう。そこで働く個人と職場の健康状態を高め、KAITEKIなプロダクトやソリューションの創出につなげていこうというのが「KAITEKI健康経営」であり、グループ全体で取り組んでいます。
「KAITEKI健康経営」の方針について、お聞かせください。
金丸:特徴的なのは、健康経営を“会社・職場づくり”の一環と捉えていることです。職場の健全さは、働く人の健康リスクに大きく影響し、働き方にも反映されるものだからです。
多様な人材が持ち味を発揮できる環境や、能力が適正に評価される仕組み、効率的でメリハリのある働き方など、健全なワークスタイルの確立が人と組織の健康、そしてKAITEKI経営の実践につながっていきます。そのためKAITEKI健康経営では、従業員・職場の「健康支援」と「働き方改革」を両輪としています。
推進にあたっては、「自分の健康」「職場の健康」「家族や地域の健康」の三つの観点を設けています。「自分の健康」は、従業員がいきいきと働けるよう、自律的に健康管理を行うことです。「職場の健康」は、共に働く仲間の個性を認め、お互いに支え合う力をもとに活力と想像力のある場をつくり上げること。そして「家族や地域の健康」は、自分の健康や職場の健康を通じて、家族や地域の一員として広く貢献することをいいます。
健康経営に「働き方改革」が含まれているのは、興味深いですね。
金丸:健康支援は、すぐ理解できると思います。特に当社では、国内の事業所に勤務する人の多くが、化学プラントなどの事業所・工場といった製造現場で働いています。現場の安全衛生管理は必須ですし、生活習慣病予防や運動機能や生理機能の向上に努めることは、イメージしやすいと思います。
では、なぜ働き方改革を推進するのか。当社単体では約14,000人の従業員がいますが、女性比率は13%、課長職以上の管理職の女性比率は7%と、圧倒的に男性が多い環境です。性別のほかにも、国籍、障がいの有無、性的指向・性自認などにかかわらず誰もが活躍できる職場を目指していますが、国内外のグループ会社まで含めると約4万人の社員がいて、まだ課題も多いのが実情です。
化学メーカーとしていろいろな素材を扱っていますが、イノベーション創発を踏まえると多様性推進は大きなテーマといえます。それぞれの立場の違いを認め合い、互いに持ち味を発揮していくには、画一的な組織運営ではうまくいきません。働き方の柔軟性と多様性とは切っても切れない関係にあり、活力ある職場を実現するためには“働き方改革”は外せないと考えました。
ホールディングス全体の方針を自社の施策に落とし込む際に、意識したことはありますか。
真鍋:三菱ケミカルとしてのKAITEKI健康経営の概念設計にあたっては、ホールディングス全体のKAITEKI経営の一環として捉えることが非常に重要だと考え、経営陣を交えた議論を徹底的に行いました。
また、もう一つの大切な観点は、外部環境の影響の考え方でした。例えば生産性一つをとっても、株価や原燃料の価格などが事業に与える影響によって左右されることがあります。しかし健康経営のめざすところは、もっと根本的なところにあります。
三菱ケミカルのKAITEKI健康経営では、従業員のウェルビーイングを担保することは大前提であるという発想で施策を設計しています。社員や職場の健全さが、景気や業績に振り回されるようなことがないよう、効果検証については、従業員満足や組織活性といった定性的な要素を重視しています。一般的には生産性や医療費コストなどの定量的なものを指標にすることが多く、その点は他社と一線を画していると思います。