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三菱ケミカルが推進する「KAITEKI健康経営」
健康支援と働き方改革の実現に向けた30の宣言とは

金丸 光一郎さん(三菱ケミカル株式会社 執行役員 人事部長)
真鍋 憲幸さん(三菱ケミカル株式会社 人事部 全社統括産業医)

会社のめざす姿を30の宣言で従業員に伝える

KAITEKI健康経営を進めていくうえで、2019年には「三菱ケミカルは決めました」という宣言を発表されています。

金丸:私たちはこれまでも仕事と生活の両立支援制度をはじめ、施策の充実を図ってきました。最近増えているキャリア採用の社員に話を聞くと、他社に先駆けて導入している制度なども多数あります。しかし一方で、従業員に広く浸透していないことに課題を感じてもいました。

浸透不足の理由の一つは、施策や制度をまとまった形で伝えきれていなかったこと。そこで、従業員の声を受けて何を制度化したのか、これから着手するのかなど、人事としての姿勢を見せることにしました。施策や制度を体系化し、30の宣言という形で発信したのです。

「三菱ケミカルは決めました」には経営の考えと共に、従業員の「こんな会社になってほしい」という思いも詰まっています。現時点では三菱ケミカル本体が対象です。グループ会社や海外では状況が異なり、考慮すべき事柄もたくさんあります。それぞれの形で、できることから取り組んでもらえればと考えています。

「決めました」というフレーズが、とてもユニークですね。

金丸:「三菱ケミカルは決めました」としたのには、二つの理由があります。一つは従業員に対して、当社の姿勢をしっかりと伝えたいと考えたからです。「決めました」には、「安全・安心・明るい職場」「お互いを尊重する・認めあう」「自己実現・社員と会社のWin-Win」という三つのステップに伴う会社のあるべき姿が集約されています。すべての従業員が宣言を正しく理解するには、わかりやすい言葉でメッセージを打ち出す必要があったのです。

KAITEKI健康経営「三菱ケミカルは決めました」

もう一つは、インパクトのあるネーミングを用いることで、社外への周知も促したいと考えたからです。メディアなどで取り上げてもらえれば、巡り巡って社内への浸透にも効果が期待できます。報道をきっかけに、従業員のモチベーションやエンゲージメント強化にもつなげたいと考え、プロモーションなども強化しました。

広報面ではどのような工夫を図ったのでしょうか。

金丸:社内向けはポータルサイトでの発信です。目を引くビジュアルを作成し、従業員の興味を喚起するよう工夫しました。また、宣言にまつわる動画も配信しています。育児休暇制度を利用した男性従業員や、テレワークを活用する従業員のインタビューなどで構成したもので、リアルな声を届けることを意識しました。社外に向けては、プレスリリースやホームページで発信したほか、政治経済などのニュースを扱うオンラインメディアで紹介してもらいました。

KAITEKI健康経営のポータルサイト
「三菱ケミカルは決めました」30の宣言
宣言1 KAITEKI健康経営を推進します
宣言2 従業員の健康維持・管理に、予防から治療、就業との両立まで、更に深く真剣に関わります
宣言3 KAITEKI健康経営を踏まえた組織マネジメントと部下育成を職位者の重点課題に位置づけます
宣言4 ハラスメントゼロ職場を実現します
宣言5 ゼロ災をめざします
宣言6 職場での受動喫煙防止対策を徹底します
宣言7 製造現場の社員もしっかり休めるように要員配置を見直します
宣言8 製造現場のトイレ環境を改善します
宣言9 サービス残業を許しません
宣言10 テレワークを推進します
宣言11 「休日メール」「休日の作業を前提とした資料作成指示」を禁止します
宣言12 社員全員が3日連続の休暇を取得します
宣言13 部下に有給休暇をしっかり取得させた組織長には、その要素も加味した評価や認知を実施します
宣言14 社員が配偶者の転勤に帯同したい場合や介護で親元に戻りたい場合は、積極的なサポートを実施します
宣言15 子供を持って働く社員を長期的視点で支援します
宣言16 男性の育児休職または時短取得率100%をめざします
宣言17 育児・介護に限らず、病気治療等家庭や個人の事情がある人には時短勤務を認めます
宣言18 介護離職ゼロをめざします
宣言19 性別、国籍、障がいの有無、性的指向・性自認等に関わらず、さまざまな価値観を持った多様な人材がいきいきと活躍できる職場にします
宣言20 障がい者の職域拡大、職場環境整備を図り、雇用促進を全社的に進めます
宣言21 Welcome Talent! 新卒に加えて、中途採用も積極的に実施していきます
宣言22 Welcome Back! 他所で経験を積んで戻ってきてくれる人を歓迎します
宣言23 当社に入社してくれる誰もが、入社後スムーズに活躍できるようになるための支援(研修等)を行います
宣言24 年齢や勤続年数ではなく、職務、経験、貢献度等を踏まえた登用を行います
宣言25 育児や介護は貴重な体験であり、昇格・評価等も含めた諸任用の際に休職自体が不利に取り扱われることはありません
宣言26 キャリアデザイン面談を確実に行い、社員一人ひとりが成長することを支援します
宣言27 どこでどのように働きたいのか、社員のキャリア志向、希望も聞いた上で配置・育成を行います
宣言28 社員の学びをサポートします
宣言29 Welcome 武者修行!
宣言30 ボランティア参加する社員を応援します

30の宣言の概要を教えてください。

真鍋:宣言1~4はKAITEKI健康経営の総論的な内容で、宣言5以降は具体的な取り組みを示しています。ゼロ災などの安全配慮義務に関するものから、サービス残業の撲滅や休暇の取得など働き方改革と関連するもの、男性の育児休職や短時間勤務、介護離職ゼロなど仕事と生活の両立支援や多様性促進に関するもの、そして多様な経験を支援するキャリアの考え方に関するものに分けられます。

金丸:宣言の中には、これから会社として推進していくという、未来の意思を示したものもあります。例えば宣言6の「職場での受動喫煙防止策」は、今年(2020年)の4月から職場の喫煙所を廃止する形で本格運用を開始しました。

宣言8の「製造現場のトイレ環境を改善します」などは、非常にユニークですね。

金丸:事業所・工場は、つくられてから数十年経っているところも多数あります。製造に関係する部分はこれまでも改修を進めてきましたが、付随施設については後回しになりがちでした。その代表ともいえるのがトイレです。現在の衛生観念に照らし合わせると、暗い・狭い・古いと、使用感のよくない状態になっていました。

現場の若手社員からも「トイレが詰まって困る」などの声が上がり、トイレの全面的なリニューアルを決めました。作業現場ではヘルメットやハーネスなどを身につけているので、これらの置き場を設けるなど、快適さを重視しています。今のところ製造ラインの従事者は男性のみですが、これからは女性の登用も積極的に行っていく予定です。そうしたことも鑑みながら、職場の環境改善に努めていきます。


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