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特別セミナー[E]

「事業のサステナビリティを高めるリーダー選抜・育成」

井関 隆明氏
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
タレント・マネジメント・システム事業部 事業部長
井関 隆明氏(いせき たかあき)
プロフィール:神戸大学卒業後、リクルートに入社し、企業の人材採用を支援。2001年より、リクルートマネジメントソリューションズのシニアコンサルタントとして大手企業を中心としたHRM領域のコンサルティングに従事。コンサルティング組織や新事業準備室のマネジャーなどを経て、2010年4月より現職。中小企業診断士。

重要だが難航している、リーダー選抜・育成

井関 隆明氏/講演 photoリーダーを継続的に育成していくことは、事業の継続のために不可欠なテーマです。本セミナーでは、「次世代リーダー」を主たる事業のトップおよびボードメンバー、コーポレート部門長と設定し、その選抜と育成についてお話していきます。

この分野の関心はとても高く、例えば、昨年当社が企業を対象に実施した調査でも、「人材マネジメント課題として何に注目しているか」という問いに対して、「次世代経営人材の育成・登用」との回答が、現在においても、5年後の課題においても、1位となりました。背景には、規制緩和やグローバル化の進展など事業環境が変化するなかで、これまで通りの選抜・育成でいいのかといった疑問があること、また、カルロス ゴーン氏(日産自動車株式会社 社長兼最高経営責任者)のような優れたリーダーの登場により、企業業績を劇的に向上できるという期待が高まった、という面もあろうかと思います。また、高度経済成長期のように日本経済全体が成長している時代と比べて、社員に成長機会を提供しにくくなっていることも要因かもしれません。このように、さまざまな側面からリーダーの選抜・育成がクローズアップされています。

それでは、実際の次世代リーダーの育成状況はどうかいいますと、「2009年度 当面する企業経営課題に関する調査」(社団法人 日本能率協会)によれば、「育成できている」と回答した企業は、4割を下回っています。さらに育成の各段階において、育成の達成度が異なっているというデータもあります。具体的には、「適切な候補の選抜」ができていると回答した企業は半数近くにおよびますが、「社内選抜研修の実施」「社外など他流試合型研修の実施」、そして「研修実施後の困難な業務への意図的な配置」へと育成プロセスが進むにつれて、「上手くできている」というポジティブな回答は減っていきます。特に注目すべきは、「研修実施後の困難な業務への意図的な配置」で、「上手くできている」と回答した企業は、1割しかありません。業務へのアサインが育成の「ボトルネック」になっているのです。

米国で最も注目されているリーダーシップ育成機関であるロミンガー社は、経営者として成功している方へのインタビューを通し、“リーダーとして成長するための学びを何で得たか”をレポートしました。それが、有名な「70:20:10」という数字で、「業務での経験」が70%、「他者からのフィードバック」が20%、残りの10%は「研修」という結果でした。先ほどご紹介した調査でも、リーダー育成において最も困難なのは「経験の付与」でした。ここを変えていかなければ、リーダー育成は前に進んでいかないと考えています。

井関 隆明氏/講演 photoしかし、いざリーダー候補を育成しようとすると、「組織の壁」「マッチングの壁」「共通言語の壁」という三つの壁が、障害として立ちはだかります。「組織の壁」とは、グローバルで働く機会など、ストレッチした経験をアサインしたいと思っても、所属する事業部側の抵抗にあって頓挫するようなことを指します。「マッチングの壁」では、リーダー候補人材に積ませるべき経験が累計化できているか、候補者の経歴に照らして次にアサインすべき経験は何かが議論できているかが問題となります。「共通言語の壁」とは、「全社としてどういう観点でリーダーを選ぶのか」「キーとなるコンピテンシーは何か」「どういうアセスメント手法で確認すべきなのか」などの共通の物差しが存在せず、事業部や組織を越えて候補者を比較することができない、また全体としてどの要素が弱いのかを人事部門が把握できず、候補者に提供する育成プログラムとの間にズレが発生する、などといった問題です。

そこで、次世代リーダーの選抜・育成を成功させるためのポイントを、二つの観点からご紹介したいと思います。最初のポイントは、「ラインの建設的な協働を引き出し、リーダー選抜・育成をビジネスと結びつける」ということです。いろいろなプログラムを考える人事部門と、候補者を組織として預かり、育成責任を担っているラインとの間に、協働が足りないことが多いのです。どんなに立派な研修を提供していても、その後職場に戻ってから、どんな課題をアサインされ、どこに自身の能力とのギャップを感じながら働いているのか、人事部門がトレースできていない。また、「将来どのようなポジションを担う候補者として育てたい」のかという育成上のゴールについて、事業部サイドと人事部門が共通の認識を持てていないという状況もあります。
もう一つのポイントは、「リーダー育成の核となる『成長を促す経験』を適切に提供する」ということです。成長を促す貴重な機会が少なくなるなか、その機会を適切な時期にどう提供すればよいのか、それを考えながら進めていくことが必要ではないでしょうか。

ラインといかにうまく協働していくのか

井関 隆明氏/講演 photo欧米企業でも、リーダー選抜・育成は非常にクリティカルな課題です。アメリカではベビーブーマー世代の引退から、今後20年間で最大4600万人が引退すると予想されており、従来以上にリーダー育成に注目が集まっています。このような状況において、ラインとの協働を円滑に進め、リーダー育成が上手くいっている欧米企業の共通項は次の4点です。(1)経営トップ、役員層のコミットメント(2)ラインと人事部門の役割を明確化(3)選抜・育成状況の可視化と共有(4)コアな人事施策との連動。では、これらをヒントに、リーダー候補の選抜・育成において何を注意・重視しながら進めていけば良いのかを、まとめていきましょう。

■事業部トップをゴールとして設定

ラインとの協働を考える上でも、「事業部トップ」を育成のゴールとして設定することが、大切だと思います。ラインにとっての育成の目的と、人事部門にとっての育成の目的が乖離すると上手くいかないので、ゴールを「将来の事業部のリーダーを育成する」と設定した方が、ラインの積極的な協力を得やすいと思います。

■主体は事業部、共通言語設定と全体調整、およびサポートを人事部が担当

誰を選抜するかという判断、また職務での役割の付与が育成のポイントになることを考えても、リーダー選抜・育成の主体は、ラインに委ねた方が上手くいくのではないでしょうか。その代わり、しっかりと説明責任を負ってもらう。人事部門では、要件やルールの設定、状況を可視化するためのインフラを用意して、運用サポートを行なうことが重要です。

■候補人材の本籍は事業部に置きつつ、組織を超えた異動・配置を断行

事業部内で適切なミッションのアサインが難しい場合、部門を超えたミッション設定を検討しなくてはなりませんが、その際、どうしても事業部からの抵抗が出ます。レポートラインが変わることで事業部の意志が伝わらなくなることを危惧し、部門横断の異動に承認しない。あるいは、エースではない社員を代わりに出すといったケースもありえます。こういう軋轢を避けるためにも、本籍は事業部に置くルールとし、一時的に他部門で経験を積ませる際でも、本籍事業部とのラインを切らないことも、大事なポイントです。

ラインに候補者選抜や育成の権限を委ねるのであれば、当然ながらその説明責任もラインにが積極的に担うべきです。そのためにまず行なうべき事としては、「キーポジジョン」の明確化が挙げられます。該当事業を支える重要なポジションのことで、営業やマーケティング、調達など、事業の特性によって異なります。それがどこの職務なのか、そして求められるコンピテンシーや必要な知識・経験は何かを明確にします。その上で、キーポジションの後継候補人材については、複数の候補者を指名し、現時点での順位や能力ギャップ、そのギャップを埋めるための能力開発テーマを設定していきます。

リーダーが育つための人事部門の役割とは?

人事部門は、ライン主導によるリーダー候補の選抜・育成が適切に行なわれるよう、選抜・育成の仕組みやインフラの構築、運用サポート、進捗のモニタリングと経営へのレポートなどを担当します。育成上のゴールは事業部のトップと設定しましたが、将来的にはそのなかから全社のトップが出てくる可能性が非常に高いので、リーダーに求める要件は何なのか、その要件をきちんとアセスメントするためのツールを整備することも必要です。

また、ブラックボックス化しないように、育成状況や課題などを事業サイドと人事部門とで、共有することも大切です。また育成の観点で最近注目されているのが、「リーダー候補同士の相互触発の機会」の提供です。事業部の枠を越えたリーダー候補同士の接点から、新たな「気付き」を得るチャンスが生まれます。ポピュラーな選抜型の研修だけでなく、企業内SNSなどを用いて、バーチャルな機会を提供しようとする企業が増えてきています。

成長を促す経験の要素では、どうやってリーダー候補となる人材を選抜するのでしょうか。良く使われているのが、「9Box」です。設定する軸にもよりますが、「過去の業績」と「ポテンシャル」を指標に人材をプロットするのが一般的です。「高い業績を残している人」と「今後、より大きなミッションを担えると思われる人」を特定して、「ハイポテンシャル人材」としてフラグを立てる。会社によって「9Box」の活用法はさまざまですが、早い段階からハイポテンシャル人材を特定し、貴重な経営資源を誰に優先的に付与していくのかを議論することが重要になってきます。事業部のトップに何歳で就くのかにもよりますが、最近では40代前半で、という要望も多い。いろいろな経験を付与することを考えると、やはり10年くらいの期間は必要で、20代後半もしくは30代前半くらいには、こういう議論を進めていかなくてはなりません。

ハイパフォーマー人材の選抜付与する経験はどんなものでも良いという訳ではなく、その内容やタイミングによって、伸びしろが非常に大きくなることや、逆に成長が得られない場合もあります。適切な経験を効果的なタイミングで与えることが重要なのです。経験に盛り込むべきなのは、「アセスメント」「チャレンジ」「サポート」といった要素。効果的なタイミングとしては「トランジション」という概念が注目されています。これはキャリア上の節目にあたる部分(例えば、メンバーからマネジャーへの昇進)のことで、これまでの意識や行動が、そのままでは通用しなくなる時期を指します。いわば修羅場経験が発生しやすいタイミングなのです。3つの要素を上手く盛り込み、「トランジション」のタイミングをどう捉えていくか。その上で、経験を一過性のものとしないよう、本人にしっかりと内省させることが大切です。

リーダー選抜・育成を支えるタレントマネジメントシステム

最後に、当社が導入をサポートしている「タレントマネジメントシステム」について、簡単にご紹介いたします。これは「ハイポテンシャル人材」のカルテを作成し、いろんな角度からラインと人事部とでしっかりとモニタリングして、「どのタイミングで、どんな経験を積ませるのか」を管理するためのツールです。「9Box」を搭載し、半期ごとのポジショニングをトレースする、あるいはキーポジションの後継者として誰を考えているのかを可視化し、ラインと人事部門、経営層の間で共有することが可能です。欧米企業ではタレントマネジメントを実践するためのツールとして積極的に導入されており、当社は開発会社である、SuccesFactors社と提携して、日本での導入をサポートしています。

本セミナーでは、リーダー選抜・育成についての最新トピックや事例などを中心にお話しいたしました。ご紹介しましたようにリーダー選抜・育成は、中長期的な視野を持ち、ラインと人事部門が協働して進めるべきテーマです。まずは最初の一歩として、各事業部のトップに時間を頂戴し、ご自身の後継者やその次の候補として期待している社員がどのような方々なのか、また彼ら/彼女らの育成についてどのような課題を感じているのかを、聞いてみてはいかがでしょうか。また先ほど触れた、「タレントマネジメントシステム」は、数多くのグローバル企業の利用を通じ、年々その機能を拡張しています。いわばタレントマネジメントのベストプラクティスでもありますので、そのデモをご覧いただき、ヒントを掴むことも有効かと思います。本日は、ありがとうございました。

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