楢木: このパネルセッションでは、普段、人事の皆さんが悩んだり、課題と感じていたりするようなテーマについて、うかがいたいと思います。まずは「厳選採用」からセッションをスタートしていきましょう。
澤田: 丸紅の採用では、プレエントリー者が4万人、エントリーシート提出者が1万3千人、テスト受験者が1万人。そのうち4割5分くらいが一次面接に進み、その後、二次面接、最終面接と進んでいきます。総合職100人強の採用ですので、数の上では「厳選採用」ということになります。ただ、当社の一番の課題は、「いかに尖った人材を見つけていくか」ということ。平均的にまとまった学生ではなく、粗削りでもいいから何か尖った部分を持った学生なら、その尖った部分が将来の会社の成長へとつながるのではないかと、考えているからです。現実にはなかなか難しいのですが、異質な人材も組織に入れていくことが、重要だと思っています。
長井: セブン-イレブン・ジャパンでは、今年もエントリーが3万人超あります。ただ、エントリー者の大半は「おにぎりが美味しいからエントリーした」「よく知っているから」など、志望動機が希薄です。そこで、学内セミナーやイベントに足繁く通って、学生に“気付く”機会を提供するようにしています。現実的には、学生のほとんどが入社後の業務を知らないでエントリーしてきますから。
当社では採用されると、最初の3年間は店舗で副店長・店長を経験し、最終的にはオペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC)として、加盟店7~8店のオーナー様に経営のコンサルティング業務を行ないます。当社が新卒採用で求めているのはOFC候補生ですから、挑戦し、変えていく人材が欲しいのですが、なかなか求める人物像にマッチした人材が応募してこないのが実情です。そこで、「求める人物像を育てていく採用」を実践しています。具体的には、カウンセリングをしながら学生の良いところを引き出して、気付いてもらう、プレセミナーや選考です。また、たくさんの社員に会ってもらって、価値観が合わない人は、自然にスクリーニングされるように工夫をしています。
楢木: それでは、セブン-イレブン・ジャパンの採用選考について、詳しくご説明いただけますか。
長井: 選考に入ってからは、説明会に参加した全員と会うことを心がけています。一次面接は、グループディスカッションを設定し、二次面接・三次面接では、OFC経験者が面接官として学生と会い、見抜くだけでなく本人の向き不向きをヒアリングしながら、個別にアドバイスしていきます。当社では、選考においては若手社員ではなく経験豊富な役職者を投入して、対話中心の選考を行なっているのです。そして、最終面接では採用担当が本音の意思確認を行い、良いと思ったら、その場で内定を通知します。
学生には、会社のネガティブ情報を開示することも重要だと思いますが、当社では会社への理解が深まるタイミングを見ながら、情報を出していきます。特に三次面接では、社員へのインタビューをまとめた冊子を配った上で、覚悟を決めていただいています。この冊子は困難に直面した彼らが壁を乗り越えるまでを書いたもので、少々暑苦しいかもしれませんが、入社への意識が選考のなかで育っていって、最終面接までくるというのが、当社のやり方です。
田中: ぐるなびでも、プレエントリーで2万5千人程度の学生が集まりました。しかし、採用マーケットにおける会社のポジションはまだ高くはなく、「厳選採用」などと言える立場ではありません。学生は「ぐるなび」というブランドはよく知っているのですが、そこでの仕事のイメージはついていません。単に「食べ歩きが好きだから」という理由だけでエントリーしてくる人もいます。しかし、当たり前ですが仕事は食べ歩きではなく、特に営業の現場は厳しいものです。このあたりについて、採用プロセスできっちりとしたコミュニケーションをしないと、入社後に致命的なギャップが生じる懸念があります。あとあと「こんなはずじゃなかった」となる要因を減らすことを、採用活動では強く意識しています。ストレートに、過剰なくらいに現実を伝えて、一緒にやれるかどうかを学生自身が考えられるようにしています。
当社の場合、技術系採用を除いてほとんどの新卒社員は、営業に配属されます。お客様の多くは小規模な飲食店の経営者で、いわば「一国一城の主」です。営業現場では本当にさまざまなことが起こります。オーナーの機嫌が悪いこともあるでしょうし。そんな日々を積み重ねて数字を作っていく、極めて泥臭い仕事が待っているわけです。もちろんその中に喜びがあるわけですが。ですからセミナーでも、営業担当自身に語ってもらったり、動画を使ったりして、克明に「現状」を伝える努力をしています。
私が採用セミナーで必ず学生に伝えていることがあります。それは、「決める」という言葉には「判断」と「決断」の二つがあって、就職先を 「判断」で決めてはいけないということです。「判断」とは、収集した情報からメリット、デメリットを比較したロジカルな決め方です。でも、何人もの社員に会って、素敵な人ばかりがいる会社だと「判断」しても、配属先の上司や同僚にものすごく合わない人がいるかもしれません。入社前に全社員とは会えませんから、判断材料をすべて集めることは不可能なのです。後からデメリットが出てくると「判断」による結論は変わります。これが「こんなはずじゃなかった」につながります。一方で「決断」は、いろいろ材料は揃えながらも、最後は自分の責任で腹をくくってエイッと決めるものです。、だから、「決断」は強いのです。
楢木: 大学とのリレーションについて、お聞かせください。
澤田: 私は2009年に北京から帰国して採用担当になり、大学まわりをしました。その時は、大学によってかなり温度差があると感じました。当社はオープンエントリーですから、大学名はほとんど関係がありません。その結果、リクルーター制度を採っていた頃と比較して、まったく実績のない大学の学生を毎年採用できるようになっています。ただし、広報活動の一環としてのセミナーでは、全国で500回以上、5万人以上の学生と会っていますので、会場提供も含めて学校にお願いしている部分も多くあります。引き続き、学校との関係は継続していくつもりです。
長井: セブン-イレブンは、大学内にも出店しているので、学校との関係づくりは大切だと思っているのですが、現実には深くコミュニケーションをとっている大学はそう多くありません。しかし、これからは必要だと考えています。2013年度に関しては、採用の後ろ倒しにより、当社の業務に関する誤解を解く時間が減りますので、大学で当社を研究しているゼミ生などを対象に、採用広報というよりは、企業としての当社をもっと知っていただくための活動も行なう必要があると感じています。
楢木: 「既卒3年未満を新卒者として扱う」という話がありますが、採用ご担当者として、どのように感じていますか。
澤田: 当社では4~5年前から、既卒者の応募を可能にしています。ただし、「職歴がないこと」という条件をつけています。社会一般の風潮としては、なぜ新卒で就職しなかったのか、という捉え方が多いと思いますが、既卒者の応募がもっと一般化し、卒業してから就職活動するのが普通で、採用する会社も増えていくべきだと思います。現状では、「留年した方がチャンスは多い」と考えている学生も多いと思います。今回のケースは、みんなが考え直す良いきっかけになったのではないでしょうか。
長井: 当社では以前、既卒3年未満の方を中途で採用していました。数年前からは、既卒者3年未満で職歴がない方に限って、新卒として採用を行なっていますが、100名内定が出るなかで、2~3人は既卒者がいるような状況です。
田中: 新卒は30~40名を採用していますが、中途採用はさらに多く、昨年度は200名ほど採用しました。そのうち、「第二新卒」に近い人たちも相当数になり、既卒3年未満の人もいます。そのため、当社からすればあまり新しい話には感じられません。ただ、現実には既卒3年未満の方が「新卒」でエントリーしてくることは非常に少ない状況なので、今回のような話が出ないと、エントリーを躊躇してしまうということはあるのかもしれません。
楢木: 採用の多様化とともに、グローバル人材が注目されています。グローバルマーケットで採用しよう、あるいはグローバルに活躍できる人材を採用しよう、という動きです。丸紅のグローバル人材について、事例をご紹介いただけますか。
澤田: 丸紅は総合商社なので、利益の80%は、何らかの形で海外と関係しています。新興国市場での競争激化、新しいビジネスモデル構築の必要性、あるいはダイバーシティマネジメント推進などといった課題を抱えるなかで、変化に強いグローバル人材のニーズは高まっています。当社の考えるグローバル人材とは、外国人であるとか、語学能力の高い人ということではなく、「異文化に適応できる人材」「異質なものを受容した上で、相手と前向きに議論を進められる人材」「自分の意見を、違う価値観を持つ相手にしっかりと伝えられる人材」と定義しています。
当社では、グローバル人材のニーズを採用活動のみでカバーすることは難しいと考え、人事施策のなかで育成に力を入れ、並行して行なっています。具体的には、本社社員のグローバル人材化と、海外の現地社員の強化を両輪とし、採用・育成・登用・活用を意識しながら取り組んでいます。新卒採用においては、昨年から実施している「入社7年目までに海外経験必須」などをPRして、「海外で仕事がしたい」という意志を持った人材の採用を加速させています。また、「採用基準を意図的に不明確化」することで、多様な人材や尖った人材の採用も推進しています。
一方で、リーダー人材の育成や、「経験」を促進する仕組みとして「キャリアカルテ」をシステム化して、部門別の人材要件などをシステムに集約し、他にも「キャリア・ディベロップメント・プログラム」として、多面評価制度やキャリアプラン申告書を一つのプログラムとして全社の最適配置に活用しています。さらにグローバル人材という視点で「海外研修」「語学研修」の実施に加え、異文化交流のための研修として「Cross Cultural Training」を行なっています。これらさまざまな取り組みを通じて、包括的にグローバル人材の採用・育成を推進しています。
楢木: 澤田さんのお話で、採用と育成がセットになっていることがわかりました。では、田中さんには、内定者教育についての資料をご用意いただいていますので、そちらをご紹介ください。
田中: まず、内定時期の二面性についてお話しします。内定後の10月から4月までは、学生と社会人の境目です。この期間を「最後の学生生活」と捉えるか、「社会人になる最後の準備期間」と捉えるかで、内定者教育は変わってくると思っています。私は、「最後の学生生活」としてのこの時期の大切さを強く感じており、本来的には内定者教育不要論者です。しかし、現実的には「社会人になる最後の準備期間」であることも意識せざるを得ないのが今の状況かと思います。新卒者には「社会に出て感じる最初の三つの壁」が共通して存在します。「リアリティ・ショックの壁」「曖昧な基準の壁+理不尽への対峙の壁」「多様な価値観の壁」の三つです。「リアリティ・ショックの壁」は、現実の仕事に直面する衝撃など。「曖昧な基準の壁+理不尽への対峙の壁」は、社会で直面するさまざまな理不尽なことや曖昧なこと。「多様な価値観の壁」は、さまざまな考え方や価値観の人たちとうまく付き合わなければならないことなどで、内定者教育と新入社員研修を通じて、これらの壁をいかに低くできるかが重要です。
さらに最近の新入社員をみると、もっとベーシックな部分を補強してあげる必要性があるなと感じています。、それが、図表の下にある「社会に出るにあたって必要な最低限のパスポート」です。内定者教育では最低限「パスポートを持たせてあげる」ことは必要です。そして、「社会に出て感じる三つの最初の壁」への対処の準備もしていきます。さらに入社後には「社会に出て感じる三つの次の壁」が待っています。新入社員研修では、ここまで意識します。特にPDCAなどは大切ですね。また、当社では、内定者教育と新人教育の裏テーマとして、「同期力」の構築を掲げています。配属後につまずいた時に助けてくれるのは同期です。新入社員には「史上最高の同期を作れ」といっています。また、当社の新入社員研修は、彼らのことを一番理解している採用担当者が行なようにしています。
楢木: いろいろな社内資料や貴重なお話をご紹介いただき、ありがとうございました。採用ご担当者として、この仕事をやっていて良かったという、皆さんの熱い気持ちがとても伝わってきました。本日はどうもありがとうございました。