楢木: このセッションでは、2012年度の採用の中間総括と、2013年度の採用の展望について、パネリストの皆さんのお考えをうかがいながら進めていきます。まずは2012年度採用について、まだ中間段階だと思いますが、何がポイントだったのかをお話しいただきたいと思います。一般論としては厳選採用、それから震災の影響もありました。また、企業の採用意欲は中間までは盛り上がっていたように感じます。
栗田: リーマンショック後の落ち込みから回復基調が見えてきて、企業の採用意欲は盛り上がっていたと思います。一方、学生側は厳しさに慣れてしまったのか、企業へのエントリー数がやや減少しました。昨年、一昨年までの母集団数には届かず、企業は学生との接触にやや苦慮していたというのが前半の印象です。さらに震災によって、過去に例のない選考スケジュールの変更で、全く新しい局面をむかえたと思います。当社の調査によると、4月末時点での「内定率」は、昨年度の31%に対し、今年度は19.8%に留まっています。また、地域別に見ると東北は昨年度の26.2%に対して、今年はまだ6.4%で、かなり遅れています。なお、企業に震災後の採用意欲を訊いたところ、関東、関西の企業の人事担当者からは「変わらない」「ほとんど変わらない」との回答が、8割を占めていました。
渡辺: 学生は、震災後、採用が止まってスケジュールが白紙になってしまい、かなりあわてていました。さらに現在は、5~6月に教育実習に行く学生たちが、選考試験を受けられずに苦労しているようです。5月になると授業もピークになり、学事日程と選考日程の調整がつかないという話もよく聞きます。
岡崎: 例年コンスタントに採用している企業には、長期的視野を持って、投資の意味で採用しようというところが多いように思います。一方、中小企業の状況は異なっていて、経済状況により採用への投資が大きく変動します。マーケット全体に与えるインパクトは、中小企業が採用に投資できるかどうかに、大きく関係していると思います。
楢木: むしろ、差が広がったという印象もありますね。
岡崎: はい。私は、二つのキーワードがあると考えています。一つは「二極化」で、もう一つは「判断から決断へ」です。震災で採用活動が止まったという話がありましたが、実態は「分散化」です。これにより企業も学生も作戦が立てづらくなっています。良い採用をしている企業は順調で、そうでない企業は非常に苦戦しており、二極化している。一方学生側も、震災で就職活動の全てが止まったかのような報道を真に受け活動を止めた学生がいる一方で、企業から個別に連絡を受けた学生は着々と進めた。情報を持っている学生と、そうでない学生にも「二極化」が進んでいると感じます。
楢木: 地域間の格差も広がっていますか。
岡崎: 一般的にはそういえると思いますが、地方の学生でも、自分の課題をきちんと捉えている学生と、周囲の情報に影響されている学生とでは、結果が異なっています。これは「判断から決断へ」というキーワードにもつながります。リクルートも今年は5月から選考を行なっていますが、私も時々、他社と迷っている学生に情報を提供したりして関わっています。私が会うのは主に女子学生で、「子供を産んでからも働きたい」といった相談にアドバイスしているのですが、「女性活躍推進」を掲げている企業には大手メーカーが多く、6月からの選考なんですね。そのため、「リクルートも行きたいけど、○○○社が6月からなので…」と言われ、悩ましさを実感しているところです。そんな中で内定を出すかどうかは、「判断より決断」だと思います。学生も同じで、内定をもらっていても、他に行きたい会社があるとしたら、自分で決断するしかないですね。
楢木: 倫理憲章で、2013年度採用からは採用の広報を12月からにする、ということになりました。学生の動きは、今後どうなるのでしょうか。
渡辺: 大学の就職ガイダンスが、9~10月から始まるのは変わらないと思います。しかし、企業は12月にならないと、大学に出向いて話をすることができません。就職情報サイトのオープンも12月で、それまでの期間は、学生にとって企業の情報収集が難しくなると予想されます。情報収集期間が短くなることで、企業に対する知識や企業を見る視野が狭くなるのではないかと危惧しています。例年なら合同説明会などで企業と接するなかで、徐々に「社会人化」していくのですが、その機会も減ってしまいます。
栗田: 年内活動初期の学生に聞くと、知っている企業名が10社もないんです。どんな業種・職種・仕事があるのか、ほとんど知らない。やはり企業の方と接して「この仕事はおもしろそう」「やりがいを持って仕事をしているんだな」など、気付くことがあると思うんです。そこから、「仕事をするってどういうことなんだろう」と想起し、醸成していくのであって、企業と会う機会が減れば、学生の職業観を涵養(かんよう)させていくという点ではとても心配ですね。
楢木: 学生の「社会人化」が遅くなって、従来の尺度で見ると物足りなく感じてしまうということですか。
栗田: 例年はガイダンスが秋からスタートして、就活のノウハウを学び、企業との接触が進んでいくなかで、後付けで業界や企業の研究が進み、4月に向けて成熟していくんです。しかし、期間が短くなると自己分析などの就活ノウハウを先に行なうので、業界や企業の研究などの、企業と接触することで醸成される部分は疎かになるかもしれません。その結果、曖昧な志望動機しかない学生や、自己PRばかりがうまい学生が増える可能性はあります。
楢木: 採用担当者は、選考時にどんな視点を持てばいいのでしょうか。
岡崎: 「二極化」が進むというのは、成長している人と、そうでない人の差が激しくなるということです。就職準備をしている人が流暢に話す姿が一見良く見えてしまうこともあるなかで、「本当に働く覚悟があるのか」「コンピンテンシーを持っているのか」をきちんと見極めなければなりません。一方で、選考がしやすくなる可能性もあります。これまでのように、学生が厚化粧をする時間がないからです。ただし、能力の高い学生は企業が求める総量に比べると多くはありませんので、一部の学生の奪い合いになるのではないでしょうか。ポテンシャルにこだわるのか、採用活動を通じて育てていくのかで、採用戦略は変わってくると思います。
楢木: 「上位2割くらいの優秀な学生だけを採用したい」という企業もあります。
岡崎: 例えば、ある大手メーカーさんでは、採用ルートを二つ設けています。一つは通常採用で、もう一つは一芸入試のような選考です。一芸入試の方は志望動機は必要なく、学生時代の華々しい成果をプレゼンテーションしてください、というものです。一方、通常採用では、自己PRや志望動機など通常の選考プロセスを実施し、その後、内定者フォローを手厚くしています。この企業の採用は、超上位層を対象にした上澄み採用と、一定レベルの人材を採用しその後に自社で育てるという手法を合わせた「ハイブリッド型」です。狩猟か農耕か、どちらかを選択するだけでなく、両者を組み合わせたこのようなアプローチもあるでしょう。
楢木: それでは、グローバルマーケットで活躍できる人材を採用する上で、何かアドバイスはありますか。
渡辺: 海外から人材を採用しても、多くの日本企業は定着させるための環境が整備できていません。基本的には日本で人材を採用し、育てた上で海外に出していくのだと思います。国内を中心にグローバル人材の採用を行なう場合は、大学のカリキュラムや新しい取り組みをチェックするのが良いでしょう。最近では、1年間の留学が必須だという大学もあります。偏差値ランクによる評価ではなく、各校のアドミッションポリシーや取り組みを見ていくと、グローバル人材育成へシフトしている大学が分かると思います。また、外国語に強い大学以外でも、グローバル人材育成に取り組む動きは加速していますので、幅広く見ることが必要ではないでしょうか。
楢木: 最近、留学する学生が減っていますね。就職戦線の早期化が影響しているとも言われていますが。
渡辺: そうですね。留学して戻ってくるのは6月か7月なので、就職活動はもう終わっています。そのため、留学を諦める学生もいるのでしょう。また、最近は親の経済状況の都合で留学できないという学生も増えています。
楢木: 10万人の大卒未就業者が出ているのを受け、日本学術会議から「既卒3年未満は新卒と見なしたらどうか」という提案が出ています。これについてはどう思われますか。
栗田: 当社で「既卒3年未満を新卒として受け入れるか」をヒアリングした調査があるのですが、「受け入れる」「受け入れる予定」が32.9%、「中途で受け入れる」「中途で受け入れる予定」が9.5%、「未定」が33.3%という結果でした。受け入れる企業は戦力になるなら新卒・中途は関係ないようですし、受け入れない企業は、新卒採用で採用できているので特に既卒者を受け入れる必要がない、というのが現状です。一方で、学生はどう考えているのかというと、提案自体は認知しているものの、「猶予ができても結局は本人次第」という厳しい認識が多いようです。正直、学生が自らの失敗に気付いて成長できるのであれば、チャンスもあると思います。しかし、企業からは「1年くらいは待てても、3年となると待てない」という意見があるのも事実です。
楢木: 一括採用を見直すきっかけにはなりそうですか。
岡崎: 一括採用が完全になくなることは考えにくいです。求人倍率と学生の内定率を重ねてみると、求人倍率は上下しますが、内定率はさほど変化しません。つまり、需給バランスだけでは説明できない就職難が起きていて、それを解決しなければ「後ろを伸ばす」ことの効果は薄いと思います。「既卒3年以内は新卒扱い」という話が出て、学校関係者はモラトリアムの加速を心配していましたが、議論が活性化したことで、「やはり卒業までには決めたい」という思いを新たにしたという逆の作用も目の当たりにしました。このような気付きによって、中小企業と積極的に接点を持った結果、内定となった学生も少なからず存在します。
楢木: 最後に、ソーシャルメディアを採用活動に導入する動きがありますが、どう感じていらっしゃいますか。
渡辺: Twitterは学生の半数が使っていて、人事からの発信も良くチェックしているようです。「人事担当者に親しみやすさを感じた」といった発言も、よく聞かれます。一方、facebookについては、使っていないという学生が多いように感じます。
栗田: 当社で、「ブログやSNSで、実名を公表して発言することをどう思うか」というアンケートを行なったことがあるのですが、「実名で発言するのは問題ない」が16.9%、「実名で発言するのは抵抗があるので別名で」が40.4%、「抵抗があるのでしない」が42.7%という結果で、「facebookは実名なので自信がもてない」という意見があります。これらを利用する際は、発信というよりも人の情報を拾いに行くためで、人事を探って、面接対策に使っていたりするようです。
岡崎: ソーシャルメディアは、あくまでツールの一つだと思っています。就職採用とは本来、コミュニケーションですが、学生はオーディションだと思っている。それが大きな間違いです。企業も、学生から選ばれているのですから、本来は双方向で相互理解のコミュニケーションがなされるべきで、そこにソーシャルメディアの活用の可能性を期待しています。 グローバル化に伴って海外に出て行く日本企業は自社の強みを支える人材マネジメントシステムも同時に輸出することになります。…実は私は新卒採用は本当にいい仕組みだな、と思っています。いろいろ改善する必要はもちろんありますが、日本のこの仕組みのいい部分を大事にしながら改革がなされれば、こうした採用手法が、クールジャパンの一つとして、世界に認識されるようになる可能性があり、個人的にはそうした理想を抱いています。
楢木: このセッションでは、いま注目されている新卒採用の最新トピックについて、データなども提示していただきながら、お話しいだたきました。本日はどうもありがとうございました。