女性の「離職率」を3年以内に半減させる!
食品メーカー大手のカゴメでは、この10年あまり女性総合職を積極的に採用してきた。ただ一方で、5年以内に44%が離職しているという現実があった。「少子化が進み、労働力不足が深刻化するなか、これは非常に大きな人材のロスです。さらに当社の商品の場合、8割が女性ユーザー。商品開発や売り方などについて、よりいっそうの女性活用が求められています」と語るのは、今回のプロジェクトメンバーであり事務局も兼務した人事総務部人事グループの芦原幸子さんである。
もちろん、これまでも育児支援を手厚くするなど、カゴメではさまざまな手を打ってきた。しかし、なかなか総合職の女性社員が定着していかなかった。そこで、女性社員の離職率を3年以内に半減するために、会社からの押しつけではなく、女性社員の視点から考えた働きやすい職場環境や仕組みについて議論し、経営へと提言する「女性活躍推進プロジェクト」(通称:リリコプロジェクト)を発足させた。2006年9月のことである。プロジェクトメンバーは入社5年目以上、公募により全国から14名(後に1名加わり15名)が選出された。
「無」から「有」を生み出すまでのプロジェクトを体験
「約半年間で6回に及ぶプロジェクトでは、日常業務から離れ1ヵ月に1回の頻度で行うワークショップと、その間における自主活動(他社へのヒアリング、社内アンケート、情報収集や分析・レポーティング、発表資料の作成など)を行い、最終的に『経営への提言』として経営に対して離職率の低下に向けた提言策『カゴメ女性社員が活躍するための提言〜強いカゴメになるために〜』を報告しました」(芦原さん)
プロジェクトにおいては、メンバーが自律的に考え、行動するために次の2つの方法を採用した。
1.ワークショップ形式
「講師(教える)→生徒(教えられる)」という一方通行の学び方ではなく、「ファシリテーター⇔参加者」という双方向のやり方を重視し、ファシリテーターの問い掛けや問題提起に対して全員が当事者となって考え、発言するというスタイルを取った。
2.プロジェクトマネジメント経験
2人1組で行う「プチプロジェクト」においては、各々が1ヵ月交代でプロジェクトマネージャーを担当。また、『経営への提言』では全員で1つの提言をまとめ上げるというハードな経験を通じて、「無」から「有」を生み出すまでの一連の流れ(プロジェクト全体)を体験した。
図3:リリコプロジェクトでやってきたこと

「プチプロジェクト」では、カゴメの抱える女性の問題について以下の7つのテーマを設定し、社内外へのヒアリングや調査を行い、徹底的に話し合った。
- 社員の意識・会社の風土
- 長時間労働
- モチベーション
- 両立支援制度
- 先取り不安
- 出産・育児関連
- コミュニケーション
ここで浮かび上がったのは、制度よりも意識や風土の問題。「結婚と出産が一番だよね」「こんなに残業して、だんなと子どもがかわいそう」など、男性管理職の何気ない一言で傷つく女性は少なくなかった。上司とのより良いコミュニケーションが彼女たちのやる気を左右することも分かった。
メンバー間の交流を促進、連帯感が強まる
「事務局を担当していたのですが、あるメンバーが参加できなかったときにプロジェクトに加わり、以降、ずっと参加することになりました。正直、最初は大変でしたけど、自分自身にとって得がたい経験を積むことができました」と言うのは人事総務部秘書グループの升明理恵さん。実は升明さんは他社の「一般職」に当たる業務職だが、「総合職の人たちと交わってプロジェクトに参加できたことは、とても有意義なことでした」(升明さん)
プロジェクトが進むに従い、メンバー間にも“なかだるみ”や“齟齬”も出てきたという。しかし、やり続けることで、そうした問題も払拭していった。年齢や担当職務が異なる女性社員同士の交流が促進していき、相互の連帯感を強める効果も出てきたというわけだ。
「例えば、営業職の女性にとって、他社へインタビューに行ったり、仮説を検証したり、いろいろな事象を概念化したりする作業などは、初めての経験でしょう。さらに、7つのプロジェクトで得られた結果を1つにまとめ、それを経営者への提言として発表したわけですが、これはとても難題でした。それこそ、プレゼンテーションの直前まで皆で議論していましたから。プロジェクトのメンバー全員にとって、このような体験はこれまでしたことがなかったわけで、まさに“修羅場体験”でしたね」(芦原さん)
ちなみに、経営に対して「女性の活躍推進に必要な3つの要素」としてまとめたのが図4である。マネジメントやコミュニケーションも大事、制度を整えることも大事だが、それらの大前提として「カゴメにとって女性活用は必要である」と、全社員が共通して認識することが必要不可欠だと彼女たちは判断した。だからこそ、まず取り組むべきことは、女性活躍推進の土台となる「意識の共有化」だと訴えていった。そして、コミュニケーションやマネジメントにおいてやるべきことを、彼女たちなりの視点で整理していった。この提言はカゴメの抱えるさまざまな問題を浮き彫りにし、想像以上に経営者の心を大きく動かしていった。
図4:女性活躍推進に必要な3つの要素


経営者の前でプレゼンテーションを行うのは全員が初めてだった。というよりも、この年代でそういう経験を積むことは男性でも少ないだろう。しかし、経営への提言という最終ゴールに向けて半年間という期間、皆で徹底して議論し合うことにより、これまで表面にあまり出てこなかった彼女たちの「潜在能力」が、「顕在能力」として弾けることになった。俗に言う「一皮むけた経験」だ。
プロジェクト「成果物」として得られたもの
今回のプロジェクトではさまざまな成果が得られたが、それは以下のような「プロセスによる成果」と「最終成果」の2つに分けることができる。とはいえ、それなりの修羅場経験を経なければ、こうした成果を得ることはなかなか難しい。
(1)プロジェクトを進めるプロセスで得られたもの
- 参加メンバー間のネットワーク構築
- 自分や仲間に対する気づき
- コミュニケーションスキルの向上
- 課題設定力・概念化力・統合力の向上
- 曖昧耐性の強化
- 完遂力
- チーム力
(2)最終成果物
- 経営者の巻き込み
- 職場での報告会開催
- 女性活用のための課題整理と着手すべきテーマの明確化
「経験」を通してでしか人は成長できない
「チームとして何かをつくり上げていくことは大変でしたが、同時に面白い経験でもありました。長いプロジェクトの間、ときには着地点のみえないときもありましたけれど、全員で意見を言い合い、やり切ることで何かしらの結果を得られたこと、これは私にとって非常に大きな自信となりました」(芦原さん)
「今回のプロジェクトを経験することにより、私としては社内カウンセラーとしてのキャリアパスを発見することができました。この4月から、産業カウンセラーの資格を取得するために学校へ通っています」(升明さん)
2人に共通するのは、「変わった自分」を意識できていること。そして、仕事をすることに楽しさ、面白さを強く感じ始めていること。おそらく、それは他のメンバーも同様だったことだろう。結局、若い頃にこのようなプロジェクトに代表される修羅場経験を積むこと、そしてたとえ小さくても何かしらの成功体験を積むことにより、人は仕事に対して「本気」の思いを持つことができる。半年間での経験であるが、カゴメのプロジェクトに参加した女性たちは、周りが考える以上に大きく成長していったことは想像に難くない。
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