【ヨミ】クラッシャージョウシ
クラッシャー上司
「クラッシャー上司」とは、厳しい言動や命令で部下を執拗に責め立てて休・退職に追い込むなど、部下を精神的に“つぶし”ながら、自分は出世していく上司のことをいいます。筑波大医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループの松崎一葉教授が同名の著書でその存在を分析し、警鐘を鳴らしました。パワーハラスメントをするだけの上司と違い、組織内では優秀で仕事ができると評価されていることが多いのが「クラッシャー上司」の特徴。会社も一種の“必要悪”として黙認するため、本人は悪びれもせず、むしろ自分の行いは正しいと妄信して、事態をさらに悪化させていると言われます。
部下をつぶし、会社の未来までつぶして出世する
仕事はできるので、組織は“必要悪”と黙認
内閣府の試算によると、一人の社員(30代後半男性・年収600万円)がメンタルヘルスの不調で半年間休職した場合に発生する追加コストは、周囲の既存社員が休職者の担当業務を肩代わりすることによって発生する残業代だけで422万円に上るといいます。
組織にとって、かけがえのない人材が精神的に“つぶれて”しまうことの損失が、けっして金銭だけで測れるものでないことは言うまでもありません。にもかかわらず、上述の松崎一葉教授の著書によると、同教授が出会ったある大手企業の重役はこう言い放ったといいます。「俺はね、(部下を)五人つぶして役員になったんだよ」――。まさに典型的な「クラッシャー上司」です。松崎教授は約15年前に、その会社の経営幹部からメンタルヘルス対策の相談を受けました。ところが、招かれて出向いたにもかかわらず、先の重役に「メンタルヘルスがどうの、ワークライフバランスがどうのなんてやられると、うちの競争力が落ちるんだ。会社のためにならない」と言われて、追い返されたそうです。その経験が、「クラッシャー上司」の概念が生まれるきっかけとなったと述べています。
「クラッシャー上司」には、大きく三つの特徴があります。
(1)部下を精神的につぶしながらどんどん出世する
(2)自分は正しいとの確信を持っている
(3)精神的に参っている部下の気持ちが分からない
他者への共感性が欠けているため、つぶされた側は仕事を失い、つぶした側は出世していくという理不尽にも悪びれることはありません。また、自分を絶対視する傾向があるので、異論や異分子を許さず、組織の変革やイノベーションの芽を摘み取ってしまうことにもなりかねないのです。
仕事ができる切れ者が多い「クラッシャー上司」は、以前なら「モーレツ社員」と呼ばれたタイプでしょう。しかし、目先の利益はもたらすとしても、企業にとって最も重要な財産である人材をつぶし、組織を損ない、未来の変革の可能性までむしばもうとする損失の大きさは看過できません。長期的な視点に立てば、「クラッシャー上司」を“必要悪”として黙認することの危険性は明らかなのです。
※松崎一葉著『クラッシャー上司――平気で部下を追い詰める人たち 』PHP新書を参照