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「スマホ依存」が脳の働きを低下させる
スマホへの適切な向き合い方と、そのために企業ができる支援とは

東北大学 応用認知神経科学センター 助教

榊 浩平さん

榊 浩平さん

現在、誰もが当たり前のようにスマートフォン(スマホ)を使用していますが、東北大学 応用認知神経科学センター 助教の榊浩平さんは、「スマホを長時間使用することは、テレビやゲームとは比べ物にならないほどの悪影響がある」と話します。スマホを触らずにいられなくなる「スマホ依存」が社会的に問題となりつつある中、私たちはスマホにどう向き合い、どのように活用すればいいのでしょうか。スマホ依存に対する正しい理解や企業ができる支援について、榊さんにうかがいました。

プロフィール
榊 浩平さん
東北大学 応用認知神経科学センター 助教

さかき・こうへい/千葉県出身。東北大学理学部卒業。同大学院医学系研究科修了。博士(医学)。人間の「生きる力」を育てる脳科学的な教育法の開発を目指している。脳計測実験や社会調査で得られた知見をもとに、教育現場での講演、教育委員会の顧問、本の執筆などの活動をしている。宮城県仙台市教育委員会「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」委員、宮城県白石市教育委員会「幼保小架け橋プログラム開発会議」委員、千葉県松戸市教育委員会アドバイザーなどを務める。著書に『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新聞出版)、共著に『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(青春新書インテリジェンス)、『子どもたちに大切なことを脳科学が明かしました』(くもん出版)がある。

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スマホの長時間使用は学力を破壊する

「スマホ依存」とはどういった状態を指すのでしょうか。

前提として、「スマホ依存」は病気として正式に認定されているものではありません。また、診断基準が確立されているわけでもないので、「ここからがスマホ依存だ」と明確に線引きすることが難しいものでもあります。

あくまで目安ですが、「スマホ依存である」と考えられるいくつかの要件があります。まず、「生活に支障が出ていること」。「ずっとスマホを触っている」という自覚をお持ちの方は多いと思いますが、使用している時間が長いだけでは「スマホ依存」と言えません。「他のことをしなければならないのに、スマホを触ってしまう」など、日常生活に支障をきたしているかどうかがポイントです。

また、とくに私が注目しているのは「自分でコントロールできないこと」です。「そろそろやめなければいけない」というタイミングで、やめられるかどうかが重要なポイントです。重度になってくると、薬物やタバコ、アルコールなどの依存症と同様に、スマホを使っていないときに「スマホを触りたくて仕方がない」「使えなくてイライラする」といった症状が出てきます。

このようにスマホ依存は、さまざまな指標を総合的に勘案して判断するものです。私は、スマホやタブレット、パソコンといったインターネット接続機器をまとめて研究しています。「スマホは駄目だがパソコンはOK」というわけではありませんが、使用時間の内訳を見ると圧倒的にスマホが多いため、スマホの影響が最も大きいだろうと考えています。

スマホを長時間使用することは、脳にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

主な影響は二つあります。まずは「前頭前野の働きの低下」です。脳、とりわけ「脳の司令塔」とも呼ばれる前頭前野は、筋肉と似たような仕組みになっています。つまり、たくさん使えば使うほど育ちますが、使わなければ衰えてしまうのです。スマホに代表されるデジタル機器を操作しているときは、前頭前野の働きが低下することがわかっています。

二つ目は「集中力の低下」です。人間の脳は、原則として一つのことにしか集中できない構造になっています。世間一般で言われる「マルチタスク」は、基本的には存在しません。

専門用語で「タスクスイッチング」と言いますが、複数のタスクを行うときは、注意を複数のタスクに分配できているのではなく、単に切り替えているだけなのです。切り替えのたびに「スイッチングコスト」と呼ばれる認知のリソースが要求されるため、どうしても一つのタスクに集中したときと比べてパフォーマンスが落ちます。また、タスクスイッチングが習慣化されると、「一つのことに集中する」という習慣そのものがなくなり、集中できなくなってしまいます。

スマホの長時間使用は、学力に悪影響を及ぼすと聞きました。

私たちは長年にわたり仙台市教育委員会と一緒になって研究を進め、子どもの成績とインターネットの使用時間の関係を調査してきました。その結果、1日に1時間以上スマホを使っている場合、使用時間が伸びるほど学力が低くなる傾向にあることがわかりました。どの年の調査結果でも、一貫して表れています。

この結果を見たとき、私たちはまず「スマホを使った分だけ勉強時間や睡眠時間が削られるので、学力が低下するのではないか」と考えました。そこで勉強時間と睡眠時間を加えた分析を行ったところ、同じ時間だけ勉強して同じ時間だけ寝ていても、スマホの使用時間が長いほど学力に悪影響を与えていることがわかりました。3時間以上スマホを使用している子どもたちのグループでは、どれだけ勉強しても、きちんと睡眠をとっていても、成績上位には入れませんでした。「スマホを使った分だけ勉強すればいい」という話ではないのです。これはかなり衝撃的な結果でした。

また、スマホをまったく使わない子どもと1日1時間未満使用している子どもを比較したところ、1時間未満のほうが、若干学力が高い傾向が見られました。この結果だけを見ると「スマホを少し使った方がいいのだろうか」と思うかもしれませんが、自己管理能力が関係しているとも考えられます。つまり、スマホを持っていても自分の意志で1時間未満に抑えられるような子どもたちなので、成績が高いと考えることもできるのです。

これらの結果は子どもを対象とした調査によるものですが、大人に対しても基本的に同じ影響があります。前頭前野は9〜18歳ぐらいで爆発的に発達し、そこから緩やかに成長が進んで、30歳ごろにピークを迎えると言われています。「発達」という点では子どものほうが影響は大きいかもしれませんが、大人にとっては「脳の機能をいかに維持するか」が重要です。大人も子どももスマホを長時間使用せず、頭をたくさん使う必要があります。

スマホ依存はテレビ・ゲームより深刻

現在のスマホ依存の状況を、どのように感じていますか。

スマホへの依存は「これまでの延長線上では語れない」と感じています。これまでも、テレビが出てきたときに「1億総白痴化」が叫ばれたり、ゲームについて「ゲーム脳」という言葉が流行したりしてきました。ただ、一部で批判があっても、多くの人は楽観的に捉えていたと思います。スマホも同じように捉えられることが多いのですが、脳の発達に対する悪影響の度合いは、テレビや従来型のゲームとは比べ物にならないほど深刻であることが、近年の研究によりわかってきています。

スマホは「スクリーンが付いたデバイスである」という点でテレビやゲームと共通していますが、新たに三つの要素が追加されています。一つ目は「携帯性」です。昔のブラウン管のテレビは持ち運べませんでしたが、スマホは小型・軽量化が進み、どこへでも簡単に持ち運ぶことができます。

二つ目は「多機能性」。多くのことができるのは便利ですが、先ほども述べた通り、注意の切り替えが頻繁に要求されることで集中力が低下します。

そして三つ目が「依存性」です。メディアでは「依存症ビジネス」と指摘されることもありますが、サービスあるいはデバイスを作る企業は、そもそも人間が依存するように作っているのです。アメリカのテクノロジー企業では、脳科学者を雇い、人を依存に導く仕組みを理解したうえで、それを利用したサービスやデバイスを展開しています。企業が「わかってやっている」ことの恐ろしさを、ぜひ知っておいてほしいですね。

さらに私が大きな観点で危惧しているのが、格差の拡大です。「依存してしまう側の人間」と「サービスやデバイスを作って依存させる側の人間」の間に、大きな格差が生まれてしまっています。テクノロジー企業が資本を溜め込んでいる一方で、経済的に苦しくなっている人が大勢いるのです。スマホの長時間使用を続けることは、その格差を拡大していくことにつながると懸念しています。

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家でテレビを見続けたり、ゲームをし続けたりすることは、スマホを使い続けることとは異なるのでしょうか。

まず「テレビ番組」と「ネット動画」は同じような映像メディアだと思われがちですが、ネット動画には「終わりがない」というテレビ番組との大きな違いがあります。テレビ番組だと、大抵1〜2時間で終了し、コマーシャルを挟んで別の番組が始まります。いわば、強制終了させられてしまうわけです。

一方、YouTubeのようなネット動画は1本あたりの時間が短くても、次々と新しい動画が提示されます。しかもアルゴリズムを利用し、その人の興味を引くものが表示されるため、気が付いたら1時間、2時間と動画を見てしまっている。また、昔は視聴できるチャンネル数が限られていましたが、現在はサブスクの動画配信サービスが数多くあるため、無限にコンテンツが生まれている状況です。もはや現代人は、エンタメを楽しむどころか消化することに疲弊してしまっているのではないかと思います。

ゲームについては、スマホでできるネットゲームと従来型のゲームとでは、作られ方やビジネスモデルがまったく異なります。ファミコンのようなカセット式のゲームは、カセットを買うときにお金を払います。ゲーム会社からすれば、そのカセットでユーザーがどれだけ遊んだとしても、購入代金以外のお金は入ってきません。そこで次のカセットを買ってもらうため、一定の段階でクリアできるように設定し、基本的にはある程度遊べば飽きるように作っていました。

一方でネットゲームは、ダウンロード自体は無料です。ユーザーにアイテムを買ってもらったりガチャを回してもらったりすることで、「課金」させる仕組みとなっています。広告収入を得ようとするものもありますね。とにかく長時間・継続的に使ってもらうことでもうけようとする構造です。そのためゲーム会社は、ゲームを開けば特典がもらえる「ログインボーナス」を設けたり、ソーシャル機能を利用してメッセージを送ったりして、ユーザーをゲームの世界に戻そうとするのです。

ガチャに関してはギャンブル要素を追加することで、さらに依存性を高めて収益を狙っています。ゲームへの依存については2019年、世界保健機関(WHO)が「ゲーム行動症」を精神疾患の一つとして認定しました。ネットゲームの登場により、ゲームに依存してしまうリスクが高まった結果と言えます。

スマホ依存は、アルコールやギャンブルなどの依存症とは性質が違うのでしょうか。

海外の調査によると、インターネットに依存している人は、アルコール依存症の患者と同程度に衝動的で、自分をコントロールする能力が低いことがわかっています。ただし、依存症はアルコールや薬物などの「物質依存」と、ギャンブルなどの「行動依存(正式には行動嗜癖)」にわかれており、スマホ依存は「行動依存」に分類されるものです。

ギャンブルに関しては、みんながパチンコをしているわけではなく、その対象は一部の人にとどまりますよね。一方、スマホはもはや全国民に広がっていて、世界中の英知を集めた巨大テクノロジー企業が私たちの脳を“ハック”しようとしているわけですから、決して「自分は大丈夫」と楽観的でいられる状況にはありません。裾野の広さを考えても、より社会的な問題と言えると思います。

どのような人がスマホ依存になりやすいのでしょうか。

ざっくりと言うと、前頭前野の働きが強い人は自分でコントロールできますが、弱い人はどんどん依存してしまう傾向があります。そのため、もともと自分をコントロールすることが苦手な人は依存しやすいと言えますね。

大人の場合は、「疲れている」ことも大きいと思います。仕事や日常生活で疲れてしまっていると、とにかく自分を甘やかしたい衝動に駆られて抑えきれず、スマホに手が伸びてしまうのです。

子どもを対象とした調査からは、夢ややりたいことを追いかけている子どもは依存しにくいことが見えてきました。たとえば部活動に一生懸命取り組んでいる子どもに話を聞くと、「スマホを触っている時間なんてない」と言います。この構図は大人も一緒ではないでしょうか。

オンライン会議では脳が同期しない

コロナ禍以降、Web会議などのオンラインコミュニケーションが増加しています。ネット環境を活用したコミュニケーションについては、どのように捉えていますか。

脳の活動は、時々刻々と上がったり下がったりを繰り返しています。つまり、波があるわけです。この波の揺らぎのリズムは、対面で会話をしていると徐々にそろってくることが知られています。「脳の同期現象」と呼ばれるものです。日本では昔から「この人とは波長が合う」などと表現されますが、それは脳の中で実際に起きていることでもあるのです。友達や恋人、家族などの親密な間柄では、より同期しやすいこともわかっています。

新型コロナウイルスが流行し、オンラインのコミュニケーションが増加する中で、私たちは「オンラインにおける脳の同期現象」について調べることにしました。その結果、残念ながら画面越しのWeb会議では、脳が同期しないことが明らかになりました。

脳が同期しない最も大きな要因は、「視線が合わない」ことにあると考えています。対面でのコミュニケーションの場合、たとえ話さなくても、目を合わせるだけで脳の同期が高まります。人間以外の動物では、目を合わせることは敵対の合図になりますが、人間は古来から目を合わせることが味方の合図の役割を果たしてきました。ですから「視線が合わなければ脳が同期しない」ことは、自分の意識ではどうすることもできない、人間に刻み込まれた生理的な問題と言えます。

またWeb会議では、ボディランゲージや表情、声色など、ノンバーバルコミュニケーションに関わる要素が抜けて落ちてしまうことも大きな問題だと思います。

コロナ禍以降、リモートワークを取り入れる企業が増えました。「フルリモートでは生産性が上がらない」「社員の能力が低下する」といったことも考えられるのでしょうか。

経営については専門外ですが、報道によるとサービスを提供している側のGoogleやApple、Amazonといった巨大テクノロジー企業ほどフルリモートを容認せず、出社を義務付けているそうです。そのような話を聞くと、「フルリモートではうまくいかないことの何よりの証左ではないか」と思います。彼らは人間の脳の仕組みとテクノロジーによる作用をよくわかっているわけですから。

また、リモートは必然的に格差を生み出すものでもあります。少数の人はリモートでもしっかりと自律的に仕事ができて生産性が高いけれど、大多数の人たちはリモート環境ではさぼってしまう。経営の視点で見たとき、フルリモートであることのマイナスが大きいと判断したのではないかと考えています。

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では、リモートワークやWeb会議はなるべく取り入れないほうがいいのでしょうか。

目的があれば活用してもいいと思います。いまの時代、「コスパ」や「タイパ」といったことが求められがちですが、コスパとはそもそも「パフォーマンス÷コスト」で表されるものです。しかし多くの人は、「いかにお金をかけないか」「いかに時間をかけないか」といった、コストを下げることによってコスパを改善することに固執しすぎていると感じています。

以前私は、「スマホで調べたとき」と「紙の辞書で検索したとき」における、それぞれの検索スピードと脳の活動を調べました。その結果、時間当たりに得られる情報量に関しては、スマホに軍配が上がりました。ただし、調べている間の脳の活動は、スマホより紙の辞書のほうが高く、かつ記憶に残っている単語数も紙の辞書のほうが多いという結果になりました。

ここで考えたいのは、「パフォーマンスをどう定義するか」です。パフォーマンスが得られる情報量であれば、スマホを使ったほうがコスパはいいと言えます。たとえば私生活でも、「休日に遊びにいくときの電車の出発時間や乗り換え情報」を知りたいときは、価値があるのは情報そのものですから、スマホを使って検索したほうが効率は良いでしょう。

一方、学習の場面では「パフォーマンス」は情報そのものではなく、その情報をしっかりと記憶にとどめること、その情報を活用できるようになること、そして一連の過程でしっかりと前頭前野を働かせて脳を育てていくことにあります。スマホを使って素早くたくさんの情報を得たとしても、まったく記憶に残らず前頭前野も働かないとなれば、いくらコストを下げたとしても分子のパフォーマンスがゼロになるため、結局コスパはゼロになります。

コミュニケーションの目的があくまで情報の伝達である場面ならば、どんどんオンラインを活用して構わないと思います。ただし、チームビルディングやブレインストーミングといった、対人関係を良くしたり協力して問題を解決したりすることを目的としているのであれば、オンラインではその目的が十分に果たせません。仕事においても、「ここで求められるパフォーマンスとは何なのか」をよく考えてほしいと思います。

企業は従業員の「通知オフ」を支援しよう

スマホ依存から脱却するためには、どうすればいいのでしょうか。

まずは自分を知ることです。1日でもいいので、「自分がいつどのような場面でどんなアプリをどれだけ使っているのか」という記録をぜひつけてみてください。そして後から「なぜそのアプリを使っているのか」を考えてみてください。「このアプリはこの目的のために使っているから残そう」「これはだらだらと使っているだけだから削除しよう」といった仕分けをするだけでも、スマホの中身も使用時間もかなり改善すると思います。

ほかにはGoogleの元社員らが、スマホの待ち受け画面をモノクロにすることやホームのトップ画面にアプリを入れないこと、通知設定をオフにしておくことなどを勧めています。通知が来ると、どうしても注意のリソースが奪われてしまうので、私も昨年から完全に通知設定をオフにしましたが、生活の質が上がったと感じています。

企業が従業員のスマホ依存を防ぐために、できることはあるのでしょうか。

まず、通知の問題です。「退社後は通知をオフにして、返信はしなくていい」といったことを、社内で徹底してほしいと思います。昨今のワークライフバランスを重視する流れから考えても、夜間や休日にメールの返信を強要するのはよくないことですね。

次に、社内でのスマホの取り扱い。出社している間はプライベートのスマホを鍵のかけたロッカーに預けて、物理的に使えない状態にすることも検討してみてはいかがでしょうか。緊急時の対応について考慮したうえで、就業規則で個人のスマホ使用を制限することもできるのではないかと思います。

社内の対面でのコミュニケーションを増やしていくことも重要です。たとえば昔は昼休みに同僚と一緒にご飯を食べに行っていましたが、コロナ禍でそのような習慣がなくなり、いまでも自分の机でスマホを触りながら食べている人が多いと聞くことがあります。チームビルディングの一環としても、ときどきは同僚と一緒にご飯を食べに行くことをお勧めします。

「情報を知る」ことも大事です。私のような外部講師を呼んで講演会を開いたり、社内で勉強会やワークショップをしたりすることも効果があると思います。

すでにスマホ依存になってしまっている従業員がいた場合、企業はどのように対応すべきでしょうか。

子どもに対しても常々思っているのですが、健康診断の中にネット依存のスクリーニングのテストを入れるとよいのではないでしょうか。スクリーニング自体は簡単にできるので、重度の依存が疑われる人に対しては、依存症を専門とする医療機関を紹介する流れがあっていいと思います。依存症治療で有名な「久里浜医療センター」のWebサイトには、全国の「ゲーム障害・ネット依存・スマホ依存」の治療施設リストが公開されています。重度のスマホ依存は他の精神疾患などを併発している可能性もあるので、専門的な知識を持たない人がうかつに対処しようとしないほうがいいでしょう。

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インターネットやスマホとの健全な関係を築くために、今後、社会や教育の場ではどのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。

前提として、人間はこれまでさまざまな道具を生み出し、その道具を上手に活用することで文明を発展させてきました。ですから、「スマホが悪だ」とか「生成AIを使うべきではない」などと批判するつもりはまったくありません。

ただ、科学技術の発展が急速に進んだ結果、人間の心の発達が追いつかなくなってしまいました。紀元前の時代から、哲学者たちは「人間とは何か」との問いに向き合ってきましたが、生成AIの登場によって、その答えを出さなければならない時代が来たのではないかと感じています。

そういった中で私が脳科学者として大事だと考えるのは、やはり人間の前頭前野の働きです。いまはスマホがやり玉に挙がっていますが、5年後、10年後にはいまの私たちには想像もできないサービスやデバイスが生まれているかもしれません。そういったものを批判したり規制したりするよりも、依存せずに使いこなすため前頭前野の働きを高めていくことを意識してほしいですね。

まずは子どものうちに、たとえ将来どんな道具が生み出されたとしても、自分自身にしっかりと軸足を置き、「私は私であり、道具は道具である」と切り分けられるような前頭前野の自己管理能力を育てる。そして、大人になっても前頭前野の働きを維持し、自分たちが人間であることをしっかりと認識しながら、機械に支配されないよう向き合っていく。社会全体としては、教育を中心として、個人の心の発達と科学技術の発展の足並みをできる限りそろえていくサポートに取り組むことが必要だと思います。

(取材:2025年4月22日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。


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