「健康経営」の時代
~「コスト」から「投資」へ、健康増進への取り組みを位置付ける(前編)
健康増進の「コスト」を将来への「投資」とする
経費がかかる一方、さまざまな理由で効果が見えにくい
「健康経営」に向けた官民の動きが活発化する一方、実際に取り組みへの第一歩を踏み出すことは、まだ難しいようだ。具体的には、「コスト(費用対効果)」の問題が大きい。例えば、帝国データバンクが2015年に発表した『従業員の健康管理に関する企業の意識調査』を見ると、健康保持・増進対策を実施する時、どのような問題点があるかをたずねた結果は、「経費がかかる」が 37.7%で最多となった。以下、「効果的な実施方法が不明」「時間確保が困難」「費用対効果が不明」「適当な人材確保が困難」などが20%台で続いている。また、自由回答でも、「従業員の健康管理はとても重要だと思うが、経費を考えると限度がある」(卸売業)や、「コストがかかるという認識を従業員から得られにくいことが、費用対効果が感じられない要因」(建設業)といった意見に代表されるように、経費がかかる一方で、さまざまな理由で効果が見えにくいことを問題点に挙げる企業が多い。
経費がかかる | 37.7% |
効果的な実施方法が不明 | 23.9% |
時間確保が困難 | 23.4% |
費用対効果が不明 | 21.6% |
適当な人材確保が困難 | 20.9% |
労働者の関心が得られない | 17.4% |
設備・場所の確保が困難 | 17.3% |
その他 | 1.8% |
問題はない | 13.5% |
*図表5:『従業員の健康管理に関する企業の意識調査』(帝国データバンク・2015年)
「健康経営」推進に向けたPDCAサイクルを回す
いずれにしても、「健康経営」を推進するには、一定の「投資」が必要であることは間違いない。また、投資であるからには、企業の利益と従業員の健康の両方に利益をもたらすものでなくてはならない。今後、「健康経営」をよりいっそう推し進めていくには、コストと施策の両面について、経営陣と従業員の双方から理解と関心が得られるよう、運営体制と内容を検討する必要がある。そのステップとして、以下のような視点に基づいたPDCAサイクルを設定することが有効である。
- 改革ビジョンに基づいて、課題を可視化する
- 効率的な改革ターゲットの優先順位付けを行い、リソース配分を検討する
- 施策を実施・展開して、ターゲットとその周辺にも改善を波及させる
- 効果検証を経て、次の課題改善への取り組みを構築する
「健康経営」を展開する際、実際にどのような取り組みが効果的なのか、推進体制はどうあるべきかは、各社の課題や改善目標によってさまざまである。「健康経営」推進に向けたPDCAサイクルを立案する上では、経済産業省が公開している「健康経営チェックリスト」を参考にするといいだろう。
大項目 | 中項目 | 小項目 | チェック |
---|---|---|---|
健康経営の理念・方針と組織づくり | 理念・方針の設定 | 健康経営を経営理念に位置づける | |
健康経営を経営方針に位置づける | |||
経営方針を社内に示す | |||
組織体制づくり | 従業員の健康保持・増進を担当する部署の設置や職員の配置を行う | ||
専門資格を持つ職員を配置するとともに、その能力向上を図る | |||
従業員の健康保持・増進に関する業務報告を経営者に対する報告事項とする | |||
健康経営を実践する | 従業員の健康状態を把握する | 保有する健康情報を分析する | |
分析結果から、自社の健康課題を検討する | |||
健康づくり計画を立てる | 課題に応じた保健事業を計画する | ||
評価指標を設定する | |||
健康保持・増進の取組の全体を俯瞰し、企業として実施できる内容を整理する | |||
健康保険組合や企業内スタッフでは対応が難しい部分については、外部事業者を活用する | |||
社員に働きかける | 職場の環境改善を図る | ||
生活習慣改善のモチベーションを向上させる取組や行動変容を促進する取組を実施する | |||
健康保険組合や企業内スタッフでは対応が難しい部分については、外部事業者を活用する | |||
健康保険組合等との適切な連携(コラボヘルス)について | 健保等が行う「データヘルス計画」の策定、実施において適切に連携する | ||
企業、健保等、従業員等などのそれぞれの役割や現状の取組状況を整理する | |||
従業員の健康情報を適切に取り扱う | |||
取組を評価する | PDCAが機能する体制を構築、維持する | ||
プロセス・マネジメント評価指標、アウトプット評価指標、アウトカム評価指標によって評価をする | |||
継続的に従業員の健康維持・増進に取り組む |
*図表6:『企業の「健康投資」ガイドブック』より(経済産業省)