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世界的に不足するデジタル人材。激しい獲得競争の中、人事のDX人材育成への向き合い方とは

角田 仁氏(千葉工業大学未來変革科学部教授・デジタル人材育成学会会長)
鳥潟 幸志氏(株式会社グロービス グロービス・デジタル・プラットフォーム マネジング・ディレクター/ グロービス学び放題 事業リーダー)

掲載日:2024/09/30
写真:世界的に不足するデジタル人材。激しい獲得競争の中、人事のDX人材育成への向き合い方とは

切っても切り離せない関係である「ビジネス」と「デジタル」。企業経営においてDXの重要性が高まる中で、多くの企業はDX人材の育成に課題を感じている。デジタルリテラシーに関する研修は実施しているが、業務への活用や学習時間の確保などに悩んでいるのが現状だ。

8月2日に開催された「HRカンファレンス2024-夏-」では、千葉工業大学未來変革科学部教授でありデジタル人材育成学会の会長を務める角田仁氏と、「DX人材育成」のリーディングカンパニーである株式会社グロービスの鳥潟幸志氏が、今後のDX人材育成について問題を提起。日本を代表する企業の人事リーダーたちが、「日本企業のDX人材育成のあり方」について語り合った。

Profile
角田 仁氏
角田 仁氏
千葉工業大学未來変革科学部教授・デジタル人材育成学会会長
鳥潟 幸志氏
鳥潟 幸志氏
株式会社グロービス グロービス・デジタル・プラットフォーム マネジング・ディレクター/ グロービス学び放題 事業リーダー

角田氏による問題提起1:世界的なデジタル人材の不足

はじめに角田氏は、デジタルリテラシー・デジタルスキルに「三つのレベル」があることを述べた。

「一つ目は全国民が生活するためのリテラシー。二つ目はすべてのビジネスパーソンが身につけるべきリテラシーで、約70000万人が対象です。三つ目はデジタル人材やIT人材と呼ばれる人が身につけるべきリテラシーで、日本には約140万人の対象者がいると言われています」

図説:デジタルリテラシー・デジタルスキルの3つのレベル

<提供:角田仁>

デジタルリテラシー・デジタルスキルを整理したうえで、角田氏は世界的にデジタル人材が不足している状況を示した。

「現在、世界には約2700万人のデジタル人材がいると言われています。日本のデジタル人材は世界4位で約144万人いますが、3位の中国の半分以下です。1位のアメリカと比較すると、3分の1から4分の1と非常に少ないのが現状です。かつてはアメリカに追いつく勢いでしたが、今ではヨーロッパに抜かれる可能性も出てきました」

日本では2030年に約79万人のデジタル人材が不足し、アメリカ・インド・中国ではそれぞれ数百万人単位で不足する見込みだという。デジタル人材の獲得に関して、世界的に競争が起きているのだ。

角田氏による問題提起2:デジタル人材のキャリアパスに課題がある

続いて角田氏は、従業員数が数万人いる企業をサンプルに、デジタル人材のキャリアパスについて語った。

まず、全従業員を育成するプロセスとして、「育成1」「育成2」に分かれる。「育成1」では、全従業員中の数百人を対象に「デジタル・IT部門で働く人材」を目指して育成。「育成2」では、数千人を対象に「現場でデジタルを高度に使いこなす人材」を目指して育成する。

図説:デジタル人材育成のキャリアパス

<提供:角田仁>

「最上位の『ビジネスの理解とDXの推進力がある人材』=『ビジネスアーキテクト』の育成には、多くの企業が課題を感じています。なぜなら、戦後の日本ではゼネラリストを育成してきたから。スペシャリストの育てるための考え方や制度が、文化的に整っていないのが実状です」

角田氏は、人事部としてデジタル人材を育成するにあたり、八つの改革が必要だと述べた。

  1. 新卒採用の改革
  2. 中途採用の改革
  3. 既存人材の発掘
  4. 人事制度の改革
  5. 経営者の改革
  6. 人事部の改革
  7. リスキリングの推進
  8. 社内教育の充実

企業は「育成2」において、デジタルを使いこなす人材を育成するために多様な研修を実施している。だが、「その次に何をすべきか分からない」という企業は多い。本来であればIT部門への異動やビジネスアーキテクトへの育成が望ましいが、日本企業では職種変更のハードルが高い。ITに関する研修を実施しても、その後に活用する機会が持てなかったり、そもそも戦略が不透明だったりするのだ。

デジタルリテラシーの習得やデジタル人材の育成に、「OJTが効果的である」と提唱する動きもあるが、角田氏は適さないと考えている。

「デジタルリテラシーの習得は、『新しい知識を身につけた上で、新しい仕事の方法を考えること』です。OJTは既存の知識や方法を踏襲するのに適したやり方であり、デジタルリテラシーの習得プロセスとは正反対と言えるでしょう。OJTは日本の良い文化であることに間違いありませんが、デジタルリテラシーの習得やデジタル人材の育成には適していません」

人的資本経営が重視される中、成果指標やスキルの管理、タレントマネジメントなどと絡めながら、デジタル人材の育成を進めていくべきだと角田氏は語った。

写真:会場の様子

参加者との質疑応答

角田氏の問題提起の後、参加者と質疑応答が行われた。

メンバーズ 武田氏:人事がすべき八つの改革のうち、「(5)経営者の改革」と「(6)人事部の改革」の概要を教えていただけますか。

角田氏:まず「経営者の改革」については、「経営者がDXを理解し、経営会議で論議できているか」という論点があります。経営者もDXを正しく理解し、技術的な論議を避けないことが重要です。

「人事部の改革」については、人事部の業務をデジタル化するというよりも、人事がDXを推進するためのリテラシーを身につけるという視点ですね。経営層は現場のデジタル人材の育成を推進しますが、実際に人材の採用・育成を担うのは人事部です。そのため、まずは人事部の意識から変えなければなりません。

鳥潟氏:ぜひ、そのほかの改革についても概要をお聞かせください。

角田氏:「(1) 新卒採用の改革」および「(2)中途採用の改革」では、理系人材の採用を強化すべきでしょう。現在は理系や情報系の学部が急速に増加しており、高校から「情報Ⅰ」が必修科目になっています。IT知識の基盤がある人材が増えていくので、積極的に採用することをおすすめします。

「既存人材の発掘」は、ぜひ企業に意識してほしい観点です。IT部門やデジタル部門に所属していなくても、優秀な人材が埋もれているケースはよくあります。そういう人材に本部機能へ携わってもらい、リスキリングすることで、DX人材の育成が促進されるでしょう。埋もれている優秀な人材を探すことは、人事部から経営層に提案すべき内容です。

「(7)リスキリングの推進」では、デジタルリテラシー習得を研修で終わらせず、異動を伴うことが重要です。しかし、今の日本企業では異動のハードルが高い。硬直化した人事制度を変えて、スムーズなリスキリング体制を整えることは、人事の大切な役目です。

「(8)社内教育の充実」は、部門ごとに研修を任せるのではなく、すべての部署で一律に研修を受けられるように人事がコントロールすることをしめしています。

写真:角田 仁氏(千葉工業大学未來変革科学部教授・デジタル人材育成学会会長)

KDDIアジャイル開発センター 土橋氏:人事主導や会社主導で教育施策が成功した事例はありますか。

角田氏:制御機器を中心としたグローバル企業の事例があります。この企業は「データドリブンカルチャーの醸成」という企業風土の改革を行い、約4000人の従業員をデータアナリストとして育成することに成功。ExcelやPowerPointによるレポートを廃止し、データを可視化するツール「Tableau」を必須にするなどの成果が表れています。

当初は現場の忙しさに左右されて、なかなか育成が進まなかったようです。そのため企業全体で施策を打ち、改革に積極的な地域を中心にDX人材の育成を進めました。改革に積極的な地域は生産性や売上が向上。その数字を他の地域にも示すことで、企業全体でのDX人材育成の本気度を高めました。

鳥潟氏:DX人材育成において、現場で結果が出た事例はまだまだ多くありません。また、「この施策をすれば成功する」といった普遍的な勝ちパターンも存在しません。このセッションが各社でうまくいっている部分を共有する機会になれば、日本企業全体の変革につながっていくのではないかと期待しています。

鳥潟氏による問題提起1:現場でDX人材育成における意識のギャップが生じる

グロービスのデジタルサービスを利用している企業との対話や調査結果にもとづき、鳥潟氏は各企業が直面する課題と見解を述べた。

鳥潟氏は「研修機会を提供しても自律的に学んでくれない」という人事の課題と、「ただでさえ忙しいのに学習を強要された」と捉える一般社員の意識にギャップがあると感じ、人事と一般社員それぞれに調査を実施した。

その結果、7割ほどの人事が「DX人材育成の取り組みを行っている」と答えたのに対し、一般社員はわずか1割しか「実際に研修を受けている」と答えなかったという。

図説:企業のDX人材育成状況と社員の取組実態に対する課題

<提供:鳥潟 幸志>

一方で、DXに関する研修を一般社員が積極的に受講している企業も存在する。その差について、鳥潟氏は次のように語った。

「DX人材育成が進んでいる企業の特徴は四つあります。一つ目は、従業員が身につけるべきDXスキルを明文化していること。一般的なデジタルスキルではなく、自社に必要なデジタルスキルを分かりやすく説明する必要があります。

二つ目は、全社的なDXビジョンがあることです。例えば3年後や5年後の目指す姿を示し、どのようなスキルを持った人材が必要で、なぜ研修を提供しているのかを明確にしている。スキル獲得による配置転換で給与が上がることなどを示してもよいでしょう。

三つ目は、変化を受け入れるマインドセットの醸成ができていること。四つ目は、従業員自ら学んで変化に適応する文化があることです。せっかく研修で学びを得ても、現場の上司が実践させてくれないとDXは進みません。上司が新たな挑戦を拒んでしまうと、従業員は『なぜ研修に行かされたのか』とネガティブな方向に気持ちが傾いてしまいます」

続いて鳥潟氏は、デジタル領域において人事が一般社員に学んで欲しいと思っていることと、一般社員が学びたいことにギャップがあることを示した。人事は組織のためのデジタルスキルを学んでほしいと思っている一方、一般社員は「興味・関心なし」を除くと、個別スキルを身につけたいと考えている。

鳥潟氏の問題提起2:「DXを推進できている人」にも悩みがある

DXを推進できずに悩んでいる企業が多い一方で、「DXを推進できている人が感じている悩み」もある。グロービスの調査によると、2年連続で「論理的に分かりやすく考えをまとめる力」が上がっている。論理的に考えられる力は、ビジネスアーキテクトに必要なスキルだ。

DXの「X」がトランスフォーメーションを意味するように、DXは組織を変革する手段であるため、変革に伴って生じる反発や課題を乗り越えるための思考力が欠かせない。実際に経済産業省が定義する「デジタルスキル標準」にも、テクノロジーの知識だけでなく、コンセプチュアルスキル(概念化能力)が含まれている。

鳥潟氏の主張:DX人材育成の方向性を設計しよう

人事と従業員にギャップがある中、人事はどのように従業員と向き合うべきか。鳥潟氏は以下の見解を述べた。

「組織としてリスキリングを推進するのであれば、会社が将来どこに向かうのかを示し、どのような人材が必要なのかを、処遇も含めて設計することが大切です」

DXが進んだ会社の特徴として、働き方改革により余力を作ってから研修や体制の整備に取り組むことが挙げられる。DX改革が進まない要因として「忙しすぎて学べない」恐れがあるため、学ぶ環境を整えることが重要だ。

続いて鳥潟氏は、DX人材育成における行動変容イメージを示した。

写真:鳥潟 幸志氏(株式会社グロービス グロービス・デジタル・プラットフォーム マネジング・ディレクター/ グロービス学び放題 事業リーダー)

「はじめに『なぜDXが必要なのか』というレベルのリテラシーを全従業員へ共有し、DXが求められる背景や知識を全従業員が理解した状態にします。その後、二つの行動変容が起こります。

一つ目は『日々の業務でデジタルツールを使い始める人材』への行動変容。二つ目は『DX推進などのグループに配属されて、課題解決に取り組む人材』への行動変容です。後者の人材が、のちに『高度なDX業務をリードする人材』へと育っていくのです」

DX人材育成の成功事例1:味の素グループ

鳥潟氏は、DX人材の育成が進んでいる会社の事例として、まず味の素グループを挙げた。味の素グループでは「全従業員をDX人材にする」という目標を決め、経営層が従業員とコミュニケーションをとりながら強く打ち出している。

具体的には、2020年度から「ビジネスDX人財」の本格育成を開始。 ITリテラシーの知識水準を「初級・中級・上級」に分け、それぞれの社員が目標をもって取り組める仕組みを構築した。特徴的なのは、開始3年で全社員の8割近くが初級認定を取得したこと。「DXを実践するのは一人ひとりの従業員であること」という考えのもと、DX推進部と人事部が強力に連携し、全社戦略と連動した体系的なDX人材育成に取り組んでいる。

DX人材育成の成功事例2:大手不動産グループ

次に鳥潟氏は、大手不動産グループの取り組みに触れた。同社ではグロービスのサービスを活用しながら、デジタルスキルとビジネススキルをセットにして「ビギナー・ブロンズ・シルバー・ゴールド」と階層を分けている。

注目したいポイントは、研修を実施するだけでなく、「インプットして何をするのか」までセットで研修を定義していること。この結果、建設現場においてもDXに関する提案が出てくる環境が構築できたという。キーパーソンであるミドル・リーダー層から育成を開始し、今後1万8000人の全社員をDX人材として育成することを目指している。

グループディスカッション:DX人材の育成に人事はどう向き合うか

続いて、参加者によるグループディスカッションが行われた。

Aグループ

  • BIPROGY株式会社 澤上 多恵子氏
  • ライフネット生命保険株式会社 関根 和子氏
  • オリックス銀行株式会社 加藤 晃朗氏
  • 株式会社メンバーズ 武田 雅子氏

Bグループ

  • ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ 印貢 怜氏
  • 富士通株式会社 平松 浩樹氏
  • OMデジタルソリューションズ株式会社 本田 浩一氏
  • イオン株式会社 青野 真也氏

Cグループ

  • KDDIアジャイル開発センター株式会社 土橋 孝充氏
  • 株式会社シンコム コリガン みさき氏
  • 株式会社JR東日本情報システム 田中 幸乃氏
  • コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社 東 由紀氏

まずは個人ワークとして、各人事担当者がDX人材育成における自社の現状を振り返った。その後、グループごとに「できていること」と「できていないこと(課題)」を整理。共通課題について解決の方向性を話し合い、全体に向けて共有した。

Aグループ

Aグループでは、「人材ローテーションがうまく成り立っていない」という課題から話がスタートした。ローテーションでコーポレート部門に異動しても、現場から「戻してほしい」という声が上がったり、社内公募しても人事部からは応募がなかったりするという。人事部こそデジタルのスペシャリストであるべきという考えから、魅力ある人事部でなければならないという議論に発展した。

写真:会場の様子

ライフネット生命保険 関根氏:Aグループはエンジニアが在籍する会社が多かったため、お客さまに提供するIT知識は十分に備わっていました。しかし、そのIT知識を生かした、事業に向けた提案は乏しいという課題があがりました。システム部門から人事部に提案がきたり、社内で異動しやすくしたりするためには、人事部が信頼されて魅力のある部門でなければならないと話しました。

角田氏:私にとっても「人事部が魅力的な部署になるべき」という観点は、新しい気付きでした。DX人材育成は、人事部が主導で進めないといけません。人事部が信頼されて魅力ある部署になることは、欠かせない観点です。

Bグループ

Bグループでは、国内の株主自体がデジタルに積極的でないため投資が進まないことや、グループ会社ごとの経営層でデジタルリテラシーに差があること、現場の忙しさで学びが進まないことなどが話された。共通点として、デジタル人材の定義に経済産業省の「デジタルスキル標準」を活用している点があがった。

写真:会場の様子

ジョンソン・エンド・ジョンソン 印貢氏:各社が共通で感じていた課題の一つに「デジタルタレントの確保」がありました。せっかく採用しても、実力を発揮できずに辞めてしまうケースもあるため、「働き続けたい」と思われる魅力的な会社にすることが重要です。

また、お客さまの理解を得るのが難しく、会社としてDXを起こしたくても起こせないケースもあります。お客さまの年齢や所属する業界によっては、DXへの制限・制約が多いのです。

角田氏:「お客さまに受け入れられないため、改革がすすまない」というのは新しい観点で、まさにそのとおりだなと感じました。私はCIO補佐官をいくつかの団体で担っていますが、論議のほとんどは「市民のみなさんに、どのようにデジタルを活用していただくか」という内容です。業界によって違いはあると思いますが、構図は同じです。発表を聞いて、非常に感銘を受けました。

Cグループ

CグループではDX人材の採用は比較的進んでいるものの、DX人材向けの人事制度が整っておらず退職してしまう、という課題が話された。具体的な事例として挙げられたのは、高い給与水準を設定しないと他社に転職してしまうこと、研修制度が整っておらず従業員のモチベーションが下がってしまうことである。

写真:会場の様子

KDDIアジャイル開発センター 土橋氏:DX人材育成に関しては、事業会社2社と事業会社付きのエンジニアリング子会社2社で状況が異なりました。

事業会社は、DX人材に特化した制度を作り出したり、既存の制度を変更したりすることのハードルが高いようです。エンジニアリングに特化した子会社では、個別最適な人事制度が作れなかったために子会社化したという背景もあり、制度は比較的整っています。

鳥潟氏:人事制度におけるグロービスの例を挙げると、以前は「プロフェッショナル職」と「エキスパート職」に分かれていました。その後、エンジニアを採用するようになってからは、新たに「テクノロジー職」のカテゴリーを作りました。報酬を決める際のロジックは成果、能力発揮に加えて市場価値などを調査・加味し、市場価値が勘案された報酬に近づくようになっています。この制度だけでも5年ほどかけて構築してきたので、人事制度の構築は難しいものだと言えます。

角田氏:Cグループでは、人事制度の見直すべき点はどこだと議論しましたか。

土橋氏:「DX人材の報酬を、他の職種とどのように差をつけるのか」について議論しました。

フリーディスカッション

鳥潟氏:研修や学びについて、話題が出たグループはありますか。

KDDIアジャイル開発センター 土橋氏:全社研修にはコストがかかるので、対象者を選抜して小さなグループで結果を出すことから始めている事例がありました。具体的には、研修を受けたい人を募ったり、中堅社員研修から人事が選抜した「次世代のリーダー」に研修を受けてもらったりするイメージです。

ジョンソン・エンド・ジョンソン 印貢氏:私たちのグループでは、研修を受けたくない層が一定数いるという課題が挙がりました。個人的には、まず興味をもっている層に対して優先的に研修などの投資をし、リターンを最大化することが効果的だと考えています。その結果、社内で変化の流れが起きて、それまでDXに興味のなかった従業員が「自分も変わらなくては」と感じるタイミングが来ると思っています。

コカ・コーラボトラーズジャパン 東氏:「学びにかける時間」について議論しました。「忙しい」ことが理由で学びの時間を確保できないのであれば、「忙しい」原因を解消する必要があります。業務量に応じた適切な人員配置になっているか、本来の自分の業務に加えて休職中の従業員のカバーが生じていないかなど、特定できた原因に対して制度を改革することで、学ぶ環境を整え、学習の時間を捻出することにトライしています。

角田氏:素晴らしい取り組みと制度ですね。DX人材育成で最も課題となるのは「時間がない」ことです。人事として時間確保に取り組んでいる事例は初めて聞きました。

角田氏による全体総括

グループディスカッションの最後に、角田氏から総括があった。

角田氏:今日は議論が大変盛り上がりました。皆さんのお話を聞いて私が新たに気付いたのは、「学習時間の確保を人事制度で担保すること」「人事部が魅力的でなければならないこと」「お客さまの改革も進めなくてはならないこと」の三つです。

今日のような機会はとても貴重です。ひと昔前までは「人事は横のつながりを持つものではない」という考えが強い傾向にありましたが、今は違います。各社の改革の状況や施策を聞いて自社に活用できるケースは大いにありますので、他社の知恵を吸収しながら積極的に改革を進めてください。

本セッションのまとめ

角田氏による問題提起
  • デジタルリテラシーには三つのレベルがある
  • デジタル人材は世界的に不足している
  • ビジネスアーキテクトの育成に課題を感じているケースが多い
  • デジタルに関する研修を実施した次のアクションにも課題がある
鳥潟氏による問題提起
  • 人事と一般社員には意識にギャップがある
  • DXが推進できている会社はビジョンが明確で、変化を受け入れるマインドが醸成されている
  • DXが推進できていても、論理的思考力に課題を感じているケースもある
鳥潟氏による主張
  • まずは働き方改革で余力を作ることが大切
  • DX人材の行動変容にはパターンがある
  • いきなり高度なリテラシーを持った人材を採用すると早期離職の可能性もある
ディスカッション

DX人材の育成に人事はどう向き合うか

  • デジタル人材が離職しないような人事制度を構築する
  • 社内だけでなく、お客さまのデジタルに対する意識改革も進めていく
  • 小さなグループや意欲的な人材から結果を出していく
  • 学習のための余力を制度として捻出する
総括
  • 人事は他社の事例から知恵を吸収し、自社に活かしていくことが大切

当日知見をご共有くださった皆さま

※所属や役職は「HRカンファレンス2024-夏-」開催時のものです。

有識者・プロフェッショナル

  • 角田 仁氏
    千葉工業大学 未來変革科学部 教授 デジタル人材育成学会 会長
  • 鳥潟 幸志氏
    株式会社グロービス グロービス・デジタル・プラットフォーム マネジング・ディレクター
    グロービス学び放題 事業リーダー

大手・優良企業の人事リーダー (社名50音順)

  • 青野 真也氏
    イオン株式会社 人材育成部 デジタル人材開発グループ リーダー
  • 加藤 晃朗氏
    オリックス銀行株式会社 執行役員
  • 土橋 孝充氏
    KDDIアジャイル開発センター株式会社 CHRO
  • 東 由紀氏
    コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社 執行役員 最高人事責任者兼人事・総務本部長
  • 田中 幸乃氏
    株式会社JR東日本情報システム JEIS・ ICT研修センター 所長
  • 印貢 怜氏
    ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ Head of HR, Vision Japan
  • コリガン みさき
    株式会社シンコム 人事総務部 部長
  • 澤上 多恵子氏
    BIPROGY株式会社 取締役執行役員 CHRO CRMO
  • 平松 浩樹氏
    富士通株式会社 取締役執行役員 SEVP CHRO
  • 武田 雅子氏
    株式会社メンバーズ P&C本部 CHRO
  • 関根 和子氏
    ライフネット生命保険株式会社 人事総務部 部長
  • 本田 浩一氏
    OMデジタルソリューションズ株式会社 最高デジタル責任者 兼 最高人事責任者
「DX」のリーディングカンパニー

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